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戦争編〜第四章〜

第187話 油断大敵だが敵は小さい

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 ルフェフィア。
 エルフの最全盛期とも言われる約2000年前に力を有していたエルフの一角、と言われている。
 残した伝説は数しれず。当時を知っているクアドラード王国首都のサブギルドマスター(匿名希望)曰く『アレはやる。やりそうとかじゃなくて、やるから厄介なんだ』『エルフ族のくそ厄介な所を詰めた存在』『あのエルフより下の世代で良かったと死ぬほど安堵した』

 ……知らぬが花とはこの存在の事である、花と言うにはちょっとラフレシア。

 そんな要危険エルフと忠告されるようなエルフを、ルの名を持つルシアフォールが知らないわけがなく。

『名前は聞いてないけど、あなたルフェフィアだよね』

 エルフ語で言葉が紡がれだ。風の様な不思議な音で、エルフだけが使える言語を彼は言った。

『あぁ、エルフ語にしたのはそこの自称人間に合わせる様な言語を使いたくないだけだよ』
『……。なるほどな』

 ルフェフィアは数秒考えた後、納得したように頷く。そしてルシアフォールを面白がるように邪悪な笑みを浮かべて対話に応じた。

『自称人間、とは言ったもんだな』
『あぁそうだよ。笑えるよね、ずっと何も知らないままであいつらは朽ちていく。そう決まっているのに。……浅ましい。まるでこの世界を侵食する様に、力を得るように驕りだす』

 ルシアフォールはあなたなら分かるだろ、と言いたげに首を傾げた。

『あいつらは魔物でいるべきなんだ』

 ルフェフィアは黙って聞いた。
 その沈黙に対してルシアフォールは予想をしなかった。考察もしなかったし答えを得ようとしなかった。

『んで、じゃあなんだって自称人間の住まいにこんな領域まで作って』

 ルフェフィアは周囲を見回した。
 自然の多いところには精霊が生まれやすい。エルフは精霊を介した魔法を使うため、必然的に自然の多い場所を住処に選ぶ。
 トリアングロは自然には程遠い。濃く、深い森ならいくつかあるが雨もめったに降らず、人の人工物が多い国だ。そんな国の軍設備が思いっきり揃った王都にいる理由を。

 わざわざ魔法で植物を限界まで詰め込んで、精霊を集めて、そして魔導具を修復しまくっているエルフ。

『遺物なんか持ち出して、何をしてんだ』

 その真意を問うた。

『見たら分かるだろ』
『あ?』
『自称人間から魔法を奪う為だよ。あいつらの使う魔法は、エルフの物だ』
『魔物にしたがったり魔法を消したりと忙しいやつだな』
『魔石持ちが魔法を使うからこそ魔物の証明である……。なんて考えをするのはこの国の動物共の物だ』

 同じ種族同士と異なる種族同士ではそもそもの定義すら違う。

『人になりたがっているから魔石を無かったことにするこの国と、使うはずじゃない魔法を使う自称人間から魔法を消したい僕の行動が一致しただけで、土台が違う』

 ルシアフォールは此度の戦争とは全くの無関係なのだ。人が人であるためのぶつけ合いを、手を貸しながら眺め漁夫の利を狙うような存在。もちろん彼は人間魔法排他主義なのでクアドラード王国が勝つのはつまらないだろう。

『あ、でもお前はだめだ』

 ピクリと眉が動いた。

『ル族の裏切り者だからね』



 ずっと黙って聞いていたルフェフィアはため息を吐いてルシアフォールを見た。

久しぶり・・・・に会ったが、随分偉くなったな』

 その言葉に眉が動いたのはルシアフォール。

『……なんだって?』
『俺が言えた義理じゃないがそこまで人間が嫌いか』
『お前が僕になんの関係があるんだよ』

 ルフェフィアの質問に答えは返さず、睨みつけながら言葉を放った。

『妹の方は人間大好きだがお前は真反対に育ったな、ルシア』
『僕に、妹なんか居ない』
『ま、記憶なんざねぇわな。どうせ産まれてすぐの話だ』

 ルシアフォールは嫌な予想を立てた。

『産まれて、すぐの話なのに、妹……?』

 エルフは長寿種で子供を授かりにくい。だから。

『お前に双子の妹がいる』

 ……双子はエルフ族にとって災厄だ。

『知らない。僕に、妹なんか居ない。僕は誇り高きル族のエルフ。関係ないだろ』
『そうだな……。関係なくさせるために、俺が動いたんだ。ったく、めんどくせぇ感じに育ちやがって』

