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王都編上
第74話 決勝、胃痛の果てに行ってこい
しおりを挟む魔法が、炸裂する。
「ッッ! ライアー!」
挨拶代わりに思いっきりぶち込まれたウォーターボールをファイアボールで相殺する。
ライアーは火と水の煙幕から弾丸のようにすっ飛んで行った。
「〝ワックス〟」
駆け込んだライアーの足元にリーヴルさんの魔法が飛んでいく。
〝ロックウォール〟!
「そっち気をつけろよ」
ライアーが足を取られる前に細長い地の壁を一瞬だけ生成し、エスカレーターで運ぶようにライアーを前へと吹き飛ばした。
空中でバランスを取り直したライアーがペインを補足する。
「2種同時には使いたく無きなのですよね……!」
集中力がめちゃくちゃ必要だし。
私は生き物のように私に向かってきたリボンを、体ではなく箒で受け取る。
体を締められては堪らない。武器ならくれてやる。
「ラウト」
「ッーー!」
ガンという重い音が聞こえる。
「ライアー……ッ、お前その攻撃スタイルの割に一撃が重いな」
「上空から仕掛けりゃいやでも重くなるさ」
「ハァッ!」
「〝ロックウォール〟!」
ラウトさんが攻撃を受けながら膝を曲げライアーのバランスを崩す。ただ受けるだけではなく次の攻撃に繋がる使い方。
その隙を、ペインが狙った。
私はライアーとペインの間と私とリボン男の間に壁を張った。
ペインは壁に攻撃を阻まれるが、こちらは壁の上に乗られた。リボンが、切れない。
〝ファイアボール〟
火魔法で物理的に焼き切ろうとしたけど耐火性の何か……。リーヴルさんの生活魔法だろう。それがリボンをコーティングしてあるのか燃えることもない。
チィッ。
一応あるけど、攻撃魔法の地水火風の様に表立ってハッキリとした属性区別がないから死ぬほど面倒くさいな生活魔法。
「リィンッ!」
「クライシス!」
時間経過で崩れ去るロックウォールの残骸に紛れ、剣が飛んできた。
余裕があったからかろうじて避けきる、けど、その剣を掴んだのはリボンだった。
やばい……!
「──ッあは」
微かに聞こえた笑い声。
私は即座にロックウォールを生み出しまくる。
「〝包丁研ぎ〟ッ」
──ガガガガガ!
リーヴルさんの魔法が聞こえたかと思うと、ロックウォールは豆腐のように易々と切られ始めた。リーヴルさんはさらに詠唱を続ける。
リボンのせいで鞭のように軌道が読みにくくなった剣。
私の実力じゃ避け、きれない……!
「ッ飛ぶぞ」
駆けつけたライアーが私の腰をがっちり掴んで脇の下に入れ、その刃から逃れ始める。私も出来る限り細めのロックウォールで足場を作りながら間合いの範囲外に──
──ガンッ
リボンが操る剣は目の前に。
驚き硬直するも、ライアーが私を抱えている手についてる篭手で防いだ。めっちゃビビり散らかすから。
〝ロックウォール〟〝ロックウォール〟〝ロックウォール〟
ライアーが攻撃を避けてくれるから私はただひたすらにライアーの足場だけ形成する。
空中はやりづらいだろうに。
背後からのリボン剣(命名私)で足場はガンガン刻まれていく。
こちら魔力! 別に無制限じゃないんだが!?
こちら本体! 消費を抑えとけ!
こちら魔力! 一体どうやって!?
「どう攻略すっかな……」
「ペインの詠唱が嫌な予感ぞする」
ヒョロがり男に剣を投げた後、武器を無くしたペインがようやく魔法を完成させた。
「水よ大地を飲み込め!〝フラッドダメージ〟」
あ、これまずい。
四元素とは。上昇する炎、落下する水、上昇を止める風と、落下を止める地。の4つからなる。
基本的に水と地ならば地が打ち勝て、動くものと止めるもの同士……火と水同士なら相殺することが可能だ。だからといって風と地が強いという訳でもなく。
強い火は風の動きを妨げ、水は大地を溶かす。
ペインの放った水は耐地に特化している魔法なのだろう。
──水害が発生した。
「あわわわ!」
〝サイコキネシス〟ッ!
土の壁を易々と崩れさせる激流。地魔法は形を保てず、いとも容易く崩壊した。
せめて……! あの厄介な鞭リボンを封じる……!
「クライシス、返せ!」
私が切り刻まれた地魔法の欠片を水に呑まれる前にサイコパスにサイコキネシスで吹き飛ばしていく。はーーいサイコー!!
ビュン、と間一髪の位置をその最高サイコの投げた剣が飛んでいく。放物線を描いた剣は無事ペインの元に戻って、そしてグッドラックと言いたげに親指突き立てて土に沈んで行った。
何かの不具合で即死を防ぐ魔導具が発動しなくて本当に死んでいることを願おう。もしくは2回死んでくれ。そしたらちゃんと死ねるから。
もし這い上がって来ても土の崩れる音はするから背を向けていても平気だろう。というか位置的にそれ以外出来ない。
「リーヴルさんぞ潰すます」
「平気か?」
「魔法職の脳みそぞ逆手に取るですから平気です。前衛2人よろしく」
崩れた足場から落下しながら会話を交わす。
泥だらけになった地面にばしゃ、とライアーが着地する。私を手放すと同時に駆け出した。
「そう簡単に近寄らせないわ……! 氷漬けになりなさ──」
「水よ!!!」
〝──〟〝──〟
私の操る水が、魔法を放とうとするリーヴルさんの元へ飛んでいく。
「させるか! 〝マジックシールド〟ッ!」
それを保護するようにリーヴルさんに耐魔法防御を瞬時に張るペイン。発動が速いんだよ!
