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2.「説明してくださいますか?」

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フーゴ・バーデンは裕福な家に生まれたので生活に恵まれていて、幼い頃から贅沢三昧だった。長男ではなかったので厳しく育てられることもなく、ただただ甘やかされていた。
そんな両親が可愛い我が子の婿入り先として選んだのが、財産が潤沢なシュテファニのアイブリンガー家だった。

当時、他家を押しのけてめでたく二人の婚約が決まった。

アイブリンガー家は、事業も領地運営も上手くいっていたので、使えるお金は山ほどあった。
ひとり娘のシュテファニは昔から男性に興味がなく、いずれ継ぐ領地も事業も自分が切り盛りしていくと思っていたので結婚相手は誰でもよかった。釣書が届いた家の中で、実家もしっかりしていて同位の侯爵家だったことから、彼女の父親がフーゴ・バーデンとの婚約を決めたのだ。

フーゴにとっては、最高の入婿先だった。

フーゴは、数年前に卒業した貴族の通う学園でも大してやる気はなく、ただただ過ぎる毎日をだらだらと過ごしていた。勉強も剣術も中途半端だったが、顔だけは良かったので女性にモテていて、ちやほやされいい気になっていた。

ウーラとはその頃からの付き合いだが、実は相手は彼女だけではなく、フーゴはほかにも何人かの女性と関係を持っていた。

貴族が通う学園なので、当然相手はどこかの家の令嬢だ。フーゴはその見た目と、侯爵家という親の権力を笠に着て男性をまだ知らないようなおとなしい令嬢を次々と手篭めにしていった。

令嬢たちはほとんどが泣き寝入りするしかないような状態だったが、あるひとりの令嬢が、フーゴを告発しようとしたことがある。
その令嬢は、勇気はあったが家格が低かったため、親に泣きついて有る事無い事口から出まかせを言ったフーゴに味方したバーデン侯爵に、金と権力を使って潰されてしまった。

そして、そんな事件は誰にも知られることなく無事卒業したフーゴ。
しかし卒業後も家の事は何一つ手伝わず、外に仕事に出るわけでもなく、ただひたすら金を消費するだけの金食い虫だった。

バーデン家の両親にとっては、それでも可愛い我が子だ。フーゴの世話をするのが当然だった。


しかし、シュテファニは違う。母親ではないのだから。

婿は誰でもいいとは言ったけど、決まったからには一緒にいることで相手に愛情を持って家族として尊敬し、支え合ってこの先の長い人生を生きていこうと、そう思っていた。

婚約してからは、なんとかいい関係を築ければいいなと忙しい仕事の合間に奮闘していた。
シュテファニが、自ら領地を案内しようとしたのは断られてしまったが、アイブリンガー家の事業である鉄道について、これからこの鉄道を使って移動や運搬が楽になる大変素晴らしいものだと説明したり、好きなものはなんだ、好きなことはなんだと共有しようとしたり、とにかくたくさん手紙を出した。
しかしフーゴは、きた手紙は適当に読んで放置し、たまに侍従に返事を書かせるくらいしかしていなかった。領地の特産品がハチミツや杉の木材であることなども、どうでもよかったのだ。

あまりに返事がこないものだから、シュテファニも、手紙を出すのは季節の変わり目くらいになっていった。

フーゴにとって、アイブリンガー家は儲かっていてお金がある、つまり贅沢ができる。それが重要だった。



フーゴと学園時代から付き合いがあるウーラは、とても魅惑的な体の持ち主であった。性技に長けていて口も上手いので、心身共にフーゴを気持ちよくしてくれる彼女は彼にとって無くてはならない存在だった。
シュテファニは美人だし胸も大きいが、自分に媚びない持ち上げない、挙句説教するような女だったので結婚なんてしたくない、フーゴはそう思っていた。

だとしたら、ウーラと結婚すれば良かったのだが、彼女は領地もない騎士子爵家の娘だったため、贅沢が身についているフーゴは彼女と結婚することは出来なかった。

そこでフーゴは考えた。親が決めてきた金持ち侯爵家との婚約。ゆくゆくは自分が侯爵になるのだから、ウーラを連れて行ってシュテファニを追い出せばそれでめでたしめでたしなのではないか?それで金も女も手に入る。


俺はなんて頭がいいんだ! と自分を讃えるフーゴだった。


しかし、継ぐ家がないからとシュテファニの侯爵家に婿入りしようとしているのに、まだ結婚すらしていないのに恋人を連れてきて侯爵夫人にしようなど……ありえないことはお気づきだろう。


ここから、フーゴの転落人生は始まるのだった。


今日はたまたま宿がいっぱいだったので、仕方なくウーラを家に連れてきてことに及んでいたフーゴ。
見られたのは計算外だっただろう。
フーゴは予定より早く帰宅したシュテファニに怒りを燃やし、ティールームの扉を開いた。


「さて、説明してくださいますか?」


優雅な仕草で侍女の淹れたお茶を飲んでいるシュテファニ。お気に入りのダージリンのミルクティーだ。

彼女は、扉を開けて現れた婚約者と、間男ならぬ間女に目をやると、にっこりと笑って見せた。




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