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第三十二話 話を戻そう
しおりを挟むしばらくの間のあと、わたくしはすまなそうに言います。いえ、ちゃんとすみませんと思っていますわよ?
久々のお父様のご帰宅なのに、シャンパンのことばかり考えてしまって……
「すみません、ほとんど聞いていませんでしたわ……」
「エリシャ……」
「エドガー兄様、呆れた顔なさらないで? もとはといえばリノが、この場面で我関せずシャンパンを飲んでいるのがいけないのです……」
「あっ、ずる!」
「しかもこれ、モエモエシャンドンのネクター・ペンペリアルですわよね? わたくしの一番好きなシャンパンですわ」
「ああ、エリシャの『おめでとう会』だからな。奮発した」
「嬉しいですわ!」
「エリシャ、一緒にシュトーレンも」
「エレン兄様、ありがとうございます」
シュトーレンのこの、ふんだんに練りこまれているドライフルーツ、そしてスパイスの風味、バターのリッチな味わいが、シャンパンのもつ複雑な要素とマッチして完璧なマリアージュとですわ。ナイスです、エレン兄様。
「あの、私の話を、聞いてくれないか?」
「あら、ええ、ごめんなさいお父様。なんでしたっけ?」
お口の中の幸福感から、話がそれてしまいましたわね。そう、愛人?だったかしら、パニラさんの話でしたわ。
「彼女は愛人などではない。あの親子は、ボルティ国でひどい扱いを受けていたと聞いて保護しただけだ。母のほうが元々、メイドをやっていたというからエストルム邸で下働きでもしたらいい、と連れ帰ったにすぎん。娘はエリシャと年齢も近いし、遊び相手になるかと思って……。ヴァルデマールさんに面倒を見るよう言ったはずだが……」
「『面倒をみるように』と言ったのですか?」
「そうだな。面倒をみるように、と言ったと思う」
「隣国云々下働き云々の話は?」
「いや、それは……した、かな?」
部屋の隅に控えていたヴァルデマールさんの様子を窺うように目を向けるお父様。ヴァルデマールさんは、ひとつため息をつくと、一歩前に出て話し始めました。
「聞いておりません。さすがに、それを聞けば使用人として対応できたでしょう。旦那様は親子を連れてきて『面倒をみるように』と言い残し、あの日はすぐに邸を出てお行きになりました」
「そ、そうだったか?」
「父上…………」
呆れる一同の中、代表して言ったエドガー兄様のため息交じりのひと言が響き、沈黙が訪れました。
パニラさんは使用人として連れて来られたのですね。長年の不思議が解けました。あら? でも、でしたらなぜ、お客様扱いされている現状で『違いますよー』のひとこともなかったのかしら?
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