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戦争編〜第四章〜

第186話 中庭の邂逅

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「んがっ」

 男は寝惚け眼で辺りを見回した。太陽は登りきっている。一体どれほどの時間が経ったのだろうか。

「……参った、寝過ぎたな」

 土を払い簡単に服装を整え……マシにすると体を伸ばした。

「ん、んんっ」

 大きな欠伸をし、男は目を覚ます。

「……さぁて、小娘の方はどうなってやがるかね」



 ==========




「う、わぁ………………」

 思わずドン引きの声が溢れ出る。
 こんにちは、私です。
 現在地はトリアングロ城の屋上。魔導具がある中庭を見下ろしているんだけど……。

「うっ、なんですの……ここ……。気味が悪いくらい精霊が居ますわ……。リィンさん見つからないように……」
「うーん」

 見下ろす限りの緑。密集した緑の中にポツリと魔導具だけが見える。
 太陽の光を煌々と浴びて育ったのだろう、気持ち悪いくらい密集した緑の集合体。それだけでもう目がチカチカするほどストレスを感じるというのに、自然の中に明らかな人工物が存在した。それが魔導具だということは考えなくても分かるほど。


 大きな、大きくて透明な魔石が。人より大きなクズ魔石が見えた。


「何…………あれ……」

 よく分からないけど。
 この世に存在してはならないものだという事は直感で分かった。

「最速でケリぞつけます」

 リミットクラッシュで明日から引き摺り出した魔力、私の持ってる最大火力をぶつける。
 右手にファイアボール、左手にウィンドスラッシュ

 〝ファイアストーム〟!

 嵐が炎を纏って気味の悪い魔導具に勢いよく穿つ。
 威力は外から見て目立たない程度だけど規模は規模、威力は威力。ウィンドスラッシュの速度を上げれば威力は上がる。

 壊れろ……!

──ガァンッッ!

 その音は魔導具が壊れる音……──では無く。

「やはり居ますぞね、守り手」

 私の魔法が魔導具の守り手によって防がれた音だった。
 恐らく魔法はマジックシールド、広範囲に元々貼っていると言うよりは小さめの障壁を分厚く貼って私の魔法を防いだって所。

 つまり。

「やれ、〝ウッドランス〟」

 あちらさんは私達の存在に気付いてるってこと!

 伸びてくる木の枝は槍の穂先のように鋭く、自我を持っているようなその動きは躊躇いもなく私達を刺し殺そうとしてくる。
 私はエリィの頭を掴んで地面に伏せた。


 私の心臓を目掛けた攻撃はエリィの髪をかすり屋上の床に突き刺さった。石製なんだけど。なんで植物が打ち勝てるの。

「なん、なんですの……! 精霊が、こんなに」

 エルフの視界に一体何が見えているのか。
 エリィの顔色は非常に悪い。それだけ気味が悪いのだろう。

「火魔法を」

 ファイアボールを発動しようとした瞬間、しゅるりと足に蔦が絡まった。

「きゃあ!?」
「ちぃっっ! エリィ!」

 鋭い方は囮か……!
 エリィの手を慌てて掴む。私の足に絡みついた蔦は咄嗟に切り取れ……っな、かったぁ!? 切り取れない!

「っ……!」

 屋上から中庭へ引きずり込まれる。
 約5階相当から叩き落とされれば……!

「〝サイコキネシス〟ぅぅっ!」

 ズキンっ!
 空いた左手で咄嗟に剣を浮かばせる。それを思いっきり掴んだら叩き落とされる勢いは弱まるけど、右手にエリィを掴んで足を引っ張られてる状況だから何がいいたいかと言うと体がめちゃくちゃ痛い引きちぎれそう!!!!

「リィ、ンさんっ!」

 痛そうな顔をしたエリィが私を見上げる。
 下からの力と上への力、耐えることわずか2秒。あの、痛みが強いと魔法に集中出来ないんですよ。

 サイコキネシスは簡単に途切れました。
 かろうじて見える地面を視界に入れる。

 〝瞬間移動魔法〟!

 魔力の消費が激しいからなるべく使いたくなかったけど怪我するよりはずっといい!

