最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

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王都編下

第88話 常識知らずのパーティー

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「ドレスコードの無いオキャクサマはお帰りを」
「なっ、なんでですのーーーー!?」

「だよなぁ」
「そりゃそうだ」
「ですぞね」

 グランドカジノの前で門前払いを受けたエリィが叫んだ。


 庶民街から貴族街に向かうためには金貨1枚の税金がいる。通行でそんなにかかるとか馬鹿かよって思ったけど、どうやら冒険者大会の準優勝商品である手数料無し、というのはギルドの利用金だけではなく関税も免除されるらしい。
 レイラ姉様曰く『そんな関税殆どの貴族が免除される何かを持ってるわ』と。

 貴族街で商売をする庶民も『商売許可証上』に通行関税の免除が組み込まれている様子。
 そりゃ出入りで一々お金取られてたら商売にならないよね。

 馬鹿が損を見る、の体現だ。


「ぶぅ~~~っ! なんでよどうしてよ!」

 ばぶばぶと怒る姿を見せるエリィにため息を吐く。

 流石は貴族街、街並みはとても綺麗でゴミひとつ落ちていない。庶民の服の中でも結構上等な物を着ているつもりだったが、それすらもおぼこく見える。
 そんな格好で格式高い大人の社交場に入れるわけがなく。
 予想通りの門前払いに納得したところだ。

 ちなみに私は貴族勧誘が多かった事に加え、視界に入ると目立つからという理由で髪色を物理的に隠している。帽子派フェヒ爺が生み出した古臭いデザインのキャスケットだ。みすぼらしさに拍車をかけている気がする。例えるならウエディングドレスに編笠。だっっっせぇ。

「しかしまあ、貴族街に上がるのも一苦労だな」
「あのエレベーター、規定の時間のみですから」

 ライアーの疲れた声に同意する。
 1時間に1回庶民街と貴族街を上下するエレベーターが東西南北につけられている。個人的にサイコキネシスを使いたいところだけど、それは騎士団に睨まれるだけだろう。

 こういう魔法ありきの生活、魔法が無くなれば崩壊するけど魔法を使わないトリアングロが攻め込んだ時は優位に立てそう。

「レイラ様が目ぞ付けるすたなればカジノの可能性はとても高きです、けど」

 私は顎に手を当てて考える。

「エルフぞ使うして人探し、王宮が思いつかぬわけがありませぬよね……? 本当に常識的に考えるが可能な位置にいますかね?」

 一気に人探しが捗る手だ。あっという間に捜索範囲を狭める事が出来る方法を国が使わないと思うし、その捜索範囲に手が及ばない場所を探すのは在り来りな策だと思ったけど。

「どうかしら」
「……?」
「だって、王宮は唯一のエルフを20年前に手放したのでしょう」

 唯一の、エルフ?
 私が首を傾げればぷぅーと頬をふくらませた幼女が……間違えたエルフが居た。

「フェ、フィ、ア、さ、ま!」
「あぁ」

 というか唯一のエルフだったのかフェヒ爺。
 うーん、ならエルフの協力を得られてない可能性があるのかもなぁ。

 フェヒ爺、面倒くさがりだから方法を教えずに結果だけ教えそうだし。

 例えば失せ物探しの相談が来たとしても、どんな魔法でどうやったら見つけられたとかの説明をせずに『それなら庭の隅に落ちてる』とか言いそう。相談役(大雑把の極み)だもんね。
 人探しの方法がエルフに持ち合わせている、というのすら教えてなさそう。


「じゃあここ探るってことで決定?」
「うん」

 クロロスの言葉に頷けばライアーは非常に嫌そうな顔をした。
 なんでそんなに嫌がるんだよ。

「ライアーそんな嫌?」
「……嫌に決まってるだろ。マナーがなって無い自覚があるのにわざわざ恥かきに行くと思うかよ」

「そうかしら?」※お嬢様
「そうか?」※貴族
「そうです?」※こう見えても貴族

「あーーー! これだから常識のねぇ奴らは! 普通緊張するだろ、出来るなら関わりたくないだろ、未熟なのもわかるし惨めになる!」

 前世なら多分そう思っていた。
 スパルタマナー教室withパパ上がなければ、私もそう思っていた。絶対嫌だ。

「まぁそんなに嫌ですたら留守番すてて良きですよ?」
「…………。」

 ぐっ、と眉間にしわ寄せたライアーが言葉を詰まらせる。
 激しく嫌そうな顔をしながら、私に手を近付けると──デコピンを放った。

「いっっっっった」
「アイボー様が決めたことなんだろ。俺も行く」
「1人が寂しきなれば素直に言うすれば」
「次は殴るぞ」
「なーんでーもなーきでーす!」

 さーて元気に出発しよーう!

