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第三十二話 私の罪

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※※※わりと壮絶な過去になります。
※※閲覧注意!!
※全然OKという人にはぬるいですが、過激表現あります!
※読んだら後悔しそうな方は読まないようにお願いいたします!!

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私はパニラ。ただの、パニラ……。

生まれはボルティ国。

母は、私を生んでから漁師をしていた父と死別してしまい、その後カブラルという子爵領の領主館で働きだした。幼い私の世話をしながら、キッチンメイドとして館内の料理を担当していた。住み込みの皆は優しくて、子連れの使用人もいたからその子たちと遊んだり、お手伝いをして過ごしていた。母はほぼキッチンで過ごす裏方だったのだけど、この辺りでは珍しい金髪だったのでとても目立っていたようだ。そのせいで、領主様のお手付きになってしまった。

それまでは楽しく過ごしていたのに、母が領主様に気に入られてキッチンで働かなくなると、周りはどんどん離れていった。遊ぼうと声をかけても、お手伝いするよといっても、無視されるようになった。母は、上階から下りてこなくなった。

それでもなんとか、一日中手伝いをしてパンとスープをわずかだがわけてもらい、生きながらえていた。


その日も、朝から各所でお手伝いをして、夕食をわけてもらった。そのあと、庭の外灯が切れていないか確認するよう言われたので外に出て邸の周りを順に確認していくと、突然上から何かが落ちてきた。


「わっ!」

「ん? なんだ? ……子供か」


見上げると、上階の窓から男がこちらを見ていた。


「それ、片付けておけ。もう使い物にならん」

「あ……」


窓が閉まった。

私は、落ちてきたモノに目をやった。


「……………………ひっ」


それは、人のようだった。

人の形をしていなかったが、人であったものだということがわかった。


「おかあ、さ…………」


四肢はなかったが、首と胴体はつながっていた。

金髪は珍しいから、すぐに、母だとわかった。


私は恐ろしくなり、すぐにそこから走って逃げた。

邸を出て、とにかく走った。

行く宛などないが、邸にいてはいけないと思った。


私も、金髪だったから。





「やだ、やめて!」

「お前は高く売れそうだ。珍しい金の髪にこの顔立ちだもんなぁ。いい拾い物したぜ」


邸を出て走っていった先の町中ですぐに、奴隷商に捕まった。

私は、いい値がつくという。


無理やり商品として並べられた私に一番高値をつけたのは、娼館の女将だった。

それから、しばらくは見習いとして先輩娼婦の御付きになってお手伝いをして過ごした。

成人すると客を取らされたが、怖い思いもしなかったし、死にたくなるほどの苦痛を味わうこともなかったので、ここでの暮らしに順応していった。

そして、珍しい金髪だからとたくさんの客が付いた。そのおかげで、良いものを着せてもらい、良いものを食べさせてもらい、娼館では何不自由なく暮らすことができるようになった。

でもそんなとき、子供を身籠ったことがわかった。この国では堕胎は認められていない。そして、妊娠している女を、わざわざ娼館まできて抱くようなお客はいない。

娼館にいる女たちの出所は様々だが、私のように奴隷商から買われた女は、買いつけられた時の金額が借金となっている。毎月きちんと客の相手をして働いていれば食べるのには困らないが、妊娠して客が離れたらその借金だけが残ってしまい、毎月の支払いができなくなる。当然、貯金なんてない。
下働きをして出産まで過ごせれば、その後また復帰することはできるが、娼館で生まれた子は女ならば果ては娼婦だ。この世界しか知らずに生きていくことになる。



「身請けを?」

「ああ。パニラさえよければ、うちに来ないか?」


生まれたときからこの世界しか知らないのなら、それも幸せなのかもしれない……そう思っていたときだった。
初見の客だが身元はしっかりしている男、商会を営む一代男爵に見初められ、身請けを申し入れられた。

それはとても有難かった。
身請けしてくれれば借金完済でここから出ることができる。
当然、妊娠のことは伏せたままで私はその話に飛びつき、すぐにでも連れて行ってくれと頼んだ。

