【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。

井上 佳

文字の大きさ
上 下
9 / 21

9.パニクル・ビオーテに見られていました。

しおりを挟む

「私はジークフリード・ディー。この国で公爵位を賜っている。」

「こ、公爵?」


突然何を言い出しちゃっているんですかジークさん。
公爵といえば、ほぼ王族の人、という認識でいいのかな? ちゃんとした爵位なんて……日本でよく読んだ創作物の中の爵位しか知らないです……!


「君が召喚されたとき、あの場に私もいたんだ。」


困惑する私に、優しい声で説明してくれる。


「すぐに助けられなくて、ごめん。あのあと追いかけたんだけど、私より先にパン屋のおかみさんが君を保護してくれて。それならそれでいいかなって。」

「ジークさん……。」

「私は、貴族というのを隠して裏で動くような仕事もやっていてね。それが冒険者ジーク。君を見守るにはちょうどいいと思ってギルドで接触したんだ。」

「そう、だったんですか。」


公爵が冒険者っていうのはよくわからなかったし、裏で動くっていったい何するの? って知らない方がよさそうなことは教えてくれなくてよかったのに。見守ってくれてたっていうのは、心強かったけど。


「そうしたら君は、スキルを持っているみたいだし、アイテムボックスまで使えるっていうし、さらにはギルドのあのテーブルに着くと体力が回復するとか、パン屋のパンを食べると病気が治るとか噂になり始めて……。」

「す、すみません……?」


そうか、サラヤおばあちゃんの体の調子が良くなった気がするというのは、たぶんリメイクしたパン棚に治癒効果があって、そこに置かれたパンを食べたからなんだろう。


「あ、でも、ジークさんも見てたなら知ってると思いますけど、私お城で鑑定されて聖力がないからって追い出されたんです。」

「それな。自分より高レベルの相手は鑑定してもちゃんとしたデータ見れないんだよ。」

「えっ、そうなの?」


ヘルハルトさんが教えてくれた。


「ヨリコはレベル22だろ? この世界にはなかなかいないけど、なんも訓練してないとだいたいが年齢イコールレベルなんだ。ステータスはそれぞれ違うけど。ちなみに王子は20歳。年始に盛大に成人のお祝いしてたから間違いない。」

「王子……王子なのに訓練とかしてないの……?」

「……あの子は努力が嫌いでね。」


ジークさんが残念な顔をして言った。

しかし驚いた。
鑑定できていなかっただけでほんとうは、間違いなく聖女の召喚ができていたってことか。それはそれでよかった、のかな? いやでも私、散々な目にあったよね。


「ヨリコはどうしたい?」

「どう、とは?」

「こちらの都合で呼び出して、放り出してしまった。元の世界に返してあげることは、できない。」

「帰れない……。」


やっぱり、帰れないのか。
希望した会社に入れて、新社会人として頑張ろうってときだったのになぁ。


「このまま街で暮らすこともできるし、きちんと鑑定し直して聖女として暮らすこともできる。」

「聖女は、いやです。お城の人は、優しくない……。」

「そうだよね、ごめん……」

「あ、ううん! ジークさんは優しい! ジークさんは好き。」

「えっ、好き?」

「えっ?」

「えっ?」


バチッと目があってしまった。なんか恥ずかしいこと口走った気がする。


「あ、や、ほら、イケメンだし、優しいし、つ、強いし、イケメンだし、ひと、人として! いい人ってこと!」

「うん……わかった、わかったよ。」

「イケメンって2回言ったな。」


ヘルハルトさんそこはスルーして!


「ありがとう。私もヨリコのこと好きだよ。一生懸命だし素直だし、たくさん頑張ってて、それにとても可愛いし……。」


そんなこと言われたら照れるぅぅ……ってあれ? ジークさんこそ顔真っ赤。照れ、てる? イケメンなんて何百万回も言われてそうな顔してるのに。


「それは置いておいて。ではヨリコさんは、このまま街で暮らすのを希望するということでいいな?」

「あっ、はいっ、それでお願いします。」

「では、我々も協力しよう。」

「ありがとうございます!」


ギルドの協力があれば力強い。あのお城に行くより、慣れて楽しくなってきたパン屋の仕事と、家具職人スキルで家具をクラフトしておかみさんに恩返しできるくらいのお小遣いを稼げれば……ってあれ? 治癒効果付いてるのはまずいのか。どうしよう。