「黄金の君、どこに行くんだ?」

 カジノの方向から違う方向へ向けて出発し始めた私。
 フェヒ爺チョイスのクソダサキャスケットのつばを持ち上げて笑った。



 ==========



「いらっしゃいませ、いついらっしゃるか楽しみに待っていましたよ」
「こんにちは、商会長さん!」

 シャルマン商会。
 貴族街にあるだろうと踏んだ数少ない巨大商会は、案の定とても分かりやすく(エリィの精霊が)発見した。

 商会長というトップがわざわざ庶民を相手に接客をするという異様な光景に店の中の視線が集まる。
 香辛料という性質上か顧客はおらず、どうやら職員が仕分けやら事務やらをやっている様だった。

 商会長を呼び出した方法?
 冒険者大会準優勝者を名乗れば可能でしょうよ。『指名依頼で参りました冒険者大会準優勝の冒険者です』と。

 本当に商会長さん個人の指名依頼だったら追い返す訳にもいかないしね。
 いやー! 商会長さんがちゃんと来てくれてよかった~! これですっとぼけられたら悪いウワサ振りまくけど。

「本日はどのようなご要件ですか? あぁ、失礼。よろしければ奥にご案内します」
「お気遣うありがとうござりますっ、単刀直入に言うです、カジノに入るしたいので仕立ての紹介ぞお願いします」

 商会長さんは軽く目を見開いたあと、簡単に問いかけた。

「急ぎですか?」
「ですっ!」
「──私が用意しましょう。平民上がりの騎士や男爵家、裕福な庶民や商人などを相手ですが仕衣服の仕立ても携わっております」

 要はその業界の中では案外な類いの服を作っているってことか。
 そりゃそう、商人が一本槍で終わらせるわけが無いよね。

「すっごいな……まさかシャルマンと繋がりがあるとは……」
「ここ、そんなに凄いところ?」
「ええっと、シャルマン商会は創業から約200年が経っている老舗で、今のオーナーは引き継いで約1年目にして王室御用達になってしまう程のやり手なんだよ。主に取り扱っているのが簡単な──」
「わぁ、私より歳上!」

 幼児が顔を合わせながら話している。
 やり手なのは知ってる。ただ王室御用達って今の商会長さんからなのか。じゃあ王室関連では結構新米商会なのかな。

「4名でよろしいですか? こちらに」
「はい。代金は先払いで3割払う故に、残りは制作後にお願いするです」

 建物を出ては道向かいに建つ店へ足を早める。幼稚園パーティーも慌てて着いてきた。もしかしたら私が学園長なのかもしれないな……。

 服を仕立てるにも時間がかかるから事情説明は置いておき簡単に分かる応答だけパッパッパッと終わらせる。
 ニーズが商会長さんの店とあっててよかった。

「おいリィン。わざわざ仕立てるのか?」
「え、はい」
「そんなことしなくても使う頻度の少ない服だ。中古で十分だろ」

 私が首を傾げると常識誤差があるのに思い至った。
 そうだよ、ライアーだけ庶民だよ。

「貴族は中古服出ませぬよ?」
「へ?」
「魔法で仕立てるですから、服もリサイクル式」

「そうなんですよね。私も海外と取り引きしてて驚いたんですけど、貴重な布は使ってそれきりなんですよね」

 店に入るとすぅっと涼しい空気が肌を撫でる。清潔感のある店内で、店員は商会長の連れてきた客と認識してかスっと頭を下げて1歩下がった。


 話を戻すがここの国、世界基準で見ても布とか衣服の触り心地のクオリティえぐいよ。
 なんせ服の廃棄物が出ないんだから。

 まぁ貴族が貴重な布を使って服を作るんだ。世間一般の貴族が着る布、は庶民に行き渡る。デザインはまぁあれだけど。
 私はクアドラード王国の魔法だよりで非常識な常識が中々生活に馴染まなかったからね、気持ちは分かる。

「だからなんでお前そういうの知ってんの?」
「金貨、大事です」
「………………がめつい」

 世を知らねば金は稼げぬ。
 言語の問題上嫁げなければ企業設立も視野に入れてます。前世仕込みの仕立て業なら知識チート出来るかもしれないと、そう思っていたんです。

 実際は試作コストが無く魔法を使う分前世よりクオリティ高くておったまげてたんだけど。
 我が国の貴族によくある服はレースとフリルと刺繍多めです。作画コストを考えろ。

「あぁそうだ。お代は結構ですよ」
「へぇ?」
「ダクアではお世話になりましたし、失礼なことをしましたから」

 領主命令とは言え。
 その言葉を隠して商会長さんは笑った。

 ラッキー、ただで高価な衣装が手に入った?

「──断るです」
「……! おや、遠慮しなくとも」
「恩ぞある、という言い分ですけど。交渉でそのやり取りは『終わる』した話です」

 ダクアでのやり取り、例え騙したという負い目が商会長さん側にあってもこちらだって値段をふっかけた側だし、何より王都に来て冒険者ギルドで会った段階で完全に清算されている、はず。

 だからこの店でサービスしてくれる、ということは『タダより高いものは無い』方式。

 そんな恐ろしい罠に食いつくわけが無い。
 王室御用達まで店を持って言ったやり手、が。ただ単に損失を生むわけが無いんだ。

「……、やはり、商才がおありでは」

 どうやら正解を引き当てた模様。思わず後ろに着いてきていた幼児3人に背中でピースする。
 見れないけど、そこそこ頭の回転が早く回転数も高い人達だ。きっと形容し難い顔をしていることだろう。

「おひとり、ざっと金貨10枚です。前金に3枚いただきます。払えますか?」
「あー、俺が無理だわ。前金ならギリギリ可能だが。カジノで儲けた金で支払う……ってのは無理だよな畜生。アイボー、付き合ってくれるか?」
「えぇよろこぶ万歳すて」

 おーし!
 やったるぞー!

 と、言っても恐らく大会の報酬が払われればすぐなんだけど。


「ずっと思っていたんだが黄金の君の喋り方本当になんなんだ? どう生まれてどう育ったらそんな事になるんだ?」

 殺ったるぞ???
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