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戦争編〜第二章〜
第132話 人の嫌がることを進んでやろう
しおりを挟む「トリアングロ王国には主に3つの都市がある」
街道をてこてこ歩きながらグレンさんの説明を聞く。
「都市名は非常に簡単で、第一都市、第二都市、第三都市だ。ちなみに王都は都市ではなく、3つの都市の真ん中に存在して、軍事基地みたいな感じらしい」
「住民は居ないのですか」
「みたいだな。どうやら幹部の集会場所や国王の住居、兵士の訓練施設も兼ねているみたいだ。それと、この国では王都って呼び方はあまり使わない」
幹部に捕まっていた私よりも警戒の目が緩いグレンさんがやはり土地の情報は掴んでくれていたらしい。
「じゃあ、なんて?」
そう聞けばグレンさんは難なく答えた。
「──要塞都市。そう呼ばれている」
「腹減ったーーっ!」
「……。」
「……。」
リックさんの雄叫びにシリアスな雰囲気は塵のように消え去った。
「……まぁ、リィンが幹部の警戒の目を集めてくれたおかげで色々情報は得たさ」
「本来の目的とは真逆ですけどね。私が一般常識担当ですたのに」
気が抜けてしまった。参った困った。
「まぁ、金髪がクアドラード王国にしかないってのは避けようがなかったからな」
クラップに即バレした理由を少々誤魔化して情報共有した。王族(実際は貴族)だとバレる可能性はあるけれど、誤魔化せるならギリギリまで誤魔化したい。リックさんとグレンさんはまだ信頼出来る関係性じゃないからな。
「と、言うわけでとりあえず1番近い第二都市に向かおうと思う」
「それまではサバイバルですぞね……」
手持ちの荷物が何も無かった私たちは、避難が終わった国境の廃れた集落である程度の荷物を拝借した。うん、借りただけだ。
山脈の隙間を辿るような街道の片隅に腰を下ろして、休憩を取る。集落はそこまで裕福では無いのか質の悪いものしか出てこなかった。
キッチン……正確に言うと厨。そこからナイフなどを拝借。マントなど服装を隠せる物などを。
ちょうど逃げ込んだ家はしばらく人の手が入ってなかったにも関わらず、弓矢などが置いてあったので遠慮なく借りた。
「本格的に日が暮れる前に野営の準備を……」
グレンさんはそう指示をだしかけて止まった。
「しない方がいいのか?」
私の方を見て首を傾げる。
他の3匹は気付いてない様だけど、グレンさんは気付いたみたいだ。
「いいですぞ、して」
「一応追われてる身だろ」
「んー。むしろ逆ですぞね」
枯れ枝を適当に集めながら街道の片隅に積み上げていく。
そう、私たちは追われる身。本来なら人目を避けて逃げなければならない。それこそ夜通し。
ただ、私はクラップのところで手に入れた情報がいくつかある。
エリィは本来王都に向けて馬車で進む予定だった。5日程かけて。つまり、今私たちが進んでいる街道を進む計画。でないと他は山あり谷ありで馬車は通れないだろうしね。
そしてクラップはあの年齢。今までの経験から物が言える。『金髪碧眼はクアドラード王族』とかね。
だから私はその逆を突く。
クラップの考える『逃亡者の常識的な行動』の真反対を進む。
まず、国境沿いで逃げた理由はそこにあるんだよね。この時点でクラップは『クアドラード側に逃げた』が6割、『トリアングロ側に逃げた』が4割で疑いの目をかけると思う。そしてより重要なのはトリアングロに逃げられる場合。人手を使うならトリアングロ方面に向けるだろう。
追手の約7割がトリアングロ方向に向けられるはず。3割削れるか削れないかだな。
逃亡者は基本的に人目を避けて変装して夜通し進み人気のあるところを避けるのが基本だろう。
だから私は人の目があるところを変装せずに進む。
「そもそも約半日歩き通す状態で追手に追い付くされてなきなのが成果ですしね」
クラップの性格は基本に忠実。予想外のトラブルの対処は経験から生かされることになるだろう。今まで起こったことない事態は軽くパニックに陥る癖がある。
国境基地から都市圏までの間は精々パニックになるがいいさ!
