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第七話 エリシャは園遊会に参加したい
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「秋の園遊会」
「そういえば、そろそろですわね」
「……、じゃないわよエリシャ。そんな呑気に」
呑気、と言われればそうなのでしょう。園遊会とは、毎年王宮で開かれるガーデンパーティですが、参加するつもりはないのでわたくしは特に焦ることもありません。
昼食は、学食で友人といただくことが多く、今日もミサトとヒューラと三人で食べています。今日のメインメニューは『とり肉のロティ ソースマデラ』。パリッと焼かれたとり肉に甘酸っぱいソースを絡めていただきます。
「あの王子と出席するんでしょう? 大丈夫なの?」
「ギース様? まさか、一緒にパーティなんていかないですわ」
「いかない、って……まあわかるけど、一応婚約者でしょう?」
「肩書きはそうだけど、一緒に行くのはピオミルさんでしょう」
「またなの?」
「ええ。先週だったかしら? 王子様から園遊会用のドレスを贈ってもらったって報告がありましたから」
「まったく……」
ギース様がピオミルさんと仲良くし始めてからは、わたくしはほとんど王宮パーティには出席していません。一応ギース様の婚約者なので、婚約者のエスコートなしに参加するのは一般的に恥とされているからです。王宮のパーティ以外でしたら、その限りではありませんが。テンステリラ伯爵夫人の開かれるお茶会にはよく行きます。夫人が紅茶好きなので、紅茶に合う焼き菓子や紅茶味のケーキが出るのです。とても好みの味なのですよね。
「じゃあ今回も不参加?」
「ええ、そのつもりですわ」
「でもエリシャ。今回の園遊会はマゴールパティシエがスイーツ担当よ?」
「えっ!?!? マゴールパティシエが!?!?!?!?」
はしたなくも食事中に取り乱してしまいました。
急にマゴールパティシエの名前が出たのですから、仕方ありませんわよね?
マゴールパティシエというのは、一応王宮に仕えるマゴール・ゴリーラという料理人なのですが、年がら年中修行の旅に出ていてその存在がすでに幻と言われている男性です。いえ、女性です?
王都に店を構えているので、彼の、いえ彼女のレシピで作られたケーキを食べることはできるのですが、ご本人が作られたものを食べられるのは基本王族だけ。たまに、今回のようにパーティで振る舞われることもあるので、そのときだけは必ず参加するようにしています。
こんな直前に知らせてくるなんて、ミサトも人が悪いですわね。彼女の家は主に食材を扱う商会を運営していますから、料理人の動きにも詳しいのです。マゴールパティシエの仕事情報なんて極秘中の極秘ですから、教えてくれただけでもありがたいですけれど。
前回は、数カ月前の国王生誕祭のときでした。当然ギース様はエスコートしてくださいませんから、どうしてものときに使わせていただく『同伴チケット』を持って、グイスト王弟殿下に頭を下げました。王族のエスコートであれば、文句を言う人はいませんからね。目立つしすごく注目されるのであまり使いたくはないのですけれど。
「た、大変ですわ。グイスト殿下はまだ空いているかしら。エスコートをーー」
「園遊会のことか?」
「「学園長」」
突然わたくしの後ろから声を掛けてきた学園の長に、驚きはせず目を向けるミサトとヒューラ。さては殿下がいらっしゃるの、見えていましたね。
「今から探しに行くところでした」
「もうひと月もないのに声が掛からないから、ギザークにでも頼んだのかと思っていたが」
「まさか! 王太子殿下に、マゴールパティシエのケーキが食べたいので園遊会でエスコートしてくださいなんて言えませんわ」
「私ならいいのか」
「それは、まあ、ほら、わたくしと殿下の仲じゃありませんか」
「……そうだな」
グイスト殿下は、わたくしがマゴールパティシエの大ファンだということをご存じです。園遊会で彼が、いえ彼女が腕を振るうと知っていたのなら声を掛けてくれてもよさそうなものですが、今回は教えてくれませんでしたのね。
「マゴールパティシエがいらっしゃるのなら言ってくださればよかったのに」
「いや、まあ、私から誘うのはおかしいだろう」
「甥っ子殿下の婚約者ですからねえ」
「ミサト、そんなの関係ないでしょう。ギース様だって婚約者そっちのけで平民と参加するのだから」
「それもそうねヒューラ、学園長がエリシャを誘ったってなんの問題もないわね」
確かに普通に考えれば、婚約者がいれば同伴するのが当たり前の王宮パーティだけど、私の婚約者はほかの女性との参加がもう決まっている。グイスト殿下の言うことも正しいけれど、知っていたなら誘っていただきたかったわ。マゴールパティシエのケーキを食べ逃がしてしまったら大変な損失ですわよ。
「グイスト殿下、園遊会でのエスコートをお願いしてもよろしいでしょうか? もしまだお相手がいなければ、ですが」
「わかって言っているだろう、エリシャ」
「まあ、なんのことでしょう? 25にもなるのに、甥っ子の婚約者の心配ばかりしていて、今まで女性をエスコートしてパーティに出たことがないということでしょうか?」
「初恋をこじらせているということだよ」
