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第三十話 帰宅した当主、息子に捕まる
しおりを挟む「そこで聞いたのだ。エリシャに命の危機が迫っている……と」
「命の危機、ですか……」
「あ、ああ……」
「そう、だったかしら?」
「まあ結構危機はありますけどね」
「やはりそうなのか!」
「あーいや、まあ、俺らで防げる程度のちっちゃいやつですけど」
「ちっちゃい……」
私は、ギルテシュに言われとにかく早く帰らねば、とジダール海峡から王都のエストルム邸までの道を急いだ。
だいぶ前からギルテシュは、エストルム邸での話を私にしようとしていた。だが、どうしてもメルセデュースの顔が浮かび、あの時の喪失感がまだすぐ隣にあるようで、それを振り払うように逃げるしかなかった。
そうして数年が経ち、しびれを切らしたギルテシュが、いきなり声を張って言ったのだ。それこそ戦場で指揮をする時のようなよく通る声だった。
「このままではエリシャ様が殺されます!」
「!”#$%&’()=PL………………え?」
「このままでは! あなたがアドゥアナから連れ帰った娘に! エリシャ様が殺されます!」
「アドゥアナの、娘?」
殺される?
どういうことだ……。
アドゥアナは駐屯地のある町だが、連れ帰った娘?
反射的に逃げ出そうとした足を戻して、考えた。
そう、確かに、ボルティ国から逃げてきたという親子をあの辺りで保護したのは覚えている。元々、ボルティの貴族家でメイドをやっていたがひどい扱いだったと聞いて、娘のほうがエリシャと年齢も近いことから、エストルム邸で下働きでもしたらいい、と連れ帰ってヴァルデマールさんに面倒を見るよういいつけた、ことはあったが……。
「その娘、か?」
「え? 下働き??」
「あ、ああ。そのつもりだったが」
「そんな馬鹿な!」
そこで、珍しく声を張り上げ話すギルテシュから、今のエストルム邸の現状を聞いた。
・
・
・
「それで慌てて……」
「下働き……? 愛人ではなくて??」
「愛人!? とんでもない! そんなもの私に必要ないだろう!」
「……今でも、お母様を……愛していらっしゃいますか?」
「っ!…… もちろんだ」
「お父様……」
ああ、エリシャ……エリシャ…………久しぶりに見た娘は、亡き妻にそっくりだった。
「………………っ!!!」
「逃がしませんよ、父上」
「はっきりしてもらいましょうか」
「エレン……エドガー……見ないうちに、立派になったな……」
勢いでここまできたが、エリシャを前にしていることに気づいた私は、やはり耐えられず逃げ出そうとしたのだが……立派に育ちすぎた息子たちからは、逃げる術がなかった。
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