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第十二話 ロリコン殿下の告白
しおりを挟むそんなことがあって、ギースがいるなら当然同じ年のエリシャも学園にいるではないか、と思い出し、彼女の姿を探した。久しぶりに見た彼女は、やはり可愛かった。
「エリシャ……」
「えっ?」
きれいなプラチナブロンドの髪を揺らしてこちらに振り向いた彼女は、まさに妖精のような人外の美しさをまとっていた。見た目は美しく仕草が可愛い。なんだこれ、最強だろう妖精姫。
「グイスト殿下……?」
「ああ、久しいな」
そしてその時は再会を喜び合った。
その後は、『エリシャは甥の婚約者だ』としっかり念頭において適切な距離を取り二人を見守っていた。
するとどうだろう。
ギースはエリシャと接することがほとんどなく、ほぼピオミルと一緒にいる。たまに、制服なのに胸元がやたらと開いて見えるよう改造して着ている女と一緒にいるのも見かけたが、エリシャとは挨拶を交わすくらいしかしていない。
一体どういうことだ、とエリシャにさりげなく聞いてみると、婚約した直後にギースがエリシャに手を出そうとして彼女がそれを拒んだことから修復し得ない溝ができて、婚約者とは名ばかりなのだとか。
「ちかく、婚約者はピオミルさんに変更されるのではないでしょうか」
「しかし……それでエストルム家が後ろ盾につくことのなるのか?」
「なり、ませんわね。未だに彼女たちがなんなのかわかりませんが、我が家ではお客様として扱われていますから」
「客……そういえば以前、ピオミル・エストルムだと挨拶されたが」
「……やめるよう言っているのですけれどね」
ピオミルと母パニラはエストルム家に籍を入れていなかった。つまり、ギースが婚約者をエリシャからピオミルに換えたとしたら、エストルム家の恩恵は受けられない可能性が高い。まだ入れていないだけで、シュナイダー殿は今後籍を入れるつもりがあるのかもしれないが、本人に聞かなければわからないし本人はほぼ王都にいないので問うこともできない。まさか国境で兵たちがにらみ合う緊迫状態の中できる話でもないしな。
「わたくしは、このままでいいと思っています」
「そうなのか?」
「ええ」
「そうか……」
このままでいい、とは、エリシャはギースとの婚約を良く思っていないということだろう。このまま破談を狙っているのかもしれない。ギースの学園での素行は、王家の影といわれる国事騎士団第七隊の隠密騎士が見張っているだろう。学園に通い出した年からつけられるのは決まっているからな。当然、兄王やジャデリア妃にも報告が行っているはずだ。
ということは、遅かれ早かれエリシャとギースの婚約は破棄される。ならば自分が名乗り出てもいいのではないか? このとき、そんな考えがふとよぎった。
「エリシャ、私は君が好きなんだ」
「え? と、突然ですわねグイスト様」
「ああすまない。君は突然と思うだろうが、私は、初めて会ったときから……」
「初めて……ポジウム領でお会いしたときですか?」
「ああ」
「わたくしが、8歳のときでしたわよね」
「そう、だな。私が15だったから、君は8歳だ」
「え、ロリコンですの?」
「え?」
ロリコン。
その言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。
ロリコン、すなわちロリータコンプレックスのことだ。
思春期男子の心理的な発達の未熟さから、同年代の女性ではなく空想上の幼い少女に憧れると主に解釈される。語源は昔の小説で、登場人物の中年男性が愛した年の離れた少女の名前がロリータだったとかなんとか。
「わ、私はロリコンなのか?」
「え? ええ、そうですね、当時8歳だったわたくしを好きになったというのなら、立派なロリコンなのではないかと」
「そ、そうなのか……」
衝撃だった。
「王弟公爵閣下がロリコンだなんて……」
「え、エリシャ」
「そんな噂が広がったら大変ですわ」
「それはそうだが……いや、そうではない。エリシャはエリシャで、年齢など――」
「そういえばわたくし、どうしても参加したい昼食会がありますの」
「昼食会? いやそれよりーー」
「でも困ったわ……王宮の昼食会ですから、ギース様にエスコートしていただかないといけなくて……」
「ああ……え?」
「でもギース様は、わたくしをエスコートしたくないでしょうし……」
「…………」
「ひとりで参加したらどんな後ろ指を指されるか……」
「………………」
「でもどうしてもマゴールパティシエのデザートが……」
「……………………」
「困りましたわ~」
「……それなら、私がエスコートしよう」
「まあ! ほんとうですか?」
「これでも王族のはしくれだ。マナー違反にはなるまい」
「ありがとうございます!」
そうして、その後マゴールパティシエがデザートを作るパーティのたびに、このような茶番をいちいちやらなくてすむように作ったのが、『同伴チケット』だ。ついでに、現時点でもロリコンの噂も広まってはいない。
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