「あら、そうでしたわ。殿下はロリコンでしたわね」
「……エリシャ」
「そういえば、そろそろですわね」
「……、じゃないわよエリシャ。そんな呑気に」
呑気、と言われればそうなのでしょう。園遊会とは、毎年王宮で開かれるガーデンパーティですが、参加するつもりはないのでわたくしは特に焦ることもありません。
昼食は、学食で友人といただくことが多く、今日もミサトとヒューラと三人で食べています。今日のメインメニューは『とり肉のロティ ソースマデラ』。パリッと焼かれたとり肉に甘酸っぱいソースを絡めていただきます。
「あの王子と出席するんでしょう? 大丈夫なの?」
「ギース様? まさか、一緒にパーティなんていかないですわ」
「いかない、って……まあわかるけど、一応婚約者でしょう?」
「肩書きはそうだけど、一緒に行くのはピオミルさんでしょう」
「またなの?」
「ええ。先週だったかしら? 王子様から園遊会用のドレスを贈ってもらったって報告がありましたから」
「まったく……」
ギース様がピオミルさんと仲良くし始めてからは、わたくしはほとんど王宮パーティには出席していません。一応ギース様の婚約者なので、婚約者のエスコートなしに参加するのは一般的に恥とされているからです。王宮のパーティ以外でしたら、その限りではありませんが。テンステリラ伯爵夫人の開かれるお茶会にはよく行きます。夫人が紅茶好きなので、紅茶に合う焼き菓子や紅茶味のケーキが出るのです。とても好みの味なのですよね。
「じゃあ今回も不参加?」
「ええ、そのつもりですわ」
「でもエリシャ。今回の園遊会はマゴールパティシエがスイーツ担当よ?」
「えっ!?!? マゴールパティシエが!?!?!?!?」
はしたなくも食事中に取り乱してしまいました。
急にマゴールパティシエの名前が出たのですから、仕方ありませんわよね?
マゴールパティシエというのは、一応王宮に仕えるマゴール・ゴリーラという料理人なのですが、年がら年中修行の旅に出ていてその存在がすでに幻と言われている男性です。いえ、女性です?
王都に店を構えているので、彼の、いえ彼女のレシピで作られたケーキを食べることはできるのですが、ご本人が作られたものを食べられるのは基本王族だけ。たまに、今回のようにパーティで振る舞われることもあるので、そのときだけは必ず参加するようにしています。
こんな直前に知らせてくるなんて、ミサトも人が悪いですわね。彼女の家は主に食材を扱う商会を運営していますから、料理人の動きにも詳しいのです。マゴールパティシエの仕事情報なんて極秘中の極秘ですから、教えてくれただけでもありがたいですけれど。
前回は、数カ月前の国王生誕祭のときでした。当然ギース様はエスコートしてくださいませんから、どうしてものときに使わせていただく『同伴チケット』を持って、グイスト王弟殿下に頭を下げました。王族のエスコートであれば、文句を言う人はいませんからね。目立つしすごく注目されるのであまり使いたくはないのですけれど。
「た、大変ですわ。グイスト殿下はまだ空いているかしら。エスコートをーー」
「園遊会のことか?」
「「学園長」」
突然わたくしの後ろから声を掛けてきた学園の長に、驚きはせず目を向けるミサトとヒューラ。さては殿下がいらっしゃるの、見えていましたね。
「今から探しに行くところでした」
「もうひと月もないのに声が掛からないから、ギザークにでも頼んだのかと思っていたが」
「まさか! 王太子殿下に、マゴールパティシエのケーキが食べたいので園遊会でエスコートしてくださいなんて言えませんわ」
「私ならいいのか」
「それは、まあ、ほら、わたくしと殿下の仲じゃありませんか」
「……そうだな」
グイスト殿下は、わたくしがマゴールパティシエの大ファンだということをご存じです。園遊会で彼が、いえ彼女が腕を振るうと知っていたのなら声を掛けてくれてもよさそうなものですが、今回は教えてくれませんでしたのね。
「マゴールパティシエがいらっしゃるのなら言ってくださればよかったのに」
「いや、まあ、私から誘うのはおかしいだろう」
「甥っ子殿下の婚約者ですからねえ」
「ミサト、そんなの関係ないでしょう。ギース様だって婚約者そっちのけで平民と参加するのだから」
「それもそうねヒューラ、学園長がエリシャを誘ったってなんの問題もないわね」
確かに普通に考えれば、婚約者がいれば同伴するのが当たり前の王宮パーティだけど、私の婚約者はほかの女性との参加がもう決まっている。グイスト殿下の言うことも正しいけれど、知っていたなら誘っていただきたかったわ。マゴールパティシエのケーキを食べ逃がしてしまったら大変な損失ですわよ。
「グイスト殿下、園遊会でのエスコートをお願いしてもよろしいでしょうか? もしまだお相手がいなければ、ですが」
「わかって言っているだろう、エリシャ」
「まあ、なんのことでしょう? 25にもなるのに、甥っ子の婚約者の心配ばかりしていて、今まで女性をエスコートしてパーティに出たことがないということでしょうか?」
「初恋をこじらせているということだよ」
「あら、そうでしたわ。殿下はロリコンでしたわね」
「……エリシャ」
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