最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

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戦争編〜序章〜

第109話 結成、ズッコケパーティー

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「突き抜けましたわ!」
「まさか本当に寄り道も何もせず突き抜くとは」

 2日もかからずにダクアまで辿り着いた。

「いいの?」
「何がです?」
「エルフ領に、フェヒ爺居たですよね」

 一秒。首をかしげる。
 十秒。考え込む。
 百秒。ハッと気付いた。

「──戻りましょう!」
「させるか!」

 西の森にUターンしようとするエルフの腰についてるリボンを掴んで阻止をする。

 行かせてたまるか……!

「いーーーやーーー!」
「ご近所迷惑故に夜中に大声出さない!」
「離してリィンさん! 私、すぐに向かうの!」

 再戦宣言から戦争が始まるまで2日。
 あの日の夜、私は気絶した。
 そしてほぼ丸1日寝ていた。……痛みと意地で思っていたより早く起きれたけど。

 そしてその日のうちに王都を出発して、エリィの力技で馬を進ませ丸1日。なんと戦争開始の朝を迎える前にダクアに着いてしまった。おかしい。

 半円を描く様に魔の森を避けた旅路。幌馬車とは言え、半月は軽くかかった。
 早馬だとしても、真ん中を突っ切ったとしても! 1日で王都からダクアまで辿り着けるわけがない、頭がおかしい。というか魔法がおかしい。エリィは魔法を馬にかけまくってなんかもう馬(と思わしき生物)が可哀想だった。元気いっぱい。

 ……もしかしてエリィって、その年齢から考えるとかなり天才肌なんじゃ。


「明日の朝の鐘には戦争ぞ始まるですよ!? 戻るする、暇、無き……ちょっ、力強きですね!?」

 ズルズルと引き摺られる。この子深窓の令嬢(ガチ)じゃないの??

「……エリィ、いいのですか?」
「良くないから戻るのーー!」
「──この街、フェヒ爺の弟子ぞ居ますけど」

 ピタッ。

「……そういえばここの名前ダクアでしたわね。それが?」
「フェヒ爺はとても厄介なヤツです」
「嘘よ! それは未だに信じられませんわ!」
「事実はさておき、弟子から取り入るした方が、早いと思うません?」

「リィンさん、冒険者ギルドはこちらですわよね?」

 心の中の私が勝利のポーズを取った。


「「おじゃましまーす」」
「はい、冒険者ギルドダクア支部へようこ──きゃああああ!? なんでリィンさんまた死にかけてるんですか!?」

 ちょっと色々ありまして。


 ==========


「はい、これで回復しましたよ。本当に、ほんっっとうに貴女って人間は。また魔法で無茶やりましたね?」
「あ、あははー……」

 苦笑いを浮かべた私にリリーフィアさんがため息を吐く。
 エリィが魔力回復を覚えてくれればいいんだけどなぁ。きっと、なかなかに難易度が高いんだろう。

 そんな夜更け。ギルドの扉が開かれた。

「サブマス、さっきの悲鳴なんだ」
「リッリーなんかあったのか?」
「「おしい」」

 ダクアの愉快な仲間たちだった。まあ、グレンさんとリックさんのコンビだけど。
 リリーフィアさんにペンを受け取って、通行記録を取りながら笑顔を見せる。通行記録をつける理由は国側に『逃げたつもりじゃないぞ』ってアピールするためだ。
 それと同時に『追い掛けれるんなら追い掛けてみろ』って言ってる。

「ぇっ、リィン? なんでいるんだ? ワンダフルコアは?」
「いやだれだよ。ライアーだろ」

 ペキリ。
 ペンが死亡した。あ~あお前のせいです。

「実は」
「ふん」
「あ゛ーーーッッッ、いっ、いった、は? え、エリィ何故私の脇腹にチョップすた?」
「私の! 紹介!」

 〝サイレント〟

 魔力回復万歳。
 突然私に攻撃を加えたエリィを魔法的に黙らせる。言葉が無ければ精霊に頼ることも出来まい。フェヒ爺以外。

「実、は! 王都で──」


 粗方を説明し終えると、ギルド内は一瞬にして静かになった。


「ライアーのやつが実は」
「実は……」
「──実は女装趣味があってそれをお前が知ったから腹を蹴ってトリアングロに逃げたって!?」
「ソウナノデス!」

 そうなんですそうなんです!
 女装趣味があって、それを私が見ちゃったから、あいつ私の事めっちゃ勢いよく蹴って、亡命したんです! トリアングロに!

