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戦争編〜第二章〜
第144話 異世界の葬儀屋さん
しおりを挟む外壁を乗り越え屋敷の中に入り込む。
人手はそこそこ、夜中であっても外壁の周辺を見回りしている何人かは武装をしている。
「うーん……」
物置の中に隠れ、隙間から外を伺う。
「どうだ?」
「想像より人手が少なきですね……」
「と、言うと?」
コソコソと小声で話しながら、グレンさんに説明をする。
「殆どの人員ぞ顔見知り、という事です」
大きな組織であればお互い知らない人間がいてもおかしくは無い。だけど小さな組織であれば相互認識が出来ている事になる。
国境基地みたいに『ここに配属されました!』……なーんて簡単な事は出来ないって事だ。
「それに気付くますたか?」
「何に?」
「見回り、探すしてます。……階段を上がるすた不審者ぞ」
見られていたっぽいなー。
気付かなかった。
私の言葉にグレンさんは嫌そうな顔をした。まるでトマトを丸ごと口の中に入れたかのような顔だ。
「これで幹部帰還前。帰還すたあとはより一層監視の目が厳しくなるです」
「まじかぁ……」
「下剋上する兵士のフリは可能ですかね、でもその場面ぞ見るすた経験皆無故に形式とか存在するなれば即座に露見するですぞ」
あとね、これ重要事項。
──階段をもう登りたくない。
箒を、箒をください。
可能ならエレベーターでもエスカレーターでもいいです。技術革新してください。
「帰るしてくるまでここにいるしましょう」
「えっ」
「えっ」
なんで? そんな驚くこと?
「いや、内容は問題ないんだ。それまでこの屋敷の流れをさぐれるし」
だよね。
紛れ込めないなら隠密行動で探るしかないし、時間はいくらあっても足りないもんね。
「リック達へのほうれんそうはどうしたんだよ」
「砲撃、連携攻撃、総攻撃のことぞ!」
「お前なぁ……!」
リックさん達へのお叱り? なんの事か知りませんね!
事後報告万歳!
==========
よく朝。
ちょっと探ってくる、と出かけたリィンとグレンの2人が未だに戻っていないことに気付いた3人は、早朝から顔を付き合わせた。
「どう思う?」
「何かあったとしか思えないけど……」
3人はバイトの契約を3日間結んでいた。そのタイミングが1番忙しくなり、つまり2日目の今日も神使教に向かう予定なのだ。
「探しに行った方がいい……よね」
カナエが心配そうにリックに意見を仰ぐ。
「『もしかして、リィンさん達、敵に捕まったのかしら。私難しい事はよく分かりませんわ』」
エリィは首を傾げながら考えるが答えは出ない。
うーんうーんとリックは唸る。実際頭が悪いか良いかはさておき、現状常識をあまり知らず性格が悪くない3人にリィンの様な極悪非道もしくは奇天烈な策が浮かぶわけが無いのだ。
リックは唸るのを止めて一つ頷くと、自分を見つめる2人と目を合わせた。
「──多分リィンのことだから平気だと思う」
「リック君脳みそ溶けた?」
「あーいや、そーじゃなくて」
リックは前髪を触りながら言葉を探す。
「……性格悪いやつが誰かに何かされても報復無しでそのままにするって事は無いと思うから」
被害を被ったのなら被害をぶっかけ返すのがリィン流。
その上リィンには実行出来る実力と頭脳がある。
「アニメとか漫画とか小説とか、逆光に立ち向かう主人公チームの中にどれだけピンチな場面でも頭いい人がいたら安心するタイプなの思い出したわ」
頭脳派の立ち回る力の安心感。
ちょっとファンタジックな脳みそとファンタジーな現状がリンクした。なるほど、それは平気だ。と。
「よく分かんないけど、要するにリィンは謎の安心感があるってことだろ?」
「そういうこと」
「『リィンさんって、性格悪いの?』」
キョトンとエリィが首を傾げる。
別に言葉はエルフ語の為解読出来なかったのだが、表情と会話の流れで言葉の意味を察したリックは、子供(※実際は同年代)を諭す様にエリィの肩をガシッと掴むと。
「──少なくとも相棒に裏切られたからって戦争中の敵国に殴り込みに行くって実行するくらいには執念深いし性格悪い」
真顔でそう言った。
うん、冒険者ギルドダクア支部での悪意のある説明に流石にちょっと可哀想だなってライアーに同情するくらいには。俺は性格悪いと思ってる。
「『なるほど……?』」
分かっていないながらも頑張って飲み込んだエリィ。
そして朝の鐘が鳴り響く。
出発の時間だ。神使教でバイトをしなければならない。
そして3人は、労働の地獄を見ることになる。
「終わんねぇ!!!! いくら! 運んでも! 終わんねぇ!!!! ねぇこれ何人目!?」
「31体目。ほら、まだまだ死体はやってくるわよ」
「戦争舐めてたーーー!!!!!!」
ひんこら言いながらリックは台車を使って山積みの死体を火葬場へと持っていく。神使教の肉体労働者はほぼ全員街の外で死体探し。
