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戦争編〜第三章〜

第168話 子供の気持ちは分からない

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 シンミアとのドタバタも無事(仮)に終わり、丸一日計画を立てることに精を出した。
 ちなみに夕食はエリアさん特性、ボロネーゼだった。なんでボロネーゼの中にたこ焼きが入っていたのかは考えないでおく。地味に美味しかったけど、あの人限られた調理器具の中、どうやってたこ焼き作ったんだろう……。

 ちなみに私は一度も料理をしてない。いや、正確に言えば無邪気な女の子達がせがんできたので1回作ったんだけど……食べたエリアさんがぶっ倒れた辺りから……我々の料理番長はエリアさんだ。ちなみに月組は私の料理の腕前を国境基地で知ってるから、一口も食べなかった。


 泣いてないです。ぐすん。



「あの、リィンさん……」

 そして夜番。

 パチパチと焚き火の爆ぜる音を背景におずおずとやってきた今晩の相方、エリィの姿を見て私は速攻指さした。

「──話ぞある?」
「な、なんで分かりましたの!?」

 わからいでか。




 エリィは私の隣にちょこんと座る。そして上半身を私の方に向けた。

「グルージャという人間に教えられた時から、ずっと考えてましたの」

 真っ直ぐな目だなぁ。

「人の体に魔石が存在するってお話。……実は私、リィンさんと離れてから……透明な魔石を壊すお仕事をしてましたわ。……私は、人を苦しめたんじゃないかって……」

 眉間に皺を寄せたまま私を見つめ続けている。
 ふむ、と言うと私とグレンさんがグルージャ邸に潜り込んでいた時か。確か3人は神使教に居たんだっけ。

 魔石を壊す、ってことは神使教の証拠隠滅作業か。


 ──迷い人をこの世から解放し、魂を鐘の音と共に輪廻へと送り届ける組織。魂と肉体のどちらかをこの世に留めるべからず。悪人も善人も死は等しい。故に、死は何よりも重きを置くべき。それが鎮魂の鐘の教えである。


 魔石たましい遺体にくたいのどちらかをこの世に留めるべからず。

 鎮魂の鐘って、隠匿作業の為の組織だよねぇ。死は何よりも重きを置くべき、っていうのもきっと人間に魔石があることをバレないようにする為だ。


「結論は出るすた?」

 私がエリィに疑問を問い掛けるも、エリィは首を横に振った。

「いいえ。私の行為が人間を傷つけ苦しめる行為なのか、本人に聞けない以上解明はできませんわ。……ですけど、ひとつ答えは得ました」

 エルフははっきり口に出す。

「それに関して私が傷付く権利は無い」

 心臓に手を当ててさらに言葉を継ぎ足す。

「私の行動が人間を苦しめたのならば、私は悪になりますわ。私の行動に何も意味が無いのなら、勝手に祈りますわ。私より傷付く誰かがいるのに私が苦しんでしまったら、その人は私を責められない」

 ……優しい考え方だなぁ。
 エリィらしくは無いけれど、エルフらしくはある。

「……私、貴女を見て学びましたわ」

 あまりにも優しく笑う。

「リィンさんって悪になることで誰かの悲しみや苦しみを昇華しているのね」

 ──いやそんなことはありませんけど????

 他人のこと微塵も考えてないし、なんだったら人を苦しめることに思考のリソースの大半を割いてるけど? あっそういう意味では他人のことを考えているかも。

 具体的に言うとルナール。あとべナードとクラップとコーシカとグルージャ……はいいや。そしてシンミア。あれ、幹部ばっかだな。

「そッ、それより、他に話ぞあるのでは無きですか?」

 強制的に話題を変える。
 結論じゃないけど、納得出来る答えが存在するのならあんな表情で声をかけないだろう。探りかけたら『なんでわかったの!?』って言いたげな表情で目を見開いた。分かるんだよな。顔が素直過ぎて。

「その、私、何故人間が魔石を忌避しているのか分からなくて……。特にトリアングロの人間はずっと嫌がっている様に思えますわ」

 私はその疑問に答えていいのか迷った。
 ぶっちゃけ、私の思考回路的に人間と魔石の問題って月組の様に当事者ではなくてカナエさんみたいに部外者の視点から考えちゃうんだよね。だって転生者だから。