「……うっっっわぁ(ドン引き)」

 リリーフィアさんが面白いくらいに表情を歪める。
 
「と、言うわけで。私をボコボコにすたライアーをふんじばってボコボコし返す為に、トリアングロ行ってくるます」

 すちゃ、と手を上げて挨拶をすると、早速立ち上がる。

「ちなみに、明日の朝から戦争ぞ始まるですのでお気をつけて」

 出発しようとすると、慌てた2人に腕を掴まれた。

「い゛っ」
「リィンその体で出発しようとしてんのか!?」
「戦争ってどういうことだよ!」

 いっっっったいんだって!!!!
 思わずうずくまる。

「ほら、痛いんじゃん」

 リックさんが私を見下ろしながら怒ったように問い詰める。

「なぁリィン。俺も行くよ」
「えっ!?」
「理由がどうであれ俺の太陽を傷付けた男は一発くらい殴らないと気が済まないし」

 リックさんが言えばグレンさんはため息を吐いた。

「だと思った」

 それ、は。正直人手がある方が助かるけど。
 ……リリーフィアさんという中立組織のサブギルドマスターがいるから言葉は濁した。

「……とりあえず外に出るしてもいいですか」
「「おう」」
「り、サブマス、馬ぞ外に繋ぐしてる故にグリーン子爵の所に届けるしてください。あ、魔力回復ありがとうござりました」
「え、ちょっ、リィンさん!? 私の仕事をナチュラルに増やすの辞めてくれません!? それに貴女未だに私の名前言えませんね!?」
「エリィ~、行くぞり」
「ーーーーーー!!」
 
 おいでおいで、と呼ぶとプンプン怒り散らしたエリィが付いてくる。

「リックさん、グレンさん」

 ギルドの扉を閉めると私は2人の顔を見た。

 この位置ならリリーフィアさんが聞き耳立てれば聞こえるだろうけど。聞こえるならそれでいい。あくまでも個人として聞いただけだから何も出来ない。

「……ライアーが、トリアングロの幹部ですた」
「……トリアングロの幹部?」
「狐、ルナール。だから、私はトリアングロの最深部まで行くして、ライアーけちょんけちょんにするです」

 グッと拳を握るとリックさんとグレンさんは互いに顔をみあわせた。

「それで、再戦宣言ぞしますた。なので明日、戦争ぞ始まるです」

 逃げるなら逃げて欲しい。冒険者は街を守衛する義務があると聞いた。スタンピードの時もグレンさん達は逃げずに立ち向かった。
 王都ならクアドラード王国の最深部だ。敵の手が届くのは1番遅いのだろう。

「ごめん良く、俺帰属意識とかあまりないからだからかもしれないけどさ……」

 グレンさんは頬をかいて困った様な表情を見せた。

「……あいつアレで軍人だったって事か?」
「そこに関すてはとてもびっくりです」

 毎日毎晩フラフラ女遊びしててリリーフィアさんをナンパして軽くあしらわれてぐーだらしてる男が普通軍人とか思わないよね!

 いや、本当。
 小娘相手に大人気なくギーギー喚いてるおっさんがコツコツ戦争の準備をしつつどんでん返し狙ってたとかなんて物語? 胃痛案件発生させないでください。

「私に罪ぞ疑惑の目が向けるされた可能性しかない……!」
「しかも狐って、何、え、なんの因縁? 宿命的なアレ?」
「そのようなる命はポイです」

 キャラ被りは殺さなきゃ。
 有り余る殺意がとめどなく溢れてくる。

「リィン」
「はい?」
「お前はどうしたい?」

 リックさんの抽象的な質問に首を傾げ、とりあえず答えた。

「ライアーを、ひとまずぶん殴る」
「戦争の中?」
「はいです」

 爆速で突き進んだ私達だけど、ルナールとべナードはもう国境を越えている自信がある。
 私を蹴り殺すときに見せたあの身体能力。走りっぱなしならエリィのバフ馬に匹敵するし、私は丸1日寝ていたことを考えると間違いないだろう。

 それに、アイツらが再戦を2日後と宣言したのだから、トリアングロに居なくては巻き込まれる。

「──うん、やっぱり話聞いても変わらないな」

 リックさんが笑う。

「理由が変わっても、リィンのしたいことが変わらないなら俺の決定も変わらないままだ。俺はリィンと一緒に行く」
「はぁ、どうせそうなるだろうとは思った」
「というわけで友よ! クランの皆にしばらく抜けるって伝えといてくれ!」
「断る」
「なっ、なんでだよ!?」

 カッコつけたリックさんはグレンさんの即答に動揺する。
 グレンさんは呆れたような視線を向けていたが、獰猛に笑った。

「俺も行くからに決まってるだろ」

 裏切られることは怖い。けど、縋るものが無い私は2人の提案を拒否することなく受け入れることにした。

「ちなみにこちらはエリィ。王都で出会うしたエルフ。多分付いてくるタイプです」
「ごめん本当にリィンの説明って訳が分からない。言語も含め」

 折角エルフを紹介したのに文句を言われてとても解せない。




「──んじゃ箒で進むです」
「………………………やっぱ帰ろうかな」

 もう人身事故は起こさないのでご安心ください!
 くっそ、あの時轢き殺しておけばよかった!


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