上 下
169 / 193
戦争編〜第三章〜

第169話 こちら台風の目

しおりを挟む


「いやぁ、皆さんお待たせしました! さて、出発しましょう!」

 ニコニコ笑顔でノッテさんが現れる。


「「「「「──遅い!」」」」」

 一同は思わず、声を揃えた。




 ==========



 ノッテ商会の会長であるノッテ(もちろん偽名)は、第二都市で金髪碧眼の少女に脅され、情報伝達も兼ねて1人クアドラードへ戻ることを決めていた。

 『Fランク冒険者リィンについて』

 金髪、であればまぁ間違いなく王家は把握しているだろう。
 一体どこの誰であるのか、本当にクアドラードの者であるのか。潜入を任されている以上、害にならないかを把握する必要があった。
 トリアングロに騙されているとも限らない。

 しかし、クアドラードに向かい通商街道付近まで戻るのに一週間は余裕を見てもかかる。
 よって馬車に細工をし、安全な場所で終われるように仕組んだのだ。

『しかも人為的なる故障ですぞね』

 天国のお母さん、お父さん。俺は今幼女のせいで胃が死にそうです。

「(なんっっっでバレるんだよーー! お前がFランク冒険者であってたまるかー!)」

 20年間で作っていた国境ルートを使い、無事にクアドラードに戻れたノッテは、知ることとなる。


「──あぁ、その娘本当にFランク冒険者だぞ」
「は……?」

 王宮の影をしている同僚に問いかければ衝撃の回答が返ってきた。

「経緯としては、同じFランク冒険者としてコンビを組んでいた幹部ルナールと、スタンピードの撃破をして、グリーン子爵邸で潜伏していた幹部シュランゲを五体満足で確保して、冒険者大会で準優勝を果たし、王都に潜伏していた幹部べナードの炙り出しに成功している」
「それは本当にFランク冒険者か……?」

 ちょっとFランク冒険者の定義を調べてこい。話はそれからだ。

「え、というか幹部ルナールとコンビを組んでいたのにそんなに国家に貢献して……? なんだ、ルナールは味方か」
「そんなルナールは王城で戦争の開幕宣言をし、コンビを盛大に裏切ってトリアングロに逃亡した。その際、その娘は助骨を三本、内臓に少々」
「どういうこと?????」

 普通に敵じゃん??
 というか怪我人じゃん?

 口ぶりから回復魔法は使っただろうが、完治する程では無いだろう。

「エルドラード邸にて保護されていたが逃亡。……まさかファルシュ通り越してトリアングロにいるとはな(ボソッ)」

 遠い目をした同僚に首をかしげつつ、ノッテは情報を噛み砕いて飲み込んだ。

「……え、てことはあのFランク冒険者ってクアドラードから逃亡してトリアングロに亡命……?」
「あー、ないない」
「ないの!?」

 一番有り得る可能性を口に出したら速攻その可能性を排除された。
 ノッテは即答した彼を見ると、気まずそうに頬をかいている姿が見えた。

「そもそも、彼女、国がトリアングロの狐疑惑で睨んでて……、んで俺が監視に着いたんだけど……、上がどんな考えなのか分からないが雰囲気的にその負い目もあって、というかルナール見抜けなかったのはぶっちゃけ俺の失態。俺の命は既にタイムリミットが迫っている。秒速で」
「秒速で」

 それは冤罪をわざとぶっかけて協力させようというヴォルペールの目論見故に、だ。監視がバレるという前提もあったため、この失態は作り上げられた失態なのだが……言うこともあるまい。
 そもそもペインが身近にいながら見抜けなかった時点で、トリアングロの隠匿能力が上を行く証明になる。

 流石に全員冤罪被害者の隣が真犯人だとは思うまい。

「(てか、それは無いって確信出来るの……)」

 深くため息を吐いた男は遠い目をしてファルシュ領の方角を見た。

「(あのローク・ファルシュの娘だからなんだよなぁ~~~~~)」

 あれは拙僧がファルシュ末娘を探りに出た時の話、普通にバレて張本人にエンドレスダークマター食レポ大会(意識は高い高い)に付き合わされたのでございます。うっ、頭が……!
 害なすものは自分の手でケリをつける。父親の血が濃い。

