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5.「あなたを守るのが仕事なんですが」
しおりを挟む屋敷のティールームは、静かな修羅場だった。
ここまでをまとめると、6年前、アイブリンガー侯爵家のひとり娘であるシュテファニが16歳のとき、当時現侯爵であった父がフーゴ・バーデンを婚約者にと決めてきた。
5年前に17歳で亡き父から侯爵位を継いだ。
18歳で貴族学園を卒業し、領地運営や家が手掛ける鉄道事業に精を出し、3年経った21歳の時に結婚準備のため婚約者であるフーゴとアイブリンガー邸で同居を始めた。
現在は、それから一年が経ったところだ。
婚約者であるフーゴは今日、シュテファニが仕事で出掛けている隙に学生時代からの恋人である子爵令嬢のウーラを屋敷に連れ込みことに及ぼうとしていた。
生憎、彼女の用事が早く終わり帰ってきてしまったためそれは露見した。
しかしフーゴは、婚約イコール俺が侯爵を継いだ! という思考だったため、シュテファニを追い出して恋人のウーラを侯爵夫人にすると言う。
法改正により今はそれが出来るので、シュテファニが既に侯爵位を継いでいたというのに、だ。
結婚するまでは入り婿は爵位を継げないので、実は恋人の存在を隠さなければならなかったことにはやっと気づいたフーゴ。しかし実際問題結婚しても爵位は5年前にシュテファニが継いでいるため、フーゴは侯爵になれないただの婿でしかない。その状態で愛人が露見したら、追い出されて終わりだ。
それなのにフーゴは、結婚したら自分が侯爵になれるとこの時点でも思い込んでいる。なのでシュテファニと結婚さえすれば、その後離縁して追い出しウーラを侯爵夫人に据えることができる! という勘違い状態だ。
「その、なんだ。違うんだ。」
「ちがう? 違うとは、何が違うのですか?」
「この、この女に、唆されたのだ。」
フーゴは無い頭を絞って考えた。まずシュテファニと結婚しないことには、侯爵になれない。贅沢な暮らしができない。
ウーラのことは気に入っているが、今はまずシュテファニの機嫌を取ることが先。ウーラにはあとで言って聞かせればいいだろう……と。
「唆された、とおっしゃいますと?」
「フーゴっ何を言っているの? 私をを侯爵夫人にしてくれるんでしょう?」
「黙れ!」
「ひっ……!」
これから婚約破棄をされないために言いくるめようとしているのに口を挟まれてはたまらないと、こともあろうにフーゴは、結婚まで考えている女を黙らせるためにはたいたのだ。かなり思い切り力を込めていたので、ウーラは衝撃ではね飛ばされてしまう。
「何をなさいます!」
「いや、シュテファニ。この女が悪いのだ。」
「何がどう悪いかは、……たしかに悪いでしょうが、女性を叩くなんて!」
シュテファニは憤りを感じた。学生時代から付き合っていてとても魅力的な女性だ、大事な人だ、と先ほど紹介されたばかりなのに。そんなウーラを吹っ飛ぶほど強くはたくなんて、何故そんなことがでかきるのか、また理解できない状況だった。
とにかくこれ以上は手を出せないように、すぐさまはね飛ばされたウーラとフーゴの間に自身の護衛を立たせた。
「いや主。俺はあなたを守るのが仕事なんですが……」
「いいからザビ、そこに居てちょうだい。」
「ええー……。」
文句を言いながらも、シュテファニにそう言われたら仕方ないと素直に従うザビ。
すると控えていたユジルがザビの代わりに、シュテファニとフーゴの間にすぐ入り込める位置についた。
普段はただの侍女にしか見えないが、実は彼女はなかなか腕が立つ。それこそフーゴ程度では敵わないほどには。
「さてそれで? どんな言い分があるのかお聞きしましょうか。」
シュテファニのフーゴを見る目は今までに見たことないくらい冷たかった。
しかし、それに怯んではいられないフーゴは、何とかこの場を切り抜けようと無い頭をフル回転させるのだった。
シュテファニは、でたらめの言い訳を並べても通じる相手ではない。
果たしてフーゴはこの窮地を上手く切り抜けることができるのだろうか。
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