最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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戦争編〜第四章〜

第182話 人権論外

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 アダラとリックは睨み合う間もなく戦闘を開始した。
 鉄扇と双剣、リーチの差は言うまでもない。だが、戦闘経験が物を言った。


「チッ……! めんっどう! なんでそんな武器で戦えんの!?」

 リックは田舎の冒険者である。クランのリーダーではあるが、魔物と戦う生業である冒険者。対人の戦闘経験は言うならば一般的。

 グルージャの際もそうだったのだが、リックは変わった戦い方に弱い。
 それは対人戦闘の訓練が出来る月組が一般人揃い、ということも理由の大半を占めているだろう。

「単純明快、攻め方がお利口さんやさかい、楽させてもろとるわあ……」

 対するアダラは海軍の将校。可愛く素直な部下に対しては面倒見のいいお姉さんだ。普通の戦い方をしてくる小物など、踊る価値すらも無い。


「あんさん、やっぱり可愛らしい太刀筋してはるなぁ。ぴーぴー頑張りよる姿見とるとうち涙が出てくるわ」

 アダラは素直に言って性格が悪かった。

「──あんたの前にその小娘の手足ゴロンて転がすのも面白そうやねぇ」
「……っっっ!」

 リックの太刀筋が少しだけ鋭くなった。
 最も、アダラにとって大した害もない程度だが。

「逆もえぇけど、ゴブリン程度の剥ぎ取りなんておもろくないやろ」
「リィンには指一本足りとも触れさせないからな!」

 上がった息を整えてリックがムキーッと指をさす。


「わがまま言うんなら、強くなってから言わなあかんよ」

 アダラは変わらず笑顔で鉄扇を振るった。


 ==========



「っ!」

 グレンさんに続き、速攻でリックさんが離脱した。
 ここでアダラの相手をするよりは時間短縮になっているけど……!

「……。」

 隣を駆け上がるエリアさんの表情も暗い。

 長い階段を駆け上がって、ようやく2階まで私達は辿り着いた。
 相変わらず天井が非常に高い。
 外観から見て建物としては2階が最上階だろう。

 階段から出た際は左右に通路が広がっていた。その途中途中に扉が存在する。
 そしてその左右の行き止まりには、1方向だけの曲がり角。

 つまり東側……謁見の間に向かう為の道は二通り。

「北から行くか南から行くか……。どうしますか?」
「……。二手に別れるしましょう。エリアさんは単独で、エリィと私がコンビで」
「私が金の血から離れるとでもお思いで? 私にとって貴女の意思より貴女の流血具合とかそっちの方が重要なんですけど?」

 人権をフル無視するな。

「あのですね、大体貴方の目的は第2王子ですぞね? 私に構うすてる暇、存在すてると思うですか?」
「あ、エンバーゲール様に関しては後で拷……尋問して子種の在処を突き止められれば十分なので」
「子孫繁栄と流血沙汰を同じ括りで見るなかれ」
「繁栄!? とんでもない、管轄外に血が漏れるのはちょっと……。金の血って物理的に利用価値ありますし、今は流血可能性が高いリィンさんの方向に行きたいですね」
「エルドラード想像以上に厄介!」

 エルドラード家はクアドラード最大の汚点と言っても過言じゃない気がする。
 というか私も第2王子も人権ガン無視で、可哀想。特に私。

「人権って言葉、ご存知?」
「そこになければないですね」

 ならないね──!

 頭痛くなってきた。
 私は一息吐き出すと、エリアさんに小指を差し出した。

「約束です」
「え?」
「私は血を一滴たりとも流しませぬ。だからエリアさん、エリアさんはエリアさんの目的の人を探すすてください」

 指切り。
 貴族が交わす約束としてあまりにも幼稚すぎる口約束だ。

「約束すてください。エリアさん、必ず第2王子、引きずり下ろすして。お願いします」
「どうしてそこまで私と行動を別にしたいんですか?」

 いやまぁ金の血狂いと関わりたくないっていうのは本音のひとつだけど、最大の理由がある。

「第2王子、あちらの手に渡すして置きたくなきなので」
「…………はい?」
「すごいですぞね、第2王子。行動力と決断の速さ、目を見張るものがあるです。恐らく優秀な方なのでしょう。第一、海外にいる王太子殿下と学生の残りの王子を考えるすれば矢面が必要でしょう?」

 この国、次の国王候補が甘いんだよね。
 海外に留学中の第1王子はひとまず論外として、今回裏切った第2王子を除けば第3王子しか候補が居なくなる。第4王子は市政にバカにされているっぽいし、本当に矢面としてのポジションだったんだろう。

 要するにまぁ……。次期国王陛下の、影武者?

 クアドラード王国にはそれが必要だと思うわけよ。第2王子の謀反が表沙汰になっていないだろうから。第2王子って第3王子を隠しておくためのいい的になると思うんだよね。
 今回の謀反で事実上継承権を失っただろうから、第1及び第3王子に魔の手が行かないようにするポジションには立てると思うんだよ。

「…………。え、ぐいこと、考えますね。人権どこ行ったんですか?」
「そこになければ無きですね!」

 お前が言うな。

「それに、クアドラードにとって大事な人でしょ」

『例えば、姫さんに大事な奴がいるとするだろ。それで姫さんは──そいつに裏切られた』
『姫さんは、裏切り者にされて1番嫌なことはなんだと思う?』

「必ず、引きずり出す。引きずり出すは、貴方です。第2王子にとって大事な人」

 端的に言って第2王子に価値がある。
 だから、私の目的云々はさておいて、国のためにエリアさんには動いて貰いたいのだ。

 私は、ルナールしか見るつもりないから。

「……。えぇ、分かりました金色の姫。貴女の思惑に乗りましょう」

 エリアさんは私の小指に指を絡めた。

「頼むですよ、……──私の従兄を」

 え、という驚いた表情のエリアさんを置いて私はエリィの手を引いた。


「エリィ、私達は魔法を」
「え、あ、分かりましたわ。ところで何の話をしてましたの?」
「バブちゃんには難しき話~!」
「もー! そうやって誤魔化して! 私リィンさんより年上ですのよ!?」
「それが怖い所ですぞね」

 ルナールは大前提として、私達は魔法を解放しなければならない。

 だからまず向かう先は決まっている。

 ──中庭だ。つまりは屋上だ。

「リィンさん!」

 エリアさんの声が聞こえた。
 あの、普通に名前を大声で叫ぶのやめてもらってもいい? 一応変装してるんだよ?

「後で縛り上げますからね!?」
「人権!!!!」

 いい加減にしろ。
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