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戦争編〜第一章〜

第118話 堂々としていたら案外バレない

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 国境基地の中は結構シンプルな作りだった。

 L字型に建てられた建物があり、そこに兵士の宿舎施設。そして怪我を治療するための医務施設の2つが並んでいた。まるで壁になるように作られた兵士の宿舎の端に医務施設がくっつけられている感じ。

 兵士は4人で一部屋の宿舎で寝泊まりしており、武器などの保管庫は兵士の宿舎にあるのだろう。
 L字の建物には中々入れなさそうだ。

 そして私のような雑用をする冒険者達は大部屋に男女別で入れられている。
 そのL字に守られる様な位置に大きな長方形の建物があり、雑用が寝泊まりする場所や洗濯に炊事場、それと炊事場に繋がる大広間があり、基地を使う人々は皆そこでご飯を食べている。その裏側に大部屋と言う形で男女別の雑魚寝スペースがあった。

 雑用の男共は肉体労働ってだけで細かな内容は知らないが、私のような女手は炊事洗濯など細かな仕事を任されている。


「──ミイナさん大変! 厨房爆発すた!」
「なんでそんなことになってるんだい!?」

 トリアングロに潜入して早1週間、着々と常識的な情報は集められているが幹部の情報は一つも無い。


 ==========



「へぇ、じゃあ兵士さんは1ヶ月ぞ前よりここにいるのです?」
「そーそー。毎日訓練。まぁ、幹部に教わる経験はそう出来ないからやり甲斐はあるんだけどな」
「かんぶ?」

 話の路線をそちらに持っていきつつ、ようやく出てきた単語に首を傾げる。

「……え、まさかリィンちゃん、ここの基地の担当幹部知らないのか?」
「しゃっきり不明!」

 トリアングロ産イカレ白髪の言葉を思い返す。

「えっと、神様の使いの名前ぞ授かるすたとっても強き人、って言うのはご存知です」
「わぁ、めちゃくちゃ簡単にまとめた感じ。子供向けの説明だな」
「リー、子供じゃなきですぅ!」
「あははは、ごめんごめん」

 頭をぐりぐり撫でられる。
 あまりにも無知すぎると疑われかねないな……。

「ここの幹部は蛙と鯉のお2人が担当しているんだよ」
「あ、海軍の2人だぜ、リィン分かるか?」
「分かるですぞ!」

 ビシッと挙手してニコニコ笑顔で答える。

 蛙と鯉ね、把握した。
 確か海軍の幹部は4人いて、海蛇、亀、蛙、鯉がいたはず。イカレポンチアタマパーのタレコミだから違う可能性もあるけど、ここの情報と比べて一致してるなら信ぴょう性はある。

「おっ、えらいえらい」
「世間知らずすぎて心配になるんだが」
「あっ、そうだ!」

 私はふと思いついたように顔をあげる。

「私前に鶴さんと会うしたことあるですよ!」

 時が、止まった。

「は、え、嘘だろ!?」
「すっげーな!? 鶴って言うと空軍の幹部! 空軍は会うの難しいって話なのに」
「あっでも本当かどうかは知らぬです。ちょっと、結構……かなりおかしき人ですたから」

 じいじ設定のシュランゲを持ち出してもいいけど、流石にシュランゲは突き詰められると分からない。
 あくまでもじいじの正体を知らない子、のスタンスで行こう。

「で~~~~~~きた!」

 大広間の端っこで冒険者達が固まって何かしていた。
 その中心にいるのはリックさんだ。

「……冒険者、何やってるんだろうな」
「さぁ?」

 兵士達が首を傾げる。
 ふ、不安だ……!

「ジャーン、見てみて。ピアス作った!」
「リックすげぇな、細っ」
「いや細かいところはクルルンにやって貰った」
「いやクルルン誰だよ」
「俺だな…………」
「ガナッシュじゃねぇか! 一文字も被ってねぇ!」

 人混みの中を横目で確認すると月の形をしたピアスを掲げていた。

 月組、って名前が大きくないとは言えどそんな堂々と名前アピールしてもいいのか?

「綺麗な石ついてるな。なんの石?」

「何って、魔石だけど? 俺が宝石とか手に入れれるんけねーじゃん!」

 そうじゃないだろ!!

