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戦争編〜第四章〜

第183話 人権侵害の擬人化

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 リィンは北でも南でもなく上に登って行った。それは屋上だ。中庭に向かうための入口を探す時間すらもったいないと考えたリィンは最短距離で向かうことに決めたのだ。

 結局2階を回るのは自分の役目か、なんてことを考えながらエリアは走った。

 彼女の第一優先が魔法が使えない状況の打破、という点から考えてまぁまぁ納得できる。

「(私の、従兄)」

 リィンがそう言った。

 思わずクスリと笑みが零れる。
 大前提として、エリア達エルドラードは金の血が誰か、というのは全て把握している。たとえ金髪碧眼でなくとも、あるいは両方の色が表に現れなくとも。だからクロロスもグロリアスも、エリアも混乱したのだ。『把握していない詳細不明な金の血』がどこから来たのか。

 血筋のルーツを知れた、という事は囲う必要が無くなったわけだ。なんせ家に凸ればいいだけなので。
 このまま消息不明、なんて金の血流出を恐れなくて良くなる。

「(このタイミングでその情報を出した、ということは私を安心させるためか)」

 それとも。

「(純粋に驚かせるためか)」

 こっちの方がそれっぽそうだな、なんて考えながらエリアは一つ一つ部屋を確認していく。

 従兄なんて特徴的な血筋を出しておきながら名乗りをしなかったのは、恐らく名乗れない理由があるのだろう。もしくは名乗りたくない理由が。


 王子の従姉妹。つまり国王の兄弟の子。
 現国王、ロブレイクに存在する兄弟は残り一人。

 現在の年齢から考えて特定出来るのは一人しか居ない。
 あの男が大事に大事に、それこそエルドラード本家からも隠す様な秘蔵っ子。


「あぁ、我が主。深窓の令嬢ってアクティブに暴れ回っていいと思います?」
「開口一番のセリフが本当にそれでいいのか????」

 北側の廊下の丁度中腹辺りの部屋で、エンバーゲールは混乱した。

「エっ、エリア君!」

 カナエが立ち上がった。……拍子にトランプがバラバラと崩れ落ちた。

「…………何してたんですか?」
「シラヌイ嬢ぼろ負けのババ抜き」

 あぁ、ポーカーフェイス下手くそだもんなぁ。
 実際カナエの手元にババがあったので回ってきたババが中々どこかに行かなくて奮闘していたのだろう。

「──それで、私の部屋に土足でぬけぬけと入り込んできた男は」

 のったりとした口調で語りかけた男をエリアは見る。
 部屋に入った瞬間から認識はしていたのだが、優先すべきものが違っていたので無視をしていた。

「牢屋にいた男に見えるのだがな。さて、どうやって抜け出した?」
「おや、こちらの手を教えるとお思いで? 海軍の、蛙殿?」

 地下牢で確認はしていたが、言葉を交わすのは初めてだ。
 そしてリィンの情報から爆弾などを使う、というのも知っている。

 カルロソ・フロッシュ。
 エンバーゲールとシラヌイ・カナエの監視役だ。

「(エンバーゲール様だけでなくカナエさんも一緒にいたとは、運がいい。…………ただ)」

「エルドラード、何しに来た。俺を国に戻すか? 殺すか? なんにせよ、俺の意にそぐわないことをするのなら……俺はお前を殺すことに容赦はしない」
「第2王子殿に同意を示すのは癪なのだが、まあ概ね私も同じ気持ちなのだな。弁明を言う時間くらいは与えてやろう」

 エンバーゲールとフロッシュが敵対の意志を見せる。

「(2人相手は……魔法も使えない中流石にきついですね……)」

 護衛兼従者として情けない話だが、エンバーゲールは魔法なしの戦闘訓練でエリアに勝ち星を上げ続けている程の実力者。

 まぁ王道な戦い方ではあるので、なんでもありのゲリラ戦ではエリアが勝ち星を上げ続けているのだが。

 ……そんな状況下そうそう無い、と思っていたが、エンバーゲールの有利な条件下でガチの殺し合いをしなければならないとは。

「私はただ」
「──ええぇええ!? エンバー君って王子様だったの!!??!???」

 ……。
 …………。

「……エンバーゲール様?」
「いやすまん、普通の反応が新鮮で騙し通していた」

 カナエの爆音驚き声に拍子抜けと言うか、肩の力が思わず抜けてしまった。

「カナエぇええっ!」
「わぁあフロッシュ君ごめんって! でもだってフロッシュ君教えてくんなかったじゃん!」
「空気を読むんだな少しは!」
「空気は読むもんじゃなくて吸うもの!!!!」
「馬鹿の癖に屁理屈を!」
「屁理屈だって理屈だもんーっっ! 六法全書に書いてあるもんーーっっ!」
「いい歳した女がもんとか使うな!」

 フロッシュに揉みくちゃにされるカナエ。なんかじゃれてるその姿を元主従が思わずポカンと隙だらけで眺めてしまった。

「…………なんなんですかあれ」
「まあ、何年も一緒に暮らしてたみたいだし、気心は多少なりとも知れてるんじゃ、ないかな?」

「(……何年?)」


 引っかかった。
 エリアが考え込むも、今その話を掘り下げる必要ないだろうと考えてエリアはエンバーゲールに向かい合った。

「エンバーゲール様。私はいついかなる時も貴方のそばに居ると誓いました」
「あ、あぁ、そうだったな」
「私がここに来たのはエンバーゲール様の監……そばに居るためで」
「おい、本音を隠すつもりなら隠しきれ」

 今監視って言いかけただろ。
 思わず死んだ目でエリアを見るエンバーゲール。

「私の行動に国は絡んでません。ただ純粋にエンバーゲール様があっちこっちで子供を作らないように、出来ればまあエンバーゲール様が末代みたいな感じでいてくれるように邪魔するつもりで来ました」
「おい!!!! 隠せ!!!! そこは隠せ!!!!」

 ぶっちゃけろとは言ってない。

「……──ですが、ま、やめました」

 エリアは素直に目的を吐いた。

「貴方には利用価値が出来ましたので、国に持って帰ります」

 敵対を露わにする言葉だった。
 フロッシュもエンバーゲールも思わず構える。

「……随分素直におしゃべりしてくれるんだな、エルドラード。俺の意思はガン無視ってわけか」
「貴方の血には価値があります。その髪色も、瞳も、昔から受け継がれたその血は非常に尊く、この世で最も神聖で、奇跡的なもの。……だが、エンバーゲール様という個人に用は元々ありません」
「人権どこいった」
「……ツッコミどころに血筋を感じますね、流石に(ボソッ)」
「は?」

 改めて考えると性格面でも似ている箇所が多いな、と考えた。性格とか個性とか個人を示すものに興味が無かったのもあり、比べたことは無かったが。

「要するにまぁ……なんと言いますか……」

 エリアは剣と小盾を構えた。

「死ぬか利用されるか位は、選ばせてあげますよ」

 エンバーゲールに与えられた選択という名前の人権は、実質一つと言っても過言じゃ無かった。



「狂ってるな、エルドラード」
「お褒めの言葉。光栄ですよ、殿下」

 爆発音が城の中で響いた。
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