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12.王子はハイデルド・グリューに遊ばれる。
しおりを挟むお城では、国王が隣国との外交から帰城し息子である王子ジャランを呼び出していた。
聖女召喚には王族の魔力が必要で、ここ最近この国の王族は皆魔力があまりなかった。それでも何代かにわたって魔力を溜め続け、ついに規定量まで溜まったのだ。それで、次代を担う予定だった第一王子のジャランが取り仕切って今回、召喚の儀を行ったのだ。
王の留守中に。
儀式の日は、6の月の新月でなければならなかった。どうしてもその日は国にいることができなかった王は、息子の出来の悪さを知っているので大変心配していたが、聖女を呼び出せる機会は年に一回。モンスター被害を一刻でも早く無くすためには、王が不在だからと延期するわけにはいかなかった。
「どういうことだ。」
「だ、だから召喚はしたけど、来た女は聖女じゃなかったんだ。」
「何故、聖女ではないと?」
「それは、俺の鑑定スキルで――」
「巫山戯ておるのか。」
王子は鑑定スキルを持っているが、自分よりレベルが高いものに対しては正確な鑑定ができない。人でも、物でも。
王子は20歳でレベル20だ。剣や魔法、スキルだけでなく、知識値も上げればレベルは上がるので、この世界で年齢イコールレベルの人間は少ない。とくに貴族は、何かしらに秀でるよう教育されることが多いので、高等学校を卒業する18歳の頃にはレベル20はとっくに超えている。
つまり、王子の鑑定スキルは、成人に対してはほとんど役に立たないのだ。
『王子のレベル=年齢』、この事実を知る人物は、多くはない。
「お前は何てことをしたのだ!」
「でも父上、鑑定したけど聖女じゃなかったんだ!」
「馬鹿なことを……! お前が正確に鑑定できるのはレベル20の者までだろう! 呼び出した聖女がレベル20を超えていたということだったらどうするのだ!! 聖女鑑定はカルダモンに依頼しろと言っただろう!」
「でも、あんな爺さんより俺のほうが――」
「カルダモンは国で一番レベルの高い鑑定スキル持ちだ。鑑定できぬ人間はほぼいない。お前と比べるなど……愚かな。」
王家のお抱え鑑定士ゼイムス・カルダモンは、年齢は60でレベルは130。このレベルは、国のトップグループに入る。レベル130以上の人や物はほぼないので、鑑定できないものは無いと言っていいだろう。
王は息子に呆れ、そして怒鳴った。
「聖女に詫びて、連れ戻してこい!!」
「ひっ、は、はいっ!!」
王は、弟であるジークフリードに任せると言ってはいたのだが、第一王子を傀儡として祭り上げる者たちが多く、その邪魔をしたので彼は聖女の保護に出遅れてしまったのだ。
王の間を出た王子は、自分の執務室に戻った。
勢いよく扉を開き、大きな音を立ててバタンと閉める。部屋にいた側近たちは何事かと驚いた。
「ジャラン様?」
「ええい! なぜ俺が怒られなければならないのだ! あんな黒髪黒目の女が聖女だなんて聞いてない!! 聖女といえば、輝くようなプラチナブロンドで碧眼の美女だろう!!」
「……確かに、何代も前の王に召喚された聖女マリーアはそのような風貌だったと伝えられていますね。」
「そうであろう?! それで当時の王に見染められ結婚したのだ。俺だって異世界の美女と結婚する! 王子なのだからな!!」
「はあ、まあ……。では、もう一度聖女召喚を?」
「それはっ! ……できん。召喚に必要な膨大な魔力は使い切ってしまったからな。」
「では、黒髪の聖女と結婚を?」
「我が王家は、聖女マリーアの血を色濃く受け継いでいるのだ。だから皆美形であろう。それを……黒髪黒目の女の血を混ぜるわけにはいかないだろう。」
「まあ、言ってることはわかりますが。ですが、今回の聖女もなかなかの美女ではありましたよね。」
「えっ? そうだった?」
「ええ。黒髪ではありましたが艶やかな髪で、黒目でしたがぱっちりしていて長いまつ毛で縁取られていましたし。」
「そ、そうか。」
「それにおっぱいおっきかったです。」
「な、なに……?」
「おっぱい、おっきかったです。」
「……う、うむ。」
そこへ、執務室の扉を叩く音がして、騎士団長が来訪を告げる。
側近の中でも、肝が据わっているのか無気力なだけなのかよくわからないが優秀な、普段は薄ぼんやりして見えるが実は優秀なハイデルド・グリューは、王子で遊ぶのをやめて来訪者に目をやり声をかけた。
「どうしました?」
「なんだ騎士団長。今ハイデルドと大事な話をしていたんだ。手短に頼むぞ。」
大事な話が聖女の乳の大きさに関することでないといいな、と願うほかの側近たち。あれはただただハイデルドに遊ばれていただけですよー、と言いたそうだ。
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