「んー……」

 世間知らずには変わりないけど、答えは必要だろう。

「人間には差別が存在するです。魔族差別、とか」
「魔族差別」
「魔族の細かき仕組みは除くですけど、要約すると『無限に扱える魔法はまるで魔物のようだ』」

 ……だったっけ。
 魔族と触れ合ったのはまぁ少ないし、話をしっかりしたのは王都のギルドマスターのみ。それに追随する差別の実感は、無い。

「そんな差別ぞすてるのに、人間の方が魔物に近きでしょ。魔石ぞ存在する故に。だから排除したきのでは。現実逃避の為に」

 差別しているからその真実から目をそらすのが一応私の推理。
 魔物を神だと崇める、魔神崇拝ラスールだっけ。魔物信仰の組織はきっとそれに気付いた人達が、魔物は下劣な生き物ではなく神聖な生き物だからそれに近い人間は云々~って思考に陥ったのだろうと推測で出来た。

「どうして? どうして魔物が嫌いなの?」
「それ、は……」

 言葉が出なかった。なぜ嫌いなのか、どうして魔物と一緒にされたくないのか。

「……多分」

 私も魔物は嫌いだ。
 よく分からないし言葉も伝わらないし凶暴で凶悪で、醜い。汚い。

「…………憎むべき存在なのだと、思うです」

 魔物は加害者だ。人間から見ると。
 国の至る所に魔物の被害にあった人はいるだろう。スタンピードも。

「そう……。でも、えぇ、私は魔族差別は、おかしいと思いますわ」
「それは理由が?」
「いいえ、行動が。差別自体が私は嫌いですの」

 エリィは常に真っ直ぐだ。子供のような心でたくさんの大人のルールを疑い、暗黙の了解を知らずにぶち込む。

「どうして、この戦争は起こったの?」

 また、純粋な疑問が投げかけられた。
 これはルナールがどうとかべナードがどうとかの話ではなくて、きっと精神論。

 私は幹部に何故戦争をするのか問い掛けたことがある。

「──嫌い故に、ですぞ」

 だからはっきり答えられた。

「シンミア……は閲覧すてなきと思うですけど。あれが一番分かる例ですぞね」

 私はクルクルと枝で焚き火をいじった。

「トリアングロは、魔物になりたくなきです。わざわざ魔石を、魔法を使うクアドラードが理解出来ぬ。嫌いなのです。そして……クアドラードも」

 クアドラードわたしたちも。

「トリアングロが嫌いです。魔法という利便性の高き存在を消し去ろうとするトリアングロが」

 前世的に言うなら、石油。
 まぁ魔法を使ってなんのデメリットが生じるのか分からないけど。悪いと思っていても便利だから使いたいと思うのは人間の傲慢さと愚かさだろう。

 そういう点では、クアドラードは人間らしく見える。

「別の島であれば良きですた。でも両極端な国は同じ土地で暮らすすている。昔の原因はさておき、長年続くすた戦争に疲れ果てた国民が終わらせたいと願うのは当たり前のことでしょう」
「終わらせたい、と」
「でも譲れなき。魔法を無くすこと、許すこと。両国は認めたくなきなのです」

 私は空を見上げた。

「きっとこれは、人であるための戦い。本当の人間をと願う、神様の出来損ない達が踊る信念の張り合い」

 神様が人間をちゃんと作れば。魔石なんてなくて、魔法も使えなくて、普通だったら。きっと世界は平和だった。

 そう願ったのはトリアングロだった。

 ……実際、人間だけの世界でも一概に平和とは言いきれないのだけど。間違いなくカナエさんが苦しむことは無かっただろう。

「エリィ、貴女は人間ぞどう思うですか?」

 エリィは私の手を握った。人よりも低い私の体温が、子供体温のエリィと混ざりあって同じ温度になる。

「人は、100年も生きられないのだと、聞きましたわ」

 そうだね。
 平均寿命は60くらい。長くても100は行かないだろう。低いと思ったかな、でも清潔で感染症の対処がスピーディーに行かない世界では、そんなもんだ。魔法が使える恩恵はあれども。

「人間の世界はとても小さいわ。嫌いはきっとどうしたって克服出来ないもの、でも、そんなに世界が小さいのなら、そこにある事を許し合えばよろしいのに……」

 憎しみや復讐など知らない純粋な子供は、世界を祈るように両手を握りしめた。
 そう簡単に行かないものだから、人間は戦争を起こしているのだ。

「世界と同時に、人間の心も小さきです」

 差別を許容するわけじゃないけど、私も差別をする側の人間。というか人間の中に差別をしない人間は真の意味で居ないんじゃないかな。哀れみ見下すその心こそ、差別だ。屈辱だ。

「でも、人も、エルフも、魔族も、獣人も、ドワーフも。美味しい物を美味しいと感じる気持ちも、誰かを愛して慈しむその心も、悲しくて心が締め付けられる想いも、何も変わりませんわ」

 あまりにも優しくキラキラとしたエリィは、性根の腐った私にはちょっと眩しすぎた。
 
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