上 下
5 / 34

5.「あなたを守るのが仕事なんですが」

しおりを挟む


屋敷のティールームは、静かな修羅場だった。

ここまでをまとめると、6年前、アイブリンガー侯爵家のひとり娘であるシュテファニが16歳のとき、当時現侯爵であった父がフーゴ・バーデンを婚約者にと決めてきた。
5年前に17歳で亡き父から侯爵位を継いだ。
18歳で貴族学園を卒業し、領地運営や家が手掛ける鉄道事業に精を出し、3年経った21歳の時に結婚準備のため婚約者であるフーゴとアイブリンガー邸で同居を始めた。
現在は、それから一年が経ったところだ。

婚約者であるフーゴは今日、シュテファニが仕事で出掛けている隙に学生時代からの恋人である子爵令嬢のウーラを屋敷に連れ込みことに及ぼうとしていた。
生憎、彼女の用事が早く終わり帰ってきてしまったためそれは露見した。

しかしフーゴは、婚約イコール俺が侯爵を継いだ! という思考だったため、シュテファニを追い出して恋人のウーラを侯爵夫人にすると言う。
法改正により今はそれが出来るので、シュテファニが既に侯爵位を継いでいたというのに、だ。

結婚するまでは入り婿は爵位を継げないので、実は恋人の存在を隠さなければならなかったことにはやっと気づいたフーゴ。しかし実際問題結婚しても爵位は5年前にシュテファニが継いでいるため、フーゴは侯爵になれないただの婿でしかない。その状態で愛人が露見したら、追い出されて終わりだ。

それなのにフーゴは、結婚したら自分が侯爵になれるとこの時点でも思い込んでいる。なのでシュテファニと結婚さえすれば、その後離縁して追い出しウーラを侯爵夫人に据えることができる! という勘違い状態だ。


「その、なんだ。違うんだ。」

「ちがう? 違うとは、何が違うのですか?」

「この、この女に、唆されたのだ。」


フーゴは無い頭を絞って考えた。まずシュテファニと結婚しないことには、侯爵になれない。贅沢な暮らしができない。
ウーラのことは気に入っているが、今はまずシュテファニの機嫌を取ることが先。ウーラにはあとで言って聞かせればいいだろう……と。


「唆された、とおっしゃいますと?」

「フーゴっ何を言っているの? 私をを侯爵夫人にしてくれるんでしょう?」

「黙れ!」

「ひっ……!」


これから婚約破棄をされないために言いくるめようとしているのに口を挟まれてはたまらないと、こともあろうにフーゴは、結婚まで考えている女を黙らせるためにはたいたのだ。かなり思い切り力を込めていたので、ウーラは衝撃ではね飛ばされてしまう。


「何をなさいます!」

「いや、シュテファニ。この女が悪いのだ。」

「何がどう悪いかは、……たしかに悪いでしょうが、女性を叩くなんて!」


シュテファニは憤りを感じた。学生時代から付き合っていてとても魅力的な女性だ、大事な人だ、と先ほど紹介されたばかりなのに。そんなウーラを吹っ飛ぶほど強くはたくなんて、何故そんなことがでかきるのか、また理解できない状況だった。
とにかくこれ以上は手を出せないように、すぐさまはね飛ばされたウーラとフーゴの間に自身の護衛を立たせた。


「いや主。俺はあなたを守るのが仕事なんですが……」

「いいからザビ、そこに居てちょうだい。」

「ええー……。」


文句を言いながらも、シュテファニにそう言われたら仕方ないと素直に従うザビ。

すると控えていたユジルがザビの代わりに、シュテファニとフーゴの間にすぐ入り込める位置についた。
普段はただの侍女にしか見えないが、実は彼女はなかなか腕が立つ。それこそフーゴ程度では敵わないほどには。


「さてそれで? どんな言い分があるのかお聞きしましょうか。」


シュテファニのフーゴを見る目は今までに見たことないくらい冷たかった。

しかし、それに怯んではいられないフーゴは、何とかこの場を切り抜けようと無い頭をフル回転させるのだった。


シュテファニは、でたらめの言い訳を並べても通じる相手ではない。
果たしてフーゴはこの窮地を上手く切り抜けることができるのだろうか。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

妹を叩いた?事実ですがなにか?

基本二度寝
恋愛
王太子エリシオンにはクアンナという婚約者がいた。 冷たい瞳をした婚約者には愛らしい妹マゼンダがいる。 婚約者に向けるべき愛情をマゼンダに向けていた。 そんな愛らしいマゼンダが、物陰でひっそり泣いていた。 頬を押えて。 誰が!一体何が!? 口を閉ざしつづけたマゼンダが、打った相手をようやく口にして、エリシオンの怒りが頂点に達した。 あの女…! ※えろなし ※恋愛カテゴリーなのに恋愛させてないなと思って追加21/08/09

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それについては冤罪ですが、私は確かに悪女です

基本二度寝
恋愛
貴族学園を卒業のその日。 卒業のパーティで主役の卒業生と在校生も参加し、楽しい宴となっていた。 そんな場を壊すように、王太子殿下が壇上で叫んだ。 「私は婚約を破棄する」と。 つらつらと論う、婚約者の悪事。 王太子の側でさめざめと泣くのは、どこぞの令嬢。 令嬢の言う悪事に覚えはない。 「お前は悪女だ!」 それは正解です。 ※勢いだけ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...