最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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戦争編〜第三章〜

第165話 ノリと勢いで生きることも大事

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「あ~くっさいくっさい! 媚ぞ売る胡散臭さが鼻につくですー! 性根の腐るすた臭いぞプンプンするですぅ!」
「ははっ、性根腐ってんのはどっちだろう! 見るからに、というか見なくても腹黒で性格悪くて自分本位でめっちゃくちゃ他人に悪影響を及ぼす前科犯みたいな人間未満だってことはわかるから! ぶ~す!」

「──あのなぁ……」

 私とシンミアがキャッツファイトをしていると、流石に仲介役が必要だと思ったのかテントの中からグレンさんが出てきた。

 グレンさんはシンミアを一目見るとグッと眉間に皺を寄せ、そのまま私の方を向いた。


「やっとお仲間が出てきたってわけ? ま、これだけじゃ無さそうだけど」

 シンミアがグレンさんを観察する。

「こいつも魔法の気配がする。汚ったないし気持ち悪い。鳥肌立ってきた」

 うげ、と言いたげな表情で舌を出しながらシンミアは身体を引いた。


 実際鳥肌なのかどうかは分からないけど、その嫌悪は明らかだ。これの面白い所は私とグレンさんを嫌悪的に敵視しているがカナエさんには嫌悪を見せない。結論、シンミアは魔力察知が出来ているんじゃないだろうか。

 シンミアがこちらの要件を問いかける事を待っていたら多分転生しなきゃいけないくらいの年月が経ちそうなので私は早速切り込むことに決めた。

「──王都にいるライアーに伝えるすて欲しい事ぞあるです」

 私の発言に全員が目を見開いた。

「……は? お前それ……はぁ? 仮にも身を隠してる立場の愚族が言う言葉じゃないじゃん?」

 大混乱真っ只中、といった様子だ。

 ふふふ、そうだろうそうだろう。
 本来であれば私は追われている立場。なのにわざわざその存在を証明するかの様な願望を口に出した。

 この場合の交渉でいえば定石は『口封じ』一択。存在を黙ってもらう事くらいだ。
 私はその逆を突いた。

 何故か知りたいか?
 ふふふ、答えてやろう。



 ──何も、何も考えてないからだ……!(集中線)


「(なんかすっごい嫌な予感がするって顔)」

 グレンさん、顔隠して。


 いや、あの、言い訳をね。言い訳をさせてください。

 元々、要塞都市に向かう途中で追っ手に追いつかれる可能性は高かったんです。というか案山子だけで獣人であるコーシカをまけきれると思ってなかったから。
 だから顔を合わせたことのあるコーシカ、もしくはべナードクラップ辺りに追いつかれると思っていたんだ。だからそいつら相手の交渉内容は考えていたんだ。けど来たのは魔法に明らかな嫌悪を見せるシンミア! どないせえっちゅうねん。

 そう、全てはなんかよく分からないけどさっさと私を追いかけないコーシカが悪い!

 決してこのシンミアって野郎を一目見た瞬間から自分の中の溢れ出る嫌悪感のまま喧嘩売りたいと思って身バレしたわけじゃないんです。ハイ。えぇ決してそのような事は無いんです。


 それに正攻法じゃトリアングロには敵わないからそろそろこちら側からも仕掛けようと思って。

 いや当然でしょ。魔法メインのクアドラード人が魔法を取られて物理メインのトリアングロの精鋭に正攻法で勝てるわけが無いじゃない。
 正面からぶつかって勝てるのは格下相手だけだ。格上に勝つには時の運も、戦略も、事前情報も、全て使うしか無い。

 ……これまでの旅でトリアングロに勝てたのはシュランゲとグルージャくらいだよ。

 まぁ! 目の前のシンミア! こいつには負ける気がしないけどね!

「……(すごく嫌そうな顔)」
「そもそも私、別にクアドラードの味方になるしたいわけじゃ無きです。第一、誰一人、殺すて無きでしょ。殺るなれば殺るタイミング沢山存在すたです」

 当然でしょ、と言いたげに首を傾げた。
 後程確認してもらってもいいよ、私誰一人傷付けてないから。

「クラップさんには苦労しますたよ。あの人、話全くというしても良きほど話聞かぬのですから」

 何話そうか迷いながら必死に頭をフル回転させる。
 アピールすべきことは『敵対していないこと』『可能なら友好的に行きたいこと』『トリアングロの利益になること』だ。

 ポイント1、敵対してないこと。

「私の目的は戦争ではなく個人的な目的です。目的は2つ、シュランゲの所有権引渡し、ルナールに文句ぞ言う」

 落ち着け、落ち着いて話せば出口は見えてくる。

「文句はまぁ、腑に落ちぬ所ぞあるのでぶん殴るすたいですね。欲ぞ漏らすのであれば手足一本いきたい」
「おい」

 私を利用した挙句、最悪な気分にさせたんだ。それ相応の報いは必要不可欠だって心の中の大賢者が言ってる。

「それに」

 ポイント2、可能なら友好的に行きたいこと。

「トリアングロ軍の協力者になるすても良きです。私これでも友好的ですぞ? 私を害する事ぞ無きなら、いくらでも手ぞ貸すです。ルナールボコすは例外とすて」

 身振り、手振り。大きくゆったりとした動きで余裕を見せる。
 シンミアの場合相手より自分を下に見せる方が有効だと思うけど、そこは普通に癪なので対等にまで下って交渉をする。