私の水はそのシールドに阻まれ────ることなくリーヴルさんを丸呑みにした。
「ッ!?」
「ペイン!」
その隙を付いてライアーがペインに攻撃を仕掛けるがギリギリでラウトさんが庇う。大盾に攻撃を防がれたライアーが舌打ちした。
「くらっ、え!」
ラウトさんが大盾で闘技場の土をはね上げる。目潰しだ。
〝サイコキネシス〟
私は、ずっとリーヴルさんが窒息するまで水を空中に待機させていた。
初対面のライアーにドン引きされた水魔法の有効的な使い方。
でも、あの時と違ってこれはウォーターボールじゃない。
ウォーターボールを使えばペインに防がれるだろうと読んでいた。
これは物理攻撃だ。
普通の水をアイテムボックスから取り出し、サイコキネシスでウォーターボールに見せかけた。
「ごぽっ、……ッ! ガポッ!」
このまま、このまま物理的に窒息させれば。1番未知のやり方をするリーヴルさんを封じ込めれば勝機が見え──
「……(にこり)」
──ガインッ!
即死を判定して防いでくれる魔導具は窒息も判断してくれるようで、光の盾がリーヴルさんを包み込んだ。私はもう一度殺してしまわぬようにサイコキネシスを解除する。
……リーヴルさん、今笑った。
「後ろだ! リィン!」
ライアーの叫び声が聞こえた瞬間がくりと足が地面から外れた。視線を向けると泥だらけの狂気が私の右足をリボンで掴んで居た。
足を即物的に取られた私は、きっと避けられない。
ペインが投げてくる剣の先が、急所に当たるのを。
──せめて道連れ!
「〝ファイアストーム〟ッッ!」
最大火力の魔法をペインに放った。
投擲ポーズから戻るペインに向けた魔法をラウトさんがカバーしようとするが、目の前のライアーがそうはさせない。
2つの魔導具が同時に光を発した。
「くそ……ッッ! あっ、つ゛」
顔を真っ赤にしたライアーが膝から崩れ落ちる。
その隙を突いてラウトさんがトドメを刺した。
『──接戦! あまりにも激しい接戦を制したのは、Cランクパーティー!!!!』
実況の声にハッと現実に戻る。慌てて立ち上がってペインパーティーに近付いた。
「リーヴルさん平気?」
「えぇ大丈夫。あの魔導具が発動した瞬間窒息感は一気に無くなったし、リィンちゃんがすぐに解除してくれたから」
「いや、あのウォーターボール何!? オレのマジックシールド、簡単に潜り抜けたんだけどー!?」
「あれただの水の塊。他の魔法で動くぞ可能とすてただけです」
「マジックじゃ! ねーーじゃん!」
種明かしをペインにするとペインは人の目があるからか猫を被りながら地団駄踏んだ。
「ちょっと待て、俺、めっちゃ熱かったんだが。何した、誰が何した」
「あら、それは私よ」
最後の謎の症状をやったのはリーヴルさんだった。
死んだ後に魔法を掛けるのは反則だし、どうやってやったんだろう?
「冷えた食べ物を温めるのも、生活に必要よね?」
「オレのフラッドと同じタイミングなら紛れるだろ?」
「徐々に温度が高くなっていくの。〝シデンジ〟っていう温めの魔法よ。結構応用がききやすいの」
電子レンジじゃんか!!!!
電子レンジの温めスタートじゃん!!!
くぅぅぅう。悔しい。
悔しいよう。
優勝出来なかったとかじゃなくて、負けたのが普通に悔しい。
「読まれてたな……」
ライアーがボソッと呟いた。
「これまでの2戦分の行動パターンは確実に読まれてた」
「あ、ロックウォールで武器ぞ無効化するのも読むされてた」
初見のウォーターボールもどきならまだしも、今まで使ったことのあるいくつかの戦略、それの対処を確実に取られてた。
「知らねーの?」
ペインはいたずらっ子みたいな笑顔で客席を見た。
「俺のパーティー、5人なんだよ」
サーチさんを勘定に入れ忘れたのが勝敗を決めてしまった。
うーん! それでもやっぱり悔しい!
「また! またです、次は勝利!」
「次も! オレが勝つしー!」
『今年のクアドラードアドベンチャートーナメントを制したのは! ペインパーティーだあ! 皆様、今回の冒険者達に盛大な拍手と歓声を!』
泥だらけでクタクタになりながら、敗北を身に染みて。
冒険者大会は幕を下ろした。
==========
その、夜中。
「Fランク冒険者のリィンとライアーだな」
騎士が数人宿にやってきた。
「──狐の疑惑がある貴様らを、第2王子誘拐の疑いで拘束させてもらう」
胃痛案件、来たり。
「………………は!?」
「どういうことぞーーーーーーーーーーーー!?」
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