最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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王都編下

第85話 甘い話には罠がある

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 問題です。
 何故私は気持ち悪い結界をわざわざ潜って王都東の森に来ているのでしょうか。

「あ、リィンそこに水」
「まだるっこしき! 鼻に水ぶち込むすれば生物みな悶える!」
「お前って実は脳筋だよなぁ」

 ──正解はライアーの活動資金切れによるフリー冒険者活動でした。



 鼠ちゃんと『身分を絶対言うんじゃねぇぞ!』って約束をしてから解放したけど、まぁ今の今まで私の記憶を飛ばしてたんだ。多分大丈夫だろう。鼠ちゃんに任された仕事はどうせ『私と周囲が怪しい動きをしないかの監視』だろうなら。

 そうして監視役なんて何も知りませんって顔でライアーと色々やっていた訳だが、まず向かったのがエティフォールさん個人。
 まぁ窓から突入してきたエリィさんの押し(つけまくってる)売りなんだけど。扉から入れ。お前は窓突き破る系エルフか。

 エリィさんは何故かこの件(盗み聞きでギルドでの説明を聞いてる)に積極的で、彼女に引っ張られる形でエティフォールさんを巻き込むことに成功した。と、言っても兄妹揃って精霊不可侵の場所をリストアップするってくらいだけど。
 その場所以外に第2王子が居ないって事と同じ意味だしね。

 ちなみに2人が話し合っている時口から零れ出る言葉は風の様な音だった。ライアーが『なんて言ってんだあのエルフ共』ってボヤいていたから『王城の精霊不可侵エリアは関係ありますか? ──いいえありません、それより貴族街に多いです。──全て書き出しましょうか。北西エリアはお願いします。──了解です』だよって教えてあげたら3人に「「「えっ」」」って言われた。えって言い返した。エルフ語は発音が難しいけど聞き取りは比較的簡単だと言うのに。

 まぁなんやかんやで時間かかりそうだなってのは理解したし、手持ち無沙汰だった。
 もうリストアップされた所から先に探ってみようかなと重たい腰を上げた私に待ったをかけたのは何様俺様ライアー様。彼は、こうおっしゃったのだ。

『金がない』

 と。

 元々コンビ組む時約束していたもんで。特殊な依頼が無い限りは有り金がピンチになれば。週に2.3日程度の活動。報酬は半々。
 私が付き合わせ、私が付き合い。つまり、お外で冒険者活動です。


「……ワイバーンにぞ会いませぬ様に」
「フラグを立てるな」

 でも前回は有り得るはずがない災厄に出会ったじゃん。

「ライアー血抜き~!」
「吊り下げろ。話はそれからだ」

 〝サイコキネシス〟

 今回の収穫は鹿。
 生態系どうなっているんだろうか。私はとても謎で堪らないよ。

 私が浮かばせた鹿をライアーがスパスパと頸動脈を切って血抜きをしていく。ドバドバと流れ始めた。一体どれくらい魔法を維持しなきゃならないのかはちょっと考えたくないです。

「いやー、お前がアイテムボックス使えるおかげで無駄なところ無く収穫出来るから効率いいな」
「褒めるして」
「ご苦労」
「騎士か」

 何様だお前。
 私はため息吐きながらそこら辺に適当に座る。

「よく考えるすれば、ちゃんとした冒険者活動これが2回目……いやコンビぞ組んでからは初なのでは」
「余計な事に気付くんじゃねぇよ」
「週に数回の活動もある意味特殊な状況ですべからく潰れるして」
「お嬢さん、お嬢さん。その口を閉じろ」
「やるが可能な時期は『今週はあれがあったからいいや』『今週疲れたので』『準備期間だから依頼は除外』って感じで」
「あーーーーやめろ聞きたくねぇ! お前みたいな察しのいいガキは嫌いだ!」

 つくづく、私とライアーって相性いいよね。
 2人してサボる方向への言い訳を生み出すの。

「ったく、しゃーねーだろ。元々イレギュラーだらけで、活動できるタイミングもあったがペイン達がいるし、何より精神的な疲労がやばかっただろ」

 そういうところだよ。
 まぁ食いつなぐだけの資金はあったしね。

 あぁそうだ。気になっていた事があったんだった。

「ライアー、なんか焦るしてる?」
「……は?」
「いや、最近なんか。すごく……変?」

 ダクアの時は余裕綽々で、私の後ろで頭に手を回して興味無さそうに眺めているって感じだった。
 実際ギルドの職員名簿とか領収書とか納品書の整理も私がやったし、グリーン子爵での探りも私とペインがやった。……本格的にヒモなのでは。

 だけど王都に来てから、圧倒的に一緒にいる時間が増えたというか。私が探りに行こうとすると声をかけてくる。疑われている、という最中だから早めに解決すべきなのはわかるけど。実際事件が進展するかと言われたら話は別。

 うん、やっぱり変だ。

「……そんな態度に出てたか?」

 口元に手を当てて呆然としたライアーがつぶやく。

 改めて思うけど、ライアーは要領がいい。ダクアがその例だ。無駄足踏む可能性の高い調べ物は私に調べさせ、ほぼ確定したシュランゲとの対面でライアーは動いた。
 無駄なことはあまりしたくないって感じの男なのに。

「私は変と思うした」
「………………アレだ。──ここが王都だから」

 小さく解答を口に出せば私の後頭部をガッツリ掴んで撫でくりまわし始めた。腕力に押されて私の顔は地面を見る。

「あわぁ! セットぞ崩れる!」
「結ぶだけだろ」

 気まずいのは分かったから!
 雑な隠し方をしないでよ!

「そうだ。気になってたんだが」
「んぅ?」
「お前の幼馴染いただろ。あれ、元鶴が話してた狐に似てないか?」
「……え?」

 お兄ちゃんが狐に?

 確か血染めの茶髪に170cmって風貌だったよね。
 ヒラファお兄ちゃんは170位に、赤褐色の髪……。うわぁ本当だピッタリだ。

「それにあいつ」
「まだあるの!?」
「あぁいやお前の幼馴染を疑いたくはねェんだが。ファルシュは国境だしトリアングロの可能性はあるからよ」

 ライアーはくるっと剥ぎ取り用のナイフを左手で投げて掴んでを繰り返している。左手でよく器用にナイフを使えるもんだと場違いに関心した。

「あいつ殺しに慣れてたぜ」

 ……なんだって?

「しかもあれ、対人戦だろ」

 そうだっけ。
 そうだったような気がしてきた。

 私よりも確実に対人戦慣れてしているライアーが言うなら間違いないし、そもそも槍使いってファルシュ領の大型獣や魔物に向かないからなぁ。耐久性が不安。
 それを考えると対人戦向きなのか。

「いや、でも、幼馴染で。小さき頃からファルシュにいるは確認すて」
「……トリアングロの称号は親子で引き継ぐことが多いって言ってたろ」

 思わず口を閉じる。
 どうしよう。違うと思うけど、思いたいけど。私は本当の幼馴染じゃないから確信出来ない。私が常に首都のメーディオで暮らしていたら断言出来たのかもしれないけど。

 私は屋敷を抜け出しただけの身で、幼馴染の親でさえ知らない。

「まァ、時期的にもダクアを拠点に置いてるやつだ。その可能性は捨てんなよ」

 あくまでも冷静にライアーが私に言う。

──ガサッ

 森の奥で草が動いた。
 微かに届いた音に反応して互いに起き上がる。

 大きいな。

「魔物さんのお出ましか」
「ね、念の為水だけにするです」

 フレンドリーファイアを恐れて選択肢を絞る。
 最近ようやくコンビネーションが噛み合ってきた真っ最中。対人戦ならともかく魔物相手にいけるだろうか。

「ッ、くる!」

 ビュン! と想像以上の速さで飛んできたのは鳥だった。嘴が非常に鋭い。
 飛来を避けるとチリッと熱が発した。

「魔物で間違いねぇな」

 火属性系の魔物だろう。飛来する度に摩擦熱で周囲が燃えている。間一髪で交わしながら攻撃方法を考える。
 ウォーターボールでいける、かな……。スピード速すぎて水の中でさえも突っ走ってしまう気がする。

「リィン、俺が避けるからお前が何とかしろ」
「むちゃぞ言いますね!?」
「うるせぇな改めて思ったが俺は魔物向きの戦闘スタイルじゃねぇんだよ! 攻撃手段が乏しい回避系前衛職が仕留められると思うなよ!」
「一緒にスタピ乗り越えるすた仲じゃなきですかばかぁ!」
「あれは死にものぐるい! 大体俺が仕留め損ねた魔物もお前が潰してただろうが!」

 私だって魔物相手は苦手なんだけど!?
 弱点がどこにあるか分からないし理性も知性もあるか分からない相手に最適解をぶつけられるわけないじゃん! あるのは死ぬまで殴れば殺せるってことくらい!

 だっっっれがバーサーカーだ!

 ヒラヒラとライアーがヘイトを集めながら避ける中、攻撃手段を探す。力技でするならスタンピードの時みたいにめちゃくちゃでかい水魔法を使うんだけど。

 ……。よし、やれば何とかなる。ロックウォールにぶつけてみようかな。

「クルルルルル……!」
「ライアー地面に寄せるして!」

 魔物相手に戦う上での利点は言葉が通じないから作戦会議しながら戦える為、コンビネーション取りやすいってところだけだね!
 よし、行ける。

 〝ロックウォ──

「やめろ!」

 1人の男が作りかけのロックウォールを飛び越えて魔物を下からぶん殴った。魔物は下からの衝撃に弱かったのか、飛び軌跡を変えて木の上に逃げ込む。

「は、はは、良かった……」

 男と言うよりは青年と言った方が近い。大人でも無く子供でもない様な微妙な年齢層。恐らく私やペインと年齢が近いだろう。背はずっと高いけど。
 魔石をはめ込んだグローブを着けた黒髪の男。瞳は緑だった。

「なにすんだよ。追い詰めた苦労がパーじゃねぇか」

 剣を仕舞い地面に腰をつけた少年を睨むライアー。青年はゼーゼーと呼吸を整えていた。

「だっ、て、キミらさ」
「はーい落ちちゅきてー」
「えっ何その口調」

 切らした息を整えている青年の背中を摩るとギョッと目を見開きやがった。なんだと。

「お前の口調で話の流れがほぼほぼ毎回ストップするんだよ。お前もう黙ってるかその不思議語直すか全世界の常識を変えてから喋れ」
「……世界の常識ぞ取りますか」
「そこをあえて取るな」

 脱線し始めた話題をひとまず横に置く。

「それで、何故邪魔ぞすた?」
「……キミらは今回のクアドラードアドベンチャートーナメントの準優勝者、だろう?」

 息を整えた青年がそう首を傾げる。否定するのもめんどくさいので素直に頷いた。

「はーーー。間に合ってよかった。単刀直入に言うが、王都にいる間は魔物を狩らない方がいい」
「へぁ!?」

 ここで突然の冒険者活動制限。
 ちょっと理解が追い付かなくて目を白黒させていると、青年が乾いた笑いを浮かべた。

「王都には『魔神崇拝ラスール』って組織があるんだ」
「そこはかとなく字面ぞ嫌だ」
「…………。」

 絶対厄介ごとっていうか災厄の気配しか無い。そういうの非常に困ります。

「キミらがただの冒険者なら良かったんだが、残念な事に注目を集めてしまった段階だ。ラスールは魔物を神の使徒だと考えてる宗教団体な」

 世界を違えても宗教と政治の話は地雷ばかりです。

 あーあ。私とっても賢いから嫌な事察しちゃった。
 これ、魔物狩ったら追われるな……?

「ラスールの奴らは、貴族が地味に多いからさ。絶対関わらない方がいい。……あー。良かった。間に合った。セーフ。ったく、俺を使いっ走りにするとか何様だよ親父様だわクソッタレ」

 わざわざ忠告する為に追い掛けてくれたのだろう。焦った様子で走っていた事から察する事が出来る。

「あの、ありがとうござりま、す?」
「いいんだ、気にするなよ。きんの為ならなんでもないです」

 なにか漏らしかけたが青年はとっても笑顔で誤魔化した。細かく質問をさせないぞって力強い意思が見える。

「んでお前誰だよ」

 無駄なことは大嫌い。
 無駄にさせてしまった青年をそんなライアーが睨みつければ、青年は鼻で笑った。

「別に俺はおじさんの為にやったわけじゃないんで」

 青年はスタスタと私に歩み寄ると、私の髪を掬ってキスを贈る。
 サラリと落ちる黒い髪は、ペインの色とよく似ている。


「俺の名前はクロロス。愛しきプリンセス、どうか俺を貴女のナイトにしてくれませんか?」
「……へぇ」

 見る目があるなー、貴族みたいな仕草だなー、なんて他人目線でいたらライアーが叫んだ。

「──またお前関係の厄介事かよ!」

 これ、普通に監視役だな。
 鼠ちゃん首になったんだろうか。

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