13 / 47
第十三話 園遊会と無作法な女
しおりを挟む
園遊会は、王宮の一番広い庭園で開催されます。
季節の花々が会場に彩を添え、そこに準備されたお料理を引き立たせています。美味しそうなカルパッチョやムースやゼリー、一口でいただけるようグラスに注がれたポタージュや各種スープが並び、魚料理は、あれは鯛のポワレかしら? きのこのデュクセルの上に乗せられているわね。グラニテは、レモンやオレンジなど柑橘系が多いかしら。肉料理は鶏、豚、牛、鹿、羊……なんでも揃っているわ、すばらしい! デセールフリュイは色とりどりのフルーツゼリーが美しいですわね。流石マゴールパティシエ、アシェットデセールの見事な盛りつけ! 美術館に飾ってもいいくらいの作品だわ!
「エリシャ、落ち着いて。一度座ろう」
「あ、あら殿下。はしたないところをお見せして申し訳ございません」
「いや、料理を前にした君の輝いた瞳は、一見の価値がある」
それはそれで恥ずかしいですが、ご気分を害したわけではないのならよかったです。
お料理を選んで、席に着きます。すると給仕さんが順に運んできてくれるので、わたくしはワクワクしてそれを待つのです。
まずは海の幸とテリーヌをヴィネグレットソースでいただきます。レモンの爽やかな味と胡椒のピリッとした感じが好みの味ですね。スープは、透き通ったコンソメに赤と白のロワイヤルが浮かんでいてとてもきれいですわ。んん、こんなに透き通っているのにこの深い味……さすが王宮料理人の作る作品ですわ。お魚料理は鯛を選びました。サフランソースのエキゾチックで華やかな香りがお魚ととても合います。シャンパンのグラニテでお口直しをします。添えられたミントの葉がとても爽やかでスッキリしますわ。メインは牛肉のポワレ。添えてあるのはマデラソースかしら? お肉の臭みもなく、大変おいしゅうございました。
「さ、マゴールパティシエのケーキを選びに行きましょう」
いい具合にお腹も満たされたところで、わたくしにとってのメイン、マゴールパティシエの作品を選びに行こうと席を立ち振り返ると――
「……あら? 殿下、まだ食べ終わっていないのですね。失礼しましたわ」
「君はほんとうに美味しそうに食べるな。その表情を見ていたら、私の口に料理を運ぶ手が止まってしまった」
「あら、お手伝いしましょうか?」
「……遠慮しよう」
俗に言う『あーん』をして差し上げようと思いましたが、まあそうですよね。そんなことをして無駄に目立つべきではありません。殿下がこそっと「それは学園で二人きりの昼食時に――」と耳打ちしていらっしゃいましたが、聞かなかったことにしましょう。
いったん座り直し、殿下が食べ終わるのをワイン片手に待っていたところ、会場入り口のほうが騒がしくなってきました。なんでしょう?と目を向けますと、見たくもありませんが見慣れた光景が。あれは、ピオミルさんとギース殿下です。
「いやすまない。主賓である私が遅れて」
「しょうがないですよ殿下。取り込み中、だったんですからっ」
「ははっ、こんなところでよさないかピオミル」
「ううんん~でぇもぉ~」
「ほら、お腹が空いただろう? 好きなものを選ぶといい」
「はーい。うわぁ~とっても美味しそう~!」
ツッコミどころ満載ですが、へたにつついても藪蛇ですわ。わたくしがここに来た目的を忘れてはいけません。マゴールパティシエのケーキがまだ――
「あらぁ、お姉様? こんなところで何しているの? え、まさかエスコートもなしに王宮のパーティに参加しているの?」
「ピオミルさん……」
目的を達成する前に退場だけは避けたかったので、気がせいてしまいました。まだ食べ終わらないグイスト殿下を置いて、先にケーキを選びに来てしまったわたくしは、運悪くお二人に見つかってしまったのです。今席を立たずとも、いずれは見つかったでしょうけれど。タイミング最悪ですわ。まだケーキを選んですらいないのに。
「ギース様は私を連れてきてくれたから、え? じゃあお姉様はいったい??」
白々しいことを言いますね、この娘は。まあ今さらギース様にエスコートされたとしても、鳥肌が立ってまともに歩ける気がしないのでそれはいいのですが、とにかくお姉様はやめていただきたいですわ。それに、第二王子の隣に立つのにその振る舞いでは、注目を集めて大変です。主に、ひんやりとした冷たいやつですが。
「ピオミルさん。そのお姉様というのを――」
「そんな顔しないでちょうだい、お姉様。悔しいのはわかるわぁ。こぉんなに素敵な王子様の婚約者になったっていうのに、お姉様はまるで相手にされていないんでしょう?」
「ですからお姉―」
「え? おねェですって?」
「えっ? ……あっ、あなたは――」
突然割って入ってきたのは、『おねェ』で切れてしまったわたくしの言葉に反応したマゴールパティシエ、その人でした。
季節の花々が会場に彩を添え、そこに準備されたお料理を引き立たせています。美味しそうなカルパッチョやムースやゼリー、一口でいただけるようグラスに注がれたポタージュや各種スープが並び、魚料理は、あれは鯛のポワレかしら? きのこのデュクセルの上に乗せられているわね。グラニテは、レモンやオレンジなど柑橘系が多いかしら。肉料理は鶏、豚、牛、鹿、羊……なんでも揃っているわ、すばらしい! デセールフリュイは色とりどりのフルーツゼリーが美しいですわね。流石マゴールパティシエ、アシェットデセールの見事な盛りつけ! 美術館に飾ってもいいくらいの作品だわ!
「エリシャ、落ち着いて。一度座ろう」
「あ、あら殿下。はしたないところをお見せして申し訳ございません」
