12 / 83
第十二話 ロリコン殿下の告白
しおりを挟むそんなことがあって、ギースがいるなら当然同じ年のエリシャも学園にいるではないか、と思い出し、彼女の姿を探した。久しぶりに見た彼女は、やはり可愛かった。
「エリシャ……」
「えっ?」
きれいなプラチナブロンドの髪を揺らしてこちらに振り向いた彼女は、まさに妖精のような人外の美しさをまとっていた。見た目は美しく仕草が可愛い。なんだこれ、最強だろう妖精姫。
「グイスト殿下……?」
「ああ、久しいな」
そしてその時は再会を喜び合った。
その後は、『エリシャは甥の婚約者だ』としっかり念頭において適切な距離を取り二人を見守っていた。
するとどうだろう。
ギースはエリシャと接することがほとんどなく、ほぼピオミルと一緒にいる。たまに、制服なのに胸元がやたらと開いて見えるよう改造して着ている女と一緒にいるのも見かけたが、エリシャとは挨拶を交わすくらいしかしていない。
一体どういうことだ、とエリシャにさりげなく聞いてみると、婚約した直後にギースがエリシャに手を出そうとして彼女がそれを拒んだことから修復し得ない溝ができて、婚約者とは名ばかりなのだとか。
「ちかく、婚約者はピオミルさんに変更されるのではないでしょうか」
「しかし……それでエストルム家が後ろ盾につくことのなるのか?」
「なり、ませんわね。未だに彼女たちがなんなのかわかりませんが、我が家ではお客様として扱われていますから」
「客……そういえば以前、ピオミル・エストルムだと挨拶されたが」
「……やめるよう言っているのですけれどね」
ピオミルと母パニラはエストルム家に籍を入れていなかった。つまり、ギースが婚約者をエリシャからピオミルに換えたとしたら、エストルム家の恩恵は受けられない可能性が高い。まだ入れていないだけで、シュナイダー殿は今後籍を入れるつもりがあるのかもしれないが、本人に聞かなければわからないし本人はほぼ王都にいないので問うこともできない。まさか国境で兵たちがにらみ合う緊迫状態の中できる話でもないしな。
「わたくしは、このままでいいと思っています」
「そうなのか?」
「ええ」
「そうか……」
このままでいい、とは、エリシャはギースとの婚約を良く思っていないということだろう。このまま破談を狙っているのかもしれない。ギースの学園での素行は、王家の影といわれる国事騎士団第七隊の隠密騎士が見張っているだろう。学園に通い出した年からつけられるのは決まっているからな。当然、兄王やジャデリア妃にも報告が行っているはずだ。
ということは、遅かれ早かれエリシャとギースの婚約は破棄される。ならば自分が名乗り出てもいいのではないか? このとき、そんな考えがふとよぎった。
「エリシャ、私は君が好きなんだ」
「え? と、突然ですわねグイスト様」
「ああすまない。君は突然と思うだろうが、私は、初めて会ったときから……」
「初めて……ポジウム領でお会いしたときですか?」
「ああ」
「わたくしが、8歳のときでしたわよね」
「そう、だな。私が15だったから、君は8歳だ」
「え、ロリコンですの?」
「え?」
ロリコン。
その言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。
ロリコン、すなわちロリータコンプレックスのことだ。
思春期男子の心理的な発達の未熟さから、同年代の女性ではなく空想上の幼い少女に憧れると主に解釈される。語源は昔の小説で、登場人物の中年男性が愛した年の離れた少女の名前がロリータだったとかなんとか。
「わ、私はロリコンなのか?」
「え? ええ、そうですね、当時8歳だったわたくしを好きになったというのなら、立派なロリコンなのではないかと」
「そ、そうなのか……」
衝撃だった。
「王弟公爵閣下がロリコンだなんて……」
「え、エリシャ」
「そんな噂が広がったら大変ですわ」
「それはそうだが……いや、そうではない。エリシャはエリシャで、年齢など――」
「そういえばわたくし、どうしても参加したい昼食会がありますの」
「昼食会? いやそれよりーー」
「でも困ったわ……王宮の昼食会ですから、ギース様にエスコートしていただかないといけなくて……」
「ああ……え?」
「でもギース様は、わたくしをエスコートしたくないでしょうし……」
「…………」
「ひとりで参加したらどんな後ろ指を指されるか……」
「………………」
「でもどうしてもマゴールパティシエのデザートが……」
「……………………」
「困りましたわ~」
「……それなら、私がエスコートしよう」
「まあ! ほんとうですか?」
「これでも王族のはしくれだ。マナー違反にはなるまい」
「ありがとうございます!」
そうして、その後マゴールパティシエがデザートを作るパーティのたびに、このような茶番をいちいちやらなくてすむように作ったのが、『同伴チケット』だ。ついでに、現時点でもロリコンの噂も広まってはいない。
219
お気に入りに追加
3,002
あなたにおすすめの小説


【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?
naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。
私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。
しかし、イレギュラーが起きた。
何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。
はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。
周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。
婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。
ただ、美しいのはその見た目だけ。
心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。
本来の私の姿で……
前編、中編、後編の短編です。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

公爵令嬢の一度きりの魔法
夜桜
恋愛
領地を譲渡してくれるという条件で、皇帝アストラと婚約を交わした公爵令嬢・フィセル。しかし、実際に領地へ赴き現場を見て見ればそこはただの荒地だった。
騙されたフィセルは追及するけれど婚約破棄される。
一度だけ魔法が使えるフィセルは、魔法を使って人生最大の選択をする。

この国では魔力を譲渡できる
ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」
無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。
五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる