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7. 「婚約が、白紙……?」
しおりを挟む事件があった翌日、シュテファニは『婚約者であるフーゴ・バーデンが、以前から関係があった女を家に連れ込み浮気していた。』と王宮の神殿に報告した。
この国では古くから、結婚後の浮気は男の甲斐性だという風潮がある。
しかしそれはあくまで結婚し子供をもうけてからの話で、きちんと正妻との間に子をなし後継者を決めて、家督争いが起きないようにしてからという暗黙の了解があった。
もしも正妻より愛人が先に子を産んだりしたら、いろいろとややこしいからだ。
そういう経緯もあり、婚約時での浮気は、したほうが100%有責で婚約破棄に持っていける。
屋敷中が目撃者であったことに加えて、執事のイーヴォがさりげなく証拠を記録魔道具(カメラのようなもの)で撮っていたし、音声記録魔道具(ボイスレコーダーのようなもの)はフィーネが起動していた。証拠も十分なためこの訴えは問題なく受理されるだろう。
神殿でも、浮気されたのねかわいそう、というような同情的な意見が多かったので、世間体も問題ないだろう。
「結婚……どうしましょう。」
フーゴ・バーデンとの婚約は破棄できる。しかしシュテファニは侯爵家を継いだ身であるので、結婚して後継者をもうけなければならない。貴族の義務と言っていいだろう。
フーゴと婚約を結んだ当時はまだ若かったので相手を選ぶ余裕があった。しかし今の自分は22歳。同年代で、まだ結婚も婚約もしていないという者はかなり少ないだろう。
最悪、結婚できなかった場合は養子を取って後継者にするという手もある。
「あまり年下のかただと申しわけないし、まあでもそうね、年齢にこだわらずにまずは幅広く募集してみましょう。」
「料理人でも探しているのかな? アイブリンガー侯爵殿。」
「まあ、ルトガー様。お久しぶりです。」
「ああ、久しぶりだな。」
「我が家にはエーリカさんひとりいれば充分ですわ。」
「エーリカさんか。懐かしいな。彼女のドゥーナッツは絶品だ。」
これから総務省に向かおうと独り言を漏らしながら歩いていたシュテファニは、ルトガー・バルシュミーデに声をかけられた。
彼は、三代ほど遡るが国王の弟を祖先に持つバルシュミーデ公爵家の嫡男で、シュテファニとは学生時代の同級生だ。
「王宮で会うのは珍しいね。」
「今日はたまたま、総務省に用がありますの。」
「総務に? 何か困り事かな、侯爵殿。」
「ルトガー様にそう呼ばれると、なんだかくすぐったいですわ。」
「ははっ、そうだな。シュテファニ嬢。私でよければいつでも相談に乗ろう。」
「ありがとうございます。そうですわ、お聞きしてもよろしくて?」
「もちろん。」
「どなたか、結婚相手を探していらっしゃるかたがお知り合いにいませんか?」
「結婚、相手……?」
「ええ。入り婿先をご希望のかたですと、尚いいのですけど。お心当たりはございませんか?」
「入り婿……と、いうと??」
「ああ、説明もせずにすみません。私、近日中に今の婚約が白紙に戻りますので、新たにどなたかに来ていただかなくてはなりませんの。」
「婚約が、白紙……?」
ルトガーは混乱した。友人であるシュテファニ・アイブリンガー侯爵は、バーデン家の三男と婚約を結んでいたはずだ。
それは、学生時代からのことで高等課程第一学年のときに決まったことだったと記憶している、と。
それが白紙になったと、彼女は今言ったのだ。婚約が白紙になるなんて滅多にないことだ。ルトガーは、友人の身に起きた出来事を案じたのだった。
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