32 / 48
第三十一話 エリシャはうわの空
しおりを挟む
お父様ときちんと顔を合わせたのはいつ振りでしょうか。お母様が亡くなってから、初めてくらいに思ったらいいでしょうか。
それなのに、七年振りくらいだというのに、逃げ出そうとしたお父様。今は、エレン兄様とエドガー兄様にがっちり掴まれて、座らされています。
「で、です。父上」
「……あ、ああ」
「母上がお隠れになってその後、仕事に没頭するのはいいでしょう」
「………………ああ」
「各地でのご活躍は耳に入っていますし、国民からも感謝の声が届いています」
「……ああ」
「エリシャが母上に似てきたから顔を見るのがつらい、というのも仕方のないことでしょう」
「………………ああ」
「それだけ、母上を愛しておられたということですから」
「……ああ」
「しかし……」
エドガー兄様の顔つきが変わります。こう、グワッ! と、まるで鬼の仮面をかぶったかのような形相です。思わずリノのほうを向くと、彼は先ほどの乾杯用のシャンパンをおかわりしていました。
「あなたは父親です! その父に避けられ続けるエリシャの気持ちを考えたことはありますか?!」
「っ……!!」
シャンパンは1本あけて、兄様方とわたくし、そしてリノのグラスについだだけなのでまだ残っています。わたくしは飲み逃がしましたが、ほのかに桃の香りがしたこのシャンパンは……
「母を亡くし、10才といえばまだ子供でしょう?! それなのに、父親は顔を合わせるとつらそうな顔しかしないし挙句に家に帰らなくなるし、私も近衛として隊舎に住むようになり、たった1年しか経っていないのに愛人は連れてくるし、エレンも学園入学の年には今後のことも考えてお爺様の家に住むようになり……」
「あ、愛人?」
まさかモエモエ・シャンドンのネクター・ペンペリアルでは?! あの、幻のシャンパンですの? そうなのですか、リノ! と目で訴えれば、とてもいい笑顔で返してきました。ムカつきますわねその顔。
「待ってくれエドガー、ギルテシュからも聞いたが、あの親子は愛人などではない!」
「…………では?」
なにやらシリアスな話し合いになっているのでこっそりとグラスを傾け、シャンパンを口に含めば……これは……!
「間違いありませんわ!」
これは、『モエモエ・シャンドンのネクター・ペンペリアル!』と確信し、思わず声を上げてしまったわたくし。
「あっ、エリシャ様」
今シリアスシーンだから!と、リノが止めようとしてきます。
「そうです父上、愛人に間違いないでしょう!」
と、エドガー兄様が言います。
「えっ? 愛人?」
結局愛人でしたの?と、わたくしが。
「……え?」
と、エドガー兄様。
「いや違う!」
と、否定するお父様。
「はい?」
何の話でしたっけ?と、わたくしが言いました。
それなのに、七年振りくらいだというのに、逃げ出そうとしたお父様。今は、エレン兄様とエドガー兄様にがっちり掴まれて、座らされています。
「で、です。父上」
「……あ、ああ」
「母上がお隠れになってその後、仕事に没頭するのはいいでしょう」
「………………ああ」
「各地でのご活躍は耳に入っていますし、国民からも感謝の声が届いています」
「……ああ」
「エリシャが母上に似てきたから顔を見るのがつらい、というのも仕方のないことでしょう」
「………………ああ」
「それだけ、母上を愛しておられたということですから」
「……ああ」
「しかし……」
エドガー兄様の顔つきが変わります。こう、グワッ! と、まるで鬼の仮面をかぶったかのような形相です。思わずリノのほうを向くと、彼は先ほどの乾杯用のシャンパンをおかわりしていました。
「あなたは父親です! その父に避けられ続けるエリシャの気持ちを考えたことはありますか?!」
「っ……!!」
シャンパンは1本あけて、兄様方とわたくし、そしてリノのグラスについだだけなのでまだ残っています。わたくしは飲み逃がしましたが、ほのかに桃の香りがしたこのシャンパンは……
「母を亡くし、10才といえばまだ子供でしょう?! それなのに、父親は顔を合わせるとつらそうな顔しかしないし挙句に家に帰らなくなるし、私も近衛として隊舎に住むようになり、たった1年しか経っていないのに愛人は連れてくるし、エレンも学園入学の年には今後のことも考えてお爺様の家に住むようになり……」
「あ、愛人?」
まさかモエモエ・シャンドンのネクター・ペンペリアルでは?! あの、幻のシャンパンですの? そうなのですか、リノ! と目で訴えれば、とてもいい笑顔で返してきました。ムカつきますわねその顔。
「待ってくれエドガー、ギルテシュからも聞いたが、あの親子は愛人などではない!」
「…………では?」
なにやらシリアスな話し合いになっているのでこっそりとグラスを傾け、シャンパンを口に含めば……これは……!
「間違いありませんわ!」
これは、『モエモエ・シャンドンのネクター・ペンペリアル!』と確信し、思わず声を上げてしまったわたくし。
「あっ、エリシャ様」
今シリアスシーンだから!と、リノが止めようとしてきます。
「そうです父上、愛人に間違いないでしょう!」
と、エドガー兄様が言います。
「えっ? 愛人?」
結局愛人でしたの?と、わたくしが。
「……え?」
と、エドガー兄様。
「いや違う!」
と、否定するお父様。
「はい?」
何の話でしたっけ?と、わたくしが言いました。
181
お気に入りに追加
3,205
あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

ある愚かな婚約破棄の結末
オレンジ方解石
恋愛
セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。
王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。
※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる