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王都編上
第71話 主観の悲劇はいつもそこに
しおりを挟む美味しいケーキを食べて気分は上々。
Bブロックの試合が行われる午後をめいいっぱいライアーのお金でカフェ巡りをした。顔が死にそうだった。
「いややっぱおかしくないか? 俺別に悪くないよな?」
チッ、気付きやがった。
お詫びみたいな感じで連れ回したけど、実は誰も悪くなく。私はただ純粋にタダ飯を食べるために『私、被害者ですから!』みたいな感じで拗ねていた。
宿に戻る道すがら正気に戻ってももう遅いです。
「なぁお嬢さんよ」
「ダッシュ」
「あ、おいこら逃げんな! お前自覚してたな!?」
別に第1戦目の衝突に関して、ライアーが悪いとは思ってないしもちろん当然私が悪いとは全く微塵も思わない。
でもほら、大人だから。子供の我儘聞いたり癇癪慰めたりするのは義務だよね! うん!
「子供故にしゃっきり不明~」
「子供は自分のこと子供って言わないししゃっきりじゃなくてさっぱりだし、何よりお前わざと子供でいるだろ!!!!」
ひゅー、と逃げて宿に逃げ込む。
宿のホールにはサーチさんが居た。よっ、と言う感じで軽く手を上げている。
「Aブロックの試合、見てたで」
「よう、ツッコミ娘」
「おっさんそういうのやめてくれへん? ウチの頭パーが真似すんねん」
あぁ、真似しそう。
その姿が驚くほど鮮明に浮かんでくる。流石のライアーも無言で渋顔を作った。
「おっ、いるじゃん。おかえり時のコンビ」
吹き抜けになったホール。2階からラフな格好をしたペインが降りてきた。ペインだけじゃなくてもちろん他の3人もいるんだろうけど。
「話題になってるわね。いろーんな意味で」
早速声をかけてきた。
リーヴルさんは続けてやってきて、馬鹿にした酔うな笑み悪意抜きを浮かべる。
色んな意味かー。知りたくないような知りたいような。
「大会巻き込んでの盛大な喧嘩やもん。観客席でゲラゲラわろうとったで」
「その姿、見たかった。リンク魔法使っとくんだったな……」
観客席で。見たかった。
そういえば……。
「もしや参加ぞしてます?」
「今気付いたのか」
呆れた顔でペインが肩を竦める。いや、対戦相手とか興味なかったもんで。事前に敵情視察したくもなかったし面倒だったし、あと面倒だったし。
様子から見て勝ち進んで居そうだけど。
「……は、しかも明日が準々決勝!」
「今かー」
え、もしかして対戦相手!?
目を思いっきり開けばペインは小さく笑みをこぼした。
「Bブロック、要するに午後からの試合。お前らとぶつかれんなら決勝だな」
「えっ、私も午後からぞ良きですた!」
「よりにもよって、そこないな! どんだけ怠惰やねんリィン! いや、怠惰に関してはリィンだけやなくてライアーもやけどー!」
ガタッと席を立ったサーチさんが耐えきれないと言わんばかりに悲鳴を上げる。
「ウチも大会! ──出たかった……!」
んぎぃと悔しそうに机を叩く。
あぁ、そうか。ペイン達のパーティーは5人だから誰か抜けないとダメなのか。満場一致で白髪ボロ肌だと思っていたけど。ハブられたのはサーチさんでした。
「そら、ウチは戦えへんで? 戦闘せえ言われたらめっちゃくちゃ拒否しとる。でも理性と違って本能が叫びよるんや! ウチだけ仲間外れ! コイツじゃなくて! 理解しても納得できん!」
こちらに不和あればあちらに不和あり。
どうやら衝突するのは私たちだけじゃないようで、パーティー仲のいいペイン達でも喧嘩(仮)はするようだ。
あ、もちろん『コイツ』は街中だんまりトリアングロの裏切り者だ。
「あーー。そりゃ納得出来ねぇな」
「せやろ!?」
「軽装に味方につくなライアー」
八重歯が叫ぶついでにキラリと輝く。
拗ねきったサーチさんはお父さんみたいなラウトさんのあきれ声に『みぃーー゛』という謎の唸り声をあげながらズルズルと床に小さくなっていく。
「サーチのことは置いておい」
「置いとくなやリーダー!」
「実況の声だけは聞こえてたんだけど、ついに三つ同時魔法かよ化け物だな」
「うちの師匠にぞ比較すれば」
「リィンの師匠ってエルフだろ。流石に別種族と競われても」
えー。だって比較するまでもなく劣っていることだらけで、比較が出来るレベルになるまでどれだけ鍛えられたか。
痛いのも戦いも非常に嫌いです。とても、とっっても嫌いだけど強制的に覚えさせられたから。
父にも、師匠にも、双子にも。
私は1人で生きていくための術をサボる暇なく詰め込まれた。
辺境伯という土地柄、戦争に最も身近だから敏感なのかと思っていたけど。
「……何に、怯えると推定?」
「──それはなァ、小娘。テメェの口調が未だに理解の範疇にあるからなんだよ」
……………………。
…………?
歳若い声ではなく、ライアーやラウトさんにどっちかというと似ている声。
でも、とても聞き覚えのある声。
「エルフ?」
ペインが不思議そうな顔して見上げる。
そっかー、エルフかー。
「滅ッッッッッ!!!!」
「喰らうか!」
大会のどの場面より、スタンピードのどの場面より、めちゃくちゃ殺意を込めた攻撃は突然相手を殺すことなくく空気を爆発させるだけで終わった。解せない。
==========
「んで、そいつ誰だ」
わたしの爆発の後始末をして終わり、ペインが私達を見て言った。
誰もが見覚えのないエルフ。ダクアからほぼほぼ一緒に居るライアーでさえ疑問符をうかべている。
そのエルフは栗色の毛をざっくりとハーフアップにして、どちらかと言うと服装は和テイスト。この国では珍しい。
下駄という、まぁ前世馴染みがあるから無問題だけど変わった文化の靴を履いている。
「フェヒ爺」
「ふん」
「あいたぁ!?」
ざっくり紹介すれば、エルフ──フェヒ爺は私の頭をめっちゃ叩いた。酷い! 親父にもぶたれたこと……はめっちゃある。叩かれるというか殴られるし蹴られるし魔法ぶつけられるし斬られるしだった。
ともかく、幼い子にする仕草じゃないよね!?
「俺はこいつの魔法の師匠だ」
その瞬間場は動揺で揺れた。
「えぇ!? リィンって本当にこの世界の人間だったのか!?」
「お前もかペーー!!」
酷くない!?
私生粋のこの世界の人間なんだけど!?
どうやって頑張って探ってもクアドラード王国のファルシュ家で生まれたという過去しか出てこないんだけど!?
むしろお母さんの腹の中から生まれた記憶があるよ! お母さん黒髪黒目の美人でした! 私の黒目も双子の姉の黒髪も母親譲りです! 亡くなったけど! 亡くなったけどぉ!
「なんのことだ?」
「私、異世界人だと思うされてる」
「……? なんでだ……?」
この前起きたらしい異世界召喚者が私なんじゃねーか疑惑だよ!
そう説明したらたくさんの感情をブレンドミックスしたみたいな顔で『嗚呼……』と呟いた。納得しちゃうんだ。
ある意味貴族って別世界の人間ではあるが。
「んで、師匠さん。こいつに何の用だ?」
「お前に師匠と言われる筋合いは無いな、坊主」
ライアーの言葉に対し即座にレスポンスするフェヒ爺。彼は私と頭でボール遊びするみたいに規則的にポンポン頭を叩いた。
「……フェヒ爺。私ボール不可」
「俺に難解な言語を解読させようとすんな。はぁ、フェヒ爺なんて言われてるが、こいつが俺の名前を発音出来ないだけでもちろん名は違う」
「ですよね」
「だろうな」
「せやろな」
「そうでしょうね」
「むしろそれ以外あるか?」
私の味方が居ない。
おかしいな、なんでこんなに四面楚歌なんだろう。不思議だな。味方しか居ないはずなんだけどな。
「俺の名はフェフィア。適当に呼べ」
「ふぇふぉ、ふぇ、ひ、へふぃあ、ぴっ」
「お前は未だに無理かーー。だろうな期待はしてなかった」
出来損ないの犬を撫でくり回すように頭をワッシャワッシャしてくるフェヒ爺。あわわセットが崩れちゃう。
というかフェヒ爺ってエルフの名前の法則に合わないよね。エティフォールさんみたいにエ族ティさんフォール流派、と当てはめるならフェヒ爺はフェ族フィさんア流派……?