 やれやれ、と己の選択になんの悪びれもなさそうな顔して肩を竦めた。

『ま、その話は関係ない。ただのジジイの戯れだ』
『……』

 ルシアフォールはチラリと横目で自称人間を確認する。エルフの子供をかばい立つ様な姿。
 人間とエルフが仲良しこよしをしているなど、吐き気がする。

『ところで、俺は人間同士の争いにとことん興味が無くてな』
『は?』
『ただまァ被害が行かないようにしときてぇから聞くんだが、国王の場所だったり内部の情報は持ってるか?』
『……意外だね。てっきりそいつらの味方をしに来たもんだとばかり』
『ばぁか。俺ほど人間を博愛してるやつは早々いねえぜ? どの国だろうと人間に手出ししねェように知っときたいだけだ』

 理解が出来ないといった表情でルシアフォールは嫌悪を顕にした。

『どの口が……』

 まぁいい、と言いたげにため息を吐くと、ルシアフォールが言葉を続ける。

『国王は謁見の間だよ。戦争のキモのタイミングを見計らっている』
『……キモ?』
『クアドラードのやつらがトリアングロに攻めてきているのは知っているだろ? あいつらが消耗して国境まで戻ったら、猛攻撃を仕掛けるらしいさ』

 鼻で笑う。馬鹿馬鹿しいと言いたげに。

『この国は火薬に恵まれたからね……。国の至る所に大砲を用意してる。それにクアドラード城に向けても船が出てるから……時間の問題だろ』

 精霊の嫌う武器だ。精霊は寄り付かない。だから、索敵能力の高いクアドラード王国のエルフにも気付かれないというわけだ。

 人間同士の争いには興味がないのか、ルシアフォールのため息は止まらない。

『愚かだよねぇ。どっちも。愚かな考えをするから破滅に向かうんだ。誰かに支配されている内が幸せだって──』
『──ほう、つまり』

 言葉を遮る様にルフェフィアが結論を出した。

『トリアングロの頭は謁見の間にいて、トリアングロはクアドラードの前線を押し下げて攻撃をし、裏から船で王城まで行き、船の上から攻撃を仕掛ける、って事か』
『……だからなんだよ』
『船の上からってのが気になる所だがまぁいい』

 ルフェフィアは。

 フェフィアは指示を出した。

『──と、言うわけだ。抜かるなよ小娘。〝リペア〟』
「ありがとう愛すてるぜフェヒ爺!」

 魔力回復……魔石修復の魔法をリィンにかけると、リィンはニッコニコ笑顔で駆け出して行った。

『……………………は?』

 思わず呆然とした表情で見送ってしまうルシアフォールを尻目に、ルフェフィアはリィンの隣にいるエルフに声をかけた。

『いいかヒヨっ子! 精霊を従わせたいんなら、エルフの血や髪を対価にしろ! お前がエティフォールの親族なら最も価値があるはずだ!』

 エルフ。エリィはチラリとフェフィアを見ると、力強く頷いた。

 ドカァン、と轟音が響き、フェフィアの同時行使した魔法が出入り口を無理矢理作り出す。

 その大穴から抜け出したリィン達を呆然と見送ってしまったルシアフォールは、心からの気持ちを叫んだ。


『──あの言語能力でエルフ語が理解出来るとは思わないだろ!!!!????』

 分かる。
 流石のフェフィアも、無言で渋顔を作った。
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