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戦争編〜第四章〜
第179話 変装破りのエキスパート
しおりを挟むパチリ。私は目を覚ます。
見張りは幹部ではなく普通の兵士。私が勢いよく起き上がったことに警戒をしている二人組だ。
よし、間に合った。
トリアングロに来て6日目の朝。……パパ上のメテオから丁度一週間。
自然も何も無い空間、寝る事で何とか回復を間に合わせた。
向かいの牢屋には相変わらず4人がいる。4人共起きているようで何よりだ。
さて、ここで問題です。
通商街道のそばの集落からたった一日で荷馬車より速く来る方法、王都近辺からバレないように王城の城門前まで辿り着いた方法、そしてこれから幹部がうじゃうじゃいる魔窟で立ち回る方法……。
一体、なんでしょう。
「……ふ、ふふふ」
完全に幹部体制にさせない為にどれだけ油断させたことやら。
それでは正解を答えましょう。
「禁忌魔法」
私はニッコリ笑った。
「──〝リミットクラッシュ〟」
明日の魔力を、限界を越えた魔力を振り絞れ。
たった一瞬、すぐに掻き消える魔力だとしても!
==========
──ピシッ
トリアングロ王国の王城の中心。狂うほどの緑が生えた空間に巨大な魔導具があった。
中庭のエルフはヒビの入った魔導具を見上げた。
「……またか」
無理矢理作られた自然には精霊が多く存在した。この魔導具を管理する為に必要な力だ。
「〝リペア〟」
常に魔導具は生きた魔石を封じるために稼働してある。その魔力回復をするために何度も、何度も、魔力回復魔法をかけなければならない。
だが、今回は違う。──今回も違う。
「……なにかに無理矢理魔力を逆流させられた、って感じだな」
この国の心臓とも言える魔石抑圧魔導具。
魔導具の魔石は加工されてあるため封じることが出来ないが、野生の魔物が国に寄り付かなくなるくらい魔石には効果がある。
古龍の魔石を使った巨大な妨害を、一体誰が逆らったというのだろうか。
「…………あぁ、来たか。隕石」
ルシアフォールは空を見上げ、降り注ぐ2つの隕石を睨んだ。
==========
「──来たか、やはり!」
サーペントは窓から空を見上げて予想通り隕石が降り注いで来たことに声をあげた。
「法則は一週間……! 隕石の数は減っているが大きくなっている……」
今更気付いたって仕方がないかもしれないが。
幹部を下手に王城から離すと隕石に押し負けるかもしれない。だが周期さえ分かれば今後の対処が取れる。
「問題は最短で一週間なのか最長で一週間なのか……」
要するに、ロークでもファルシュを圧倒的にどうにかせねばならないという事。
……。
「リィンがこの国に来て1ヶ月以上は余裕で経っている。ローク・ファルシュが目覚めたのは半月前。しかも意識不明の状態で起き上がってすぐだ。どう考えても……」
おかしくないか、という疑問が脳裏をかける。
「連絡を取っている暇は無い」
リィンからクアドラードへ、ならありうる可能性だが、クアドラードからリィンへの伝達は難しいはずだ。
それはルナールの聞き取りで判明している。
『──明日は降ってきそうですね』
リィンはまるで確信しているような物言いだった。
「…………まさかリィンはローク・ファルシュと元々繋がりがあったのか?」
それに気付いた瞬間、サーペントは周辺にいる兵士に司令を飛ばした。
「今すぐ地下牢を確認しろ!!!! 誰でもいい、幹部に言えば分かる!!!!」
リィンの存在は一部の者にしか伝えていない。人の口に戸は建てられない。
同じ金髪ということもある。思わず血縁を疑う。
「……まさか──ローク・ファルシュの隠し子か!」
はい。ここでも貴族と疑われないのがリィンクオリティなのである。もう喋らない方がいい。
「サーペント様!!」
「今度はなんだっ、」
慌てた様子で見回りをしていた兵士が駆け込んできた。
「──ルナール様がいません! 目撃情報から恐らく元帥の元へ向かったかと!」
「いい子にしてろって言っただろルナールっっっ!!」
俺を胃痛キャラにさせるな世界。
==========
「はい、脱出」
魔法で鍵を外した私を見るグレンさんのドン引きした表情はきっとこれからも忘れることは無いだろう。多分3分位は。
まずは集落からの話をしよう。
パパ上の2回目のメテオが放たれた時、私はその期間が一週間だと言うことに気付いた。
一週間、それはリミットクラッシュを使った後に回復する期間だ。
メテオって魔法はとても難しい。なんてったって無から有を生み出す巨大な魔法。天変地異そのものだ。だからそこで察することが出来た。魔力を使い果たして回復してまた魔力を使い果たしてを繰り返すのだと。
メテオの後、私も連動するようにリミットクラッシュを発動し、サイコキネシスでノッテ商会を置いて要塞都市まで無理矢理強行した。
そこで色々話したり企んだり、後兵舎から装備をちょいと拝借してアイテムボックスに仕舞い、魔力を使い果たす寸前に城門で声を上げたってわけ。
あとはもう、パパ上より遅く発動したリミットクラッシュの枯渇魔力の回復。パパ上より早く回復させる必要があったから寝て過ごして回復に当てました。
「早いとこ、ここから離れるしましょう」
「……は、はぁい」
トリアングロの軍服、そしてノッテ商会からぶんどったカツラとか被れば全員の変装が完了した。
この姿なら変装前の姿を知っている幹部が来ても大丈夫だろう。それに隕石魔法で慌ただしい城内で呼び止める人は少ないはず。
「私が魔法を使えるは一瞬です。魔法ぞ使える内に、魔封じをどうにかせねばならぬです」
地下牢を急ぎ足で駆け抜ける。
地下牢は私達以外にも囚人は居た。まぁ、個別の牢屋に入れるならまだしも空間は無いだろうと踏んでいたから助かるよ。
人の出入りがある場所は紛れ込みやすいし。
その上轟音が鳴り響いた。……来た、隕石。
「良きですか、まず第一に私たちの武器、魔法の確保です。エリィは置いておき」
「え、私置いていかれますの!?」
「ハイハイ」
適当に流すも、それが分かったのかエリィは私をポカポカしてきた。うーん、貧弱。
「魔法を封じるは魔導具です。魔導具の破壊が再優先、そして各々の目的を」
私はルナール、エリアさんはエンバーゲール殿下。
脱出の手段はぶっちゃけまだ考えてない!!!!
