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戦争編〜第三章〜
第167話 行きも胃痛で帰りも胃痛
しおりを挟むクアドラード王国の前線で、とある冒険者達が話をしていた。
「あ、あんたら確か……ってお嬢さんめちゃくちゃ疲れた顔してるな!?」
「へ?」
ハチャメチャに疲れ果てた女冒険者に声を掛けたのは数人のクラン冒険者。
「えっと、覚えてるか分からないけどこの前ダクアに来た冒険者だよな? 俺たちクラン『ザ・ムーン』の冒険者なんだけど……。あんたらのリーダー少年が遊びに行ったというか来たというか」
「あ、ああー! 月組さんやん!?」
「月組ではない」
「それな」
「なぜ月組の方が定着してしまったのか謎を追求するべく我々は密林の奥地へ向かった」
「向かうな」
「久しぶりだな、ペインが世話になった。改めて礼を言わせてもらおう。ありがとう」
「いいって兄ちゃん、世話するほどのあれじゃなかったし」
そう、ペインパーティーと月組である。
「リーダー少年は?」
「うちのお馬鹿ちゃんはちょっと野暮用でね。実家関連だから止められなくって」
リーヴルがサラッと答えた。
王家任務である。冒険者は王子と会う機会などないとはいえ、誤魔化しておいてなんぼだ。
「そういうあんたらこそ、リーダー見えへんやん?」
流石は王子の冒険者パーティー。キョロキョロ見回してサーチが姿の見えない2人の男を指摘する。
というかサーチ達は月組にろくに関わってないとは言えど、あれだけ目立つ2人組。しかも記憶に新しい冒険者だ。覚えていないわけが無い。
「行方不明、かなぁ」
「はぁ!?」
「多分、リックが暴走して駆け出してそれを追いかけたグレンってとこかな……」
よくあることなのだ。
「え、えぇ、それ大丈夫なん……?」
「グレンが付いてるなら大丈夫」
「それより俺たちのがだいじょばないな」
「リアンがいるから代理リーダー立てれてるけど、Cランクが2人も抜けるのはめっちゃキツい。俺ら非戦闘要員のFランク冒険者が割合的に多いからさ」
「あ、それ気になっとったんや。Fランク冒険者って普段何しよるん? うちの知っとるFランク冒険者って詐欺やから」
「多分俺の知ってるFランク冒険者も詐欺」
「騙されてもいい。可愛い」
「誰のことを思い浮かべているのか速攻分かる反応ありがとう、せやな、詐欺やな」
可愛いかはさておき、いやまぁ同性の目で見ても可愛いというのは分かるのだがその感想を素直に口に出すにはちょっと素直さが足りない。誰のって、リィンのである。
「は、あかん、ここ街の外……っ!」
サーチがはっと口元を隠した。
朗らかにほかの冒険者と交流をしていたが、街の外であると色々大変なことになるのだ。
「拙僧のダーリンなら今頃王──」
「ふん!」
「えい」
「おりゃあ!」
「──ぐはぁ!? え、何、何やってくれちゃってんのよ? オイラそろそろキレていい? 切れ痔みたいに」
色々……大変なことになるのだ……。
余計な口を開こうとしたクライシスを強制キャンセル。
街の外だとクライシスは黙ってない、キレたいのはこちらだ。
「ヘイヘイヘイヘイ、パーテーの一大勢力に向かってそれはねーんじゃねーぇのぉ? しくしく、俺、そんなまともな考えできねー貴様ら可哀想に思えるぽょ。、、、3秒位は」
「やめーや! 今ツッコミ役のペインおらんねん! 雑なボケ仕掛けんなアホ!」
「アホって言った方がバカなんですー!」
「じゃあバカ!」
「バカって人に言うとか、御社は一体どうなんですか?」
「むっっっっきぃーー!!!」
クライシスとサーチが喧嘩をし始めたのを見て、リーヴルとラウトは月組に頭を下げた。いやほんとすまん。
漏らされてはたまらない情報を、危うく出される所だった2人はサーチ以上に大焦りだ。大変困る。弱味を握られては──
「あー、聞かれたくないことなら聞かないから」
月組の1人は笑いながら言う。
クライシスと引っ張り合い(ガチンコ)をしていたサーチはその言葉に目を見開いた。
「──弱味って、握るだけやないんや……!」
「すまん、まともなフリしてあいつも中々常識とズレてるんだ」
クライシスは言うまでもなく、ペインもサーチもなかなかぶっ飛んでいる。苦労人は苦労しかしない。
「……大変だよなぁ(心からの本音)」
月組はリーヴルとラウトに優しくなるだろう。リックに振り回されている自分達とよく似てるから。
どんまい、多分グレンみたいに抑えてくれるやつが現れるって!
