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番外編1(エドガーとエーレンデュース兄弟)
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(妹かわいいについて語ってください)
「あれはエリシャが生まれた時のことだった。私には兄エドガーがいて兄弟仲も良く、共に学び共に遊び――しかしやはり妹というのはまったく別次元のもので、とにかく可愛いがかわい――」
「エレン、それは長くなりそうだからもう少ししぼってくれ」
「そう、あれは母上がお隠れになった時のこと。何となく、もう死について理解しているエリシャが、私の服の裾をちょこっとつまんで不安そうに見上げてきたから私は女神エレテュイアのもとに旅立ったのだ、と安心させようと――」
「聞いてくれエレン」
「それがいったいどういうことだか、父上が後妻と連れ子を邸に入れたのだ!」
「いや、後妻かもまだ――」
「私も一年ほど共に暮らしたが、マナーのなっていない娘には呆れた。邸に来てから少しして、ヴァルデマールさんが家庭教師を手配していたが、のみ込みが悪く苦労しているようだった。母親のほうはめったに出てこないし、しかし散財だけは一人前だ。それだけ金を使うのなら家の役に立ってからにしろと――」
「エレン、エレン」
「ほどなくして私は宰相である祖父の仕事を覚えるため、セントリュッツ学園に入ると同時に祖父の家に移り住んだ。エリシャがひとりエストルム邸に残ることになってしまった。私は学業も仕事の手伝いも忙しく、兄もまた騎士として、次期侯爵としてやることが山積みだった。こんなの言い訳でしかないが、あまり顔を出すこともできず、謎の女たちとエリシャはカートナーや執事のヴァルデマールさん、邸の皆に任せっきりだった……」
「それは、私も反省している。エリシャは真っ直ぐ育ってくれたが、母を亡くし父も側にはいない。私は休みの日には邸に帰っていたが、父上に代わってこなす仕事も多く――」
「そんなのは言い訳だ」
「まあ、そうなのだが……いや、急にこっちに矛先を向けるな。」
「私は週末ごとに手土産を持ち帰り、エリシャとともにいただいていた」
「そ、そうなのか? 結構、帰っていたのだな」
「それでも、毎回毎回、お茶の時間にはカートナーが同席するのが当たり前になっていて……」
「ああ、あいつはな……」
「カートナーの功績は十分把握しているが、そう、たとえ街歩きがしたいとお忍びで出かけてもどう見ても貴族令嬢にしか見えないエリシャを誘拐しようとするやからを片っ端から蹴散らし、さらにはそこから足がついた奴隷商のアジトを突き止め元から解体したとか、一年に一度の超満月の日に光るという月見草を見るため遠出した先で山賊に襲われたが返り討ちにして散々盗みため込んだ財宝を持ち主に返還し、持ち主不明のものは国庫に納め、その金額が、小さな領地なら一年分の税収に値する金額で、実は一代男爵を賜っているとか、それで恋人の花屋のアーシャさんに婚約指輪を買えたとかなんとか喜んでいようと、エリシャとのティータイムに必ずいるというのがどうにも解せない……」
「腕はいいんだがな」
「そう、腕はいいんだ……」
「顔も良いよな」
「そう……顔もいいんだ……」
「王太子殿下をも嫉妬させるモテっぷりだ」
「剣も強いしもちろん素手でも強いし、あらゆる魔法を使えるし顔も良いし、いったいなんなんだあの男は。なぜただの護衛なんだ?」
「まあ、切れ者だが……頭は悪いからな。いや、良すぎるのかもしれないな」
「…………そうか。残念なんだな」
「いつの間にかカートナーの話になっているぞエレン」
「いや、そうだ、エリシャだ。あれは私が学園入学のとき、祖父の家に移り住むことになって――」
「話が戻ったな」
「泣きそうな顔をしながらも、笑顔でいってらっしゃい、と――」
(つまり、愛されてます)
「あれはエリシャが生まれた時のことだった。私には兄エドガーがいて兄弟仲も良く、共に学び共に遊び――しかしやはり妹というのはまったく別次元のもので、とにかく可愛いがかわい――」
「エレン、それは長くなりそうだからもう少ししぼってくれ」
「そう、あれは母上がお隠れになった時のこと。何となく、もう死について理解しているエリシャが、私の服の裾をちょこっとつまんで不安そうに見上げてきたから私は女神エレテュイアのもとに旅立ったのだ、と安心させようと――」
「聞いてくれエレン」
「それがいったいどういうことだか、父上が後妻と連れ子を邸に入れたのだ!」
「いや、後妻かもまだ――」
「私も一年ほど共に暮らしたが、マナーのなっていない娘には呆れた。邸に来てから少しして、ヴァルデマールさんが家庭教師を手配していたが、のみ込みが悪く苦労しているようだった。母親のほうはめったに出てこないし、しかし散財だけは一人前だ。それだけ金を使うのなら家の役に立ってからにしろと――」
「エレン、エレン」
「ほどなくして私は宰相である祖父の仕事を覚えるため、セントリュッツ学園に入ると同時に祖父の家に移り住んだ。エリシャがひとりエストルム邸に残ることになってしまった。私は学業も仕事の手伝いも忙しく、兄もまた騎士として、次期侯爵としてやることが山積みだった。こんなの言い訳でしかないが、あまり顔を出すこともできず、謎の女たちとエリシャはカートナーや執事のヴァルデマールさん、邸の皆に任せっきりだった……」
「それは、私も反省している。エリシャは真っ直ぐ育ってくれたが、母を亡くし父も側にはいない。私は休みの日には邸に帰っていたが、父上に代わってこなす仕事も多く――」
「そんなのは言い訳だ」
「まあ、そうなのだが……いや、急にこっちに矛先を向けるな。」
「私は週末ごとに手土産を持ち帰り、エリシャとともにいただいていた」
「そ、そうなのか? 結構、帰っていたのだな」
「それでも、毎回毎回、お茶の時間にはカートナーが同席するのが当たり前になっていて……」
「ああ、あいつはな……」
「カートナーの功績は十分把握しているが、そう、たとえ街歩きがしたいとお忍びで出かけてもどう見ても貴族令嬢にしか見えないエリシャを誘拐しようとするやからを片っ端から蹴散らし、さらにはそこから足がついた奴隷商のアジトを突き止め元から解体したとか、一年に一度の超満月の日に光るという月見草を見るため遠出した先で山賊に襲われたが返り討ちにして散々盗みため込んだ財宝を持ち主に返還し、持ち主不明のものは国庫に納め、その金額が、小さな領地なら一年分の税収に値する金額で、実は一代男爵を賜っているとか、それで恋人の花屋のアーシャさんに婚約指輪を買えたとかなんとか喜んでいようと、エリシャとのティータイムに必ずいるというのがどうにも解せない……」
「腕はいいんだがな」
「そう、腕はいいんだ……」
「顔も良いよな」
「そう……顔もいいんだ……」
「王太子殿下をも嫉妬させるモテっぷりだ」
「剣も強いしもちろん素手でも強いし、あらゆる魔法を使えるし顔も良いし、いったいなんなんだあの男は。なぜただの護衛なんだ?」
「まあ、切れ者だが……頭は悪いからな。いや、良すぎるのかもしれないな」
「…………そうか。残念なんだな」
「いつの間にかカートナーの話になっているぞエレン」
「いや、そうだ、エリシャだ。あれは私が学園入学のとき、祖父の家に移り住むことになって――」
「話が戻ったな」
「泣きそうな顔をしながらも、笑顔でいってらっしゃい、と――」
(つまり、愛されてます)
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