最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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戦争編〜第一章〜

第119話 衝撃の新事実は突然やってくる

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 怪我人が一気に増える。切り傷刺傷火傷。怪我のオンパレードに、雑用として駆り出される。

 とは言え、基本的な庶民の医療知識は無に等しい。なので入れ代わり立ち代わり現れる軽傷者の手当を大広間で終わらせていく。

「はい、しびしびするですぞ」
「えっなにその口調可愛あーーーーーーーッッッ! えっ、痛った、めっちゃ痛」

 レモン入りですから。

 しれっと劇薬(一応薬ではある)を傷口に塗り込み包帯を巻く。次の怪我人がやってきて、また塗り込み包帯を巻く。

 恨みはないが一応敵国ではあるのでただ普通に治すというのも……。

「リィン、貴女大丈夫なの? ずっと動き回っているけど」
地獄やま育ち故に体力沢山ですっ! 怪我、痛きですから、早く兵士さん元気になるして欲しきぞ」

 少し大きめの声で答えて元気アピールをしながら好感度を上げていく。
 健気な女の子がトリアングロでウケるかどうかは分からないけど、時々頭を撫でられるから好感が無いわけじゃないだろう。

「ちゃんと休憩取るのよ!」
「ありがとうベニアお姉さん!」

 くるくると駆け回り、包帯などの備品を追加で取りに行こうとすると、赤毛の冒険者が運んできてくれた。

「あ、良かった。これ色々持ってきたから使って」
「わ! ありがとうございます! えっと、冒険者のお兄さん!」
「どういたしまして、お手伝いのお嬢さん。……いや、ほんと普段俺の兄弟が仕事の邪魔ばっかして」
「おれのきょうだい。あっ、リックさんのことですか!」
「そう、そいつ」

 はい、グレンさんのことです。
 あくまでも顔見知り程度に済ませている。

「クライム・クラップ様とカルロソ・フロッシュ様がじきにこちらに来るらしいから、身なりは整えて」

 『幹部のお出ましだから、ボロが出ないようにしておけ』

「それでクラップ様は怪我をされているらしいから、無理はさせないように」

 『鯉の方が怪我してるらしいから、戦力は落ちている。情報を集めてもいいが無理はしないように』

「それから俺たちみたいな男手は外でちょっと追加の危険物運んだりするからお風呂とか沸かしておいて貰えるとありがたいな」

 『外で使う危険物の情報あり。既に用意はされている様だが、追加がある模様』

「はい、分かりますた。では冒険者の皆さんにお願いなのですけど、周辺歩けるようですたら食材とか採取すて貰うとありがたきです」

 『グレンさんとリックさんで食材探ししながら地形や外での動きを確認して欲しい』

「怪我ぞしないように気を付けるすてください」

 『危ないと思ったら撤退して』

「兄弟ーーーーーー! 行こーーーぜーーー!」

 グレンさんと私が情報交換していると扉の外からリックさんが声をかけてきた。
 トリアングロの兵士が怪我をして帰ってきたということはクアドラードとドンパチあったということ。恐らくここは戦場になるのだろう。もう既に用意はされているみたいだけど、国境防衛の雑用仕事を冒険者は任されているのか。

 そうしてグレンさんが去ろうとしたその瞬間、

「──まさか普通に生き残るとは」
「全くだな、お前しぶとすぎないか? おい誰かこいつ瀕死だ、幹部成り上がりのチャンスだぞ」
「おいやめろ空軍が本気で狙うだろうが」

 『幹部』

 その言葉と共に黒い軍服を着た男が2人。
 1人は大きなお腹をしたおデブさん。だが、あれはデブというよりお相撲さんの様に筋肉が隠れているのだろう。足取りが軽い。
 そしてもう1人は60から70位の年齢の包帯まみれの男。見るからに絶対強い人だ。捲った袖から見える筋肉がジジイじゃない。

「おい、軽傷者共。遺体用の穴を」

 怪我をしている、ということで情報からクライム・クラップの方だろう。
 クラップは大広間の人間を見渡し。

「掘るのを…………」

 パチリ。目が合った。

──ドンッ

「……ッ!」

 視界が真っ黒に染まる。
 正確に言うと、足踏みの大きな音が聞こえた時には既に目の前に手を伸ばしていたクラップが居て、避ける間もなく顔面を鷲掴みされた。

「いやいやいやいやまてまてまてまて」

 ……乙女の顔面を鷲掴むな。まてはこっちのセリフだ。


「いやほんと待て。なんでいる、なんで堂々とクアドラードがいるんだよ」
「ほぎゃ!?」
「えっ!?」

 クラップのめちゃくちゃ焦る声。いや待て、お前より私が焦っているんだが。
 一目見てただけなのになんでバレた!?

「おいクラップ! 女の子に手荒い真似をするな童貞!」
「誰が童貞だ絞め殺すぞクソデブ」
「いだだだだだだだだその殺意私に向けうああ」
「……はぁ」

 目尻をガシッと掴まれていたのだけれど、私の訴えに気付いてか手を離してくれた。

「むぎゅっ!?」

 その代わりほっぺたを掴まれたが。

「金髪…………青……」
「おいクラップ、何を言ってるんだ?」
「あーうるせぇなおデブ。んで、姫さんよ、目的は敵情視察か? それとも国境防衛の壊滅か? お兄様でも探しに来たか?」


 ルナールぶん殴りに来ました。
 なんてこと言える訳もなく! なんでバレた、なんでバレた!?

