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第二十三話 王太子と近衛の犯人探し
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まもなく出番のエリシャ嬢と護衛のカートナーは、競技場へ向かわせた。さあ、ここからは犯人探しだ。
「エリシャ嬢は大丈夫だろう。あの中和薬はよく効く」
「ああはい、まあ、そうですね……」
妹ラヴなこの男、いろいろと思うところがあるのだろう。めんどくさくなっている。
通常、騎士や使用人など仕える者たちは家に雇われているものだが、カートナーに関しては最初は侯爵家が雇い主だったが途中で雇用主が変更されたらしい。今はエリシャ嬢が直接雇っているのだと、たった今エドガーに聞いた。
それでは、彼女が庇っている限りは、妹を危険な目にあわせたからといってカートナーを罰することもできないし、エリシャ嬢と仲良くお茶していたカートナーを殴る訳にもいかない。
昔、立太子する前のことだが、あの騎士は、まだ国事騎士団に入団したばかりだったが顔面偏差値激高だったので近衛の外隊に配属されたのだったな。激高過ぎて第一王子である私より女性にちやほやされていたので、辞めてもらったが。
「話を進めていいか? エドガー」
「……どうぞ。エリシャをターゲットにした者を、完膚なきまでに叩きのめしましょう」
犯人で発散する気か。近衛が方を無視して殺人犯になってしまっては困るので、ほどよいところで止めるとしよう。
「エリシャの控え室前を大声上げて通った女子生徒とやらを、まずは見つけましょう」
「ああ。怪しいのは間違いないな」
「学園内の監視モニター室へ」
今いる生徒会室があるのは3階。モニター室は同じフロアにあるため、廊下に出て南へ移動する。
大会中だからか、ほかに人の姿は見当たらないな。
「ここです」
「これは……」
当然といえば当然だが、扉には鍵がかかってた。学園に通っていたときならいざ知らず、今ここのカードキーは持ち合わせていない。同じく、エドガーもだ。
「転移が効くか」
「いえ、中に警備がいます」
「あ、ああ……そうか」
それもそうだ。
どうも考えが物騒になっていた私をそのままに、意外と冷静だったエドガーがインターホンで中に呼びかけると、すぐに扉は開いた。
「エストルム様、と……王太子殿下!?」
「突然すまないが、監視映像を見せてほしい」
「監視映像ですか? ……ああ、いやしかし、学園長の許可がないと」
少し考える素振りをしたが、職務に忠実なのだろう。この警備員は、しっかりと断ってきた。
相手が王族だからとすぐ権力に屈する者もいるが、それでは信用して仕事は任せられない。いつだったか、隣国との国境の河に架かった橋の修繕で、向こうの伯爵領に依頼した石材の種類が、勝手に変更されたことがあった。隣国では、建築によく使われる良質のポートランド石が取れるから、それを使用する契約になっていたのに、橋の架かる伯爵領の伯爵が質の悪い火山岩に変更してしまったのだ、安いから。依頼していた建設会社のトップは、当然火山岩で作った橋のもろさを知っていたというのに、自領の伯爵様がおっしゃったのでーときたもんだ。あれには呆れた。
相手が権力者だからとすべてに是と言う者は信用ならない。
そう、ここにいるエドガーは、むしろほとんど否と言ってくるから信用できる。いや、ほとんど否は実際困るんだけどな。だがこの男が言うことに、ほぼ間違いはない。エドガーがまだ近衛に来る前のことだが、私とアリオネッサが婚約したときだって――、とこの話はまた今度だ。
モノローグで語っている間に、信用できる男エドガーは、その巧みな話術で警備員に監視映像を調べさせている。まあ、エリシャ嬢が危ない目に遭ったという連絡を受けた叔父上が、監視モニター室に飛んできたというだけのことだが。
「早く、早くしてくれケンウッド」
「あっ、はいっ、はい! お、お待ちください学園長」
「二時間ほど前から再生してくれケンウッド」
「あ、はい、エストルム様」
「見つけたら、ただではすまないぞ……」
「そうだな、グイスト。エリシャに手を出した者を、生かしておくわけにはいかない」
「えっ、学園長? 私は殺人の片棒を担がされているのでしょうか??」
「ああ安心しろケンウッド。君の名前は黙っておく」
「そうだケンウッド。さあ、そこからだ、早回しで。急いで」
「えっ、ええー?!」
「まてまてまてまて叔父上。部下を脅さないでください。……大丈夫だ、ケンウッドとやら。殺人などではない。きちんと国の司法を通して罰するだけだから……」
「あっ、王太子殿下……、そ、それなら、はい」
エドガーも叔父上も、エリシャ嬢のこととなると頭のネジが何本か飛んでしまうのが玉に瑕だな。というか仲いいな。確かこの学園の同級生、だったか? 私は、怯えている警備員のケンウッドを落ち着かせ、映像を送っていくモニター画面を見ると、二人の女生徒がエリシャ嬢がいた控え室前の廊下を、楽しそうに歩いていた。
「これか」
「そのようです、ギザーク様」
「叔父上、この生徒に見覚えは?」
「………………」
「グイスト?」
私と同じくエドガーも叔父上のほうを見る。叔父上の顔は、知っているがまさか……といったところだろうか。
「グイスト、覚えがあるなら早く教えてくれ」
「落ち着けエドガー」
いくら仲がいいといっても、王族の肩を掴んで揺さぶるのは不敬だろう。
「ああ、ああそうだな……この生徒は…………」
「この生徒は…………?」
空気に釣られてケンウッドまでもが息をのんで見守る中、叔父上の口から出た言葉は――
