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王都編下
第82話 エルフと言う種族
しおりを挟むエリィと名乗った私の同じ位の年頃のエルフ。
彼女は魔法の流派がまだ無いようでリリーフィアさんやエティフォールさんのように名前の後ろに何かは付いてない様だった。
「エリィ、久しぶりだな」
「あら魔族さん! 相変わらずくたばる素振りか無いのね! 私貴方嫌いなの! べーーーっだ!」
活発的な女の子。そしてフェヒ爺ガチ勢。
うーん、絶対馬が合わない。馬どころか牛も豚も合わない。なんで気が合わないことを馬と言うのか分からなくなってきたけど、確信出来る。馬が合わない。
ライアー以上に人格として相性が悪いだろうなぁ。
「すいません……ル……じゃなくて、フェフィアに頼れば良くないですか?」
「あの爺すぐ放浪すたです。確かエルフ領」
「なんで!? 私、飛び出して来たのに……ッ! こんな入れ違い、酷い! ぅ、嫌よ、泣いてやるんだから。絶対泣いてやるんだからぁ!」
とんでもなく悔しそうにエリィさんが膝から崩れ落ちた。感情が愉快だなこの子。どことなく情緒が子供。
私がドン引きしながら見下ろしていたのをエティフォールさんが気付く。
「この子、まだ子供なので無礼な振る舞いがあっても許してあげてください」
「エルフの年齢ぞ感覚、分からぬのですけど」
「まだ30歳ですね」
「おいおい赤ん坊じゃねぇか」
いやおばさ……。なんでもないです。
エティフォールさんの発言した年齢に同じく長寿種のゼウスさんが驚くが、私にとっちゃ年上で大人です。
「失礼ですけど、エルフって大体どれくらいぞ年齢ですか?」
「僕が2000越えです」
「ちなみに俺も大体それくらい」
一世紀所の話じゃないんだけど!?
そりゃ、4桁から見れば30歳は赤ん坊だね!
「ダクアのリリーフィアでもまだ300位だっただろう」
「まだ若いですよね、彼女。あの歳でフィアの名前を授かっているんですから。大体免許皆伝は500越えないと難しいでしょうに」
2人が話しているのを聞いて思わずライアーに寄った。
「……あのエルフの若いって自己申告、真実だったのですね」
「リリーフィアちゃん、疲れ果てた顔してるから余計にな」
やっぱりダクア支部の労働環境ってどうにかすべきだったと思うんだ。
「大分歳ぞ離れてるということはご両親は……」
はっ、と全員が顔を驚かせた。エティフォールさんだけは遠い目をしていた。
2000年前にエティフォールさんを産んで30年前にエリィさんを産んだ両親の情緒ってどうなってんの? 一万年と二千年前から愛しあってるの?
「両親なら亡くなって──」
エティフォールさんは目を伏せてそうつぶやき。
「──いたらどれだけ平和だったか」
そう言葉を続けた。
はっはーん悲しい過去があるのねと思っていたのにまさかの普通にご存命落ち。
そうやって最後まで聞かないと勘違いする様な話し方をするのはどうかと思う。
「まぁね、僕のこの歳で妹が出来るとは思ってませんでしたよ。それも醜悪な大先輩をぶあっついフィルター越しで尊敬するお転婆」
「そのフィルターは多分城壁レベルの厚さあるですよね」
「うん」
うん。って。
フェヒ爺を生身で見たライアーは見るからに『宮廷相談役の品も欠片もねぇよな』みたいな顔をしていた。あのエルフ、知識はともかく性格が宮廷に向いてない。
「エルフは長寿種で、子供も出来にくいですから。仕方ないとも言えますね。……流石にここまでの歳の差は見たことありませんが。ま、双子よりずっとマシですから」
エティフォールさんがエリィさんの頭を撫でる。
そうかなぁ。うちの双子、かなり仲良いよ……? 逃げた先に片割れがいるんだから。あれはテレパシー使ってるね。魔法的な意味ではなく。
それに、歳の近い双子より歳の離れた長兄長姉の方が。
「エルフは子供が出来にくい、と言ったでしょう?」
私が首を傾げているのが分かったのかエティフォールさんが苦笑いを浮かべた。
「エルフにとって双子は禁忌なんです。双子は長寿のエルフに死を招く、と言われてますから」
「流石に迷信ぞ過ぎ……」
その時、私の兄と姉である双子と極端に関わらないでいたフェヒ爺の存在が脳裏によぎった。
あのエルフは、私たちを見る時とても眩しそうに目を細める。
特に双子に関しては、確実に一線を引いていた。
「………………。」
顎に手を当てて考え込んでいるとドスッと脳天にチョップが振り落とされた。
「いっっった!?」
「そろそろ宿戻るぞ。眠気が来た」
「普通殴るです!?」
「殴ってねェ、たまたま手が当たっただけだ」
なんかすごく無理矢理話を切り上げさせようとしているなお前!
どの話題だ、どの話題を掘り下げられるのがお前にとってまずかったんだ!? ほら、アイボー様に言ってご覧なさい!
じっくり掘り下げてあげるから!!!
──ドスッ。
顔が腹たったって理由は理不尽じゃありませんか……。
==========
「んで、なんでエルフの嬢ちゃんがついてくるんだ」
「なぜ、って。至極簡単な話じゃない! そこに、推しが、いるからよ! ──正確に言うと推しへの足がかり」
訂正。コイツガチ勢じゃなくて限界オタクかもしれない。
「正直、貴女がルフェフィ、あぁごめんなさい。フェフィア様でしたね。フェフィア様の弟子だと言うのならそれも認めるわ!」
ナチュラル上から目線。
お嬢様って感じする。
「また行き違いになっては困りますもの。あと面白そう」
「面白そう」
「えぇ、とても面白そう」
他人事だからって言いたい放題いいやがって。
私が眉間を抑えながらため息を吐く。美形だからライアーに対応押し付けてもいいよね。
「ライアー任せる」
「歳下は好みじゃねぇ」
「お前の人生から見ると大半の人間ぞ歳下ですけど!? はっ、まさか熟女専……!」
物理シールド!(そんなものは無い)
咄嗟にエリィさんの後ろに隠れた。空ぶった拳を見てライアーはチィッと大きな舌打ちをした。
「というか聞いてましたけど要するにあなた達人探しをしているのでしょう?」
「……? 人探し……。あっ、人探しか」
黒幕見つけることに盲目的になりすぎて忘れてたけど第2王子を救出出来るならそれで事件は解決するんだった。
「人探し、手伝うのでフェフィア様を紹介してくれません?」
エルフ(30)はコテンの首を傾げた。あざといな。
見た目私とそこまで変わらないのに。
「そうは言うですけど、エルフ領から出たばかりのエリィさんに何ぞ出来るですか?」
「あら、ご存知ない?」
エリィさんはふわりと指を動かした。
「──精霊は探し物が得意なの」
ぶわりと魔力が生まれる。それはエルフから発生したものではなく、エルフの周囲。恐らく、精霊。
「精霊よ、エルフが祖、エンドの子孫エリィが命じます。この国の第2王子をお探しなさい」
「おいエルフの嬢ちゃん。余計なことを……」
ライアーはエリィさんが苦手なのだろうか。
探してくれるならいいと思うよ私は。真偽はさておき。あぁでも貸しになるのは嫌だな。ライアーはそういうの細かいだろうし。
依頼には報酬を。貸しには恩を。
確か初対面の時に言われた気がする。
しばらく目をつぶったエリィさんだったが、ふと力を抜いて首を傾げた。
「……王都に、いないわ?」
「へぁ!? でも居なければおかしきですよ。魔力感知ぞ結界魔法が王都ぞ包む仕組み的に、王都では無ければ辻褄が」
「お待ちになって。精霊の行ける範囲に居ない、と言うだけよ」
エリィさんは空中で精霊を撫でるような仕草をした。魔力が浮かんでいる。
「ここにいくつか精霊の侵入を許可しない場所があるみたいなの。もし王子様をが生きているならそこじゃないかしら」
「……なる、ほど」
牢屋で魔法を使えなくされた時のような、そんな場所がまだ存在するのか。
これは、思っていたより使えるな……。
同意を求めてライアーを向くと、彼は苦虫かみ潰したような顔をしていた。
「何か不都合ぞあった?」
「いや、うん、なんつーか。……ほら、俺とお前だけの問題だっただろ? 他を巻き込むと、お前との時間。減るだろ?」
「……………………話す嫌なれば素直に言う」
「嫌だ」
「了解です。後で探るです」
「おい」
下手くそな色仕掛けで誤魔化そうとしているのは分かった。それは全くの無意味だからね。
「どうです? 私、役に立てました?」
「そこそこ」
「そこそこ……人間のハードル高すぎないかしら……」
正しく箱入り娘って感じのエルフを騙すのは楽だな。後でエティフォールさんにバレるとキツいが。
さて、精霊不可侵の場所か。
帰ってきたらペイン達王都組に聞いてみようかな。
「ふわぁぁ……」
大あくび。そろそろ眠気もやばい。
「はーー。寝るか」
「ですね」
太陽も高く昇った。人目につかないよう宿に帰り寝るとしよう。
「…………あぁでも」
「ん? なんか言ったか?」
「何も」
──監視役の鼠とお話してから、かな。
ギルドの建物の影に紛れ、魔法で姿を消している存在を横目で見た。
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