【第二章連載中】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

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第十三話 園遊会と無作法な女

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園遊会は、王宮の一番広い庭園で開催されます。

季節の花々が会場に彩を添え、そこに準備されたお料理を引き立たせています。美味しそうなカルパッチョやムースやゼリー、一口でいただけるようグラスに注がれたポタージュや各種スープが並び、魚料理は、あれは鯛のポワレかしら? きのこのデュクセルの上に乗せられているわね。グラニテは、レモンやオレンジなど柑橘系が多いかしら。肉料理は鶏、豚、牛、鹿、羊……なんでも揃っているわ、すばらしい! デセールフリュイは色とりどりのフルーツゼリーが美しいですわね。流石マゴールパティシエ、アシェットデセールの見事な盛りつけ! 美術館に飾ってもいいくらいの作品だわ! 


「エリシャ、落ち着いて。一度座ろう」

「あ、あら殿下。はしたないところをお見せして申し訳ございません」

「いや、料理を前にした君の輝いた瞳は、一見の価値がある」


それはそれで恥ずかしいですが、ご気分を害したわけではないのならよかったです。

お料理を選んで、席に着きます。すると給仕さんが順に運んできてくれるので、わたくしはワクワクしてそれを待つのです。

まずは海の幸とテリーヌをヴィネグレットソースでいただきます。レモンの爽やかな味と胡椒のピリッとした感じが好みの味ですね。スープは、透き通ったコンソメに赤と白のロワイヤルが浮かんでいてとてもきれいですわ。んん、こんなに透き通っているのにこの深い味……さすが王宮料理人の作る作品ですわ。お魚料理は鯛を選びました。サフランソースのエキゾチックで華やかな香りがお魚ととても合います。シャンパンのグラニテでお口直しをします。添えられたミントの葉がとても爽やかでスッキリしますわ。メインは牛肉のポワレ。添えてあるのはマデラソースかしら? お肉の臭みもなく、大変おいしゅうございました。


「さ、マゴールパティシエのケーキを選びに行きましょう」


いい具合にお腹も満たされたところで、わたくしにとってのメイン、マゴールパティシエの作品を選びに行こうと席を立ち振り返ると――


「……あら? 殿下、まだ食べ終わっていないのですね。失礼しましたわ」

「君はほんとうに美味しそうに食べるな。その表情を見ていたら、私の口に料理を運ぶ手が止まってしまった」

「あら、お手伝いしましょうか?」

「……遠慮しよう」


俗に言う『あーん』をして差し上げようと思いましたが、まあそうですよね。そんなことをして無駄に目立つべきではありません。殿下がこそっと「それは学園で二人きりの昼食時に――」と耳打ちしていらっしゃいましたが、聞かなかったことにしましょう。


いったん座り直し、殿下が食べ終わるのをワイン片手に待っていたところ、会場入り口のほうが騒がしくなってきました。なんでしょう?と目を向けますと、見たくもありませんが見慣れた光景が。あれは、ピオミルさんとギース殿下です。


「いやすまない。主賓である私が遅れて」

「しょうがないですよ殿下。取り込み中、だったんですからっ」

「ははっ、こんなところでよさないかピオミル」

「ううんん~でぇもぉ~」

「ほら、お腹が空いただろう? 好きなものを選ぶといい」

「はーい。うわぁ~とっても美味しそう~!」


ツッコミどころ満載ですが、へたにつついても藪蛇ですわ。わたくしがここに来た目的を忘れてはいけません。マゴールパティシエのケーキがまだ――


「あらぁ、お姉様? こんなところで何しているの? え、まさかエスコートもなしに王宮のパーティに参加しているの?」

「ピオミルさん……」


目的を達成する前に退場だけは避けたかったので、気がせいてしまいました。まだ食べ終わらないグイスト殿下を置いて、先にケーキを選びに来てしまったわたくしは、運悪くお二人に見つかってしまったのです。今席を立たずとも、いずれは見つかったでしょうけれど。タイミング最悪ですわ。まだケーキを選んですらいないのに。


「ギース様は私を連れてきてくれたから、え? じゃあお姉様はいったい??」


白々しいことを言いますね、この娘は。まあ今さらギース様にエスコートされたとしても、鳥肌が立ってまともに歩ける気がしないのでそれはいいのですが、とにかくお姉様はやめていただきたいですわ。それに、第二王子の隣に立つのにその振る舞いでは、注目を集めて大変です。主に、ひんやりとした冷たいやつですが。


「ピオミルさん。そのお姉様というのを――」

「そんな顔しないでちょうだい、お姉様。悔しいのはわかるわぁ。こぉんなに素敵な王子様の婚約者になったっていうのに、お姉様はまるで相手にされていないんでしょう?」

「ですからお姉―」

「え? おねェですって?」

「えっ? ……あっ、あなたは――」


突然割って入ってきたのは、『おねェ』で切れてしまったわたくしの言葉に反応したマゴールパティシエ、その人でした。




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