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戦争編〜第一章〜
第121話 胃痛の勝ち
しおりを挟むビッ。
肌に赤い線が這う。
「そろそろ観念したらどうだ」
ぼたぼたと汗が流れ落ちる。グッ、と腕を動かしても腕に付けられた鎖は私に自由を与えてくれない。
「姫さんよ、お前がクアドラードのやつなのは見りゃ分かるんだ。早く吐いた方が身のためだ。何の目的で、どうやって潜り込んだ」
荒い息を吐く。
私がぼやく男を睨むと、男は腕に持った鞭をさらに振り上げた。
「……ッ!」
ビッ。
肌に赤い線が増える。
痛みに耐えるために止めた息を吐き出したタイミングで、再び鞭が振るわれる。
「……温室育ちの姫さんがここまで持つとはな」
じゃり、と地面で擦れる音。
足元も繋がれているためろくに足元動かせない。
こんな、こんな。
──こんな一部の界隈が喜びそうな事を!
こんにちは、私です。
現在海軍の幹部、クラップにビシビシ鞭でしばかれ倒してます。一発でクアドラードだとバレたので拷問受けてます。
あの、本当はこんなこと言いたくないですが。
……実家の方が辛かった!
というかクラップって男。多分拷問尋問慣れしてない。前線で特殊な任務熟すタイプの軍人だと思うんだよね。
今のところ鞭打ちしかしていない。
あ~~~~温いな~~~~やるんだったら骨くらいボキボキに折って爪禿げよ。拷問は骨を折るか心を折るかが基本、情報があまり無いせいか質問内容も単調で工夫も凝らせてない。水責めもなければ服毒させたりも尊厳を失わせたりとか、そういうのも無い。今のところ自分の父親が王家のどこかと血が繋がっていると知った胃痛の方が痛みとしては割合が高いです。30点。
胃痛と隣合わせの生活。キツイです。
というか、というか~~! 肉体的拷問より色々情報出される方が胃痛で死ねるんだ~! 頼むからそれにだけは気付かないでくれ……!
「まぁ、お前拷問専門じゃないだろ」
「言うなデブ」
「陸軍の奴らの方が情報収集に向いてるというか」
「おデブ」
幹部2人が語り合い拷問する中、私は情報を整理する。
私はどうやらクアドラード王家の血を継いでるらしい。髪色と目の色が証だと。曰く、青眼は変異で変わるが金髪は間違いなくクアドラード王家の血。これが碧眼だけなら魔法使ってるペインのせいだって言えるけど確信に至っているのが髪色の時点で避けようが無い。
トリアングロが求めているのはここまでの潜入経路。そして国境基地に潜った目的。あちらの立場から考えると情報のない私を探るのは抽象的過ぎて難しいだろう。
つまり、私がトリアングロの立場だと実行する方法は一つ。
──殺害。
彼らが殺さない理由は、多分確信が持てないんだろう。私がクアドラードからのスパイだと。
なんせこの不思議語ですから!
拷問が手緩い。これは本当に、鞭打ちが優しすぎる。熱した鉄の棒使っても良いわけだし、怪我と言ってもミミズ腫れ程度。鞭って言ってもすごくシンプルなやつ。茨の様なものでもなければ鉄の玉が付いてるわけでもない。活動に支障が出る程の怪我に繋がらない様に手加減しているのだろう。
恐らくだが、最初にかました『この口調でスパイなわけが無いだろ』って発言に説得力しか無かったんだと思う。何人か報告書を持って部屋に入ってきたってことは私の言語不自由は周知されている事だし。
皆から注目を浴びて、目立ちやすい口調で、怪しまれる要素を堂々と見せて、その上普通に雑用に従事ていた私。
リックさんがあれだけ怪しいのにクアドラードの人間だとバレなかったのは、私にも通用する。
ならば私のやることは一つ。
「くっ……殺せ……!」
「お望みか、いいぜ慈悲だ殺してやるよ」
「わー! 嘘ぞ嘘ぞ殺すしないで! じいじ助けてうええええええん!」
当初の設定を貫き通す。
「んで、報告にあったが姫さん、鶴に会ってるんだってな?」
「うっ、うぅっ、うん、うん」
「……どんなやつだった?」
知ってることに関してはボロボロ零しますリィンちゃんです。
「白き髪の」
「──クライシスの方か」
特定が早すぎるんだわ。
もしかして幹部、〝鶴〟グルージャって家系的にクライシスしか白髪居ないの?
「姫さん阿呆なのか馬鹿なのか。普通てめぇの追手を話に出すか?」
「おって?」
「姫さんが何番目の王女か知らんが、姫さんの知ってる鶴は、姫さんの兄弟を殺すために差し向けた刺客だっただろうが」
……………………何だって?
