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第二十七話 お前の兄ではない
しおりを挟む我が愛しの妹エリシャに手をかけようとした女、ピオミル。
ギザーク様への不敬罪を理由に捕えたが、エリシャの件もきっちり吐いてもらおう。
そう意気込んで、私は弟エーレンデュースに取調べを頼んだ。
私はギザーク様の近衛騎士、つまり武官だ。取調べも出来ないことはないが、宰相補佐であるエレンのほうが適任なのは確かだ。エリシャが絡むとどうも冷静さを欠いてしまうので、そういった意味でもエレンに任せるのがいいと思い事の顛末をすべて話した。わかりにくいヤツだが、エレンもエリシャのことは大切にしている。静かに怒りのオーラをまき散らしていたから少し不安ではあるが、上手くやってくれるだろう。
ちなみにグイストは、現在はセントリュッツの学園長という肩書きだ。取調べに参加するのはいささかか問題があるのでご辞退いただいた。王弟だし公爵だしで権力を駆使すればもちろんこの席に座ることだって容易いが、一生徒の取調べに学園長が参加するのは、はたから見たら不自然だからな。
「失礼します!」
「入れ」
取調室で私とエレンが待っていると、外から牢屋番の声がしたのでエレンが入室を許可する。すぐに扉が開き、牢屋番がピオミルを連れて入ってきた。
「お兄様たちっ!」
「「兄ではない」」
「兄?」
きっぱりと否定した私たちに、牢屋番が疑問符を浮べる。何度も何度も何度も何度も否定しているのだが、なぜこの女は私たちを兄だと呼ぶのだろうか、不思議でならない。こちらこそ疑問符だらけだ。
「連れて参りました、エストルム卿……と、エストルム卿」
まあそうなるだろう。私もエレンもエストルムだからな。
まぎらわしいので名前を呼ぶ許可を与えて、取調べの記録を命じた。
「エーレンデュース様、エドガー様、ありがとうございます! 精いっぱい努めます!」
「ああ、頼んだぞ」
牢屋番のビバーグは、ピオミルを奥の席に座らせ足を錠で固定すると、記録係の席に着いた。
私は、部屋の扉の前で背中を壁に預け腕を組み、こちらに背を向けてピオミルの正面に座るエレンを見守るとしよう。
「さて――」
「お兄様っ! 早くここから出してください!」
「兄では――」
「たくさんの罪人がいる牢に入れられ、せっかくギース様からいただいたドレスもとられてしまったのよ! 見てちょうだいこのボロ着を……私にはふさわしくないわっ!」
「おまえ――」
「それにねお兄様、そこの牢屋番、なんだかいやらしい目で見てくるのよ」
「……――」
「そうよ、ご飯だってまだ食べてないわ! ちょっとあなた! カツど――」
「黙れ」
「――ヒッ!」
矢継ぎ早に話し続けるピオミルに苛ついたのはわかるが、エレンの絶対零度の『黙れ』はこの兄でも恐ろしい。
耐性のないビバーグまで、背筋を伸ばして固まってしまっている。
「エレン……」
「っ、しかし兄上……」
「まあ、気持ちはわかる」
「……」
「だがな、今日はさっさと終わらせて早く帰らねばならない」
「そうでした……」
昨日の魔装戦で、我らが妹エリシャはおしくも第三位という成績だった。もちろん、総勢60数名の中で三位というのは称えられるべき功績である。そのため今日は、兄妹で祝杯をあげようということになっている。王太子殿下の近衛である私は普段は近衛の隊舎で寝泊まりしているし、宰相補佐であるエレンは学生のときから現宰相・祖父の家に住んでいる。兄妹での晩餐など久しくなく、その貴重なひとときのために残業するわけにはいかないのだ。
「では、始めようか」
冷静になってくれたのはいいが、その表情も声も、悪役にしか見えないぞ我が弟よ。
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