【第二章連載中】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

文字の大きさ
上 下
28 / 47

第二十七話 お前の兄ではない

しおりを挟む

我が愛しの妹エリシャに手をかけようとした女、ピオミル。
ギザーク様への不敬罪を理由に捕えたが、エリシャの件もきっちり吐いてもらおう。

そう意気込んで、私は弟エーレンデュースに取調べを頼んだ。

私はギザーク様の近衛騎士、つまり武官だ。取調べも出来ないことはないが、宰相補佐であるエレンのほうが適任なのは確かだ。エリシャが絡むとどうも冷静さを欠いてしまうので、そういった意味でもエレンに任せるのがいいと思い事の顛末をすべて話した。わかりにくいヤツだが、エレンもエリシャのことは大切にしている。静かに怒りのオーラをまき散らしていたから少し不安ではあるが、上手くやってくれるだろう。
ちなみにグイストは、現在はセントリュッツの学園長という肩書きだ。取調べに参加するのはいささかか問題があるのでご辞退いただいた。王弟だし公爵だしで権力を駆使すればもちろんこの席に座ることだって容易いが、一生徒の取調べに学園長が参加するのは、はたから見たら不自然だからな。


「失礼します!」

「入れ」


取調室で私とエレンが待っていると、外から牢屋番の声がしたのでエレンが入室を許可する。すぐに扉が開き、牢屋番がピオミルを連れて入ってきた。


「お兄様たちっ!」

「「兄ではない」」

「兄?」


きっぱりと否定した私たちに、牢屋番が疑問符を浮べる。何度も何度も何度も何度も否定しているのだが、なぜこの女は私たちを兄だと呼ぶのだろうか、不思議でならない。こちらこそ疑問符だらけだ。


「連れて参りました、エストルム卿……と、エストルム卿」


まあそうなるだろう。私もエレンもエストルムだからな。
まぎらわしいので名前を呼ぶ許可を与えて、取調べの記録を命じた。


「エーレンデュース様、エドガー様、ありがとうございます! 精いっぱい努めます!」

「ああ、頼んだぞ」


牢屋番のビバーグは、ピオミルを奥の席に座らせ足を錠で固定すると、記録係の席に着いた。
私は、部屋の扉の前で背中を壁に預け腕を組み、こちらに背を向けてピオミルの正面に座るエレンを見守るとしよう。


「さて――」

「お兄様っ! 早くここから出してください!」

「兄では――」

「たくさんの罪人がいる牢に入れられ、せっかくギース様からいただいたドレスもとられてしまったのよ! 見てちょうだいこのボロ着を……私にはふさわしくないわっ!」

「おまえ――」

「それにねお兄様、そこの牢屋番、なんだかいやらしい目で見てくるのよ」

「……――」

「そうよ、ご飯だってまだ食べてないわ! ちょっとあなた! カツど――」

「黙れ」

「――ヒッ!」


矢継ぎ早に話し続けるピオミルに苛ついたのはわかるが、エレンの絶対零度の『黙れ』はこの兄でも恐ろしい。
耐性のないビバーグまで、背筋を伸ばして固まってしまっている。


「エレン……」

「っ、しかし兄上……」

「まあ、気持ちはわかる」

「……」

「だがな、今日はさっさと終わらせて早く帰らねばならない」

「そうでした……」


昨日の魔装戦で、我らが妹エリシャはおしくも第三位という成績だった。もちろん、総勢60数名の中で三位というのは称えられるべき功績である。そのため今日は、兄妹で祝杯をあげようということになっている。王太子殿下の近衛である私は普段は近衛の隊舎で寝泊まりしているし、宰相補佐であるエレンは学生のときから現宰相・祖父の家に住んでいる。兄妹での晩餐など久しくなく、その貴重なひとときのために残業するわけにはいかないのだ。


「では、始めようか」


冷静になってくれたのはいいが、その表情も声も、悪役にしか見えないぞ我が弟よ。




しおりを挟む
感想 79

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

〖完結〗旦那様には本命がいるようですので、復讐してからお別れします。

藍川みいな
恋愛
憧れのセイバン・スコフィールド侯爵に嫁いだ伯爵令嬢のレイチェルは、良い妻になろうと努力していた。 だがセイバンには結婚前から付き合っていた女性がいて、レイチェルとの結婚はお金の為だった。 レイチェルには指一本触れることもなく、愛人の家に入り浸るセイバンと離縁を決意したレイチェルだったが、愛人からお金が必要だから離縁はしないでと言われる。 レイチェルは身勝手な愛人とセイバンに、反撃を開始するのだった。 設定はゆるゆるです。 本編10話で完結になります。

王侯貴族、結婚相手の条件知ってますか?

時見 靜
恋愛
病弱な妹を虐げる悪女プリシア・セノン・リューゲルト、リューゲルト公爵家の至宝マリーアン・セノン・リューゲルト姉妹の評価は真っ二つに別れていたけど、王太子の婚約者に選ばれたのは姉だった。 どうして悪評に塗れた姉が選ばれたのか、、、 その理由は今夜の夜会にて

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

処理中です...