遠くで金色の狐が小さなくしゃみをした。
「それより、この戦争っていつまで続くんだろうな」
「さぁ……どうだろうな。幸い魔法によるアドバンテージがあるから負ける可能性は低いと思うのだが」
余計な話になる前に話題変換しよう! と言いたげに話が変わる。
振る方も乗る方も結構全力だ。
「魔法による、アドバンテージ?」
「……、あァ、トリアングロ王国は魔法の使えない者が殆どだ。素質もそうだが、魔法環境も無いからな」
嘘である。
トリアングロ国民が使えない訳では無い、産まれた頃から体に存在する魔石を封じられている状態なのだ。一般人はきっと、魔法の才能が無いから使えないやと思うだろう。
……軍人になり、世界の真実に触れない限り。
そんなややこしいことを説明出来るわけもなく、ラウトは口を噤んだ。
「こういう時、超強力な味方とか現れたらいいのにな」
「あぁわかる。英雄クラスってか、Aランクレベルの冒険者」
「危機に現れた熟練の魔法少女! 略して熟女とか」
「それほんとに少女?」
ガヤガヤと雑談し始める。話が流れたことを確認して、ラウトは小さく息を吐いた。
「あ、でもさ、スタンピードの時がまさにそれだったよな!」
「「「……。」」」
ペインパーティーは思わず顔を見合わせた。
「かっこよかったよなぁ! もしかして数日前に見えた隕石もあの魔法職の魔法だったのかな!」
「姿は見えなかったけど、多分騎士じゃないんだろ?」
「そりゃ、あそこまで魔法が使えりゃ騎士じゃなくて魔法師になるだろう」
「でも魔法師参戦してないぜ?」
「まぁあの魔法がその人の魔法だって決まったわけじゃないんだし」
「ま、そっか」
「彼女が味方になってくれればとても心強いでしょうね」
「「「「──女狐!」」」」
月組が互いに笑い合う。スタンピードの時、ダクアを守ろうとしたのは彼らだ。そんな彼らの命の恩人とも言える女狐はさぞかし神聖に見えただろう。
サーチ視点は滑稽に見えるのだが。
「な、なぁ、ダクアを救った英雄の話してる……? 俺セントルムの冒険者なんだけど……興味があんだよね……」
するとその噂を耳に挟んだだけの冒険者は興味津々といった様子で月組に話しかけた。
「ほんとほんと、凄かった! 白い服きて、狐のお面した、あと女の人! フワって街中の方から浮かび上がって……!」
「気付いたら岩が振り落ちたんですよ! すっごい威力でした」
「痺れる憧れる踏まれたい!」
「Aランクレベルの魔物とか一発で退治出来たんだ」
ワイワイと盛り上がる冒険者達。
ペインパーティーはスタンピードの時は居なかったので、興味半分、誇張された話を聞いていた。
「立て札建てようよ!」
1人の冒険者が。声をあげた。
「スタンピードを壊滅させ、ダクアを、クアドラードを救った英雄女狐よ! 此度の戦争に力をお貸しください! って?」
「そうそう! どこにいるかも分かんないしさ、目立つ魔法職がここに居ないってことだし、別の場所にいると思うんだよね」
「問題は女狐さんが正体を隠している場合ですが……」
「変装してもらえば解決。というか、純粋に話を広めたい」
「それな」
「分かる」
「俺らの救世主」
「…………。」
おっとぉ?
「よーし、戦況が落ち着いている内はどうせ冒険者は暇だし、早速やろうぜ!」
真実を知るリックとグレンがいない月組は、ただ拡散力と行動力のあるファン。
女狐がトリアングロにいるとも知らず、着々と胃痛への道が開拓されていく。
「………(まぁ、別にいいか)」
のを、ラウトは傍観する事に決めた。恐らくほかのパーティーも似たりよったりな結論を出すだろう。
「いや、おもろいやんけ」
真顔でサーチがウケけた。
応援ありがとうございます!
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