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王都編下
第92話 真の外道は身近に潜んでいる
しおりを挟む宿にようやく現れたのは冒険者ギルド経由で連絡を入れたグリーン子爵でした。
「リィン嬢ーーーーッッッッッ!!!!!」
「おいこら貴族!!!!! 護衛ぞどうした!!!!!」
「彼らなら胃痛で倒れたが!!!?????」
「何たる無様!!!」
「君がッッッッッ、言うなーーーーー!!!」
「…………え、なにこれ」
開幕10秒の出来事である。
連続でカジノに行く気にはなれず、数日開けてカジノ側に情報を探らせてから行くことを決定した。
冒険者としての活動を調べればお金を稼げる冒険者だって分かるから。
クロロスとエリィも同じ宿に泊まっているので、4人(内1人はご飯食べて船漕いでる)でホールにふらっと居た瞬間に突撃してきたのは見るからに貴族といった格好をしたヴァルム・グリーン子爵。変装をせぇ。
ちなみにこの宿小さいからかペインパーティーと私たち一行で宿の部屋はほぼほぼ埋まっているっていう。身内しかいねぇ。
「……っ、う、嘘だろ」
ガタッと席を立ったのはクロロス。
口に手を当ててわなわなと震えている。
「ほ、本当にグリーン子爵……! 俺と言うものがありながら……!」
「あ、無視すてください」
見るからに誰だろうって顔して子爵が見ているけど、今のやり取り全部カットでお願いします。無駄に関わりたくないです。
「聞いたよリィン、ライアー。とんっっっでもないことをしでかしてくれたね?」
「しでかすないです」
「なんっっっっっっっっで、キミはこう厄介事しか起こさないんだい?」
思わずジトッと子爵を見る。
冒険者生活胃痛案件の記念すべき第一回はダクアで起こったんですけど? そこから軒並みダクアだし、なんだったら人為的に引き起こされた大きな案件って間違いなく子爵が持ってきたんですけど?
内部調査だなんて冒険者には荷が重い依頼、持ってきたの、だーれだ。
私の冷ややかな視線に気付けた子爵はバツの悪そうな顔をしてそっと顔を逸らした。
「あぁもう……王宮め……この子の脅威度を知らないのか……いや知らないな……Fランクだからな……」
ブツブツ文句を垂れる子爵。すすす、とライアーが子爵を避けるように寄ってきた。
「お前なんて知らせたんだ?」
「手紙ぞ出すました。りりーひあさん宛に」
「……なんでリリーフィアちゃん宛に?」
「私が直接子爵に手紙ぞ出すすたら権力利用だと思うされるでしょお?」
私は事情をリリーフィアさんに説明したのだ。
『リリーフィアさんへ。第2王子誘拐の疑いで捕縛されました、ギルド主催の冒険者大会に出場中のタイミングで疑われているようです。依頼扱いにならないとは言え、そちらで行ったお仕事が原因でしょうか。目をかけてくれているグリーン子爵に申し訳ないと思っています。どうぞダクアに被害がいかないように気をつけてください。リィンより』
ってね。
ギルド主催って入れたら冒険者ギルドも何かしら動かないといけないし、内部調査のお仕事したよねーどうしようかーそれが原因だったらー。って、脅しかけたから子爵に話が行くと思ったんだよね。
「なんでそういう所は頭働くんだ?」
「そういう所以外も働くですけど」
「別にそこまで働いてねぇから言ってんだが。物事が後手後手になるのが証拠だろ」
うっ。ちょっと気にしていることをズケズケと。
どーーーせ私は先読み苦手だよーー。ふんだ。
頬を膨らませて拗ねればライアーがグリグリと私の頭を押さえた。地味に痛い。
「それで、ご丁寧にわざわざ遠回りしてまで私に情報を教えたのは、冤罪を晴らそうと?」
「クアドラードの者だという証明ぞ欲しきです。ファルシュ辺境伯令嬢の証言ではいささか発言力ぞ足りませぬ故に」
「……ファルシュ辺境伯令嬢?」
それってお前のことでは、みたいな感じで訝しげな視線を向けてくる。
「レイラ様のことです。王都にぞいらっしゃいます」
「ーーーーーッッッッ、キミ、キミねぇ……!」
姉じゃん!!! みたいな表情で言葉を止めた後、耐えきれないとばかりに机に手を付けた。
私、ファルシュ辺境伯令嬢だという事は知られたくないんだよね。口調が弱点みたいなもんだから。だから『レイラ様』の証言はダメだ、純粋にまずい。繋がりが悟られる可能性がある。そもそも私ファルシュ領での生活記録が無いから。
「ということでよろしくです!」
「……別に望むなら王宮に口聞いても大丈夫なんだけど……それは望んで無いんだね……?」
「はい」
王宮側との接点が無くなれば、王宮側のへっぽこ推理黒幕ぶん殴れなくなるじゃん。
冤罪なら冤罪でギリギリまで引き伸ばしていた方が、『罪を着せてしまった事への罪悪感』が溜まるでしょ?