「クラップ様、その子はよく働いてくれる雑用で」
「あ? どこの兵士か知らねぇが俺の判断を覆してまで庇う根拠があるんだろうな?」
「…………いえ、なんでも」

 クラップという人間に私は見覚えがない。それにクアドラードで生活している私は金髪に黒目。だが、瞳の色が違う今、外見判断で速攻クアドラード冒険者リィンだと分かるはずがない。

 根拠が分からない。

「リィンちゃん……!」

 心配そうな目を向ける人は幾人かいるけれど、幹部との力量差が大きいのか止めてくれる人は居ない。

 くっそ、好感度足りないか……!?

「フロッシュ行くぞ」
「おい、レディを引き摺るな。というかお前早く傷の手当をするのだよ」
「処置は済んでる。拷問が先だろ」

「ごうも……ッ!」

 グレンさんが動揺した声を上げる。
 私は頬を掴まれたままクラップという男の歩きに合わせて引き摺られていく。もちろん抵抗はしているけどバタバタ藻掻くだけで決定的に脱出する手段が無い。

 やばい、やばい。
 ここは耐えるべきか逃げるべきか。

 でも隣のフロッシュの方は私がクアドラード出身という確信が無い状態。これは、いけるか?

「ちっ、暴れるな」

 渾身の力で顔をズラすとすっぽ抜けた。逃げないように速攻で襟首掴まれたけど。

 人の目がある所で、決定的なことを言わないと。

『その口調で貴族なわけがねぇだろ殺されたいのか』

 大きく息を吸って反論した。

「私ぞ口調でスパイと疑うと言うですか!? んな易々殺すされるようなことぞするわけ無きでしょばーーーーか!」

 私の称号は、言語不自由だ……っ!

 その不思議な訴えにクラップは眉間に皺を寄せる。ふふふ、どうだ、この根拠。

 あのルナールにさえ私が貴族だとバレない謎の根拠、不思議語! 標準語は来世に期待します。もしくは頑張って来年。

 絶対的な自信を持つ誰にも信じられないパターンの理由だぞ。泣いてない。泣いてないです。
 私のその自信が伝わったのか時が止まった空間でクラップはようやく口を開いた。

「──おい、この姫さんの経緯調べとけ」
「はっ! 承知しました!」
「ぴぎゃん!? 頭でっかき! 頑固! ロリコンーーー!」
「姫さん黙っとかないと殴り殺すが?」
「リー、いっぱい、大人しく、するです」

 ズルズルと引き摺られて行った。



 ==========



 独房のような場所に打ち捨てられる。
 べしょっ、と地面に崩れた私を踏みつけるのはクラップ。

「おい童貞足蹴にするな」
「さて、姫さん。ここなら周囲の目もない。さっさと吐いてもらおうか。てめぇ、目的はなんだ?」
「っ、ぐ、ぅ……!」

 思わぬ痛みに顔をグッシャグシャに顰める。
 クラップが踏んでいるのは私のお腹。つまり、ライアーにクソほど重たい一撃を食らったところなのだ。

 いや本気で勘弁して。怪我してるから、やめて。

「私、クアドラードの、人間じゃ、な、」
「……強情だな。クアドラードの証を引っ提げてよく言える」
「クアドっ、ラードの……証……?」

 脂汗をかき、痛みに悶えながら首を傾げるとクラップは不思議そうな顔をした。

「既に手負いか」
「────ッッッ!」

 グン、とさらに体重が乗った。
 音なき悲鳴が漏れる。

 痛い。非常に痛い。
 これ、悲しいことに実はクラップはあまり体重乗せてないんだよ。逃げ出さないように抑えてる程度。

 そう、つまり全ては私のアイボーのライアーが悪いんです。あの野郎、絶対ぶち殺す。

「敵国の俺が知っときながら姫さん本人が知らないとはな」
「クラップ、どういうことだ? あとレディを踏むな」
「俺はデブと違って男女平等主義なんだよ。扱いに差は付けん」

 嘆かわしいという顔をしていたクラップ。
 ようやく足を除けてくれたが、今度は襟首をつかみ顔を引き寄せた。

「碧眼は時たまに事故で変わるが、問題は髪色だ。金髪、お前見たことあるか?」
「つい先日見ただろ。ローク・ファルシュがそれだな」
「まぁ、そりゃそうなんだが。──金髪は、クアドラードの王家と証明する髪色だ」



 ????????


「え、あの、もう1回説明お願い出来るです?」
「は??」

 ごめん今ちょっと説明飲み込めなかったからワンモアタイムプリーズ。

「金髪は、クアドラードの、王族の、証明、だろうが」

 ……第2王子、髪色、金髪だったよね。
 謁見の間に居た国王、白髪まじりの金髪だったね。
 他に金髪って言うと話にも出ていたパパ上。

 いや、いやいやいやいやいやいや。まさか!

「金髪だけならどこかで血が混ざっただけかと思えたが、その湖みたいな青眼までくっついて来てんだ。エルフの加護だが恩恵だか知らねぇが、王族そのものの色だろう」

 あの、私の今の碧眼は決して私産じゃなくてですね。
 というかパパ上の親族って会ったことないから分かりませんけど。


 侯爵家じゃないから王族とは関係ないって思っていたけど、まさかパパ上、王家の血をお継ぎで?


「はあああああああああああ!??!???!??」


 私って王家の血を引いてるんですか!? 全く知りませんけど!?


 
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