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21.「では、いって参ります。」
しおりを挟む若葉の美しい季節の頃、ルトガー・バルシュミーデは浮き足立っていた。
ついにシュテファニ・アイブリンガーに、先日から計画していた告白を、結婚を前提としたお付き合いの申し込みを、しに行くのだ。
障害であった公爵位の継承は弟に。政略結婚であった婚約者も弟に。すべてを弟に丸投げして、すっきり身軽になったルトガーは、さて婿入りへの第一歩だと身支度を始めた。
なんとも身勝手な話だが、誰も異を唱えることはなかった。マルクもフェーベ家も納得し王も許可したので、おさまるところにおさまった、ともいえる。
ルトガーは今日のために仕立てた服に袖を通し、花だ宝石だドレスだ靴だお菓子だなんだと大量に用意した贈り物を確認して、それらをすべて馬車に積む。
「いってらっしゃい、兄上。」
「いってらー頑張ってねー。」
「ああ、ありがとう。マルク、オーラフ。」
オーラフ。ずいぶんと砕けた口調だが、ここにきて今まで影を潜めていたバルシュミーデ家の三男が登場した。オーラフ・バルシュミーデだ。
彼も、次男マルクと同じく目指せ長男追い越せ長男と研鑽してきた優秀な男だ。ルトガーが家を出ても、マルクを支えて一緒にバルシュミーデ家を盛り立てていくことだろう。ちなみに婚約者は伯爵家のマリサちゃん。こちらは恋愛結婚予定だ。
忘れ物はないかと確認し、自身も馬車へ乗り込むルトガー。これからシュテファニに愛を告げにいく。
本来なら貴族の婚約ともなれば、現当主同士で行うものなので、父であるバルシュミーデ公爵が見送る側なのはおかしいのだが、ルトガーはこれから告白するのに父親を連れていけるか、と同行を断った。
貴族同士の婚約といえど、これは恋愛感情によるものだ。ルトガーは、好きだと告白し恋人期間を経てじゃあ結婚しようか、という流れを前提に婚約するつもりなのだ。
だから指輪はまだ用意していない。
「では、いって参ります。」
「ああ。吉報を待つ。」
家族に見送られ、ルトガーを乗せた馬車はアイブリンガー邸へ向かって動き出した。
・
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・
・
「まあ、マルク様がこれを?」
「ええ。気に入っていただけるといいのですが。」
その日、長男を送り出したあと、次男マルクはフェーベ邸を訪れていた。フェーベ侯爵に助言されたように、豪華な装飾がなされたアクセサリーセットを持って。
「ネックレスと指輪と、イヤリングにブレスレットまで! おそろいですのね、すてきですわぁ。」
「あなたをイメージして王室御用達の宝石店にオーダーした物です。世界にひとつだけの、あなたのための。」
「まあまあまあ! 素晴らしいですわね! とても気に入りましたわ!」
「よかったです。」
言われた通り、豪華で、あなたのためだけの、というプレミア感満載な物を用意した。
ルクルタ・フェーベ侯爵令嬢。これなら扱いやすいし、上手くやっていけると確信したマルクだった。
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