最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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王都編下

第75話 こんな理不尽はポイズン

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 ガシャン。
 これは扉の閉まる音。いや、正確に言えば牢屋の閉まる音。

「いや、は、え、どういうことだ?」
「おいこら開けろやオラー! てめぇ私ぞ誰か知らぬな!? 知らぬな! グリーン子爵ぞ呼べ! 今すぐ呼ぶしろ! 早急そうきゅう早急さっきゅうにナーウッッ!」
「俺より動揺しているやつがいると落ち着く……」

 王城の地下。
 抵抗する間も無くあれよあれよと運ばれ、私たちは牢屋にいます。

 いや本当になんでぇ!?

 罪状は第2王子の誘拐って言ってたけど、第2王子が来なかったおかげで冒険者大会不戦勝になったくらいで関わりが微塵もないんだけどね!?
 あと狐の疑惑って何。それはトリアングロ王国の幹部狐の疑惑があるって事で!?

「ライアーよく落ち着くが可能ですね!」
「いやこれでも激しく動揺している。圧倒的に意味がわからん。ただお前の動揺っぷりを見ていると段々落ち着いてきた」
「意味ぞわからぬ」

 分かるけど分からない。そこで落ち着いて欲しくはなかった。

「ほら、俺らの周りには真偽に関しておあつらえ向きの冒険者がいるし、やってねぇことをとやかく言われても魔法でどうにかなるだろ?」

 そう言ってゴロンと寝転んだ。
 寛ぐまでのターンが短い。

「いいか嬢ちゃん」
「なんか久しぶりに呼ぶされた気がする」
「物事にはな、どれだけ焦ったって変わらないことがある。おなじ沙汰を待つ時間なら寛いでいた方が有意義な時間の使い方だとは思わないか?」

 その待機時間で評価されるんじゃなかろうか。
 なんか、ライアーがふわふわしたままでよくここまで生きてこれたなぁって思う。

「……いざとなれば逃亡すれば」

 そういやスタンピードの時もそんなこと言ってたね!
 敵の敵は共犯者、つまりクアドラードが敵に回ったらその敵の元に逃げ込もう、と?
 うーん。ありっちゃあり。でもトリアングロの疑惑を掛けられている今それは悪手だと素直に思うな。

──コンコン

 地下牢に響き渡るノックの音。
 見張りの騎士が扉を開けた。

 銀に近い薄い水色の髪。
 見たことない綺麗な長い髪を結い、恐らく50代と思わしき男性が入ってくる。
 瞳の緑が特徴的で、あぁ貴族だろう、とはっきりわかる。

 伏せていた目がゆっくりと上を向く。

「尋問官は私が努めさせても……ら……──」

──バタン

 私たちの姿を確認した瞬間、その男は扉を閉めて退出した。

「えっ」
「えっ」
「えっ、え、大臣? 大臣ーーー!?」

 部屋に取り残された騎士がめちゃくちゃ動揺した声を上げる。そりゃそうだ。光速だったもん、閉めるの。

「……ライアー、何かすた?」
「……………………………………いや多分ないな」
「ねぇ何故そんなに考える必要ぞ存在しますた?」

 今心当たりをめちゃくちゃ探したし探し終わっても『多分』が付いたよね!

「大丈夫だ、落ち着いた」

 大臣と呼ばれた男性が再び入ってくる。
 心無しか視線がウロウロ彷徨い、そして檻の外側にある椅子に腰掛けた。

「さて、檻越しで失礼する。私は、この国の大臣を務めている。グロリアス・エルドラードだ」

 エルドラード?

「クアドラードに似て……」

 グロリアス・エルドラードさんはその緑の瞳を細めた。
 あ、これ多分突っ込んじゃダメだな。気付いちゃいけないやつだ。

「まずは身分を確認しよう。キミ達は、誰かな?」

 ビリッ、と魔力が走った。
 反射的にマジックシールドを張る。

「あぁ、魔法職か。申し訳ないけど、それ、解かせてもらう」

 エルドラードさんの髪がぶわりと舞う。
 私のマジックシールドが編み物みたいに解け……。

「……? 解けない……」
「あっ」
「なぜ今心あたりあるみたいな顔をしたんだ?」

 私のマジックシールド、クソエルフに破られないように編んでないんだった。

 マジックシールドって、編み物みたいに1本の魔力の糸を編み込む感じで形成するんだけど、私の場合編むこと自体煩わしかったし、ネックレスのチェーンが絡み合うみたいな感じで作ってたから。ぶっちゃけ作るより解く方が大変。自分でも正しく解くの苦労します。

「……はぁ。仕方ない」

 エルドラードさんはため息を吐くと壁に取り付けてあった魔導具を作動させた。

 シュンッ、とマジックシールドを失う気配がする。

 え、なにこれ。なにこれ?
 魔法、使えなくなったんだけど。

「魔法妨害魔導具。この空間を囲む程度の大きさだが、これで魔法は使えない」

 つまり尋問官であるエルドラードさんも使えないということと同じ意味で。

「──では、問おう。キミ達は何者だ?」

 経験でも見破れるぞ、と言外に伝えていた。

「Fランク冒険者、ライアー」
「出身は?」
「おそらくシュテーグリッツ」

 初耳だ。リリーフィアさんの報告書で見てはいたけど、シュテーグリッツ領といえば歓楽街だって聞いたような気がする。
 国内で治安が最も悪い地域。おそらく、というのも確定出来るような治安ではないから言っているのだろう。

「貴女は?」
「Fランク冒険者、リィン。出身はファルシュ領」

 私がそう説明し終えれば。
 エルドラードさんは深く、そりゃもう海底に沈む古代都市に届きそうなほど深く深くため息を吐いた。

「よりにもよってその2つか……」

 私の実家領どんな扱いされてんの???

「キミ達の自己申告の身分はひとまず置いておこう。それで、第2王子をどこにやった?」

 私達がしていることで間違いない、という言い方が癪に障った。
 私が座る場所は当然ないので立ったまま腕を組み、偉そうぶって見下ろす。

 爵位を告げられてないからセーフ、だと信じたい!

「この国の脳みそは腐るすてるのですか?」

 ピキリと大臣が笑顔のまま固まった。

「第2王子殿下ぞ誘拐されるすたと聞きますたけど、殿下は第2戦目はご活躍すてたですぞね?」
「ちょっ、」
「犯行可能の推定時刻は第2戦目と第3戦目の間。さて、注目ぞ集めるすた私たちに犯行ぞ可能でしょうか」

「ちょっと待ちなさい口調で何も入ってきませんッ!」

 心の底からの叫びに、ライアーがめちゃくちゃ頷いた。だから味方が居ないと何度言えば。

「あー、言語不自由、許すして?」

 喧嘩売ってた私が猫かぶるのもちょっと空気が微妙になるけど、首を傾げてお願い(ハート)した。

「…………まぁ、ええと、分かった。まともに喋ることは無理なのだな?」
「無理です」
「罵倒以外無理なんだよなこいつ」

 シワの出来た目元を揉んで大臣はまたため息を吐き散らした。

「えぇーーっと、犯行時刻、キミ達が犯行できないのではないか、と?」
「そうです! 大体、動機は?」

 大臣は残念なことに表情が変わらなかった。

「キミ達は大会に出ていたらしいね。第3戦目にぶつかるのは殿下だった。殿下はAランク冒険者でFランクのキミ達じゃ勝ち目はない」

 ふむ。動機としては一理ある。
 魔法の腕を考えると何かしら方法があるかもしれない。

 私はうんと1つ頷いた。

「ンなわけねぇだろてめぇその緑の瞳ほじくり出して烏の餌にぞしてやろうか!!」
「ッ……!」
「リィン。口調、口調。不思議語じゃなければいいって話じゃねぇから」

「──やはりキミ達はトリアングロの手の者のようだな」

 唸るような低い声で大臣が告げた。

「ダクアで起こったスタンピード。丁度キミ達も居合わせた。そしてそこには、女狐という仮面を被った魔法職も居たという」
「……は、いや待つ。いや本格的に子爵ぞよぶして」
「更に。トリアングロには狐の名を持つ幹部がいる」

 いるのは知ってるしどちらかと言うとトリアングロの幹部がいるのは私達じゃなくてペインパーティーだし!!!!!!! 女狐の情報出したの誰だ! 子爵か!? シュランゲか!? それともリリーフィアさんか!? うっわリリーフィアさん有りうる……めっちゃ有りうる……。ギルド情報網で情報共有を無断でしたFランクに人権がない派閥に席を置いてるリリーフィアさんめっちゃ有りうる。

「烏の名を出したのがその証拠だろ? トリアングロの狐め」
「ぴぁぎょあ!!??? いーーーーー!!!」

 しっっっっっらねーーーーーーーよ!!
 奇声を発しながら地団駄をふむ。こいついくら反論しても飲み込む気サラサラ無いな!

「言葉を忘れた魔物が喚きよる……」
「せめて魔族と言うすてライアー!?」

 舌が! 上手く! 回らないだけですー!


「はぁーーーーーっ! 大体、大臣さん? 証拠ぞどこに存在するです? 私が何故第2王子ぞ誘拐する必要が? 仮に、私が狐で開戦するためですと普通に初っ端から国王狙うですけど!?」
「堂々とテロ思想を出すな」

 そんな遠回りで警戒強めるようなことしないよ!
 最短ルートで! 1番効果のある首狙いますけど!?

 そもそもだけど私何もしてないし実家バリバリクアドラードの貴族なんだけど! ライアーいるから上手く言えないし!

「グリーン子爵ぞ呼べーー!!」

「──それもそうだな」

 大臣は意見を曲げる気なんてサラサラなさそうな顔しながらも私の発言に肯定した。

 えっ、どういうこと?

「残念なことに証拠もない。我々が優先すべきは殿下の身柄の安全だ」

 あ、あぁー。なるほど。
 今ここで捕らえてもなんの意味も無いってことね。

「仕方ない。まだ殿下がこの王都の中にいることは、結界の魔法で分かっているんだ」
「結界の魔法……?」
「はっ、貴様らは殿下を連れ出せまい。連れ出した瞬間宮廷にある結界の魔法に名前が浮かぶ。例え連れ出しても、すぐに我らは殿下を取り戻しに向かう」

 ペインが言ってた、王都に入った瞬間の魔力を察知するという魔法。

 大臣は嘲笑うように説明する。
 絶望させるように、まるで丁寧に仕組みを種明かしするように。

「こいつらをつまみ出しなさい。こいつらの周辺を洗い仲間を見つけるのです」
「はっ!」

 大臣が命じると見張りの騎士が敬礼をする。
 ガチャ、と牢屋の扉が開いた。


「……大臣サンよォ。野放しにしてコイツが第2王子サマを殺してもいいってのか?」
「ライアー私ぞ黒幕に仕立て上げるすて楽しい????」
「めっっっっっっっっちゃ楽しい」

 危機感を持てやてめぇ!

 私は思いっきりライアーの向こう脛を蹴り上げた。地面に崩れ落ちた。ざまぁみろ。

「やれるものならやってみろ。貴様らに自由はないと思え」

 特別意訳:お前らを監視しています。泳がせて殿下を見つけてやるからな。


 それ、仮に犯人だと思っている私に言っていい物なの? 普通に察したが? 犯人(仮)に気付かれたら普通に対処されますけど。

「くたばれ受け野郎ッッッ!」
「伯爵になんてことを言うんだ罪人め!」

 一応解放されたけど、最悪な事件に巻き込まれた。そんな気がする。
 スタンピードなんて放って逃げれば良かった! とりあえず約束通り冒険者生活のバックアップしてくださいグリーン子爵!
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