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第三十一話 エリシャはうわの空
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お父様ときちんと顔を合わせたのはいつ振りでしょうか。お母様が亡くなってから、初めてくらいに思ったらいいでしょうか。
それなのに、七年振りくらいだというのに、逃げ出そうとしたお父様。今は、エレン兄様とエドガー兄様にがっちり掴まれて、座らされています。
「で、です。父上」
「……あ、ああ」
「母上がお隠れになってその後、仕事に没頭するのはいいでしょう」
「………………ああ」
「各地でのご活躍は耳に入っていますし、国民からも感謝の声が届いています」
「……ああ」
「エリシャが母上に似てきたから顔を見るのがつらい、というのも仕方のないことでしょう」
「………………ああ」
「それだけ、母上を愛しておられたということですから」
「……ああ」
「しかし……」
エドガー兄様の顔つきが変わります。こう、グワッ! と、まるで鬼の仮面をかぶったかのような形相です。思わずリノのほうを向くと、彼は先ほどの乾杯用のシャンパンをおかわりしていました。
「あなたは父親です! その父に避けられ続けるエリシャの気持ちを考えたことはありますか?!」
「っ……!!」
シャンパンは1本あけて、兄様方とわたくし、そしてリノのグラスについだだけなのでまだ残っています。わたくしは飲み逃がしましたが、ほのかに桃の香りがしたこのシャンパンは……
「母を亡くし、10才といえばまだ子供でしょう?! それなのに、父親は顔を合わせるとつらそうな顔しかしないし挙句に家に帰らなくなるし、私も近衛として隊舎に住むようになり、たった1年しか経っていないのに愛人は連れてくるし、エレンも学園入学の年には今後のことも考えてお爺様の家に住むようになり……」
「あ、愛人?」
まさかモエモエ・シャンドンのネクター・ペンペリアルでは?! あの、幻のシャンパンですの? そうなのですか、リノ! と目で訴えれば、とてもいい笑顔で返してきました。ムカつきますわねその顔。
「待ってくれエドガー、ギルテシュからも聞いたが、あの親子は愛人などではない!」
「…………では?」
なにやらシリアスな話し合いになっているのでこっそりとグラスを傾け、シャンパンを口に含めば……これは……!
「間違いありませんわ!」
これは、『モエモエ・シャンドンのネクター・ペンペリアル!』と確信し、思わず声を上げてしまったわたくし。
「あっ、エリシャ様」
今シリアスシーンだから!と、リノが止めようとしてきます。
「そうです父上、愛人に間違いないでしょう!」
と、エドガー兄様が言います。
「えっ? 愛人?」
結局愛人でしたの?と、わたくしが。
「……え?」
と、エドガー兄様。
「いや違う!」
と、否定するお父様。
「はい?」
何の話でしたっけ?と、わたくしが言いました。
それなのに、七年振りくらいだというのに、逃げ出そうとしたお父様。今は、エレン兄様とエドガー兄様にがっちり掴まれて、座らされています。
「で、です。父上」
「……あ、ああ」
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「………………ああ」
「各地でのご活躍は耳に入っていますし、国民からも感謝の声が届いています」
「……ああ」
「エリシャが母上に似てきたから顔を見るのがつらい、というのも仕方のないことでしょう」
「………………ああ」
「それだけ、母上を愛しておられたということですから」
「……ああ」
「しかし……」
エドガー兄様の顔つきが変わります。こう、グワッ! と、まるで鬼の仮面をかぶったかのような形相です。思わずリノのほうを向くと、彼は先ほどの乾杯用のシャンパンをおかわりしていました。
「あなたは父親です! その父に避けられ続けるエリシャの気持ちを考えたことはありますか?!」
「っ……!!」
シャンパンは1本あけて、兄様方とわたくし、そしてリノのグラスについだだけなのでまだ残っています。わたくしは飲み逃がしましたが、ほのかに桃の香りがしたこのシャンパンは……
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「あ、愛人?」
まさかモエモエ・シャンドンのネクター・ペンペリアルでは?! あの、幻のシャンパンですの? そうなのですか、リノ! と目で訴えれば、とてもいい笑顔で返してきました。ムカつきますわねその顔。
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「…………では?」
なにやらシリアスな話し合いになっているのでこっそりとグラスを傾け、シャンパンを口に含めば……これは……!
「間違いありませんわ!」
これは、『モエモエ・シャンドンのネクター・ペンペリアル!』と確信し、思わず声を上げてしまったわたくし。
「あっ、エリシャ様」
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「そうです父上、愛人に間違いないでしょう!」
と、エドガー兄様が言います。
「えっ? 愛人?」
結局愛人でしたの?と、わたくしが。
「……え?」
と、エドガー兄様。
「いや違う!」
と、否定するお父様。
「はい?」
何の話でしたっけ?と、わたくしが言いました。
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