今回は死体発生場所をトリアングロ王国に教えてもらっていた為、回収作業は早いのだ。
「うわーーん! ドックタグの名簿付けも終わんないよー! 腕疲れたー! パソコン持ってこいーーー!!」
戦死者であるため神使教にはドックタグの名簿をつけてクアドラード王国に届けるという仕事もあった。そのため半泣きになりながらジャラジャラと集まるドックタグの名前をカナエが書き写しているのだ。
文字の読み書きは出来ないが模写なら出来る。
見よう見まねで書くこの世界の言葉は歪であるが読めないことは無い。モルテがチェックをしてゴーサインを出したのでカナエの腕が吊りそうな状態になっているのだ。
それに、戦死者の名前は国にとって貴重な情報になり得る可能性がある。世間知らずのカナエにこの任務が丁度いいのだ。
「エリィーーー! エリィどこー!!!」
「ヒューストン! 台車もっと大きいの無いの!? 効率が悪ぃよー!」
「グラセ・フューネル。……それより大きい物は外組が使っているわ。その台車が嫌なら担ぐ事ね」
「なーるほど、そっちの方が早いな!」
台車は2体か3体程しか乗せて運べない。そのため往復回数を増やしていたのだが火葬場までの距離は短いとは言え積み重なると大変な作業だ。
「えっちょっ」
グラセの驚く声を尻目にリックは外から運ばれてきた死体を台車に3体乗せたあと、両肩に2体担いだ。
「これで5人!」
ニッカリ笑顔のリックがてってこ走り去っていく姿をぽかんと見送ったグラセ。
顎に手を当てて思わず言葉を漏らした。
「……鎧を付けて無いとはいえ成人男性を2人担いで走れるもん?」
しかも両肩に乗せているだけで腕は台車押しているのだ。バランス感覚もちょっと分からない。
「不可思議一味はパーティーメンバーであろうとも不可思議ってわけかぁ……」
異世界人怖いな、なんて事をカナエが考える。同じ穴のムジナどころか不可思議の最前線にいる異世界召喚の生き証人がブーメランを投げながらまた名前を書き写した。
「『グラセさん、とりあえず終わりましたわよ』」
「お、おかえりエリィ。グラセさん、エリィ終わったみたい」
「えぇ分かったわ」
エリィはてってっとカナエの所に駆け足で戻ってくる。
「エリィ何してたの?」
「『魔石をひたすら壊す作業をしてましたの。もう使わないからって』」
「あぁー、なるほど? 火葬に使ったのかな?」
「『流石に使用用途までは分かりませんけど、透明の魔石を粉々にする作業は骨が折れますわ……。どうやら第一弾が終わっただけで火葬したらまだ使えない魔石が出るみたいですけど』」
バリバリハンマーで割っていく作業。大体30個ほど割ると休憩になってしまった。エリィは滲む汗を拭いながらカナエの作業を覗き込んだ。
「……こういう所は見た目相応なんだけどなぁ」
「『何か言いまして?』」
「エリィってギャップすごいよねって思っただけだよ」
普段はバブちゃんなのに。カナエはお口をチャックした。
エリィは良くも悪くも純粋。
まだまだエリィという人物を掴みきれて居ないカナエは船酔いしている気分だった。
「シラヌイ・カナエ、だったね。人がエルフ語を喋れるのなんて初めて見たわ」
「ま、あたしのは特殊だから」
言語チート万歳。カナエは素直に喜んだ。
その代わりなのか分からないけれど、リィンが言語チートの対局にいるので恐らく世界は均等になりたってある。言語バグだ。
最も、カナエはリィンが似た土俵の人間であるということを知らないのだが。
「どう、翻訳家としてうちで就職してみない? 冒険者ギルドで冒険するよりは安全にお金を稼げるわよ」
「あはは、そうだなぁ。身分証としてギルド登録しただけで実際活動したことないからそれもありかも」
異世界人にとって冒険者とは憧れの職業なの。それが元の世界で言うフリーターであったとしても。
「……今後どうなるかわかんないし、お断りさせて貰うけどね」
「そう、期待して待っておくわよ」
「荷が重いなぁ。それよりグラセさん、聞きたいことがあるんだけど」
「何かしら」
会話しながらも2人は手を動かし続けている。凄まじいスピードでグラセが書類を片付けているが、カナエは慣れぬ文字が大きな敗因となり、やや滞り気味だった。
「よく神使教で『輪廻回帰を望むか』ってら聞くじゃない。あれって自殺しますかって意味でしょ?」
「まぁ正確に言えば自殺じゃなくて安楽死だけど……」
「そういう人っているの?」
世界の違うが故に、カナエには想像が出来ない。
安楽死という馴染みのない単語に。
グラセは呆れた、と小さな声を漏らして前を見た。
「いるわよ、ほら」
神使教の入り口に、母親と子供が2人立っていた。
「こんにちは。ようこそ神使教へ。魂に問うわ。迷い人の導きかしら。それとも輪廻回帰を望むの?」
「輪廻……回帰に……」
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