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5.冒険者ギルドに行ってみました。
しおりを挟む「それならギルドに依頼を出すか、在庫があれば売ってもらえるよ。ああでも、個人はダメだったかな。」
「そうなんですね、聞いてみます。」
おかみさんに、ふかふか素材の話をしたら教えてくれた。お店は日曜休日にしているとのことで、土曜まで頑張った分としてお給料までくれた。当然遠慮したんだけど……。
「ヨリコのおかげで常連さんが増えたんだよ。売れ行きもいいし、遠慮しなさんな。」
そう言ってくれて……私もこの世界で無一文はキツイなって思ったから、ありがたく頂くことにした。何か稼げる方法があればいいんだけど。
スキルを利用してお金が稼げたら、おかみさんにも恩返しできるのにな。
そういった事も含めて、ギルドの様子を見に行こうと思った。
平日はきっちり働いて、仕事や常連さんにも慣れてきた。大工のキースおじさんはランチにはトマトスープ、サラヤおばあちゃんは食後に薬を飲むからお水を出して、騎士のサイラスさんはおかみさんの息子さんと同期なんだって。街の警備課に勤めているらしく、よく夕方に来て買って帰ってくれる。
「いやあ、ヨリコちゃんが働き出してから仕事のやる気が違うよ。」
「こらこらナンパはお断りだよ。」
「そういうんじゃないよ、おばさん。なんかさ、仕事帰りにこの笑顔……癒される~っていうかさ。」
「あはは、こんな顔で良ければいつでも。」
「おお嬉しいよ。ありがとね!」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
爽やかイケメン騎士さまにそんなふうに言ってもらえたら、そりゃ嬉しい。
そんな感じで楽しく過ごしていた。
そして日曜日――
私は、お給料を入れた皮袋を大事に胸元にしまってお店を出た。
冒険者ギルドは、パン屋さんの通りを真っ直ぐ行った噴水広場の一番いいところにあるからすぐ分かるって聞いたので、広場に向かって歩き出した。
広場に近づくと、出店がたくさん出て賑わっていた。日曜日はいつもこんな感じらしい。
楽しげな広場を通って、休みなく営業している冒険者ギルドの扉を開いた。
「こんにちは~。」
恐る恐る中に入ってみると、広々としたホールが出迎えてくれた。ここで挨拶しても誰にも聞こえないくらいの広さだ。
人はそんなに多くない。
正面にカウンターがあって、まずはそこに用件を話すようになっているみたい。
受付に行く前に依頼内容を整理する。ふかふか素材があれば、可能なら売ってもらって、なければ採取依頼を出す。どちらも金額次第になる。もし手持ちで足りないなら、私でもできる仕事がないか聞いてみる。家具の修理とか、作成とかね。
「こんにちは。初めての人?」
「は、はいっ。」
受付カウンターに近づくと、女の人が話しかけてくれた。珍しい黒髪だから、初めましてがわかったらしい。たしかにこの世界に来てからは、みなさんずいぶんカラフルなんだなーと思っていた。お姉さんは水色の髪だ。
「ご用はなにかしら? お嬢さん。」
「欲しい素材があって来ました。オオドリのウブ毛か、ブラックシープの毛があれば買いたいのですが、こちらで販売してますか?」
ポミスラの粘液は除外。たとえできるのだとしても、なんだかふかふかソファってイメージではないから……イメージ失敗して、ねちょねちょソファになっちゃったらイヤだし。
「ごめんなさい、個人には販売してないのよ。お店になら卸せるんだけど、経営者さんかしら? 従業員でも、店主の確認が取れれ――」
「あ、いえ。個人的に欲しいので……。」
「そう……それなら討伐依頼を出してもらうことになるわ。」
買えないのは残念だけど、まあ想定内。依頼についてもわからないことだらけだから、教えてもらおう。
「では依頼をしたいのですが、あの、こういったことは初めてで、相場がわからないんです。オオドリのうぶ毛かブラックシープの毛を、えっと、5キロ欲しいんです。どちらかでいいんですけど。」
「5キロ! 結構な量ね。となると、オオドリなら7匹分くらいかしら。何に使うの?」
「えっと、ふかふかなソファが欲しくて。」
「買うんじゃだめなの? 」
「えっと……」
クラフトで使いたいっていうのはありなのかな? スキル持ち自体、平民には少ないっておかみさんが言ってたけど、ギルドにはいるって言ってたし、ここではそんなに珍しいわけじゃないのなら、目立つこともないか。
「自分で、作ろうと思ってて。」
「あら、あなた職人さんなの?」
「あー、まあそんなところです。」
「そっかあ、家具職人ね。どうぞご贔屓に。」
納得してもらえたみたいだ。職人は、職種問わずお得意さんになるそうだ。鍛冶職人なら鉄鉱石などの石関係、服飾なら布の素材や染料など。いろんな人が採取依頼を出していて、比較的低ランクの冒険者のいい仕事になるそうだ。
「今、パン屋さんに居候してて、それで、手持ちが1万5千ギュルしかないんですけど、依頼できますか?」
「1万5千かー、オオドリもブラックシープも、討伐しないと素材手に入らないからそれなりにするのよね。Bランクの魔物だからオオドリなら一体で5千、ブラックシープは7千ギュルね。」
「わー……。」
となると、7匹で5キロなら、3匹で半分以下かぁ。それで全財産……5千ギュル残して2匹分だとどれくらいのソファができるかな。
「ちょ、ちょっと考えてきますね!」
「ええ。あっちは休憩スペースだからゆっくりどうぞ。」
「ありがとうございます!」
入口の左手に、机と椅子が置いてあるところがあって、軽食やドリンクも買えるみたい。
私はとりあえずそこに座って、スキルと相談することにした。
(えっと、3匹討伐お願いして2キロちょっとか。2キロで作れるソファは、と。)
このスキルは、イメージすると必要素材を表示することができるみたいで、とりあえず最初のソファよりふわふわ感の落ち着いたものを想像してみた。
(3人がけで、足元は木でいいや。座るところと背もたれ、ひじ掛けをふわふわにして……ああダメか。2人がけならいける? ……うーん、それでも3キロか。クラフト時に圧縮すると、ふわふわ感が増す仕様みたいだから、クッションとかに詰める量とは桁が違うんだよねえ。)
座り心地、というか寝心地重視にすると、ふかふかソファは厳しそう。もう少し元手があればなーと思って片肘ついて考えていたら、テーブルにドカッと衝撃が走る。
「ふわっ?!」
「何だてめー! やんのか!」
「おおやってやるよ。その依頼は俺の方が先に目をつけてたんだ!」
「申し込んだもん勝ちだろうが!」
「うるせー! この泥棒野郎が!」
真横で喧嘩がはじまってしまった。
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