 そんな少女だと理解しているから、まあまずクアドラード裏切りの線は無いと確信していい。

「……ノッテ」
「な、なんだよ」

「頑張れ」

 哀れみを込めた視線に、ノッテはすくみ上がった。

「──Fランクとか詐欺だろーーーーッッ!」

 代弁ありがとうの気持ちを込めて額に思いっきり指を放った。デコピンである。



 ==========



 ノッテさんがようやく戻ってきた。彼が発ってから一週間と少し。だいたい8~9日くらいだ。
 隕石が降り注いでから一週間程でもある。

「納品間に合うですか?」
「間に合わせるさ。皆さんが荷物を見ていてくれたおかげで、無事荷馬車の修理と商品の補充が終わったぜ」

 横を見れば無事な荷馬車が2つ。
 倉庫に入れていた荷物を馬車に移している。

「大丈夫ですたか?」
「はは、心配ありがとな、お嬢さん。無事に──」
「──そちらの商業施設にシンミアぞ訪れたと聞くですけど」
「えっ」

 ノッテさんは思わず部下を目で追った。

「嘘です」
「えっ」

 その様子が確認出来たのでネタばらしだ。
 ノッテ商会の施設に行ったとは聞いてないし知らないからハッタリだったけど、本当に・・・商品補充をした人も驚いていた様子だからシンミアは火薬に興味無かったのだろう。

「……お嬢さん今」

 それよりノッテさんが商品補充と馬車修繕の現場を知らないことが判明出来たよね。

 私はニッコリ笑った。
 ノッテさんは胃を押さえた。

「…………Fランク冒険者とか絶っっっっ対嘘だろ」

 そんな心を込めて言わなくても。嘘じゃないよ。真実とも言わないけど。

「まぁシンミアが来訪すたは施設ではなくこの集落ですけど」
「えっ」
「本当です」
「えっ」

「……リィン絶対あのしょうかいちょーさんの反応気に入ってないか?」
「絶対そうだと思う。なんせ性格悪いからいい反応くれる人は好きだろ」

 ボソボソと後ろで小さな声が聞こえた。

「月組」
「「何も言ってません!」」

 私がため息を吐いたその時だ。
 ビリビリと肌を突き刺すような魔力が空から降り注いだ。


「……ッッ!」

 空を見上げた私に続いて他の人たちも空を見上げる。
 空から王宮に向け、3つの隕石が降っていた。

 カウントダウン──!

──ドォン! ドォン! ドォン!


 鼓膜を揺るがす振動。
 4つの隕石から一週間経って3つの隕石が降り注いだことから、恐らく1ヶ月でケリを付けろってメッセージ性を感じる。
 鬼畜か。

「うわ……でた」
「魔法つーか、最早天災じゃん」
「凄いですわ」

 感動する者、ドン引きする者、反応は様々。

 多分また一週間後、今度は2つの隕石が降り注ぐはずだろう。

「……あ、そうか」

 私はひとつ、いい策が浮かんだ。

「ノッテさん」
「な、なんだ?」

「──私達、先に行くです」



「「「「はぁ!?」」」」

 馬車よりも早く、王都に行くと宣言した私の発言に全員が吃驚の声を上げた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸
ファンタジー
異世界に転生した葉菜花には前世の料理を再現するチートなスキルがあった! 食いしん坊の王国ラトニーで俺様王子様と残念聖女様を餌付けしながら、可愛い使い魔ラケル(モフモフわんこ)と一緒に頑張るよ♪ ※基本のんびりスローライフ? で、たまに事件に関わります。 ※本編は葉菜花の一人称、ときどき別視点の三人称です。 ※ひとつの話の中で視点が変わるときは★、同じ視点で場面や時間が変わるときは☆で区切っています。 ※20210114、11話内の神殿からもらったお金がおかしかったので訂正しました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...