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戦争編〜第二章〜
第141話 面倒な変装は他人に押し付けたい
しおりを挟む「グレンさん、人探しを共にお願いしたきです」
「………………それは、ライアー、リック、幹部、その他。4つの選択肢があるんだけどどれだ?」
「その他です」
すこぶる嫌そうな顔をしたグレンさんと2人で、街に繰り出した。
==========
「あれ、あんたら確か一昨日ギルドに登録した……」
カウンターの奥でゆったり寛いでいたギルドマスターが私の姿を見てポツリと呟いた。
「アカ、人間、入れるな」
「……はい、ご主人様」
わざわざ命令しなくても人気のない冒険者ギルドに人は来ないだろう。
グレンさんはギルドの扉を締めた。
「…………いい?」
「いいですぞ」
「っは~~~~~~。これめちゃくちゃ疲れるんだけど、本当になんでリィン切り替えれるんだ?」
「死と直結する故に、ですかね」
「それは、うん……」
否定できない、という表情をしてグレンさんが言葉を濁した。
前回だけだけど、エリィとカナエさんのギルドカードを作った時にはまだ『ご主人様エルフと奴隷の人間』としての立ち振る舞いしかしていなかったから素を見せるのは初めてだ。
この変わり身にギョッと驚いた表情をしたギルドマスター。そして数拍後、あっ、これが世に言う厄介事ってやつ? みたいな表情をした。そうです、暇だらけのギルドマスターさん、厄介事ですよ。
「髪の毛の泥、払ってもいい?」
「まぁいいですぞ。帰りは動物の血でも被せるすて折檻装うですので」
「なんでそんな残酷なことを思いつくんだ…………? やられるの俺なんだが……?」
流石に血なまぐさいだろうけど頑張ってね。
「……で。ギルドに何か御用ですか、お嬢さん方」
嫌そうな顔をして一応念の為の言いたげに聞いてきた。
「あ、いえ、冒険者ギルドの名前を借りる(仮)的なポジションなので信ぴょう性も兼ねるしてとりあえず来たくらいです」
「……ギルドの名前を借りるぅ? あのな、ギルドの名を騙るのは世界規模での大罪だ」
「一応騙ってはないんですよ。こいつ。向こう側にそう取られてもおかしくは無い言い方をしただけで」
「言語ってむじゅかしきでちゅね~!」
「(むかつくな……って顔)」
「(腹立つな……って顔)」
その上こいつすごく胡散臭い……って顔を向けられた。
こんなに説得力のある言語能力を持っているのになんで胡散臭がられてるんだろう。リィン異世界よくわかんない。
「とりあえず私は棚によっこいしょすておきグレンさんはクアドラード王国のCランク冒険者です」
「……多分、『棚に上げる』と『横に置く』が混ざってると思う。あと、リィンも冒険者大会準優勝だろ」
「えへ。まぁそれはそうですけど」
リックさん達が居なくなっていた中、私とグレンさんはある程度の作戦を立てて冒険者ギルドに向かった。
『エルフと奴隷』が第二都市にやってきた理由は冒険者ギルドの関係者で人探しだということが軍に伝わっているはず。
1番目立つ私があえてそのままの格好で、あえて注目を集めるけど近寄り難い設定を作れば、疑われるけど確信には至らない状況になるのだ!
しかも『私』は入ってから常に不機嫌度マックス。……実際勝手にぴょこぴょこ遊びに一体馬鹿3匹のおかげで不機嫌な演技とかするまでもないんだけど。
「とりあえずギルドで情報を集めたきですけど」
アリバイというか疑惑を確信にするために冒険者ギルドに入る、という目的を達成した。だから中で何をするのかとか特に決まってないんだよね。別に急ぎじゃないしここで得られる情報なんて決まってるようなもんだし。まぁそれはそれとしてムシれる場所からむしっておきたい。
戦争の情報とか集められたらいいんだけどなぁ~~~~。
ちらっ。
「あー……駄目だぞー。冒険者ギルドも、あとついでに言っておくが鎮魂の鐘も、どちらかの国を贔屓はしないからな……。業務に必要なことしか提携しないし、身柄も保護しない」
「そんなことは知るすてます。舐めんな」
「………………じゃあ一体何が目的なんだよ。言っとくがなぁ、俺のギルドは仕事回せるほど依頼もねぇし、エルフも今はいねぇからな?」
必要最低限の寄付金で成りなってる支部なんだろうね、ここ。
まぁそのギルドマスターも、さっきまで座ってた机に酒瓶か転がってるくらいだから。
まともなんだろうけど、仕事がなければ腐るよねぇ。まずギルドの金……ゴホン、収入源である魔物が居ないんだもん。
「私達冒険してるですけどぉ、地理に疎きなのです。それで……いつ戦争に巻き込むされるか、わかんないですよねぇ」
「……おう」
「危なき場所とか、あるですかぁ?」
「──なるほど、トリアングロ王国にいる一般の冒険者の常識程度の情報なら集められるって事か」
その通り、一般常識すら疎い私達では情報を手に入れることすら難しい。
案外、他国の人間だとバレるのって常識観点からだからね。
「でもさぁ……? それって、俺が教える必要無いだろぉ……?」
カウンターに顔を預けてだらしなくそう言う。
「ぐ……確かに……」
そうだね。違反にはならないけど、義務じゃない。
グレンさんがその言い分に納得したのか言葉を詰まらせた。
「そうですね。ですけど」
私のターン!