「……え??? は、え、あのイカレポンチぞ!? あれが王族殺し!? 命令素直に聞くぅ!?」
「……。」
あっ、聞かなかったから今ペインのパーティーにいるんですね。
無言は肯定。無言は肯定。
「その反応なら直接本人に会ったっぽいな……」
キリキリと痛み出した胃。
まずい気がする。あのミスターハッピートリガーが王族殺し担当の任務で、私も王族疑惑がある。そして2人は会ったことありますって完全に殺人未遂の図。
というかトリアングロ、王家の王子と王女を軽率に殺すな。ペインナイスだよくアイツの手綱を握った。王子達はペインに感謝すべき。
「はぁ、もういい。生かしたってろくな情報なさそう出しな」
まずい、このままじゃ王族確定。
ここまで当初の設定を貫き無知な少女のままで居たから『情報無いならグレーでも殺す』みたいな戦法取られると対策が!
「おい。それは流石に私が黙っていないのだが」
「だからって野放しにしろと?」
「お前、拷問は上手くないが別に下手というわけではあるないだろ。なら答えは簡単だ、この少女は白」
「お前は20年前を知らねぇからそう言えんだ。ローク・クアドラード第2王子の悪夢くらい知ってんだろ」
ギュルン。
今、ちょっと聞こえちゃならない単語が聞こえた。
「ローク・ファルシュの山攻めで山一つ不毛の地になったのだったな」
「白蛇の情報で裏付けは取れてる話だ。……まさか前と今の幹部で認識差があるとは」
ああああああまってまってまってまて。
胃痛情報、重ねるな!
えっ、なに、ローク・クアドラード第2王子??
え、20年前第2王子だった?? は?
今の国王の戴冠式は停戦直後。戦時中が前王だっだのだとすると。
パ パ 上 も し や 王 弟 ?
そ、それにシュランゲの名前も出てきませんでしたかね。『金髪が王族』って話の裏付け取れてるってことは、グリーン子爵が情報元か。
がっっっちがちのがちですやん。
あいたたたたた。胃を捻りあげるこの感覚が拷問! 鞭より痛い。
「王族じゃ、ねぇって、言うしてる、でしょっ!」
嘘は決して吐いてない。吐き出すのは普通に唾。
胃痛の吐き気と込み上げて来る怒りで息が荒れる。
我ながら手負いの獣みたいだな、なんて思っている。必ず殺す。
「強情だな」
──コンコン
拷問部屋にノックの音が響いた。
「入れ」
「失礼します。……その、クラップ様にお目に入れたいものが」
「後だ。拷問中はは近付くなと」
「──リィンちゃんの解放を望む嘆願書です」
クラップが私の方をゆっくりと向いた。
「(嘆願書って、何?)」
「(私にも、よく、わからないです)」
疑問符を浮かべながらだったので無言で首を振った。
「ほう、連名書も兼ねているのか」
「いつの時代だよ!」
クラップが思わずツッコミを入れた。
私の猫かぶりの成果が結ばれた……! あと多分先導したの月組の2人だな。
それに私、私が居なくては雑用が回らないように管理にも手を出してましたし人一倍働きましたから。
なんのために苦労したと思ってんの? 地位を手に入れるためだよ。
「はぁーーーーーーーーー」
嘆願書を読み込んだクラップは大きく息を吐いた。
「証拠が目の前にあるのに物理的な証拠がねぇからな……。仕方ない、外してやれ」
わーーーーーーい! やったーーーーー!!
内心るんたったで喜んでいることを表に出さずにほっと息を吐く。余裕さはあんまり見せない方がいいからね。
兵士が机から鍵をとって私の手足の錠を外していく。目と目を合わせてこっそりありがと、って呟いた。
自分の利益になる手駒……ゲフンゲフン、助けてくれた人にはお礼言わないとねー!
「お仕事、溜まる! してるのに! クラップさんの、ばーーか! 私何回も、クアドラードの王族なんかじゃ無きって、言うしたのに!」
ぴーーっ! と喚きながら兵士を盾に文句をぶつける。心からの。
その姿を見たクラップさんは荷箱から何事か取り出した。厚めの板っぽいけど……。
バンと床に置かれ、私の足先までシャーッと蹴られたそれ。街で売られている様な肖像画だった。
肖像画は白髪混ざりの金髪に青い目をした…………。
「踏め」
踏み絵かよ。
「クアドラード王国の国王の顔だ。踏めよ」
信仰心はともかく、うちの国は忠誠心高めだもんね。
そんな生粋のクアドラード人である私は誇るべき我が国の偉大なる国王の顔を踏めるわけがなく……。
──バンッ!
まぁ、普通に踏みますよね。
「容赦なく行っ……」
「──(王族誘拐の)冤罪ぞぶちかけるされ、痛く苦しき思いぞすた私が、まさか憎むしてないとでも?」※本音
王宮側の黒幕、まだぶん殴れてないんだよね。
トリアングロ視点で見れば王族疑惑の冤罪をかけられた一因に見えるだろう。
「…………はぁ」
クラップはため息を吐く。
「一旦解放だ。怪しい動きをした瞬間、即刻殺す」
疑惑の目が無くなった訳では無い。これから動き難くなるだろうけど、私が注目を集める形で月組とエリィが動きやすく出来るだろう。やばいグレンさんしか信じられないかも。
あ~~潜入ってくそです。
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