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戦争編〜第四章〜
第181話 意味深に考えると羞恥で死ぬ
しおりを挟む階段を駆け上がる。
「グレンさん本当に大丈夫ですの!?」
「あいつなら大丈夫!」
エリィが焦ったような声を出して私を向いた。
幼いとは言えど人間の物差しで彼女を見れば立派におばさ……見聞のある年齢。現状がどうなっていて、戦況がどうなっていて、有利と不利がどちらか、なすべきことは何か、というのは理解出来ている。らしい
そんなエリィの疑問は私が答えるまでもなく、リックさんが間髪入れずに返した。即答、という形で。
「根拠はあるんですか?」
「俺の相棒だから!」
相棒を容赦なく信じきるリックさん。
その重圧は他人事だから何も感じないけど、もし私に向けられたらと思うと胃がキリキリするよね。これが長年コンビを組んでいた兄弟同然のコンビの信頼関係か……。怖。
ちなみにその解答に根拠はないんだけど。
「……何故か納得してしまうところがあるんですよねぇ」
エリアさんの感想に激しく同意をしたい気分です。
「とりあえず、私達は前だけ見るですぞ!」
後ろのことを気にしている余裕なんて、無い。というか後ろを気にするならグレンさんの本領発揮出来るように魔法の使えない状況を打破するしか方法が無いんだよ。
色々仕込んで見たとはいえど、リミットクラッシュで私が魔法を使えるのは精々一時間程度だろう。もちろん節約して、だ。
一日分上乗せされた魔力が魔封じの空間でも何故か使えるのはさておき、使える量は一日分ではなく、精々一日分の2割。
なぜなら魔封じに抗う為の魔力で大半が削れた。一日分を費やしても足りなくて……。魔力を空にすることで行使が出来るリミットクラッシュの条件を易々と揃えちゃうくらいには。
「……!」
エリアさんとリックさんが階段の先を見上げた。
カン、……カン。カカン。
耳をすませば聞こえてくる不規則なヒールの足音。
「──あらあらあらあら」
あっ、これやばいかも。
「うちの存在に気ぃついとりながら、うちに頭を下げる気配も無い。……おもろい話やなぁ。そんな無知な子ぉが、ここにおるやなんて」
顔も見えてない状況だというのに語りかけてくるその声に聞き覚えは……残念ながらある。
というか独特のエセ京都便みたいな喋り方をするやつ、知ってる。まぁ会ったのは一回だけだけど。
「あんたら、どこのどなた?」
海軍海蛇……アダラ……!
三匹いるうちのなんか一番物騒な蛇! ……。いや地下闘技場でドン引きするほど対戦相手を惨殺してたシュランゲも大分アレだな。
浅く温かな海の様な、目を張る鮮やかな髪色を三つ編みで束ねた女が現れる。
「跪いて頭下げるんが、うちのルールやろ?」
そんなハウスルールあってたまるか!!!!
いや初見殺しもいいとこだな!? え、こんな幹部独自のルール設けてんの? そんな好き勝手が許される立場なんだ!? 幹部ってすげぇ! ちょっと本気で寝返ろうか考えた。命の危機が常にあるという点でマイナスです。
……これもう幹部に関しては変装意味ねーな。
「っ、行け!」
リックさんが剣を抜いた。
「どっちみち、俺は元々リィンの手助けするためにここにいるんだ! 足引っ張ってばっかだけど、追っ手を食い止めることくらいはできる!」
アダラは恐らくリックさんより強い。というか私より強い。
先程のシンミアとは比べ物にならない。
「行け、俺の太陽! お前の相棒、ぶん殴ってこい!」
……っ。
私はその言葉に駆け出した。
「行かせると思うん?」
私の目の前に凶悪なブーツが眼球を狙うように蹴りつけてくる。
──ガンッッ!
「やらせるとでも! 思ったか!」
双剣を構えてその蹴りを受け止めたのはリックさんだった。
「お前は俺にしばらく付き合ってもらう。──具体的に言うとリィンが魔法何とかするまで!」
「リックさんの大馬鹿者ー!!!!」
目的を! 言うな!
見捨てて走った。エリアさんが額を押さえていたけど、エリィがポンポンとエリアさんの背中を叩いていたのが逃亡のハイライト。
「一体おにぃさん、何考えてはるん?」
アダラは理解し難いものを見る目でリックを見た。
「ん? 何がだ?」
「あの娘を逃がすんは分かるでぇ? あの娘がリーダーなんやろ。なんや、えらいこと大事にされてはりますなぁ」
うん。
リックは素直に頷いた。
「それにしてはあんさん、ちぃと頭が足りひんと思わん? こうやって一人一人抜け出して行くと、やで?」
リックの視界に銀線が掠めた。
ピッ。
頬に痛みが走る。
「こうやって一人一人潰されるし。何よりあちらさんは残り3人、こっちは残り……何人おると思うてはるん?」
単独離脱方式であると、純粋に人数の多い方が有利である。
もちろんリィンはそれを渋った。しかしリミットクラッシュの魔力制限がある以上、確実さより速度を上げた方が可能性が高いのだ。生き残る、ための。
「それにあんさんは、うちより弱っこいやろ? 呆れたわぁ……」
アダラの手には鉄扇が握られていた。
開いたそれで口元を隠したアダラは、リックを見下した。
「──うち、もしかして、舐められとるん?」
ぞくりとリックの背中に悪寒が走った。
殺される、と。蛇に睨まれた。
「もう一回聞くけど、おにぃさん何考えてはるん?」
リックはぎゅっと愛剣を握り締めてその問いに答えた。
「──何も考えて! ないッッッッ!(爆音)」
ちょっと耳がキーンってした。
「いやぁ、俺は考えるの苦手だから。目下の問題点しか考えられ無いんだよ」
納得するようにウンウンと頷くリックを訝しげな目で見るアダラ。脳内には『馬鹿』という二文字しか浮かんでないことだろう。
「ほんに……頭痛ぉなってくるわ……」
アダラは思わず眉間を揉んだ。
「あ、でも俺が出来ることがあるんだ」
だから俺はこの場でお前を食い止める為にたっている。
リックは剣を構えた。
「信じる。俺の相棒と、俺の太陽を」
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