「……というか、街道ぞ進むのであれば確実に都市に入る時点で捉えるすれば良いので」
思わず苦笑いが浮かぶ。
結構道中に人員割いても目的地に人員割けばいいだけだもんね。……はぁ、気が重い。第二都市に着いた瞬間が1番の問題点だよ。
王都が要塞都市ってくらいだから普通の人は向かうことすら難しいそうだし……。ぬん。
「よし、とにかく休憩。頭動かしてても疲れた体じゃキツイもんだろ。あいつらに指示出すからリィンは休んどけよ」
「グレンさんが居るすて本当に良かった……!」
ちょっとお言葉に甘えてやすませてもらおう。
フゥ、と深い息を吐く。
変装をしない、と言ってもそのまんまだと変に注目を集めることになる。
私は絶対金髪のままでいる必要あるしな。
しかし、エリィが魔法使えないのはキツいな。逆にグレンさんがなんで使えるのかもまだ情報共有出来てないし。
「リィン大丈夫?」
カナエさんが近寄ってきた。
私は二ヘラと笑う。
「大丈夫です。あ、カナエさん、トリアングロの土地に詳しきですか?」
「えーーっ、あんまり自信ないな。屋敷内での生活とかは慣れたけど、あまり外に出ることはなかったから」
「フロッシュの屋敷、ですたね」
「そう。第三都市にあったよ。第三都市は市内に出ることあったけど、海側なんだよね。要するに国境から1番遠い」
「……よく国境まで来れますたね!?」
「昔から運はそこそこいいんだ」
多分運だけだ乗り切れるものじゃないと思いますよそれ。
「……。リィンの事聞いていい?」
「えっ、はい」
「リィンは冒険者なんだよね。クアドラード王国のどこら辺出身なの? ま、あんまり詳しくないんだけど」
「ファルシュです。丁度国境。あ、でも冒険者活動は隣のグリーン領と王都ですてました」
「へぇ」
カナエさんは目を見開いて笑顔を見せた。
ファルシュ領は知ってたんだろうね。
「そういえば今更なんだけど、キミたちの目的ってなんなの? あたしはもう持ってる情報をクアドラードに届けれたってことでお役目ゴメンなんだけど」
んー。
少し首を傾げて考える。素直に言っていいものか。
私はこのシラヌイ・カナエという人間を全くと言っていい程知らないからな。
元が日本人なんだろう、っていうのは予想つくけど。
「迎えに、行くのです。復讐も兼ねるですね。あいつの起こす戦争も、これまでの全てを破壊する」
ぶん殴るだけじゃない。
私は戦争を止めたいわけじゃないけど、ルナールの仕事は破壊したい。私個人が国を相手取ったって勝てっこないんだから。
「その人って、リィンにとっての何?」
「私の?」
実りのない雑談の中で、気になる言葉が耳に入った。在り来りな質問なんだけど。
……私にとっての、何?
Fランク冒険者、リィンの。
「私の……──」
「──リィン、川あるから水浴びしてこいよ」
突然声をかけられた。
その人物に目を向けるが、うん、見覚えがない。
白色の濡れた髪の隙間から抹茶色の瞳がこちらに優しげに向けられた。横に垂れた髪を耳にかきあげている。
ぽたぽたと髪から滴り落ちる水滴が地面に染みを作っていた。
……えっと、このどえらいイケメンどなた????
「??????」
「リィン?」
「名前……」
「名前?」
儚げな色っぽさがあって、例えるなら夜の空から見下ろす月の白い光……。
こんな、え、誰? なんで名前知ってるの????
「……リィン。そいつな、リック」
呆れたような表情でグレンさんが謎の男を指さした。
「…………リックさん?」
「バリアンが言うなら多分俺はリックであってると思う」
「あっリックさんだ」
前髪下ろすと全然印象違うな!!!!?????
ビッッックリして思考回路止まってしまった。よく見れば仕草とか声はリックさんだ。
いやリックさん前髪あるのと無いのとじゃ印象めちゃくちゃ違うな。あといつもの『俺は元気だぜーブイブイ』みたいな笑顔じゃなくて『ふっ、今宵も花が咲いている』みたいな笑顔は普通に脳みそバグるからやめて欲しい。
さらに言うとグレンさんは濡れてないのにリックさんだけ水浴びしているのが純粋に謎。いやぁ、行動理念とか聞いても何となくって帰ってきそうなんだけどなぁ!
「実はさ、昔リックをこの状態で放置したら」
「うん」
「………………俺は女にトラウマをおった」
「……グレンさんが、かぁ」
詳しくは聞くまい。
聞いても絶対くだらない話だろうから。
「ま、リックの言う通りエリィとカナエ連れて水浴びしてこいよ。汗かいただろ」
「狩りは任せろ!」
「あと、これリィンに渡しとく」
グレンさんが3枚人型に切り取られた紙を渡して来た。
手のひらでそれを受け取ると、感じ取れるものがあった。
「魔力」
「うん。お前なら気付くと思った」
特に何の変哲もない紙に見えるけれど、どうやらクラップにぶち込んだファイアボールの原理がこれだろう。
「これは俺の式神。端的に言うと、魔法が使える紙。……魔力がめちゃくちゃかかるし普段は念の為で持っておくもんなんだ」
「使える魔法は?」
「五行魔法の行使は式が勝手にやってくれる。ただ込めた魔力に応じて、だからぶっちゃけ初級魔法程度」
クアドラード文化である四属性ではなくグレンさんの使う五行はあまり詳しくないけど、火、水、地の初級魔法が使えるってことか。
「言霊ってのがあるから呪文の言語はなんだっていい。俺は火球って言うけど、リィンはファイアボールでも使える」
原理が、原理が分かりません!
……まぁ原理が分かったとしても私は魔力馬鹿だから魔法職としての魔法行使はグレンさんと真逆なんだよね。多分使いこなせないだろう。
「お守り程度に持っててくれ。俺達自身は魔法が使えないし式神は追加で作れないから。その3枚だけだ。俺も一応あと2枚は持ってるけど」
グレンさんが1枚使ったことを考えると互いに3枚ずつってことか。
「大事に使うです」
どこまで使えるのか判断が難しいから、出来る限り使わない方針では行きたい。
グレンさんの感覚で言う『これくらい』と私の感覚で言う『これくらい』はまっっったく違うからね!
「エリィ、水遊びするですぞ」
「はぁい」
「言語自体は分かるのに会話の内容が理解できない。ぐぅ、異世界人に魔法は無用の長物だとでも言うのか……!」
悔しそうにカナエさんが呻いていた。分かる分かる。異世界の魔法はやっぱ憧れるけど、今までと全く違うからついて行きにくいよね。
「あ、そうぞ!」
私は全員に向けて言った。
「──私これからエルフになる故によろしく!」
「「「「どういうこと???」」」」
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