27 / 47
第二十六話 牢屋番ビバーグの苦悩
しおりを挟む「出しなさいよ! なんなのよここはっ!」
「いい加減にしてくれ……」
俺はしがない牢屋番のビバーグ。田舎町出身だ。
王都に出てきてこの職に就いてからしばらくして、安定した収入を得ることができるようになった。だから、そのとき付き合っていた鍛冶屋に勤めているリィリィと結婚することができた。今は子供もいる。
と、俺の話は置いておいて――この牢屋には、罪人がたくさんいる。
第一級だと殺人犯、お貴族様から巨額の金をむしり取った詐欺師、それにスリや商店での盗みの類の軽い罪の者も、ここでは一部屋にまとめて入れられている。
男女では別々だけどな。
そんなこの牢屋に、昨日新しく入れられた女がいる。
ちなみにここは、簡単に言うと平民が入る牢屋だ。お貴族様ってのは、罪を犯しても特別待遇で牢屋も豪華。一度見学したことがある。壁紙なんかは暗めの単色だが、ベッドやソファはふかふかで、食事も普段俺が食べているものより豪華。風呂もついているし、着替えも華美ではないが着心地のよさそうな素材のものだ。
そうそう、昨日ここに来た女ってのが、とにかくフリフリフワフワしたどピンクのドレスを着た女で、お貴族様じゃないのか?って思って兵士に確認したんだ。貴族用の部屋じゃなくていいのか、ってな。
でも、こんなナリしていても平民だそうだ。この牢屋で間違いないっていうから、女の大部屋に押し込んだ。やたら抵抗していたけどな。
そしたら、まあ派手なナリしてるから、先住たちに身ぐるみはがされてな。俺は上流階級だかの流行なんて知らないが、そのドレスが大人気で、あたしのドレスだ私のだ、ピンク可愛いフリフリカワイイ、それ着たいお前にゃ似合わない、よこせよこせと夕べはずっとうるさかった。ここの女どもは、注意しても聞きゃしないからな。
そんで身ぐるみはがされたってのに、その新しい女がずっと騒いでるんだ。主に、ここから出せってな。あんまりうるさいし、そのせいでほかの女たちに何かされたらさすがにマズいから、とりあえず個室に移してやった。長年の牢屋番のカンだ。トラブル回避、これ大事。
記録によると、女の罪は「王族に対する不敬罪」だそうだ。え? 平民なんだよな? 平民が王族に不敬罪って、相当だぞ??
王族になんてまず会えない。建国記念日なんかにとおぉぉくのほうで手を振っている姿を見れるくらいだ。ってことは、なんか悪口言ったのが警備だかに伝わって捕まったか……いや、平民にしてはいいとこの娘なのかもな。ド派手なピンクのドレスを着ていたくらいだし、もしかしたら今王族がいるっていったら王立のセントリュッツ学園か。そこの生徒かもしれん。個人情報は上のほうで管理してるから、こんな下っ端じゃあ知る由もない。
「ねえってば!」
「あーもーうるせえなぁ……」
「あんたね! 私にこんなことして、ただじゃすまないから!」
「いや俺はなんもしてねえよ。ただの牢屋番だ」
「あー……まあ、そうね。確かに、あなたには何もされてなかったわ」
「なんだ、話は通じるんだな。だったらいい加減静かにしてくれ……」
「ねえそれより、ギース様に連絡取ってよ」
「ああ? 誰だよギース様って」
「あんた自分の国の王子の名前も知らないの?」
「王子? 寝ぼけてんのか?」
「寝ぼけてないわよ失礼ね! いいから早くギース様を呼んで! 私は第二王子の恋人よ!!」
「呼ばねえよ……いい加減黙ってくれ……」
「きいぃぃぃぃ!」
やっぱこんなとこに入れられるやつには話が通じねえ。女の金切り声は耳に悪いし精神にも毒だ。いい加減にしてほしい。
牢の見回りを終え、後ろからの罵声はもう気のせいだと思うことにして、入口の詰所に戻る。すると、上階へ続く階段側に誰かいることに気づいた。
「手間をかけるな」
「えっ? ……はい。あ、……はい?」
「エーレンデュース・エストルムだ。宰相補佐をしている」
「え、エストルム卿! で、ございますか」
さすがの俺も、その名前はよく知っている。
エストルムといえば、国事騎士団長がそこの家長のシュトルポジウム侯爵だ。
というか、エリシャ・エストルム様のお姿をお見かけしたことがある。ご兄妹、だよな?
エストルム侯爵令嬢は、チラッとだけ遠くから見たがとんでもなく美しい御方だ。その姿を見て、妖精姫と呼ばれていることに秒で納得した。優雅に馬車を降りてきて、きれいな髪が風になびいて……護衛と思われるやたら顔のいい騎士にエスコートされていたっけなぁ。妖精姫は護衛騎士も最上級なんだなぁ……なんて不躾に見てしまっていたのに、こっちに気づいてニコッて笑顔を見せてくれたんだ。あれは……ん?あの妖精姫さんの婚約者が第二王子だよな?
いや、まったく関係ないだろうけど、この女……あろうことか妖精姫と張り合おうってのか? ピンクのもっさりしたドレスで? 妄想だとしても大概だぜ……。
ちなみに、第二王子がギース・ジャビウスって名前だってことくらい俺でも知っている。ただ、犯罪を犯すような娘が呼んでいる『ギース様』が、第二王子なわけないだろう、って話だ。
「昨日ここに入れた女の取調べを行う」
「はっ! すぐに取調室へ連れて行きます!」
「頼んだぞ」
「はっ!」
俺は、給料分はきちんと仕事をこなす男だ。ギャーギャーわめく女を連れて、牢屋の上階にある個室へ向かった。
143
お気に入りに追加
3,210
あなたにおすすめの小説

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

王侯貴族、結婚相手の条件知ってますか?
時見 靜
恋愛
病弱な妹を虐げる悪女プリシア・セノン・リューゲルト、リューゲルト公爵家の至宝マリーアン・セノン・リューゲルト姉妹の評価は真っ二つに別れていたけど、王太子の婚約者に選ばれたのは姉だった。
どうして悪評に塗れた姉が選ばれたのか、、、
その理由は今夜の夜会にて
【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…
西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。
最初は私もムカつきました。
でも、この頃私は、なんでもあげるんです。
だって・・・ね

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。

ある愚かな婚約破棄の結末
オレンジ方解石
恋愛
セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。
王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。
※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる