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20.「え? いいの?」
しおりを挟むフェーベ侯爵家は古い家柄だった。古いということはそれだけ歴史があり、多方面との繋がりがあるということだ。
何代か前には戦果の英雄がいたり、未開発地で見つけた珍しい香辛料の貿易で成功した貿易商の者がいたという話もある。そしてはるか昔には王の側妃となった娘がいて、だいぶ薄いが王家の親戚という肩書きもあった。
今でも騎士や冒険者、商会の繋がりをいくつも持っていることから、何もしないでも財産は増えるばかりだ。
そのような侯爵家であるから、王族にほど近いバルシュミーデ公爵家との縁談がまとまった時には、またひとつ有力な繋がりが増えたと喜んだ。
「婚約を、結び直すと?」
「ああ。どうだろうか。」
バルシュミーデ公爵は、フェーベ邸を訪れていた。長男であり次期公爵になるはずだったルトガーが、訳あって他家に婿入りすることになり爵位は次男マルクに継がせることにした、と説明する。
「婿入りとは、急だな。」
「ああ、ほんとうに急ですまない。もしフェーベ家がそれで良いと言ってくれるならば、令嬢との婚約はマルクに継続させたいと思っている。」
「そうか。いいよ。」
「やはりそう簡単に――え? いいの?」
「うん。いいよ。」
「軽いな!」
実は二人は旧知の仲で、昔騎士団に居た時の同僚だった。国王の元、鬼神の降臨だと揶揄されながら共に戦地を駆け回っていたこともある。
婚約を結んだときからは、ついに親族にもなるかと笑い合い、今でも気安い関係が続いていた。
騎士だった頃にくらべてフェーベ侯爵は随分と丸くなったようで、二つ返事でうなづいてくれた。
「まあまあ、あの頑固者が言うなら曲げる気はないんだろう? うちはお前のところと縁が結べればそれでいいから。」
物理的にも丸くなったフェーベ侯爵は、幼少期に、どうしても自分の使う暗器は袖箭がいいのに、一発しか打てないし飛び道具はよくないと父親が使わせてくれないので家出して来たと言ったルトガーを思い出し、たるたるしたお腹をポンと叩きながらそう言った。
「そ、そうか。有難いが……令嬢は、大丈夫か?」
「ああ、あの子なら何か宝石でもあげとけば大丈夫。」
「そ、そうなのか。」
「うん。」
「では、マルクから何か贈らせよう。」
「うん。なるべく豪華なやつね。」
「わかった。」
宝石一個でかたがついた。
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