【第二章連載中】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

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第四話 リノ・カートナーとは 壱

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俺は、リノ・カートナー。末端貴族の三男で、エストルム家のお嬢さまに仕える従者だ。今の仕事はお嬢さま、エリシャ様の護衛。勤めてもう10年になる。


エストルム家の平和が崩れたのは、侯爵夫人であるメルセデュース様が亡くなられてからだろう。俺が就職した頃は、ポジウム侯爵の家族愛がうざいくらいの愛溢れる家だったからな。


貴族学園を卒業して、騎士にでもなって身を立てようと思っていた俺は、入団試験を受けて国事騎士団に入った。騎士団には何種類かあるんだが、まあそれは割愛させてもらおう。俺の入った国事騎士団の団長が、今のご主人シュナイダー・エストルム、つまりシュトルポジウム侯爵だった。近隣諸国との諍いが絶えないこの国の武力の要、歴戦の猛者である。

入団してしばらく経ったとき、突然団長に呼び出された。まだまだペーペーの新人だってのに、一体何事かと団長の執務室へ行くと、娘の護衛にならないかと誘われたんだ。


「8歳になる娘のエリシャに仕えてくれる護衛を探している」

「はあ」

「エリシャはな、それはそれは妻に似て可愛くて、最近ついにパパ呼びからお父様に変わったんだ。まだ8歳なのだから、パパーでもいいのではないかと思うんだが、いやしかし『おとうさま』もなかなかいいもので――」

「団長」

「ああ、……すまない、ギルテシュ」


団長の娘かわいい自慢を止めた副団長ギルテュ・シーザー。有能なインテリロンゲメガネで有名なお方だ。もちろん、剣の腕も団長に次ぐほどの実力者。細マッチョ。


「カートナー。あなたは学園一剣の腕が立つといわれていた。私も学園コロシアムが開催された時見学に行きましたが、それは確かだった」

「ああ、どうも」


インテリロンゲメガネ略してイロメー副団長のいう学園コロシアムとは、王立セントリュッツ学園で毎年行われる行事のひとつだ。剣に自信のある者が自薦で出場できるトーナメント剣技大会。俺はそこで、在学3年間で3回優勝している。ちなみに、魔法が得意な生徒用に、魔装戦という大会もある。


「カートナー家は代々、騎士でも剣士でもない家なのにその実力には目を瞠った」

「はあ」


我が家は代々、小さな領地を治める男爵領主だ。常にカツカツの生活をしているため、領主一家でも畑を耕し、領民が困っていれば家屋の補修、牛や羊の世話や解体、道路の舗装、川岸の補強となんでもやる。子供の頃から手伝っていたので、学園入学時の基礎体力はどこの家のボンボンよりもあった。そこへ、プロの剣技指導が入るんだ、剣の腕は急上昇間違いなし。


「ここに入ってから、すでに実戦に出ているそうだな。第五の盗賊討伐での働きは聞いている」

「ああ、はい」


国事騎士団第五動隊。主に国内でのいざこざに派遣される隊だ。派遣されるほとんどが、地域騎士団という各領地にある騎士団からの要請を受けて駆けつけることになっている応援部隊だ。

入団後は、いろいろな隊を経験してから本配属になる。俺が最初に仮配属されたのは、10歳になる第一王子殿下の近衛隊、の外側を守る近衛外隊(このえげたい)だった。外隊も近衛隊も、採用基準は顔らしい。まあ確かに、うちの母が貧乏男爵家に嫁いだ理由が「この世のものとは思えないほど綺麗な顔をしていたからよ(ハート)」だし、俺から見ても父の顔は神がかって見える。その遺伝子を受け継いでいるわけだから、俺の顔もそこらの男と比べたら上の上だろう。しかしよすぎる顔が仇となったのか、ひと月もしないうちに王子に「ぼくよりモテるんだもん……」と言われて移動になった。そして次に仮配属になったのが第五隊だ。

第五での最初の派遣先、グラッドノア伯爵領では盗賊討伐が主な仕事だった。最初伯爵領に入った時領民に手を合わせられた時はどうしたことかと思ったが、伯爵曰く、グラッドノア領があるこの地、ジャービー国内西部で信仰されている光の聖徒様とやらの壁画に激似だったらしい。そのおかげで、領内の盗賊たちも俺に手を合わせてきたからその間に一掃できた。イロメー副団長が言う「盗賊討伐での働き」というのは、その後、光の聖徒様の壁画なんか見ても理解できないであろう魔物が出てきたときのこと。俺が一番近かったから動いただけなんだが、スモークベアーを一撃で倒したあの件だろう。


「ほかにも何人か声を掛けているのだが、実際エリシャに会ってもらい、双方の合意があれば、その者に護衛を任せたいと思っている」

「なるほど」


つまり面接して娘さんに気に入られ、娘さんを気に入れば護衛騎士か。一方的でないというのに好感が持てる。侯爵だし、団長だし、命令すればいいだけなのに。

俺は、家に頼らず生きていくことができればそれでよかったから、騎士団でも護衛騎士でもなんでもいいと思い、せっかく声を掛けてくれたから、と話に乗った。決して提示された侯爵家の給料が国の騎士の3倍あったから、ではない。




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