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戦争編〜第四章〜

第190話 予想外と想定外を武器にしろ

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 回避、回避、回避ーーーーーーっ!

 どがぁん! と人類が鳴らしちゃいけないような音を放ちながらクラップが私を殺しにかかる。
 クラップの武器は大剣。国境基地の個室に置いてあったから想像していたが、本来なら両手で持つそれを片手で簡単に振り回している。

 両手剣なら両手で扱え化け物。

「ちっ、ちょこまかと」

 必死に足を動かして回避をする。
 綺麗に避けきることもあればすっ転びかけながら避けることもある。

 クラップは大剣だけじゃなくて拳でも石製の机や椅子を破壊していきます。こんなのクソゲー。

 間一髪を続けていく。胃が、胃がとても痛いです。

「ふぅ……はぁ……っ!」

 一息つこうと大きく息を吸うも私が整えるのを邪魔するようにクラップが攻撃を仕掛ける。
 あぁもう! めんどくさいな!

「そろそろっ、倒れる、すて、くれませぬかね!」
「あぁ? フラフラの体幹してるくせして何を言ってやがる」

 一応弁明しておきますが、私だってずっと避けているわけじゃ無い。
 剣は専門じゃないから足でまといを持つつもりが無くて戦闘開始の瞬間かなぐり捨てたけど、隙を見て魔法を放っている。なお、隙は存在しなかった。
 無詠唱万歳! でもリミットクラッシュしてるからいつもより魔力消費激しいので魔法は無限じゃありません! ド畜生!


 魔法の使えない国で魔法が使えるのは、私の利点だ。有効活用しないと。

「うっ、はあ!」

 一撃喰らえば必ず頭蓋骨が割られる。そう確信させてくる武器と速度。これ、受け流そうとしても圧倒的なパワーの前に押し潰されるな。

「姫さんよぉ、クアドラードからわざわざ単身でやってきて、ほんとに何を企んでるんだ」
「だからっ、言う、してるじゃ」
「クアドラードはさぞかし困るだろうな。魔法が使えなくなるとなると。姫さんは国の為に特攻を仕掛けたってわけか? 囮にしたってタチが悪すぎる」
「……っ! だからっ!」
「幹部数人がかかりきりになる分、クアドラードは動きやすいだろうな。まんまとしてやられた。スパイじゃなくて錯乱要員だったか」

 未だにクラップは私をクアドラードの姫だと思っているらしい。くそったれ。
 王女がもう残ってないんだったら外交用に残しておくに決まってんだろーーーが! 死地に向かわせるわけねーーだろーーが! 私が姫だったらこの戦争動かねぇわ! 戦争終結後に和平交渉で人質に差し出されるわボケっカス!

 語りかけているクラップだが、攻撃の手は緩まる所か激しくなっていく。

 ぶっちゃけ、クラップも怖いっちゃ怖いんだけど、それを部屋の隅で無言で観察し続けているべナードの方が怖い。
 クラップは相手の予想外の動きをすればなんとかなる。けどべナードはギャンブラー。私の行動パターンを読まれたら、あっという間だ。

「姫さん、分かってるのか。お前は捨て駒も同然なんだぜ。未だに戦場にたっている姫さんと第4王子は、クアドラードの時間稼ぎに使われてる」

 第4王子……?
 もしかして、クアドラードの本部隊の指揮官は第4王子、なのかな。

「──トリアングロに来るか」

 思わず足が止まった。

「クアドラードを裏切る覚悟があるんなら、俺が姫さんを囲う。クアドラードからはもちろん、俺のものになればトリアングロの幹部も早々に手を出せない」
「そ、れ、……許すされるのですか」
「俺はまぁ幹部の中でも上位にいる自覚はある……。だから大丈夫だ、俺が許す」

 強者絶対主義……なるほど、ルールなんて強い者が勝手に決めるのか……。

「クアドラードの姫だろうが、Fランク冒険者だろうが、異世界人だろうが」

 クラップは真っ直ぐ私を見て言った。

「俺が…………リィンを全てから守ってやる」

 私はその言葉に思わず顔を下に向けた。
 手が、震える。

「……クラップは思い違いを沢山すてるです……私はクアドラードの姫なんかじゃなきですし、異世界人でもなき」

 全部惜しいけどね! 王族の血縁関係って意味ならその通りだし異世界と多少は関係あるって言うならその通りなんだけど、クラップの想像している立場じゃない。

「生憎、崇高な使命は私に無きですよ。──ただ、あのうんこ髪のあんちくしょうを殴る」
「なら」
「後ですね、最大の思い違いを、訂正すておくです」

 私が王族じゃなくても異世界人じゃなくても、トリアングロの幹部に囲って貰うという条件を引き下げる理由にはならないだろう。言葉を続けようとしたクラップを制止した。

 クラップは一番大事な思い違いをしている。


 ……そろそろかな。

「私は」

 顔をあげてクラップを見て、笑った。

「誰かのものになるとか、他人に隷属するほど、可愛いプライドは持ち合わせるすてねぇんですぞっ!」

 別名、嘲笑う。

「なるほど、そいつは悪かった。なら死──ッッッ!」

 クラップが動き始めたその時、ようやくクラップが膝をついた。

「っ、はぁ、効くの時間かかるすぎません? 長かった……体力死ぬかと」
「っ、は、ぁ、っっ!」

 ガランと武器を取り落とす音。
 呻き声は発せられるけど舌が痺れて言葉は発せられない、と言った様子だ。仕舞いには地面に膝をついてうずくまった。
 何が何だか分からず私を見上げるクラップ。