 ポイント3、トリアングロの利益になること。

「隕石ぞ振り落ちた。あれの魔法に心当たりぞあるです。発動者はローク・ファルシュ辺境伯……あれは推定1回では済まぬですぞ。他にも情報は所持済みですけど……」

 生粋のクアドラード人だ。魔法に関する知識はトリアングロの誰よりもある。何より、化け物と呼ばれる魔法による最大の敵、ロークは私のパパ上。この国の誰よりも癖を知ってる。

 視界の端でパパ上と知り合いという衝撃の情報をもたらしたカナエさんが口元に手を当てた。


「さぁ、どうするですか……?」




 ==========


 一方、テントの中──



「魔法嫌いなやつか~。これ俺も出てかない方が良いかな?(小声)」
「えぇ、そうですね。エルフが彼女にとってどの認識になるか分かりませんので、レディも大人しく(小声)」
「はぁい、分かりましたわ。……それよりグレンさんは出て行っちゃいましたけど、大丈夫ですの?(小声)」
「『一応みとく』と、言ってましたけど。彼は考えて動くタイプと見ました、恐らく平気でしょう(小声)」
「みとくって……。あ、そっか、視とくってことか……(小声)」
「……リィンさん、何を考えているのでしょう(小声)」
「……分かりません。ですが何かを考えていることは確実でしょう(小声)」


「…………なんも考えてない気がする(本音)」



 ==========



 私が答えを知りたくてシンミアをじっと見ていると、シンミアは私を向いた。

「あ、独り言終わった?」
「(イッッッッッッッラァ)」

 その可愛い顔面(私には劣る)骨格から整形してやろうか貴様。

「お前の話、圧倒的にノイズで半分も聞いてなかった」
「………………。すぅーーーーーー」

 絶対に、こいつを地獄に叩き落とす。
 お前の評判を地にたたき落としてくれようじゃないか。

「てか、お前ら俺の事分かんない?」
「そういう低俗なナンパはろくな人間じゃなきことはご存知済み故に」
「何言ってんの(ガチトーン)」

 私は地面に落ちてあった石を拾って指で弾いた。
 天才なのでシンミアの額にスコーーーーーンッッッ! とぶつかったのであった。

「いっっったぁ!? は!? 何すんだよこのアマ! 俺の可愛い顔に傷付いたらどーしてくれんの!?」
「男ぶりが上がるすて良きですねぇ? いちいち腹ぞ直立するですなお前! ご存知ねぇって言ってんだろうがこのブス!」
「お前目ぇどこについてんの!? この俺に向かってブスぅ? シュテーグリッツのアイドルとまで謳われた俺の顔に向かってぶすぅ!? お前の方がブスじゃん!」
「あぁ!? この顔面ぞ見えぬ!? 節穴!? プリチーな顔にケチぞ付ける気!? あっ、もしや頭が残念……? ご愁傷さま……っ」
「あ゛ぁ???」

 私は親指、シンミアは中指。
 何が? って疑問に思ってる人は思ったままで私はいいと思う。

 相性が殺すほど悪い。死ぬほど通り越して殺すほど悪い。

「そもそもさぁ、お前ら俺の子飼いを殺しておいて、害はないですなんてどの口で言ってんの?」

 本当に半分も聞いてなかったのかシンミアが口に出した疑問に私は思わずキョトンとした。

「は?」

 私の発言が気に食わなかったのか血管を浮かび上がらせる。

「あ、あぁいや、まさかトリアングロ人がその考えに思い至るないとは」

 まさか私の認識が間違っていた……? いやでもこれまで集めた情報、倫理観から見ると間違ってないと思ったんだけどな。

 私はややあって疑問に答えた。


「──死ぬほど弱き方が悪でしょう?」


 顎に手を当てて軽く首を傾げる。煽っている様にも見える確認作業。
 シンミアは虚をつかれた様に目を見開いたあと、顔を下に向けて肩で笑い始めた。

「ふ、ふふふ、ふふふふふ。この俺がなんたる……。まさか平和ボケしたくそ魔法共の思考回路に犯されてたなんて……吐き気がするじゃん……!」

 ……なぁるほどね。
 この人、潜入してた人か。シュテーグリッツって名前も聞き覚えがあるというか、クアドラード王国一の歓楽街と言われる場所だし。

 真反対な考え方してるよね、二国って。
 不可侵条約結んで互いの国に干渉しなければいいのに。

「……はぁ、もういいや。お前ら愚族に会いたくないからこんなきっったないカスみたいな場所に居たってのに。おい下僕共、俺帰るから」

 シンミアは私たちを一瞥した後、カナエさんを見た。

「俺、アナタみたいな子は好きだよ。純粋で、温厚で、他人に意見合わせて、小物みたいな子。魔法も使えないみたいだし、顔もそこそこ」

 カツンとヒールを鳴らしてカナエさんに近づいて行く。

「俺はこんなに世界でいっちばん可愛いから、可愛い系の女も男も両方嫌いだけど。美人なら大歓迎。どぉ? 俺に囲われてみない? そぉーんな魔法に囲まれて、気持ち悪いでしょ」