「明日はどうなるでしょうね」
カード名は『脅迫』!
説明しよう、このカード脅迫とはその名の通り、なんの伝手も情報も持たない私が唯一使える手札で、物理で行くもよし、精神で行くもよし、人類に残された最終手段であり初手で使っても別に問題はない倫理的な手段である!
「……リィンお前さ」
「例えばですけど……──ベッドの下とか」
「(ビクッ)」
「(ギクッ)」
何故か2人共肩を跳ねさせた。
「食器棚の裏とか、カバーだけ付け替えるとか、屋根裏とか、床下とか、鍵付きの引き出しの中……」
私がつらつら場所を述べているとグレンさんが顔を青くした。
「…………リィンさ、もしかして」
「はい?」
「兄弟、いる?」
「ニッコリ!」
なんでかわかんないけどうちの男共黒髪好きが多いんだよね。父含め。
家に戻ったらもう1回ガサ入れしよう。末っ子の傍若無人さ舐めるなよ。ひとつ残らず見つけ出してやる。
「は、はは、ベッドの下なんてベタな場所」
「つまりギルドマスター、貴方には奥さんぞいるってことですね?」
「(ギクギクッ)」
「隠す必要があるってことは、見つけるされる可能性ぞあるってこと」
「ヒェッ」
守りたい人間がいるとね、人はとても弱くなるんだよ。
さて、どうしようかな。
奥さん、夜道で怪我しないといいね。それはさておき奥さんに泣きついてみてもいいかなぁ、冒険者ギルドの人に意地悪された、とかって。
私はニッコリギルドマスターに笑いかけた。
「お話、しましょっか!」
「………………はい」
勝者、私。
ギルドマスターの話によると、今この都市を拠点にしている幹部は全員外出しているということだった。特に烏と梟に関してはずっと家を空けているらしい。
そして鶴はもうすぐ帰還し、鷲は大勢の兵士を率いてクアドラード王国に進軍するようだ。
「ルートは?」
「要塞都市から国境までを結ぶ最短ルート、直線街道を使うらしい」
「……この国ネーミングセンスダサくなきですか?」
「あー、そりゃ、あれなのよ。分かりにくい名前が腹立つから改名だ! つって国王が変えちまった、てわけなんだよぉ……」
「じゃあリィンならなんて名前付けるんだ?」
「まっすぐ道!」
「却下、解散」
「集っ! 合っ!」
「………………。」
で、問題の鷲なんだけど。
ギルドマスターの話によれば、トリアングロの戦力の殆どが鷲に預けられるらしい。戦争の主力部隊ってところだね。戦闘数はざっと10万。……多い様な少ない様な。
今、既に進軍は開始されている様子。
残りの幹部の行方が分からないけれど、とりあえず狙い目である鶴が戻ってくる様なので一安心だ。
「まー、トリアングロはクアドラードに比べりゃ人口は少ないからなぁ……。ただ、今回はやべぇわな、気迫が違う」
「気迫、ですか」
「──勝つのは、意志の強さだ」
私とグレンさんは思わず顔を見合わせた。
死を覚悟している人間ほど、強い人間は居ない。
この街の色々な話をギルドマスターから聞いた私とグレンさんは、変装を整えて冒険者ギルドを後にした。宿に戻る間多少寄り道しながらぶらつく。
「アカ、それとそれとそれも買う」
「……はい」
ふらつく足取りでグレンさんが適当な洋服を選んで購入する。
「……兄さん大丈夫か?」
「お気に、なさらず」
グレンさんは最初の話通り動物の血を被って貰った。冒険者ギルドに置かれてあったイノシシの血を私が買い取ってグレンさんにぶちかけたのだ。これでグレンさんの赤髪を隠せる。
なんで俺だけこんな目に、と小さく文句を言っていたけど、グレンさんが1番スパイっぽいからだよ。
「ご主人様」
「うん、早く戻……」
「右です、茶髪の赤ベスト」
「ナイス」
こちらから背を向けて露店で買い物をしている男がいた。
グレンさんが荷物を持っているので、私は駆け出して、目当ての男の膝裏に思いっきり蹴り入れた。
「ぐは!?」
「そこの人間」
倒れ込んだ男の襟首を引っ掴んで私は笑顔で語りかけた。
「どう落とし前、付ける?」
「ご主人様からスリを働いた盗人め! よくも無礼な真似をしてくれたな!」
上手く喋れない私の代わりにグレンさんが状況説明をした。
心当たりが見当たらない男は「は、え、ちょ!?」と非常に動揺した声を上げていた。
「アカ、連行」
「はい」
グレンさんが男を引きずりながら私に付いてくる。
私は手短な路地裏に向かった。
「え、冤罪だーーーーーー!」
今回の私の本当の目的を果たすため、叫び声を聞きながらご機嫌に不機嫌な演技をした。ややこしい事この上ない。
強者に逆らわないこの国の文化、こういう時に邪魔されないからとっても素敵だなって思いました。
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