「ぎゃんっ!」

 地面に転がり落ちて尻もちをついたエリィを横目で確認しながら私は警戒心を顕にする。

 魔導具の周りは草木が魔導具を避けるように育っている。
 その隙間に、彼はいた。

「…………僕の魔導具を狙ったよね、お前」

 そのエルフはあまりにも長いオレンジの髪を持て余していた。地面に山を作っている髪はさぞかし高値で売れるんだろうな。

 エルフか……この国にきて初めて見たな。

 見るからに私と同じ種族では無いというようなオーラがする。ちなみに隣でおしり摩っている涙目のエルフと同じ種族だとも思えない。

「幹部……」
「は? 僕が幹部? 寝言なら寝て言えよ」

 このプレッシャーと重要なポジションから考えてコーシカと同じく異種族幹部なのかと思いきや本人の口から間髪入れずに否定が入った。

「僕はエルフ。あいつらの揉め事に興味は無い」
「あ、私もエルフですわ!」
「エリィちょーーーっと黙るすて」
「もぎゅ!」

 言わなくても分かるんだよ耳を見ればさぁ。そのエルフ耳ヤスリで削るぞ。

 ド天然を片手で封じるとエルフは眉間に皺を寄せた。

「エルフがこんな奴らとつるむなよ……。反吐が出そうだ」

 ビュンッ! と目の前を掠める植物。
 私は足場もまともにない中必死に避ける。

 だってこれ一撃食らったら速攻死ぬじゃん!

 に、逃げ出したい……。なんで私命の危機に遭いながらもこんな場所まで来たんだろうって冷静になった自分が訴えかけてくる。嘘ちっとも冷静になんてなってない。冷静に考えて冷静じゃない。

「絶対っ、ぶっ壊す」

 冷静だったらまぁまず裏切り者なんか追いかけないよ。敵陣のど真ん中になんか。

「あぁ、お前か」
「……?」
「僕の大事な魔導具に逆らったやつって」

 エルフは魔導具を撫でると私を見た。

「そんなボロッボロの魔石で、良くもまぁ魔力を引き出せたよね。魔石抑圧魔導具の圧力に無理矢理逆らって。なるほど、魔石を傷つけ魔力を垂れ流して魔法を使えるようにしてる、のか……」

 心底馬鹿にしたようにエルフは笑った。

「命知らずだか」

 言葉通りの罵倒なのだろう。
 あぁそうだね、世界がご丁寧に隠している魔石のことなんか知ったこっちゃない。

「世間知らずぞね」

 私は言葉通りの罵倒をエルフに投げた。

「外界から隠れ、ずっとここにいて、何も知ろうとせぬ貴様が。人間を語るなかれ」
「まだ人だと思ってるの? お前ら自称人間共は人の出来損ないで魔物のなり損ない……。生粋の人間は、シラヌイ・カナエくらいなもんだよ」

 ザワり、と空気が揺れた。

「人がエルフの魔法なんか手にするからこうなるんだ。古代を見習って欲しいよね……。僕が直々に手を下してあげるよ」

 残りの魔力はきっと少ない。なるべく少ない魔力で、ケリをつけなきゃ。

「リィンさん……。私、なんだかこの方が好きになれませんわ」

 エリィが私の前に立とうとする。
 エリィはエルフだけど精霊が拒否するとかって理由で何故か魔法が使えない。要するにただのバブちゃん。

「同じエルフとして、人を見下すその態度が、気に入りませんわ!」

 それなのに震える体に鞭を降るって立ち上がった。

「人を見下すその心が、きっと差別を作るのよ。人だけじゃない、私たちエルフも、人も、変わらず命だわ!」



「──よく言った」

 空から茶色の何かが舞い降りた。

「戦争自体に関わるつもりはなかったんだが、エルフが出るなら話は別だ。おい小娘、ここは俺がなんとかしてやる。お前はさっさと行け」


「何故ここにいるぞ万年プーのエルフ界随一のスカポンタン!」
「小娘から先潰していいか?」
「申し訳ごさいませんです!」

 手のひらの返し方は光速だった。
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