しかしその男は、娼館トップクラスの遊女の身請けには膨大な金がかかるから金を用意するまで待ってくれ、と言い出した。

それではまずい。確かに身請けはそこらの客がポンと払えるような安い金額ではないが、待つといっても時間がない。待っている間にも、子はどんどん育つのだ。

ふた月後、男が金を用意し迎えに来たときには、腹のふくらみは服の上から見てわかるほどではなかった。

しかし、当然家に迎えられたら夜の相手をすることになるだろう。

どう誤魔化せばいいか何のアイデアも思いつかないまま、上機嫌の男爵に連れられ、これから住む邸に到着してしまった。


「え? 検査?」

「ああ。君は私を待っていてくれたんだろう? そう言ったよね? だから、それが嘘じゃないか証明してほしいんだ」

「え……」


抵抗しても無駄だった。

ベッドに寝かされ押さえつけられ医者に診察された。

当然、妊娠していることがバレた。

医者から告げられる事実に、男爵の顔がどんどん曇っていく……。


「…………そう」

「ご、ごめんなさい! でもっ、あなたと会ってからは、誰とも寝ていないわ!」

「そうだね。妊娠しているんだもの」

「それ、は……」

「まさか、誰の子だかわからないような汚らしいモノが、美しい君の中にいるなんてね」


とても、とても冷たい目を向けられ、私は身動きが取れなかった。


「なんか、さめちゃったなー」

「あ、あなたっ……!」

「とはいえ、安くない金を払ったんだ。その分は使ってあげるから、安心して?」

「っ……」


そうして私は、男爵の愛人になるどころか、ただの使用人よりも酷い扱いをされるようになった。

子が生まれるまでは、少ないながらも食事はもらえたが、朝から晩まで邸中の家事をさせられた。やっとの思いで女の子を生んだが、その子の寝ている横で待ってましたと言わんばかりに夜の相手をさせられた。

それでも、子は可愛かった。

金色の髪で、ニコニコととても愛嬌がある女の子、私のピオミル。


「ふうん。さすが君の子だね? 金髪がとてもきれいだ」


男爵がそう言ったのは、娘が5歳になる頃だった。


ぞわりと足元から何かが這い上がってくるような悪寒を感じた。

このままここに居たら、今度は娘が目を付けられるかもしれない。
せっかく娼館から出られたのに、今度はこの邸という狭い世界に囚われるなんて……。

その後すぐに、悪いとは思ったが、なんとか持ち出せるだけ換金できそうなものを鞄に詰めて男爵の留守を狙って邸を飛び出した。
娘の手を引いて乗合馬車を乗り継ぎ、男爵家からだいぶ離れたところまで移動した。

新しい町で、なんとか仕事にありつけたので、家を借り、ピオミルと二人で慎ましやかに暮らし始めることができた。


「おかあさん、お仕事お疲れさま!」

「まあ、まあピオミル……! ありがとう……」


ある日、仕事を終えて帰宅すると、娘がお花の束を贈ってくれた。この日は、私の誕生日だった。通わせている町立の学び舎でできた友達と一緒に、摘んできてくれたらしい。可愛い娘……私はやっと、幸せを手に入れたと思った。


しかし、そんな幸せは長く続かなかった。逃げ出してきた男爵の商会に、私が持ち出して売った物が流れてしまい、暮らしている場所がばれてしまったのだ。

夜――

突然の訪問者――


ご近所付き合いが盛んな地域なので、なんのためらいもなく扉を開けてしまったのがいけなかった……。


「ああ、捜したよパニラ。帰ろう?」

「あ、あなた…………」

「うん? ああ、こっちはピオミルだね。うーん…………金髪以外は、大したことないか」

「え?」

「っ! ピオミル!!」


その姿を見て愕然とし、体が硬直した。しかし、男爵が娘の前にしゃがみこんだところで、本能的に、逃げなければと思った。
ピオミルの手を掴んで引き寄せ、素早く扉を閉める。テーブルの上に置いてあったサイフだけを掴んで、裏口から飛び出した。


「走って! 走ってピオミル!!」

「う、うん!」


夜だったのが幸いだったか、町のすぐ横の森の奥まで逃げ込んで事なきを得た。


「お、おかあさん、さっきの人だれ? おとう、さん?」

「いいえ……違うわピオミル。…………捕まってはいけない人よ」

「………………そう」

「国を出ましょう」


ボルティ国は、隣国であるジャービーと長い間にらみ合いが続いている。隙あらば戦争、という状況だがまだ牽制し合っているので公には敵対していない。住んでいた町からジャービーに逃げ込めれば、大々的には追ってこれないだろうと考えた。

そして、なんとか国境までたどり着いた時には、精疲力尽でボロボロだった。しかしそれが功をなし、ジャービーの入国審査官は同情的で、すぐに入国させてくれたし町に宿まで手配してくれた。


「兵士さん、優しかったね」

「そうね。いい人で良かったわ」

「ここに住むの?」

「ここはお泊りするだけよ。もう少し、国境から離れたところに行ってから、お仕事を探すわ」

「そっか」


どんな時でも明るい娘に、救われてきた。

願わくば、この子はどうか幸せにしてあげたいと思う。


--コンコン


ドアをノックする音に続いて女性の声がした。


「騎士団の者です。少しよろしいですか?」

「ああ、はい」


ドアを開けると、優しそうな女性と、強そうな武官が立っていた。




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