何言ってるか分からなくなってきた。やめよう。
人間外のことを考えたって仕方ないもん。
「フェ、フィア?」
ペインがその青い青い瞳を丸くして、フェヒ爺を見た。
「もしかして……『ルフェフィア』」
「おい小僧」
バチッと魔力が爆ぜた。
魔法の発生源は、エルフだ。フェヒ爺だ。
はて、ルフェフィアってなんだろう?
「どこで俺の名を知ったのか知らねぇが……。俺をそう呼ぶってことは俺に喧嘩売ってると見て、いいんだな?」
「わー!!!! ストップ! ストップぅ! フェヒ爺ストップ!」
あかーーーん!
これ私が止めなきゃ収拾つかなくなるやつー!
「あぁ? 止めるなよ小娘」
「ペイン! 悪気! なし! 止める、懇願! うぅぅうフェヒ爺ぃい」
フェヒ爺の服にしがみついて止めながら見えもしない精霊に向かって魔力をぶつけていく。どこにいるのか分からないけど多分この辺! あとあの辺! 知らんけど!
「………………はー。仕方ねぇな」
ふっ、と魔力の重圧が消えた。
私は思わず安堵の息を吐く。
フェヒ爺はしがみついてた私を簡単に持ち上げて抱き上げた。あ、はい、逃げ出さないようにですね。
……私の本能が叫んでいる。それでも逃げろって。
「いや、だって、え、る、んんんっ、フェフィア様つったら」
「何ぞパニック?」
「……えっと、悪意はないからとりあえずで言わせて欲しいんですけど。あー、いっても?」
「小僧よく知ってるな。いいぜ」
2人の間に謎のやり取りが発生した。
なになになに、怖いんだけど。
「ルフェフィアって言ったらほら、前話した宮廷相談役」
1秒。
10秒。
1分。
きゅうてい、そうだんやく?
「宮廷相談役……宮廷相談役…………宮廷相談役?」
「はっ、ただ雑談して金貰ってただけだ」
「はーーーーーー!? 宮廷相談役!?」
めっっっちゃ偉い人じゃん!? いや、エルフだけど!
「あ、雨! 雨の!」
王都に来る途中にあった巨大な湖! 水の都って言われてる雨が永遠に降ってるところ作った宮廷相談役!
え、えぇ!?
「フェヒ爺何者……!?」
「いやだから元宮廷相談役だっつってんだろ」
それは驚くわ!
ペインもよくわかったよね! いや、水の都のこと好きって言ってたし王都出身だから知ってるか!
むしろ私が知らないのがおかしいです。はい。
……そんな偉い立場のエルフがなんで辺境伯の第三女の家庭教師なんてやってたの? エルフの価値観ちょっとよくわかんない。
「ル族エルフ……つーと……あぁなるほど、それでか」
「俺は家との繋がりを消したんだ」
ライアーがぶつぶつと呟いている言葉にフェヒ爺が答えを言った。
はー、なるほど。よし、落ち着いてきた。
フェヒ爺はル族のフィさんフィア流派ってことか。
「ん? ふぃあ?」
「どうした?」
「あぁ、俺も思った。リリーフィアちゃんと同じ名だな」
リリーフィアさんにエルフの名付けの法則を聞いた時ライアーも一緒にいたから情報共有出来ている。
流派が一緒だな、
「リリーフィア……。金髪で光の加減によって青になる緑の目をした眼鏡エルフ」
「眼鏡はすてませんですた」
「……あぁ、あいつが眼鏡するのは土いじりか書類片す時だけか」
ふむ、と納得したフェヒ爺。
あれ、どうしよう。
めっちゃ胃が痛い。何かが起こる、そんな気がする。
「リリー。あいつは俺の弟子だ。俺からフィアの名前を受け継いだ」
「……なるほど?」
キリキリキリキリキリキリ。
言葉を飲み込む前に胃が痛くなってきた。
フェヒ爺の服をぎゅっと握る。出来ればこのまま引きちぎりたい。
「つまり、リリィはお前の姉弟子だな」
ギュルン、と現実から逃れるための音が胃から響き渡った。
妹弟子だって知られたらあのエルフ絶対嬉々として厄介事押し付けてくるじゃんかーーーーーーー!!!!!
もーーーーーーーやだーーーーーーーー!!!!!
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