 本当に観察眼だけはあるな。カナエさんが魔法を使えないことも見抜いている。
 魔法アレルギー、って言ったところか。死霊使いと言われるグレンさんでも流石に見抜けないだろう。彼は魂の素質を見る目だから。

「あ、えっと」

 困った様子のカナエさんだったから、私はカナエさんとシンミアの間に立った。カナエさんを庇うように。

「──私の友達、手を出す覚悟ぞおありで?」

 手札だけどいいや。
 カナエさんが奪われるよりはマシだと判断し、グレンさん特性の式神を取り出した。

 やはり分かるのか、それを見ただけで眉間にシワが寄る。

「俺はお前大っ嫌い。腹黒で、最低最悪、語ることすら口が腐りそうな愚族の可愛こぶりっ子。女狐ってやつ? 女の武器使って浅ましい」
「女の武器も武器だろーーーーがよ戦い舐めてんのかてめぇ」

 そんな女の武器を作ってる男が言うかなぁ!!????

「うっっっっ、推しと友達があたしを取り合っている……ここは天国……?」

 ……。
 カナエさんちょっとお黙り。

「シンミア、良きですか」
「良くないけど?」
「お前がこの人を引き抜くしようとするですと私は……」
「は、何? 殺し合いでもしようってわけ? 汗かくの嫌いだけどお前みたいな小娘すぐに殺──」
「──お前にキスぞします」

 場は固まった。
 シンミアは顔を青く染めて、ズザザザザと下がった。

「最低! 最っっっ低! なんでそんな考えが浮かんで来るわけ!? きっっも、え、本当にきもい! 近寄らないで!」
「お前の大っ嫌いな魔法のエキスパートの想いぞ込めたキスですぞ。粘膜接触、ほら、近づくすてこいよ」
「うっっっっげぇお前本当最低! 頭の中何が詰まってんの!? ひじき!?」

 お前に嫌がらせをするためなら自爆テロも辞さない。

「もう! 俺! 帰る!!!!!」

 二度と来んな。


 ずんずんと去っていくシンミアを睨むように見送る。
 気配が無くなったのか知らないが、テントの中から3人がようやく出てきた。

「……強烈でしたね」
「なんかリィンの撃退の仕方って、子供の頃○○菌だ~って騒いでる姿を思い出す方法だよな」
「何を言ってるのか半分も理解出来ませんでしたわ……」

 幼女エルフは毎度安定しているな。
 しかし、うん、エリアさんの視線を感じる。

「所でリィンさん。先程交渉で仰られてたファルシュ辺境伯の事なのですけど」

 ほーーーらね!!

「私の出身、ファルシュのメーディオですぞ。気配は分かるです」
「気配ですか」

 気配ならまぁ仕方ないか~、みたいな反応が見える。
 そう、決してパパ上知ってるからこその推理とかじゃないよ。

「え、じゃああれって本当にロークの魔法なの!?」
「推測の域ぞ出ませぬがね」
「……カナエさんは辺境伯とお知り合いで?」
「あ、うん、昔ちょっとね……。あっ、ロークだけじゃなくてお嫁さんのシャーロットとも知り合いだよ!? 彼女めちゃくちゃ可愛い人でさ! いやあロークとお似合いだったなぁ!」
「あぁ、そうでしたか」

 エリアさんが納得した。いやまぁ、納得したって言うよりは話を切り上げるために落とし込んだって言った方がいいか。

 カナエさんは貴族との密会を疑われてると思ったのだろう。エリアさんはカナエさんが異世界人だって知らないか……──。

「………………………………え?」

 私は思わず目を見開いてカナエさんを凝視した。

「ん? え、どうしたのリィン」
「あ、え、いや、えぇっ?」


 カナエさんは最近召喚されたんだって聞いた。しかもカナエさんの見た目は18歳~22歳とかそこら辺。
 じゃあなんで。


 ──14年前に死んだシャーロット・ファルシュという故人と知り合いなの……!?


「……ど、ういう?」


 混乱したままの私を置いて彼らは話をしていく。


「ティザー・シンミア。彼女は厄介だな、そこまで強く見えなかったけど幹部になるレベルはあるんだ。リックならともかくまぁ間違いなく俺じゃ勝てないし」
「いやぁ、ああいう女の子って性癖に刺さるよね……! 俺っ娘だよ俺っ娘!」
「リィンの方が可愛いけどなあ」
「私の方が可愛いわ!」
「そうですね。リィンさんはもちろん、カナエさんもエリィさんも大変可愛らしい方です。一時でも同じパーティーで過ごせて幸せですよ」
「貴族って恥じらい無いんですか……聞いてるこっちが照れる……」

 うん、うん。
 と、とりあえずだけど。

「──シンミア、男ですぞ」
「えっ」

 とりあえずこれだけは言っておこうと思う。
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