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番外編
第103話 水遊び?
しおりを挟む「蒸しあっっついねん!」
そう叫んだのは誰だっただろうか。いやまあ口調で丸わかりなのだがここは雰囲気でそう言っておく。
「まぁ、確かに暑いわね」
「雨降ってるのにおかしいねんて」
「あーまー、そこら辺は色々調節してるらしいぜ? 凡人にはわかんねーけど」
永遠に降り注ぐ雨の恵みに敬意を表し、水の都と名付けられたクアドラード王国の水源である巨大な湖の周囲をガタガタと幌馬車は進む。
そんな道中、蒸し暑さに項垂れていた一行。
雨が降り続けるとは言え、太陽は今日も元気に顔を覗かせている。元々雨の少ない土地柄故に、雨に慣れないのもあって新鮮な気持ちでいたのだがなんせ湿気がすごい。雨、めっちゃ蒸発する。
「蒸し暑さには慣れねぇな」
「せやねん……」
御者をしていたライアーがうがーと喚くサーチに同意を示す。その顔はダルさマックス。
そもそも御者という作業が面倒なのだ。
あと、普通にこの湖から流れる水には嫌な記憶がある。
「無理! 無理です!」
ピッ、と悲鳴と共に手が上がった。
真っ青な顔をしたリィンだ。
「乗り物酔いと蒸すあつき!」
「なんだそれ」
「ダブルキックで私はゲロッキー! かと言え睡眠妨害法外野郎ぞ邪魔する故に! 休息を! 休息を求」
「遊ぼーぜぇアホ毛~! オレサマとリバーシやろ! オメーさんチェスな?」
「ああああああああぁぁぁ重き重き重きぃ!」
のしかかられたリィンの悲鳴。ただでさえ蒸し暑い中自分よりも体格のデカいやつがまとわりついて居れば涼めるものも涼めない。あと、寝れない。
「まぁ……そろそろ休憩でもいっか」
ペインの言葉にライアーが幌馬車を停める。
コマース領のセントルムに辿り着くまではクライシスで色々苦労をかけ、そして地獄から抜け出すために色々こき使……助けて貰ったリィンの頼みだ。
水の都が好きということもあり、ペインは簡単に了承した。
各々が雨やら湖やらで涼む。
とは言え、木々は湖の向こう側。魔の森にしかない。要するに太陽がガンガン照り続けているということだ。暑くてたまらない。
この暑い中、服を着込んだままなのはリィン、ライアー、ペインの3名。袖口や服の下に色々仕込んでいる彼らは簡単に服を抜けないのである。身分詐称のツケが来た。
「あ゛ーー……っチィ」
茹だる様な。と言うにはまだ気温は低い方だろう。
ただしよく考えてみれば、ペインは胸当てを着てある。リィンは黒のマントを。ライアーは篭手を。
もう熱を吸収する気満々コーデである。涼む気が一切ない。
一応言っておくが街の外なので警戒は必須なのだ。ただ、そういう警戒担当がその3人、そしてラウトであっただけで。ただラウトの場合は接近型なので機動力が優れた前衛と遠方攻撃が可能の魔法職、警戒心の強い前衛が武装状態。時として有能さは不便さを生む。クソッタレ。
「ペイン」
鈴を転がす様な声が聞こえ、馬車の陰で休んでいたペインは振り返る。魔力の接近。
ほぼ反射で防御魔法を貼った。
──バシャン!
これはリィンのウォーターボールがペインのマジックシールドにぶつかり、隣にいたライアーに水飛沫が盛大にかかった音。
「「「……。」」」
ライアーは静かに佇んだままだった。
ペインとリィンは互いに顔を見合わせる。
スラ……っ。とライアーは己の剣を抜いた。そして雨降る場所まで歩いて剣に水を纏わせる。
「オラァ!」
──ピュンッ!
これはライアーが剣圧で水を飛ばした音。
「うぎゃあ!? 待っつ、待つして今絶対水とかの音では無き音ぞした!」
「あっれー!? 剣圧って弾丸だっけ!? おっさんの剣速どうなってんだ!?」
絶対その水圧やばくね?
そう判断した14歳2人は34歳から全力で逃げ始めた。
「よりにもよってまた魔法かよ小娘! お前俺にぶつけるの何回目だ!?」
「通算1回目!」
「24回目だろうが過去改編するな!」
そんなにしてたっけ? リィンは首を傾げる。これから倍レベルで増えていくことをまだ知らない。フレンドリーファイアはお手の物だ。
「水よ! 〝ウォーターボール〟!」
「喰らうか!」
「へいぱーす!」
「ッ、2体1は卑怯だろ!」
「勝てば正義だ悪いなおっさん!」
「卑怯は敗者の言葉ですぞ!」
「あぁ? 濡れ鼠にするぞガキ共。湖にぶん投げられる覚悟は出来たか?」
カーン!
今、世界一くっだらねぇ戦争が幕を開けた。
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