【第二章連載中】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

文字の大きさ
上 下
10 / 48

第十話 メルセデュース夫人の死と殺された恋心

しおりを挟む
メルディ様は、エストルム家の太陽のような存在で、皆に慕われている美しい人だった。侯爵も、とても夫人を愛していたし、愛されていた。宰相の娘ということもあり直接交流もあったし、なによりエリシャの母君だ。私にとっても大切なお方だった。


「エリシャ、母上は女神エレテュイアのもとに旅立たれたんだよ」

「エレテュイアさま?」

「そう。そこで生まれかわる準備をするのさ」

「……またあえるの?」

「そうだね。また……会えるよ」


冷静に話すエストルム家の次男、エーレンデュース・エストルム。
彼のおかげでエリシャは、幼いながらも母の死を受け入れられたようだ。

むしろ、メルディ様の死を受け入れられなかったのは、夫であるシュナイダー・エストルムだろう。葬儀で会ったときの彼の憔悴っぷりは、それはもう酷かった。

私は変わらず学園で、王宮で、忙しい日々を送っていたのだが、ある日エドガーと話しているときに首をひねる事実を知った。


「この休日に、父が女性を連れて来たんだ」

「女性、というと……まさか、もう後妻を?」

「いや、俺もそう思ったんだが、よくわからないんだ」


渦中にいるエドガーにわからないことが、話を聞いているだけの私にわかるわけがなく、一緒になって首を傾げた。

メルディ様が亡くなって一年。エストルム邸に住み始めた女性とその娘。シュナイダー殿は家に寄り付かないようで、いったい何なのか皆が首を傾げている状態だった。

その後、私は最高学年を卒業し、正式に王位継承権を辞退し、兄から公爵位を賜り臣籍降下した。
これで胸を張ってエリシャを迎えに行ける、と思って準備を始めた時、信じられない言葉を耳にしたんだ。


「ジャデリア様、おめでとうございます」

「ええ、ありがとう。エストルム家と縁を結べたなら、ギースの地位は安泰だわ」

「ほんとうに。あの妖精姫がご婚約者だなんて、とてもお似合いです」

「そうね、ほんとうにそうね。エリシャ様がお嫁さんに来てくれるのが、楽しみだわ」

「お仕えする身としても楽しみですわ。とっても飾り甲斐がありそうなお嬢様で」

「ふふふ、美しい義娘とドレスを選ぶ楽しみができたわ」


兄の側妃、ジャデリア妃と侍女の会話から得られた情報を整理すると、『ギースとエストルム家とで縁が結ばれた』、『妖精姫が婚約者』、『エリシャがジャデリア妃の義娘』……つまり、ギースとエリシャの婚約が成ったということだ。

この時の絶望といったらなかった。

確かに、兄王にもエストルム家にも根回しはしていなかった。暗殺の危険がある身で婚約者などと、下手したらエリシャの身も、エストルム家すらも危険にさらすことになる。私の気持ちを知っていたのはエドガーだけだろう。エリシャにも、メルディ様のご葬儀以来会えていなかった。エドガーとも卒業以来顔を合わせていない。

そうして頭の中がぐちゃぐちゃになって、ほぼ放心状態で私は兄に言ったんだ。


「兄上……」

「グイストか? どうした、顔色が悪いぞ」

「私は、冒険者になります」

「は?」

「しばらく、世界を見て回り、未熟なこの身を、精神を鍛えて参ります」

「グイスト? あ、いや、待て!」

「さようなら……」

「おい!」


そして、国の高位の魔導士でも使えるものは限られているほど希少な転移魔法で、私は国をあとにした。





しおりを挟む
感想 79

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

元婚約者は戻らない

基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。 人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。 カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。 そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。 見目は良いが気の強いナユリーナ。 彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。 二話完結+余談

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

ある愚かな婚約破棄の結末

オレンジ方解石
恋愛
 セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。  王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。 ※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

処理中です...