「クアドラードにはパラリシス草っていう草ぞ存在するです。別名麻痺草」
「……!」
「気付くされないよう粉末を撒くするのは苦労しますたけど、クアドラードのスパイから奪い取るしますた」

 ありがとうノッテさん。恐らくこれで侵入するつもりだったんだろうけど、私が無理矢理奪いました。
 魔法が使えるアドバンテージを示せば簡単だった。

 ま、この麻痺草を譲る交換条件に王城の幹部を一人でもいいから無力化するって難題をふっかけられたんだけどね。

「ねぇ、クラップ? 今どんな気持ち? 圧倒的に優位に立つすてたけど、たった一束の草のせいで、お前が動き回るするせいで毒が回るすた気持ち。ねぇねぇ、どんな気持ち?」

 ねぇねぇと煽ってみる。血走った目でめちゃくちゃ睨まれた。麻痺が解けたら、死ぬわ、私が。

「なんっ、で、きい、おま……!」
「まだ喋る可能なのですね、意外」

 私は口元に手を当ててとっても可憐で可愛くてキュートな笑顔を浮かべてクラップに顔を近付けた。

「私がお前のものになるのではなく、お前が私のものになるなら教えるすても良きですよ」

 そして思いっきり、傷口を蹴りあげた。

「ッッッ!」

 もちろん手加減してるけどね、私の前で傷口なんて弱点を見せたクラップが悪い。

「私はこういう傷を負わせる自信は無きですから、全力で得意分野の勝負に持ち込むさせてもらいますた」

 私の回避技術と、クラップの攻撃技術。どちらが上か。
 私とクラップ、どちらが麻痺に強いか。毒に強いか。

 そんな勝負だった。
 ちなみに回避はフェヒ爺やパパ上の攻撃から逃れる為に身についた技術で、麻痺含め毒物パパ上の耐毒訓練……。私よく生きてるな。

「私を殺そうなんざ、万全になってから話すてもらわねば」

 正直、クラップが手負いじゃなかったら避けることもままなかった。



 だからだ。

「私は最初からクラップだけは潰すつもりですたよ」

 トリアングロの上位の存在、幹部。その幹部の中でも更に強いクラップに勝利したという事実は、例え手負いだとしても利用出来る。

 あ、心臓麻痺はしないでね。
 うーん、これじゃあただの敗北かな。確実に死ぬけど生かされた、っていう状況まで追い詰めないといけないのかな……。

 よし、顔に落書きをしよう!
 アイテムボックスからインクを取り出して……。

「まてまてまてまて! リィン様ー!? 一体何をするつもりで?」
「え、クラップの顔に『14歳の少女に負けました』『圧倒的敗北者』『ピュア軍人』って書くしようかと」
「私が証言するんで流石に可哀想だからやめて貰えませんかね!??!!!?」
「死人に口なし」

 証言なんて生きている限りだ。

「…………いや、私は確実にリィン様に勝てますよ」

 びりっ、と肌が震えた。
 粉末でばら蒔いていたパラリシス草をアイテムボックスに仕舞う。

「避け方も、魔法の使い方も、攻撃の仕方も。私の前で二回も戦闘してくれましたのでね……。さ、クラップさんの敗北もリィン様の死の前には意味もなくなります。同じ幹部のよしみです、尻拭いでもしてあげましょう」

 私は距離を離して入口とは反対側の窓側にジリジリ下がる。
 べナードは邪魔ですよ、なんて言いながらクラップを部屋の隅に転がした。

「逃げるつもりですか、ま、それも良し。ですがリィン様はベットした後です。フォールドにはお早い」
「ははっ、私はね、べナード。フォールドは早々使わぬの。チップを失うくらいであればハッタリかますすめ対戦相手をフォールドさせる方が得意で」

 フォールドするのはお前の方だ。
 そう言外に伝えるとべナードは愉快だと言わんばかりに笑った。

「手は読めますよ。それともそのハッタリというものを使うつもりですか」
「まさか! そもそも、べナード」

 私は背後の窓を見た。

「対戦相手が違うです」

──バリィン!

「リィンさん! 大丈夫ですの!?」


 窓の外から緑色の物体が飛び込んできました。

「──お前は窓突き破る系エルフの動きは読めてなきでしょ」
「そんなことありますか!!!!????」

 トマトを噛み締めたような顔でべナードが叫んだ。
 わかる。今は許すけどエリィは窓じゃなくて扉を使え。
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