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第二十八話 自白早くない?
しおりを挟む「ピオミル。お前は王太子殿下のご尊名を許可なく口にした罪で囚われている。罪状に異論はあるか」
「ギザーク様のこと? え? 王太子殿下ってギザーク様でしょ?」
「異論ないようだな。ではもう一件確認だ。昨日の魔装戦で、友人にエリシャを控え室から連れ出すよう指示し、ひとりにになったところ、エフランエーテルを使用し眠らせ拉致し生徒会室に閉じ込めた一軒の黒幕はお前か?」
「生徒会室……?」
「そうだ。エリシャをエフランエーテルで眠らせ生徒会室の衣装室のソファに置いたのはお前か?」
「そんな……そんなはずは、ないわ!」
「……ほう?」
「だって、……え? エー、エーテルで眠らせた? 生徒会室のソファ? 私は二人に、豚小屋に放り込んでドレスを剥いで二度と社交界に出れないような体にしてやってって、そう言ったのに!! ソファで寝てただけ? ほんとうに?」
「……ああ。エリシャはソファで眠っていたと報告を受けている」
「そんなはずないわ! そう、かばっているのね? 妹が傷モノだなんて外聞が悪いから……」
「いや、確かだ。発見時私もいたからな。傷ひとつなく、眠っていただけだ」
「でもっ!!」
「お前が、指示したんだな? エリシャを豚小屋に放り込んでドレスを剥いで傷をつけろ、と」
「そうよ? 私がギース様の側近に、シリノとブラスに、確かに言ったわ! あの二人は私のお願いを何でも聞いてくれるから……そうよ、だって、ギース様がお姉様をこてんぱんにしたいって言ったの! 魔装戦に出てもそんなに戦えないから、だから私……お姉様を傷モノにしてやろうって、ギース様だって素晴らしい案だって言っていたわ!」
「……………………そうか」
救いようのない女だ。父が連れてきた、愛人だかなんだかわからない女とその娘。父の話を聞くまでは勝手に追い出すことはすまいと思って、7年か? 経ってしまった。そして愛する妹の毒になるような人間だと判明した。
もっと気をつけていればよかった。
この女が言ったことが実際に起こっていたら、後悔ではすまなかっただろう。
近衛の仕事が忙しいからと、家のことは把握していたが面倒ごとには蓋をして後回しにしていた。私も、未だはっきりとしない父も同罪だ……。ほんとうに、あの子が無事で……よかった…………。
・
・
・
「そこであの女の罪は確定したわけだが、実行犯となった第二王子の側近であるシリノ・ガルベスとブラス・メンヘを呼んで話を聞いたところ、エフランエーテルを用意したのはンゴイ・マレスだという話だ。ここから先は取調べが済んで明らかになったらまた伝える」
「そう……お疲れさまでしたわ、エドガー兄様」
ンゴイ・マレスもセントリュッツ学園の学生だ。マレス家は名誉男爵家で、王都にある商会のうちのひとつを運営している。主に茶葉や薬草を取り扱っているが、そこにエフラン草を紛れ込ませていたのだろう。許可された商会以外が取り扱うのは違法になる第一級魔薬だ。当然処罰が下されるだろう。
「マレス家は、シリノ・ガルベスの父であるガルベス伯爵が院長を務める治療院と懇意にしているからな。そこから芋づる式に不正が暴かれるだろう」
「ええ、お疲れさまでしたわ、エレン兄様」
ピオミルは自分の計画を自白したことで、再度罪状を見直し、逮捕し直すことになる。それまでは牢生活だ。廊下で大声で会話しエリシャを誘い出した女生徒や、実行犯であるガルベスとメンヘも取調べの上それなりの罪を償うことになる。側近二人は、ピオミルとあれやそれやの関係があって従わざるを得ない状況に置かれていたという。しかしエリシャを眠らせたところで、あまりの美しさに何もできず、ただただ傷をつけないようそーっと、少しだけでも隠れた状態にできる生徒会室に運び、そーっとそーっとソファに横たえるのが精いっぱいだったとか。まあ、情状酌量の余地はあるだろう。
そして第二王子は――
「さあ、もう眉間にしわを寄せて話すのはやめてくださいな。今日はわたくしの魔装戦三位おめでとう会でしょう?」
「エリシャ様、おめでとう会って……子供じゃないんだから……」
「……ねえ、リノ。主人を笑うのはやめなさいってあれほど……、ねえ! 隠せていないですわ!」
「いやだっておめでとう会……ふっ……」
「……無礼な護衛は置いておいて。さあお兄様方、乾杯してくださいなっ」
本当に無礼な護衛だ。
だが、これがこの2人のありかたなのだろう。公式の場では困るが、ここはエリシャが住まうエストルム邸だ。彼らの空気を尊重しよう。護衛まで酒の入ったグラスを持っているのは不思議でならないがな。
「……まあいい。それでは、エリシャの健闘を讃えて!」
「「「かんぱ―――」」」
「今帰ったぞ!!!」
グラスを掲げたまま、声がしたほう、食堂の入口に目を向ける。
そこには――
「長く、留守にした」
「おとう、さま…………?」
7年前と変わらない父の姿があった。
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