最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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戦争編〜第四章〜

第192話 剣となり盾となれ

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 トリアングロ王城の2階、南側の廊下にて。

「くたばれ!」
「吹き飛べ」
「しつこいんだよ……っ!」

 3人の男が激しい戦闘を繰り広げていた。

 エリア・エルドラード。
 道を違えた主人を取り戻すべく敵陣に乗り込んだ忠義の従者。……と、いえばとても外聞は良いのだが、実際は『金の血は監視下に、出来ぬのなら殺す』という私欲で動いている過激イケメン系オタク(21)

 カルロソ・フロッシュ。
 火薬の扱いにたけており、建物が破壊されない範囲を見極めながら体に隠していた爆弾で乗り込んできた敵を撃退すべく戦う蛙の名を持つ海軍の幹部。……だがしかし庇護下にある異世界人は守っても一応味方である第2王子の安否は考えずに攻撃しているおデブ(42)


 エンバーゲール。
 そんなやべぇやつらに囲まれて一番危険が危ない元王子(21)

 ……。勘弁してくれ。


──ドォンッ!

「チィッ! すまないがフロッシュ、こちらのことも考えてくれるだろうか!」
「知るか。男は勝手に死ね。私が絶対だ」
「っ、これだから……!」

 再び爆弾が投げ込まれる。
 城がごついにも関わらず石で覆われている意味がもしかしたら分かったかも知れない。

 エリアとエンバーゲールは爆風を避けゴロゴロ地面を転がりながら廊下で剣を打ち合う。
 フロッシュはあくまでも部屋の入口でカナエが外に出ないように、攻撃が来ないように立ち塞がっている。何せ肉体派みたいに動けないので。


「エルドラード! 俺はクアドラードの残酷さが耐えられない! 俺は王子として……! っ、国を変えようと、今までやってきたが!」

 爆音に紛れながらエンバーゲールはエリアに自分の考え伝える。

「クアドラードは魔法がある限り変われない!」

 それは国のことを言っているのか、王家のことを言っているのか。
 エリアは推測もしなかった。

「魔法の使える人間は魔族を気味が悪いと批難し、獣人に初級魔法すら使えない野蛮な種族だと馬鹿にする。己が正しいとばかりに! ……俺は、人に魔石があることを知った。魔神崇拝ラスールのことをようやく理解出来たよ。──より魔物に近い人間が正しいと証明するために魔物を正当化させる組織なのだと」

 全ては魔法だ。

「クアドラードの差別の根源は、全て魔法だ! 俺は魔法が悪だとは思わない、無くなってしまえとは思えない! だが、魔法による差別を国が変えられないまま栄華を保つなど、無理だ。耐えられない!」

 魔法は素晴らしいものだ。人は救われた、命の危機から脱出できる力を手に入れた。

 世界の人口の大半を占めているからと言って、魔法が使えるからと言って、人が絶対者になった訳では無い。

「穏やかに時が解決することもあるだろう、だが、それは未来だ! 俺は例え自分が悪役になろうとも、国の仇だと、裏切り者だと罵られても! ──あの国を革命するんだ!」

 エリアはその叫びを聞いて一言、答えた。


「それは貴方の感情であって私には関係ないですよね」

 ……うわぁ。流石にフロッシュがドン引きした。

「分かりますかエンバーゲール様、国が必要とするのは脳です。えぇ、貴方の行動の善悪を私程度が決めれるものではありませんが、貴方の考えるという行為はとても国に必要とします」

 ──だが。

「私、エリア・エルドラードが望むのは貴方の血です。血筋です。思想の自由など、私には関係ない」
「人権っっっ!!!!」

 とっても、素晴らしく皮肉なことに、クアドラード家は国の統治者でありながらエルドラード家に監視されている家系なのだ。
 オタクは推しの全てを把握したい。俗的な言葉に直すとこうである。