「いや、料理を前にした君の輝いた瞳は、一見の価値がある」
それはそれで恥ずかしいですが、ご気分を害したわけではないのならよかったです。
お料理を選んで、席に着きます。すると給仕さんが順に運んできてくれるので、わたくしはワクワクしてそれを待つのです。
まずは海の幸とテリーヌをヴィネグレットソースでいただきます。レモンの爽やかな味と胡椒のピリッとした感じが好みの味ですね。スープは、透き通ったコンソメに赤と白のロワイヤルが浮かんでいてとてもきれいですわ。んん、こんなに透き通っているのにこの深い味……さすが王宮料理人の作る作品ですわ。お魚料理は鯛を選びました。サフランソースのエキゾチックで華やかな香りがお魚ととても合います。シャンパンのグラニテでお口直しをします。添えられたミントの葉がとても爽やかでスッキリしますわ。メインは牛肉のポワレ。添えてあるのはマデラソースかしら? お肉の臭みもなく、大変おいしゅうございました。
「さ、マゴールパティシエのケーキを選びに行きましょう」
いい具合にお腹も満たされたところで、わたくしにとってのメイン、マゴールパティシエの作品を選びに行こうと席を立ち振り返ると――
「……あら? 殿下、まだ食べ終わっていないのですね。失礼しましたわ」
「君はほんとうに美味しそうに食べるな。その表情を見ていたら、私の口に料理を運ぶ手が止まってしまった」
「あら、お手伝いしましょうか?」
「……遠慮しよう」
俗に言う『あーん』をして差し上げようと思いましたが、まあそうですよね。そんなことをして無駄に目立つべきではありません。殿下がこそっと「それは学園で二人きりの昼食時に――」と耳打ちしていらっしゃいましたが、聞かなかったことにしましょう。
いったん座り直し、殿下が食べ終わるのをワイン片手に待っていたところ、会場入り口のほうが騒がしくなってきました。なんでしょう?と目を向けますと、見たくもありませんが見慣れた光景が。あれは、ピオミルさんとギース殿下です。
「いやすまない。主賓である私が遅れて」
「しょうがないですよ殿下。取り込み中、だったんですからっ」
「ははっ、こんなところでよさないかピオミル」
「ううんん~でぇもぉ~」
「ほら、お腹が空いただろう? 好きなものを選ぶといい」
「はーい。うわぁ~とっても美味しそう~!」
ツッコミどころ満載ですが、へたにつついても藪蛇ですわ。わたくしがここに来た目的を忘れてはいけません。マゴールパティシエのケーキがまだ――
「あらぁ、お姉様? こんなところで何しているの? え、まさかエスコートもなしに王宮のパーティに参加しているの?」
「ピオミルさん……」
目的を達成する前に退場だけは避けたかったので、気がせいてしまいました。まだ食べ終わらないグイスト殿下を置いて、先にケーキを選びに来てしまったわたくしは、運悪くお二人に見つかってしまったのです。今席を立たずとも、いずれは見つかったでしょうけれど。タイミング最悪ですわ。まだケーキを選んですらいないのに。
「ギース様は私を連れてきてくれたから、え? じゃあお姉様はいったい??」
白々しいことを言いますね、この娘は。まあ今さらギース様にエスコートされたとしても、鳥肌が立ってまともに歩ける気がしないのでそれはいいのですが、とにかくお姉様はやめていただきたいですわ。それに、第二王子の隣に立つのにその振る舞いでは、注目を集めて大変です。主に、ひんやりとした冷たいやつですが。
「ピオミルさん。そのお姉様というのを――」
「そんな顔しないでちょうだい、お姉様。悔しいのはわかるわぁ。こぉんなに素敵な王子様の婚約者になったっていうのに、お姉様はまるで相手にされていないんでしょう?」
「ですからお姉―」
「え? おねェですって?」
「えっ? ……あっ、あなたは――」
突然割って入ってきたのは、『おねェ』で切れてしまったわたくしの言葉に反応したマゴールパティシエ、その人でした。
142
お気に入りに追加
3,210
あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

王侯貴族、結婚相手の条件知ってますか?
時見 靜
恋愛
病弱な妹を虐げる悪女プリシア・セノン・リューゲルト、リューゲルト公爵家の至宝マリーアン・セノン・リューゲルト姉妹の評価は真っ二つに別れていたけど、王太子の婚約者に選ばれたのは姉だった。
どうして悪評に塗れた姉が選ばれたのか、、、
その理由は今夜の夜会にて

比べないでください
わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」
「ビクトリアならそんなことは言わない」
前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。
もう、うんざりです。
そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……
【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…
西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。
最初は私もムカつきました。
でも、この頃私は、なんでもあげるんです。
だって・・・ね

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??
新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる