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王都編下
第81話 第一印象では測れない物がある
しおりを挟む「それで私にとっての本題なのですけど」
商会長さんの店(貴族街だった)を教えて貰ったりした後、こちらの話は終わってないぞと言わんばかりにはギルマスサブマスに向き直った。
そろそろ眠気が来ている。
「あ~……もちろんこちらの都合で時間とらせてしまいましたし聞きますけど、厄介な子が突撃しに来る可能性があるのでその点はお気をつけてください」
厄介な子?
強く嫌がらない辺り完全に都合が悪いってわけじゃなさそうだけど、私にとっては都合が悪いかもね。
「実は第2王子誘拐の疑いぞぶっかけるされてる最中です」
「「ぶっほァ!?」」
長寿種は同時に吹き出した。
「な、何故そんなことに!?」
「おいおいおいおい、まてまて。いや、え、お前らやったのか!?」
「実況! してなき故に!」
「実行、または犯行」
「困るすてるのでしょーーーーがッッ!」
死んだ目で語彙力訂正を入れないでください。今はそれどころじゃないですアイボー様。
「犯行時刻は第2戦目と第3戦目の間、細かな時刻の情報なき故に私たちがしてなきという証明は難しい。故に、事件解決! 望む!」
「……まさかギルドに事件解決の依頼をする、と?」
「犯人はぶん殴るすたい」
グッと拳を握りしめると、隣のライアーさんは息を吐く。
「特別意訳。黒幕は自分で殴りたいから情報提供と協力をしてくれ」
「てんしでも私ぞ主体で無ければ私刑ぞ無理かなと」
「てんし? どっから天使出てきたんだ?」
「特別意訳。あくまでも、を悪魔に誤変換して脳内で真逆になった説」
「高度すぎてわからん」
横でライアーがめっちゃ茶々入れてくる。
私が振り向くと、ライアーが死んだ魚の様な濁った目で疲れ果てた顔をしていた。そういえば、ライアーってこういう交渉事とか説明とか、あまり主導的に動かないし黙って成り行き見てるよなぁ。
「ライアー眠き?」
「どっちかっつーと、思考放棄。もう考えるのめんどくせぇ。どうせなるようになるし」
思考放棄したら私たち冤罪でブタ箱エンド一直線なんですけど!? 奴隷になっていいの!? 私は貴族だから多分そのエンドは最悪避けれるけど、ライアーはあとが無いでしょ!?
私が心の中でツッコミ入れているのも知らずに、ライアーがグッと眉間に皺を寄せてふっかいため息を吐き出す。
「あ゛ぁー……めんどくせぇ……。もうこれ以上考えたくねぇ……どうせ第2王子なんてお偉いさんが敵の手に落ちてんだろ……つーかこの俺が当事者になるなんて考えねぇよ……今まで平和に冒険者活動してきたのになんでこんな国際的な問題に発展する事件に巻き込まれてんだよ……」
「し、死んでる……!」
敵の手に落ちてるって言うけど、その敵を特定しないことにはどうにもなんないんだよね!
クアドラード王国側は私が狐では無いかって言う疑いのせいでトリアングロ王国が犯人じゃないかと思っているみたいだけど、実際の所何も分からないし手掛かりも何も無い。
ただ無実を証明するだけでは鬱憤が晴れない。絶対とっ捕まえてぶん殴って五体満足の奴隷にしてやる……! あと王国側のへっぽこ推理黒幕もぶん殴る。
「お前と出会ってから色々おかしい。お前何したんだよ。こんなに厄災続きなのは絶対陰謀を感じる。お前本当になんなんだよ。本当はトリアングロの狐だろ」
「そんな事実一切無きですぞ!?」
「絶対嘘だ……お前が狐じゃなきゃおかしいだろ……狐じゃねぇのは俺が1番分かってるけど……絶対そうじゃなきゃおかしいだろ……」
非常に疲れた表情だ。
お前実は結構眠たいな? 一緒にいたしトリアングロ絡みの問題は一緒に解決したんだからお互い無実なのは分かっているよね? と言うか、そもそもダクアで白蛇の他に誰か裏にいるのは分かっていたけど、狐かどうか分からないよ?
あっ、違うか。狐だと断定はしてないけど私が女狐だからそう言ってるのか。
ダメだな。私もすごく眠たくなってきた。
思考放棄しそう。
「──ともかく、だ」
ゼウスさんの声に、眠気を自覚しぼんやりしてきた頭を奮い立たせる。
「情報提供も協力も、ギルドは一切出来ない」
「何故!?」
「当たり前だ。冒険者ギルドは中立組織。お前らの話を聞く限り真実はどうであれ国同士の諍いにまで発展する可能性のある案件だ。下手に首を突っ込めん。第1、誘拐であるのか自体確定してないなら尚更」
どっちかに肩入れ出来ないってことか……!
リリーフィアさんの時は犯罪と確定自体は出来ずとも、『冒険者ギルドを経由した冒険者への依頼』『リーベさん護衛依頼の証言食い違い』があったから情報提供してもらえたのか。
やはり依頼。依頼かぁ。
子爵も冒険者ギルドに依頼するのではなく冒険者ギルド経由で私達に依頼したんだもんなぁ。ぐぅ、依頼って難しい。
「ぐぬぬ……。そうですぞね。犯罪と確定出来ぬ限り例外ぞ作れば巨大組織は秩序が崩壊するです故に……」
「なんっっでそこまで分かるんだ? その言語能力で?」
ゼウスさんがハチャメチャに首を傾げまくる。
普通の人なら気付ける範囲でしょうに。なんで不思議がるんだろう。
贔屓は良くない。差別は良くない。世界中にあり、どの都市にも存在する。そんな人間の最終就職地点に存在するギルドが、獣人だからとかエルフだからとかで贔屓していたら反発以外の何物でもないよ。
まあわたしは贔屓もするし差別もするんですけど。差別は思っても出さなければセーフ。少なくとも34歳住所不定無職の事は馬鹿にしています。
「ま、そういうこった。お嬢さん。個人的になら手伝ってやってもいいんだが、あいにくとギルマスの俺には個人の時間もギルドからの自由も得られないんでな」
「いやそれは貴方が1歩外に出るだけで所構わず女性に手を出すからでしょ」
「しっ! 黙ってろエティ」
憂いを帯びたような目で呟いていたが即効止められた。
残念ながら私の反応は『ふぅん』でしかない。心から興味が無い。
まあでも言質は取れた。
『犯罪の証拠さえあればギルドは協力出来る』と。
「まあ例え証拠があっても動かねぇが」
「えっ」
驚いた顔をすると当たり前の表情でゼウスさんは口を開く。
「何、なにゆえ」
「お前らFランクだろ。信用が無い」
「うぐ」
「うげっ」
ぐうの音も出ないのは不服だから唸り声だけは漏らす。
「依頼もこなさず、義務もねぇ、お前らFランク冒険者に人権は無い。義務が無ければ権利もない。お前らが手放しているのはギルドの利用権利だ」
冷たい言葉に思わず頬が引き攣る。
信用が無さすぎる。
いや仕方ない。仕方ないのは分かっている。強制義務や氏名依頼を避けるためにFランクというポジションにいるのだから、ランクが上がる度に増えていく恩恵を受けられないのはわかる。
それはそれとしてそんな簡単なことに気付けなかった自分が腹立つ。寝ぼけるのも大概にしろ。ギルマス達と知り合っているからって利用出来る伝手じゃない。
「あっ、でも個人ならよろしきなのですよね?」
「そうは言うが、流石に信用がいるぜ? 少なくとも、出身とランクしか知らない俺らじゃ動くに値しない。無理」
女好きならワンチャン行けるかなって思ったけど、まぁ無理ですよね。
だが残念、私が向くのはエティフォールさんだ。
「僕ですか」
「私、フェヒ爺の弟子です。ふぇぴあ」
「ごめん誰ですか」
「るひぇしあ、る、ふぇ、ふぇひあ」
らいあぁ。
ぴえん、とライアーを振り向いた。己の師匠の名前が言えないのは致命的だけどそもそもエルフの名前が言えない。
「フェフィアだろ」
「は、え、は? あのフェフィアが、人の弟子を取る? ご冗談でしょう」
驚いた顔をしていたが、すぐに訝しげに疑いの視線を向けた。
「ダクアサブマスの妹弟子、らしきです。これは信用になりませぬか?」
「信用、どころか……。えぇ……あのエルフが人間の……?」
おいフェヒ爺。おい、お前のことだフェヒ爺。
同族に驚かれるってどういう生き方したらそうなるの?
「アレからたった20年しか経ってないのに……まさか……」
王都にいた事があるライアーを見ても彼もよく分かってない感じだった。
なんだか疑われる気配を察知。
「冗談言わないで頂戴!」
バーン! と、窓が思いっきり開かれた。扉から入れ。
よっこいせ、と窓枠を乗り越えながら濃い緑の髪を横に一つで結んだエルフが部屋に入ってくる。入ってくるなとは言わないからちゃんと扉から入れ。どうしよう一気にキャラが濃い。
「エリィ、今来たのか……」
「お兄様! こんな人間の言うことを信じるって言うの!」
「いや信じてないけど」
「ですよね!」
「ですぞね」
思わず突入娘と同じタイミングで頷く。
じゃあなんで口に出したんだって顔している。
「あのエルフ、絶対宮廷相談役って柄じゃなき」
「嘘を言わないでよ、あの方はとても知的で国の助けになってきたわ!」
「あ、多分ほれ猫かぶるすてるので。実際は柄が悪くて説明くっそ下手で高度な魔法ぽんぽこ使用するくせに素人には凄さが微塵も理解出来ぬ意味不明鬼畜脳筋エルフで」
「(あっ、本当に弟子だなこれ)」
「いやーー!! やめて聞きたいくないわ! 嘘よ冗談よ! あのルフェフィア様がそんなことするわけないじゃない!」
「というか誰!!!!!! お前!!!!!! 誰!!!!!!」
私のフェヒ爺像を説明すると合いの手入れてくるエルフ少女。
思わず指さして叫んだ。
「あー、すいません。僕の妹です。エリィ、挨拶」
「エティフォールお兄様の妹、エリィですわ。まだ師弟関係は結べてないですけれど、いつかルフェフィア様にご指導頂いてエリィフィアになる者です」
あ、察した。
別名、フェヒ爺ガチ勢だな?
「ルフェフィアの弟子。彼の印象を一言でまとめてくれるかな?」
「鬼畜外道!」
「うん、間違いない、ルフェフィアの弟子だ」
「あと、うちの師匠! ル族嫌いらしき故に! 除外すてもらってもよろしきですか!?」
「これが噂のマウント────!」
「お黙り泥棒猫!」
「ノリノリじゃねぇか」
ライアーの冷たいツッコミ炸裂。
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