ただ何より魔法、誰より魔法! それだけでこっちの戦力がグンと上がる!
何よりこの国にクアドラードが攻め込んできた場合、攻め込んでいる場合、めっっっっちゃくちゃ力になる。
この国の心臓を狙う。
「幹部は?」
「戦闘は正直避けるべきです。けど……」
私はこの要塞都市王城の造りを思い出す。
この城は西側に正門、東側に恐らく謁見の間が存在する。
形は正方形の石造り。真ん中にぽっかり穴が開いており、そこに中庭らしきものが存在するらしい。
ドーナッツ状の城。地下牢から円形に向かって行かなければならない。
北側からか、南側からか。
私から距離を離したいんだから恐らく4階だけど、果たして中はどれだけ複雑になっているのか。
ただ分かることはひとつ。
「今度は命のやり取り」
絶対に手加減なんてしてくれないことはお墨付きだ。だって逃げ出したんだから。
「…………。」
「……。」
思わず暗い表情が出る。
階段をかけ登っていく。
地下へ続く階段はまっすぐだった。
1階に出ると目の前に螺旋状の階段が見えた。空間は高い。これ……内部構造あれだな……階層は2階くらいしか無いかもしれない。
周囲は兵士が見えるけど、皆が皆慌ただしい。
これなら大丈夫だろう。
螺旋階段の前に掃除をしているメイドが居た。
慌ただしい私たちに驚いた顔で顔を向けている。
「──避けろ!!!!」
グレンさんの叫び声が脳内に入り込んだ瞬間、反射的に横に避けた。
ビタァンッ! という大きな音。
先程まで私が居た場所には鞭があった。
鞭を握りしめているのは掃除をしていたメイド。
「……なんでバレんだよ」
その声には聞き覚えがあった。
「悪いな、変装の見破りは俺の得意分野なもんで」
グレンさんは苦笑いを浮かべながらそのメイドと。──幹部、ティザー・シンミアと対峙した。
「リィン、俺の武器!」
「はいです!」
〝アイテムボックス〟
トリアングロに入る前に回収した魔石付きのメイスを渡すとグレンさんはこちらを見もせずに構えた。
「行けっ!」
「でも」
グレンさんの叫び声に反論を返そうとする。
シンミア程度ならそこまで時間はかからない。だけどグレンさんは今魔法の使えない魔法職。
全員で縛り上げた方が……!
「1分1秒無駄にするな! いいから黙って、俺に賭けろ!」
駆け出した。その言葉通りだ。
グレンさんの覚悟を無駄にしない。……たとえグレンさんが死んでも、りー、泣かないっ!(きゅるん)
「(今何故か分からないけどむかつきましたって顔)」
まぁ、冗談はさておき、リスクがあるけど私には無いのでさっさと行く。
「いいですグレンさん! 必ず持ちこたえるすて!」
私が残り2枚目の式神をグレンさんに投げ渡した。
魔法が開放されるその瞬間まで。何とか耐えて。魔法さえあればグレンさんは決して負けない。
「待て愚族が!」
「させるかっ! 〝火球〟──急急如律令!」
背後で聞こえる戦闘の音。
私達は急ぎ足で階段を登って行った。
「流石は幹部って所だな。周囲の兵士が避けていく」
グレンの畏怖にシンミアは無表情で鞭を握りしめた。
「腹立つな……俺の変装を見破られたこともそうだし、何より一番弱くて、心お優しい弱者が俺の前に立ち塞がるなんてさ」
──舐められたものだよね。
シンミアがそう怒りを乗せて言った。
「あーぁ、王様からの命令でわざわざ待機してたのに、結局こんな弱いやつに俺が止められるなんて」
シンミアの変装はクオリティが高い。異世界風に言うとコスプレだ。
カツラを外したシンミアはやれやれと言いたげに肩を竦める。失態を重ねすぎた。
不意をつければ5人程度、すぐに殺せた。気付かれなければ。
「……。仕方ないだろ」
グレンは相変わらず苦笑いを浮かべているが、決定的な言葉を口にした。
「──俺とお前は同じなんだから」
「…………は?」
魔法なんて気持ち悪いものを使うお前と、俺が?
そんな感情が溢れた表情。
グレンはさらに言葉を続けた。
「変装を見破ったのはお互い様だろ? ──なぁ、死霊使い」
鎮魂の鐘、枢密院出身。
彼らは魂を見ることが出来る。
魔法を愛した少年と魔法を嫌った少年は、奇しくも同じ戦いの舞台に立った。
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