 リックさんの発言にピリっと空気が冷える。

 私は魔法を使う時魔石を使わないし冒険者になって始めて魔石を見たタイプの人間だけどさ。

 トリアングロ王国は武器に魔石使わないって情報は共有したよね!? というか、この国魔物も生息してないんだけど!

「……リックそれ、なんに使ってた魔石?」

 つまりだ。
 トリアングロ王国は、魔石を魔導具にしか使ってない。なんせ魔法が使えない国だから!

 まずいまずい。魔法と魔石と魔物はタブーだって言ったじゃん…………!

「なんにって……」

 どうにかしなければ。リックさんが余計な口を開く前に……!


「──箒!」

 再び時が止まった。

「箒、ほうき?」
「おう、箒! な、兄弟!」
「……箒なんだよなぁ」

 その発言で張り詰めていた空気が緩んだ。

「なんでお前の箒魔導具なんだよ!???!? 素直に謎!」
「掃けば埃を撒き散らしついでとばかりに水も撒き散らすタイプの箒だった」
「それは最早箒とは言わない!」
「お前それはおかしい。なんの意図があってそんな風にした!? 魔導具職人呼んでこい!」
「俺にもよくわからん。でもこの魔石キラキラしてて綺麗だろ! これさー、俺の太陽に砕けたからあげるって言われたやつなんだー」
「それ、ゴミ押し付けられただけなん」
「しっ! 静かに、バレるだろ」

 冒険者達がガヤガヤといつも通りの雰囲気に戻っていった。
 うん、普通は箒が武器とは思いませんよね。……魔導具だとも思われないけど。

「無駄にびびった……」

 兵士がボソッ呟く。私もビビりました。
 まぁ世間知らずの私は首を傾げておく。そうするとそれに気付いた兵士が顔をあげて解説してくれた。

「魔石には2種類あってね。1つは魔石に作動命令の術式を組み込んで……、まぁ簡単に言うと加工した魔導具用の魔石」
「加工? では、天井の光と、お水の出る魔導具の魔石は違うです?」
「そうだよー。『スイッチを入れたら光れ』って加工された魔石は例え同じ光でも『人に反応して光れ』って魔導具に入れても使えないんだ」

 ここら辺、よく分かんないんだよなぁ。
 そういう物だっていうのはわかるけど、いざ魔導具を作るぞってなると術式の組み方とか全く分からない。……フェヒ爺が将来的に教えるつもりだったから術式の勉強はしていたけど。
 多分短い寿命の人間が扱える物じゃないと思うんだ。だからエルフが魔導具文化の先駆けになっているんだろうね。

「話を戻すね、それでもう1つの魔石は魔物っていう物から採れ……」
「おい。やめろ」

 優しい顔した兵士が説明してくれていたんだけど、強面の兵士が割り込んで制止した。

「……ごめん。説明が難しくて」
「…………もう1つの魔石は、生きた魔石だ。クアドラード王国にのみ存在し、主に武器に使われている」

 へぇ、魔物から取れる方の何も加工してない魔石って、トリアングロでは『生きた魔石』って言われてるんだ。

「生きた魔石を使う奴はクアドラードのヤツらだけ。だから皆警戒してるんだよ」

 やっぱりスパイは警戒してるか……。
 グレンさんの魔石付きの武器、国内に入るまでにアイテムボックスに仕舞っといて良かった。

「娘も気をつけておけよ、ここは国境だ。いつ、どこで、クアドラードの奴らが混ざっているか分からないからな」
「うん……。でも兵士さん達がいる故に安心ですぞ……!」※クアドラード国民※しかも貴族

 私がそう言いながらぶりっ子を消費しながら振り撒いている。
 よし、決めた。冒険者団体はグレンさんとリックさんに任せよう。王都までの行き方とか情報集めて貰えればいいんだけど。

 私は兵士の方で幹部情報を探るか。
 ともかく地位を確立して、好感度を上げて。

 それでキャラ付けもしておこう、もしクアドラード国民だとバレたとしても不思議語を喋る金髪ツインテ少女は目立ちやすい。見た目を変えれば逃走生活にも向くだろう。
 ま! そんなことしない様に頑張るんだけど!

「……まぁ、あんな人の名前も覚えられないような馬鹿がスパイは流石にねぇよな」
「だな」
「それな」

 ニッコリ。

「──おい! 国境前線組が戻ってきた!」

 飛び込んで来たのは怪我人が増えるという情報と、この基地を担当している幹部が戻って来たということだった。
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