「あの、ここで暮らすのに、家具を売ってお小遣いになればいいなと思うんですけど、治癒効果はまずいんですよね?」

「そうだな。わずかな効果でも気づく者は気づくだろう。」

「今まで無意識で付与していたんなら、意識的に付けないようにできるんじゃね?」

「ああ、確かに。やってみます。」

「そうだな。それで問題なければ、ここの貸しスペースを使って売るといい。」

「ありがとうございます!」


確かに、ヘルハルトさんの言う通り無意識で付与していたとしたら、治癒効果無し! ってイメージに加えたらそうなるかもしれない。帰ったら試してみよう。


「ではこの話は、ここだけでのことということで。皆、いいな。」

「へいよ。」

「了解です、ギルド長。」

「うん。異論はないよ。」


ヴェッセルさん、ヘルハルトさん、リャラスさん、そしてジークさんが頷いてくれた。


「ありがとうございます! では、家具を作ったらまた持ってきますね。」

「ああ。待っているよ。」


治癒効果付きのカラーボックスは仕舞って、また新たに作り直して持ってくることになった。


「ヨリコ、送っていくよ。」

「えっ? や、いいですよ。」

「そういわずに。今日は休みだろう? そろそろ昼食の時間だ。今日の記念に一緒に食べよう。美味しい煮込み料理の店があるんだ。」

「煮込み料理!」

「行こう?」

「はいっ! 行きます!」

「ふふっ、たくさん食べようね。」


そうして、ヴェッセルさんとリャラスさん、ヘルハルトさんに挨拶をして、煮込み料理に釣られた私はジークさんと一緒にギルドを後にした。









皆が去ったあとの廊下に、1人の男が佇んでいた。





「聖女……? あの女が……?」


もしそれがほんとうなら、ものすごい手柄じゃないか?

俺はビオーテ伯爵家の次男。家督は長男が継ぐことになっているから仕方なく騎士団に入った。毎日嫌々働いてる。

あんまりちゃんと聞こえなかったが……今聞いた話がほんとうなら、さっきの女が召喚された聖女で、街に隠れ住んでるってことだよな?

だったら、それを上に報告したら、もんのすごい手柄になるんじゃないか?

やべえ。

騎士爵もらえるかも。

騎士爵は一代限りの爵位だけど、あるとないとじゃ大違いだ。爵位ある家から嫁がもらえる可能性がある。もしその家が、本家とは別に領地を持っていたらそれが貰えて、いいとこ子爵くらいになれるかもしれないんだ。そういう家は結構あるからな。

とにかく、騎士団長に報告だ。

ビオーテ伯爵家の次男パニクル・ビオーテが聖女を見つけた、と。

パニクル・ビオーテが! 手柄を挙げたと!!






そしてパニクル・ビオーテは、走り去った。

ちゃんと聞こえてないのに何を報告するんだパニクル・ビオーテ。

そんなことくらいで騎士爵はもらえないぞパニクル・ビオーテ。

騎士なら剣を握って功績を挙げようねパニクル・ビオーテ。





しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

聖女追放ラノベの馬鹿王子に転生しましたが…あれ、問題ないんじゃね?

越路遼介
ファンタジー
産婦人科医、後藤茂一(54)は“気功”を生来備えていた。その気功を活用し、彼は苦痛を少なくして出産を成功させる稀代の名医であったが心不全で死去、生まれ変わってみれば、そこは前世で読んだ『聖女追放』のラノベの世界!しかも、よりによって聖女にざまぁされる馬鹿王子に!せめて聖女断罪の前に転生しろよ!と叫びたい馬鹿王子レンドル。もう聖女を追放したあとの詰んだ状態からのスタートだった。 ・全8話で無事に完結しました!『小説家になろう』にも掲載しています。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

きっと幸せな異世界生活

スノウ
ファンタジー
   神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。  そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。  時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。  女神の導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?  毎日12時頃に投稿します。   ─────────────────  いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕
ファンタジー
 不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。 「どんな感じで転生しますか?」 「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」  そうして俺が転生したのは――  え、ここBLゲームの世界やん!?  タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!  女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!  このお話は小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...