「ギースの、取り巻きだ」
「「「!?」」」
意外なような意外でないような人物だった。
「エリシャ嬢は大丈夫だろう。あの中和薬はよく効く」
「ああはい、まあ、そうですね……」
妹ラヴなこの男、いろいろと思うところがあるのだろう。めんどくさくなっている。
通常、騎士や使用人など仕える者たちは家に雇われているものだが、カートナーに関しては最初は侯爵家が雇い主だったが途中で雇用主が変更されたらしい。今はエリシャ嬢が直接雇っているのだと、たった今エドガーに聞いた。
それでは、彼女が庇っている限りは、妹を危険な目にあわせたからといってカートナーを罰することもできないし、エリシャ嬢と仲良くお茶していたカートナーを殴る訳にもいかない。
昔、立太子する前のことだが、あの騎士は、まだ国事騎士団に入団したばかりだったが顔面偏差値激高だったので近衛の外隊に配属されたのだったな。激高過ぎて第一王子である私より女性にちやほやされていたので、辞めてもらったが。
「話を進めていいか? エドガー」
「……どうぞ。エリシャをターゲットにした者を、完膚なきまでに叩きのめしましょう」
犯人で発散する気か。近衛が方を無視して殺人犯になってしまっては困るので、ほどよいところで止めるとしよう。
「エリシャの控え室前を大声上げて通った女子生徒とやらを、まずは見つけましょう」
「ああ。怪しいのは間違いないな」
「学園内の監視モニター室へ」
今いる生徒会室があるのは3階。モニター室は同じフロアにあるため、廊下に出て南へ移動する。
大会中だからか、ほかに人の姿は見当たらないな。
「ここです」
「これは……」
当然といえば当然だが、扉には鍵がかかってた。学園に通っていたときならいざ知らず、今ここのカードキーは持ち合わせていない。同じく、エドガーもだ。
「転移が効くか」
「いえ、中に警備がいます」
「あ、ああ……そうか」
それもそうだ。
どうも考えが物騒になっていた私をそのままに、意外と冷静だったエドガーがインターホンで中に呼びかけると、すぐに扉は開いた。
「エストルム様、と……王太子殿下!?」
「突然すまないが、監視映像を見せてほしい」
「監視映像ですか? ……ああ、いやしかし、学園長の許可がないと」
少し考える素振りをしたが、職務に忠実なのだろう。この警備員は、しっかりと断ってきた。
相手が王族だからとすぐ権力に屈する者もいるが、それでは信用して仕事は任せられない。いつだったか、隣国との国境の河に架かった橋の修繕で、向こうの伯爵領に依頼した石材の種類が、勝手に変更されたことがあった。隣国では、建築によく使われる良質のポートランド石が取れるから、それを使用する契約になっていたのに、橋の架かる伯爵領の伯爵が質の悪い火山岩に変更してしまったのだ、安いから。依頼していた建設会社のトップは、当然火山岩で作った橋のもろさを知っていたというのに、自領の伯爵様がおっしゃったのでーときたもんだ。あれには呆れた。
相手が権力者だからとすべてに是と言う者は信用ならない。
そう、ここにいるエドガーは、むしろほとんど否と言ってくるから信用できる。いや、ほとんど否は実際困るんだけどな。だがこの男が言うことに、ほぼ間違いはない。エドガーがまだ近衛に来る前のことだが、私とアリオネッサが婚約したときだって――、とこの話はまた今度だ。
モノローグで語っている間に、信用できる男エドガーは、その巧みな話術で警備員に監視映像を調べさせている。まあ、エリシャ嬢が危ない目に遭ったという連絡を受けた叔父上が、監視モニター室に飛んできたというだけのことだが。
「早く、早くしてくれケンウッド」
「あっ、はいっ、はい! お、お待ちください学園長」
「二時間ほど前から再生してくれケンウッド」
「あ、はい、エストルム様」
「見つけたら、ただではすまないぞ……」
「そうだな、グイスト。エリシャに手を出した者を、生かしておくわけにはいかない」
「えっ、学園長? 私は殺人の片棒を担がされているのでしょうか??」
「ああ安心しろケンウッド。君の名前は黙っておく」
「そうだケンウッド。さあ、そこからだ、早回しで。急いで」
「えっ、ええー?!」
「まてまてまてまて叔父上。部下を脅さないでください。……大丈夫だ、ケンウッドとやら。殺人などではない。きちんと国の司法を通して罰するだけだから……」
「あっ、王太子殿下……、そ、それなら、はい」
エドガーも叔父上も、エリシャ嬢のこととなると頭のネジが何本か飛んでしまうのが玉に瑕だな。というか仲いいな。確かこの学園の同級生、だったか? 私は、怯えている警備員のケンウッドを落ち着かせ、映像を送っていくモニター画面を見ると、二人の女生徒がエリシャ嬢がいた控え室前の廊下を、楽しそうに歩いていた。
「これか」
「そのようです、ギザーク様」
「叔父上、この生徒に見覚えは?」
「………………」
「グイスト?」
私と同じくエドガーも叔父上のほうを見る。叔父上の顔は、知っているがまさか……といったところだろうか。
「グイスト、覚えがあるなら早く教えてくれ」
「落ち着けエドガー」
いくら仲がいいといっても、王族の肩を掴んで揺さぶるのは不敬だろう。
「ああ、ああそうだな……この生徒は…………」
「この生徒は…………?」
空気に釣られてケンウッドまでもが息をのんで見守る中、叔父上の口から出た言葉は――
「ギースの、取り巻きだ」
「「「!?」」」
意外なような意外でないような人物だった。
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