「あぁ本当にっ、昔から面倒臭い、お前が俺と同じ歳じゃなかったらどれだけ自由だったか」
「はは、ご冗談を」

 同学年になるように子供を作っている家系から逃れられると思うなよ。


 エンバーゲールは剣を一本握りしめる。
 その姿とは違い盾を構えたエリアがふと既視感を抱いた。




 トリアングロ王城の、門で。
 リィンは剣を構えた。

 そして対戦相手の男は……。

「殿下」
「……?」

「──あのシアンという幹部、見覚えがありませんか?」




 ==========




 えー、はい、こちら現場のリィンです。

 フェヒ爺のアドバイスがあったので恐らく魔法が使えるだろうと判断しエリィにべナードの事は任せて2階に来ました。いやまぁ実際見るからにやべーやつ出てたし平気でしょ。いや、精霊だよねあれ、普通は見えないし気配もないのになんで人間に姿が見えるのコミュニケーションが取れるのちょっとよく分からない。無知で無垢って、こわい。

 話を戻しまして現在。簡潔に分かりやすく言います。


「…………お前達が逃げ出したという連絡は、伝令により既に広まっている」

 北寄りの廊下、謁見の間まで向かうことが出来るであろう階段の前に銀髪の男が立っていた。

 はい、幹部です。

「確か、メリャンロス・シアン……!」
「…………。(めちゃくちゃ微妙な顔)」

 あれ、名前間違えた?

「……オリュンポス・シアン?」
「……。(こいつ殺したろうかって顔)」

 どうやらこれも違うらしい。うーん、なんて言ったっけ。こういう感じの系統だったとは思ったんだけど。

「メランポス」
「メロンボス!」
「……(カチャッ、バンッ!)」
「ぴぎゃん!?」

 死ぬかと思った。なんの警告もなく撃たれた。いや、避けたけど。偶然。
 名前間違えてるのは謝るけどノータイムで銃撃つ必要無いじゃん!?

「ここまでよく辿り着いた。だが愚かにも罪人は処刑人の前に現れた。死ぬ運命だったのだと来世で後悔しろ」

 シアンは銃を仕舞い剣と盾を構えた。
 サブウェポンはメインと違い飛び道具ってわけか……距離感お構い無しだなぁ。

 私は剣を一応構える。それと同時に魔法の集中も。

「ご存知ですか、前世のことって覚えれぬのですぞ」

 ……ま、私も大概同じようなもんだけど。


 魔法の手はまだバレてないはず。確実に実力が上の相手に切り札をどこまで隠して持って行けるかが鍵になる。

「ふん、馬鹿だとは思っていたが対話が無駄くらいは分かるんだな」

 余計なお世話だ眼帯野郎!


 一瞬の踏み込み。
 盾を壁にして押し込むように迫ってきた。

「……っ!」

 回避技能は、生き残るために必須だったんだよ! 何回も何時間も出来るとは言ってないけど。まぁ出来ないことも言ってないからね。

 遠慮のない攻撃が私に降り注ぐ。幸いなことに癖の強い武器や動きをしない分動きやすい。だが、攻略も逆にしにくい。
 特出したところがあるということは弱点もあるということ。

 パッと見、眼帯の方の視界が狭いだろうからそこが攻めどころかな。


 シアンの右側に回り込んで攻撃を仕掛ける。ガンッと剣がぶつかる衝撃。うーん、弾かれた。
 そこがよく狙われるのか対応は淀みもなくスムーズだ。

 語る言葉は少ない。
 でもお互いやりづらい、と思う。時折飛び出る舌打ちが心情を物語っているように思えた。

「くっ……!」

 打ち合うと確実に私の方が押し負ける。私は下がったり避けたりしながら隙を探していく。

 よく考えて欲しい。隙って、なんですか。

 見るからに油断した状態ならともかく普通に分からないって。

「……そこ、だ!」

 〝ファイアボール〟!


 ただ私を見失った一瞬を隙と認定してシアンの右側に魔法を打ち込んだ。

──チッ!

 火の塊はシアンにぶつかることは無かった。
 魔法の対処に慣れていた。範囲も威力も予想がついてたように。……避けられた!

「何故、魔法が……──」

 ただ、頬に掠ったのか。
 シアンの眼帯が外れた。

「………………え」

 眼帯の下から出てきた瞳は、青色をしていた。
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