殴っても不問にしてもらえる可能性が高まる。
……証拠が無いせいか噂も回ってなさそうだし、冤罪だって最初に権力者に伝えてるから私の評判は落ちないだろう。
「あ、それと子爵」
「ん? なにかな?」
「グランドカジノについてご存知です?」
私が首を傾げれば、めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
眉間に皺を寄せて見るからに悩んでいる素振りを見せた子爵は、深くため息を吐いて答えた。
「あのカジノは法律の適応外です。関わるのはやめなさい」
「それは」
「貴女みたいな小娘が行けばあっという間に食われます」
「──いやこいつ初日で100枚勝ったが」
「………………最小で?」
「最大で」
ドン引きの擬人化爆誕。
ライアーの説明にグリーン子爵は顔を青ざめさせる。さぁ、手札は揃ってんだキリキリ吐け。
「……。はぁ、分かりましたよ。──あのグランドカジノには地下闘技場があります」
へぇ、地下は闘技場か。
カジノだと思っていたんだけどな、想像していたよりも物理的な賭け事だったか。
隣をちらりと見ると不機嫌そうな顔をしたライアーが居た。
ライアーってドクズに見えるけど案外倫理観と感覚はまともだよね。へぇ、って感想しか浮かばない私とは大違いだ。
「そんな話、聞いたこと無かったけどな……」
クロロスがぼやくとグリーン子爵は不思議そうな顔をして聞いてきた。
「リィン、彼は」
「どっかの貴族の子」
「バラさないでくださいよ……。いや隠すつもりもありませんけど」
あっ、ライアーが『また貴族かー』って遠い目をした。
「そういうすればライアー」
「あ?」
「グリーン子爵とクロロスは平気?」
「あー……。平気、つーか、俺が貴族嫌いなの普通に住む所がちげェからだよ。誰だってめんどくせェ事に関わりたくないだろ」
感覚的に、双子の姉の方。
ああいうガッツリした貴族とか、名前も覚えられないような貴族とか。
「なるほど」
「別に好きってわけじゃねぇけどよ」
てっきり服毒してから貴族全部ダメになったもんだと。
するとクロロスを観察していたグリーン子爵はハッとなにかに気付く。
「あー、なるほど。(リィン嬢が金髪であることを考えると)その家」
「しー! しー!」
「噂は所詮噂かと思いましたが……(金の血あるところにエルドラードあり、は)本当でしたか……」
クロロス何者なの? 名乗らなくていいから。
「さて、話を戻します。地下闘技場はただの闘技場じゃありません。あなた達が参加したような冒険者大会とは打って変わって、出場選手も自分で選びます」
「…………どのように?」
「奴隷です」
……。
それで、下に行く人違は奴隷を連れていたのね。
「趣味が悪ぃな」
「えぇ全く」
「……あの、それって勝負になるんですか?」
クロロスが不思議そうな顔して手を上げた。
勝負になるならないって、何がだろう。
「大概の奴隷を買う時って人手が必要な時と慈善活動ですし。そもそもの話戦闘の出来る奴隷なんて珍しいでしょう。精々生活資金を手放してしまった獣人とか」
「あ、なるほど。奴隷落ちは自己申請ですもんね、奴隷商は信用問題ぞしっかりすてますし、腕っ節ぞある人は大概冒険者として生計ぞ立つが可能」
「でしょう? そんな戦闘ど素人の戦いを見て楽しいものか……。奴隷に戦闘を仕込むにしろ、時間も労力も勿体ないでしょうし」
クロロスと言う通りだ。他人を奴隷に売ることは出来ないって仕組みだから自分で身売りするしか無い。そんな奴隷は大概病気だったり生活苦だったり、最低ラインの生活補助である冒険者生活を上手く乗り切れなかった者だ。腕っ節があれば自然と成功する。
まぁ、ミスして片手吹っ飛んで、とかならあるかもしれないけど。
要するに戦える奴隷なんて非常に珍しい、ってわけ。
「──だからですよ」
グリーン子爵は悲しそうに私達を見た。
「……あのなガキ共。世の中には素人同士の戦う覚悟もなくどっちが勝つか分からねぇ試合の方が楽しい連中がうじゃうじゃいるんだよ」
ライアーが呆れたような、それでいて闇を知らない子供を哀れむような視線を向けて教えてくれる。
「洗練された戦いも、美しいまでの死闘も。奴らに必要なのはそういう綺麗なもんじゃねぇ。望むのは血生臭くて殺すことに慣れてない素人の絶望する醜い殺し合いだ」
あぁ、そうだなぁ。
とても納得させられた。
ただ殺す事に慣れている戦士の殺害を見たって賭けにはならないよね。
「と、言うわけです。奴隷を買う金も無い庶民には無縁の話です。それにあまり見せたくありませんしね」
ほーら解散、と言いたげに手を叩くグリーン子爵。
ぐぬぬ、確かにチップに換金したし、衣服で所持金ほぼほぼ吹っ飛んで行ったけど。
……は!
その時、白色の脳細胞が閃いた。
「いるじゃなきですか! 奴隷! 戦闘も出来て、品格ぞあって、死んでも心ぞ痛くない奴隷!」
キョトンとしているヴァルム・グリーン子爵を見た。
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